2話
「…陽助、作戦中断」
「あぁ」
2人は、ボソッとアイコンタクトをする。
「彼岸、聞いて。僕たちは_________」
嫌な羽音が聞こえたと思ったら、視界の端に映った赤い蜂。唐突に込み上げてきた激しい眩暈、吐き気。腕から足から何から何まで激しく痺れている。立っているのがやっとなくらいだった。上から見下ろすような視線、風向きが変わった。2人の顔を見上げると、口を大きく開け、瞳孔が開いている様子だった。ばっと背後を見ると水たまりに反射した自分。顔の半分が明らかに人間ではない、ナニカになっていた。えっ、と声を上げたが、周りには届いていないよう。2人は目を見開いて愕然としている。2人の異変を感じ取ったと同時に、自分の背後からもう1人の気配を感じる。百合が前に出て、その人の弾丸を弾く。キーンと耳鳴りのような音が聞こえ、激しい激突の波が俺を襲った。
「…… ッ 参號!!!」
気配と風は身軽で、子供のようなすばしっこい動きで、確実に俺の背後を取ってくる。誰だ、そう思った時には遅かった。発砲音と共に俺の首に銃弾が撃ち込まれ、ぐりんと黒目が宙を仰ぐ。意識が薄れていったが、残酷にも痛みだけは拭えない。2人の呼ぶ声によって視界がはっきりする。
「ヴァァァァァ!!!」
「ほら早く殺さないと、街にも被害が出る。」
「彼岸……」
自分の中にもう1人の自分がいるようだった。意識が二つある、と言った方が正しいだろうか。自分の体なのに意思とは反する動きをする。制御が効かない。無意識のうちに自分の腕が2人を貫く。勢いよく血が噴き出て、俺の頬に血が伝う。背中に嫌な汗をかく。
「あーあ、だから言ったのに。」
2人を…殺した。正確にはもう死んでいるのだが、あまりに人間の形をしているものだから、嫌というほど、2人が殺したのような感覚が伝わってきた。胃から何かが込み上げてくる感じがして、膝から崩れ落ちる。
「ア……ア゛ァ…ッ………ゴボ…ッ…!…」
どうしよう、焦りで顔が真っ青になる。自分の口が思うように動かない。言葉が発せられない。
「で、どうすんのー?」
参號と呼ばれていたソイツは、とんでもない力でいとも簡単に自分を拘束してしまう。血に染まった自分の手を見つめる。
「…ガン、ヒガン!」
あぁ2人の幻聴が聞こえる。幻でもいい。なんでもいいから何かに縋りたかった。顔を上げる。男は物珍しそうな顔をして、首を傾げ、うーん…と低い声で唸る。はっと何かが思いついたみたいで、誰かに話すように呟く。
「この子、自我あるね」
「えっ……」
後ろから声が聞こえる。そちらを見てみるとさっき殺したはずの2人がちゃんと二本足で立っていた。自分の意思と裏腹に動いていた俺のこの体はもう自由に動かせるようになり、撃ち抜かれた首裏も、いつの間にか回復している。相変わらず声は出ないが、安堵の心から涙腺が刺激される。俺の涙が2人にも伝わったようで、瞳に膜を張ってこちらを見つめてくる。
「普通の人間…だよな。前例が無いから、此方じゃ手に負えん。始末するか?」
「いや、彼岸を……白暁機関に保護させます」
「いやお前ら…正気か?それが俺たちにとってどういう意味かわかってんのか!」
男が声を荒げる。2人は怯むことなく、抗議を続ける。
「それでも…!彼岸を此方に連れ込むわけにはいかない……!!」
「それに…コイツに殺されるなら、本望です。どうせ殺されるのなら、彼岸がいい。」
始末…?殺されるなら…?何の話をしている。
「…そうか、じゃあ帰るぞ。壱、弍。」
「はい」
まずい逃げられる。考えるより先に手が動いた。男の足を止めるために、道端にあった大きな石を投げつける。男は難なくかわし、呆れた様子で俺を見つめる。
「はぁ…ねぇ本当に始末しちゃダメなの?このまま追ってこられると色々と面倒だよ。」
「そうですね、気絶くらいなら…」
「気絶、で済まなかったらごめんね」
男は俺が先程投げた石を構え、こちらを見据えて俺めがけて投げつける。大きい石だったので、避けられたが途端に頭部に鈍い痛みが走る。赤に染まった世界が目に映る。暗くなった空を最後に、薄れていく意識の中、誰かがこちらに来る音だけが頭の中に響いていた。




