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鑑定スキルで全てを最適化したら、最弱の村が国家になりました  作者: 慈架太子


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8話:ヒロイン①

朝の空気は、どこか張り詰めていた。

村の広場の一角、急造された訓練場には、周囲を威圧するような鋭い金属音が何度も響き渡る。


ガンッ――!!


乾いた、しかし重い衝撃。

握っていた木剣を弾き飛ばされ、一人の若い村人が無様に地面を転がった。


「……甘い。動きが止まっている」


女戦士が、吐き捨てるように短く言った。

地に伏した男は、荒い息をつきながら泥にまみれた右手を震わせ、悔しそうに歯を食いしばる。


「も、もう一回……もう一回お願いします!」


「待たない。戦場でお前を待ってくれる敵などいない。死にたくなければ今のうちに絶望しておけ」


冷たい言葉だった。一切の妥協を許さないその声は、かつて彼女が潜り抜けてきた死線の数々を物語っている。

正しい。戦いの本質を語るならば、彼女の言葉は残酷なまでに正しい。

だからこそ――。


「……おいおい、やりすぎだろ」


訓練場の端、腕を組んで成り行きを見ていたオルシェが口を挟んだ。

女戦士は、ゆっくりと首を巡らせる。獲物を定めるような鋭い眼光が、オルシェを射抜いた。


「何がだ。軟弱な者を鍛えるには、これくらいの負荷は当然だろう」


「そいつ、昨日までクワ握ってた農民だぞ。いきなり戦士の理屈を押し付けたって、身体がついていかねぇよ」


「だから、何だと言うのだ」


「壊したら意味ねぇだろ。道具も人間も、使い潰すのが目的じゃないはずだ」


沈黙が流れる。女戦士の、意志の強そうな眉がわずかに寄った。

オルシェを見据えるその目は、どこか不服そうで、それでいて言い返せないもどかしさを孕んでいる。


「……甘いな。貴公は」


「お互い様だろ。俺から見りゃ、あんたのやり方は効率が悪すぎる」


視線がぶつかり合う。周囲で見守っていた村人たちが息を呑むほど、場にぴりついた緊張感が走った。

だが、先にふいと目を逸らしたのは女戦士の方だった。

彼女は剣を鞘に納めると、不愛想な態度を崩さぬまま問いかけた。


「……名前を。まだ聞いていなかったな」


「オルシェだ。23歳。あんたは?」


「……リーヴ。同じく23だ」


短く、しかし拒絶ではない答え。リーヴはオルシェの全身を値踏みするように眺め、喉の奥で小さく鳴らした。


「貴公の戦い方は? 見たところ、剣の心得があるようには見えんが」


「素手とスキル。まあ、即席の喧嘩殺法みたいなもんだ」


「……素手、だと? それであれだけの盗賊を一人で片付けたのか」


「そっちは? 見るからに重装備だが」


リーヴは背負った大剣に手をかけた。その身の丈ほどもある厚い刃は、技術よりも純粋な膂力と闘志で敵を叩き潰すための「鉄塊」だった。


「大剣だ。小細工は好かん。真正面からすべてを叩き斬り、前線を突破する。それが私のやり方だ」


「……納得だな。性格が教え方に出てる」


「――っ。どういう意味だ」


一瞬、リーヴの周りの空気が凍りついた。だが、オルシェは怯むことなく言葉を続ける。


「強い奴ってのは、往々にして教えるのが下手なんだよ。自分が感覚でできちまうから、できない奴の理屈が分からない」


リーヴは言葉を失った。否定しようと口を開きかけ、そのまま閉じる。

実際、彼女の指導を受けている村人たちは、教えを請うどころか、ただ彼女の圧倒的な圧力に怯えているだけだった。


「……なら、お前がやってみせろ。口だけではないのだろう?」


「ああ、やるさ。でも、その前に」


オルシェはリーヴの目の前まで歩み寄ると、その真っ直ぐな瞳を覗き込んだ。


「あんたにも、まずは教える」


「は……? 私にか?」


指導:リーヴへの最適化

《スキル発動:教育指導》

《対象:リーヴ。解析完了。現在の身体能力に最適化した動作を転送》


「な、何を――っ!?」


リーヴの意識に、異質な、しかし極めて明晰な「像」が流れ込んだ。

自分の筋肉がどう連動し、骨格がどう力を伝え、魔力がどの瞬間に爆発すべきか。

それは、長年の鍛錬で手に入れたはずの感覚を、さらに洗練し、磨き上げた究極の動作モデルだった。


「……これは、身体が……勝手に理解していくのか」


「分かるだろ。あんたの剣は強いが、無駄も多い。全部全力で振るから隙ができるんだ」


「……全力で振らねば、大剣は扱えん。そう教わってきた」


「だから雑なんだよ。力は“入れる”もんじゃなくて、“通す”もんだ。見せてやるから、よく見てろ」


オルシェは近くにあった木剣を手に取った。

リーヴのような力はない。しかし、踏み込みから切っ先に至るまで、一切の淀みがない流麗な動き。

最小の軌道で、空気を裂く鋭い一撃。


「……っ!」


リーヴは即座に反応した。彼女は大剣を引き抜き、オルシェの動作をなぞる。

最初は慣れない感覚に戸惑い、動きがズレる。しかし、オルシェが魔力操作の補助を加えていくと、彼女の天性のセンスが爆発した。


「流れを止めるな。一撃一撃を独立させるな。呼吸を魔力に乗せろ」


「……なるほど。こうか!」


数分後、リーヴの振るう大剣は、もはや別の武器へと進化していた。

重厚さはそのままに、そこに「速さ」と「精密さ」が加わる。

空を切る音が、ただの風音から、空間を断ち切る鋭い旋律へと変わった。


「……軽い。あんなに重かった剣が、まるでもう一本の腕のように感じる」


「あんたの地力が高いからな。理解が速くて助かるよ」


オルシェは満足げに頷いた。リーヴは、驚きと興奮で頬をわずかに上気させ、少しだけ誇らしげな、それでいて気恥ずかしそうな表情を浮かべた。


「……次だ。リーヴ、今度はあんたが村人たちに教えろ」


「私が? 先ほど、下手だと言ったばかりだろう」


「今教えた『力の抜き方』。それを言葉じゃなく、背中で見せてやれ。叩き潰すんじゃなく、導くんだ」


リーヴは、戸惑いながらも村人たちの方を向いた。

自分を見上げる怯えた瞳。だが、そこには昨日自分たちを救った「強さ」への、純粋な憧れも混じっていた。


「……立て。休んでいる暇はない」


短く、厳しい言葉。しかし、その声は先ほどよりもずっと落ち着いて、どこか優しさを孕んでいた。


「さっきは……すまなかった。私の教え方が未熟だった。だが、手は抜かん。ついてこい」


村人が、目を見開いて頷く。

リーヴは剣をゆっくりと構えた。

今度は、強引に打ちのめすことはしない。

相手の木剣を受け、いなし、次の動作へと自然に繋げさせる。


「そこだ。今の足の運びを覚えろ。腰を落とせ、視線を外すな」


「は、はいっ!」


村人の動きが、劇的に変わっていく。

恐怖ではなく、学びの熱が訓練場を包み込む。

オルシェはそれを見守りながら、小さく独り言をこぼした。


「……やればできるじゃねぇか。いいコンビになれそうだな」


夕暮れ時。

訓練を終えた村人たちは、肩で息をしながらも、充実感に満ちた笑顔を交わしていた。


「……少しずつ、強くなってるな」


「ああ、俺たちの村を、俺たちで守れるようになるまでな」


オルシェが隣で語りかけると、リーヴは静かに地面に腰を下ろし、暮れゆく空を見つめた。


「……悪くないな」


「何がだ」


「剣を振るう以外にも、私の価値があるのだと思えた」


彼女の横顔は、戦場で見せていた鬼気迫るものとは違い、どこか年相応の少女のような、穏やかなものだった。


「……なあ、オルシェ。私は、この場所にいてもいいのか」


それは、居場所を失い、戦うことでしか自分を定義できなかった放浪の戦士が、初めて見せた心の震えだった。


「当たり前だろ。あんたの居場所は、あんたが自分で守り抜いたこの場所だ」


リーヴは少しだけ目を見開いた。そして、噛みしめるように深く、短く頷いた。


「……そうか。ならば、貴公の盾となろう」


風が吹き抜け、穏やかな空気の中に、新しい絆が芽吹いた。

ただの女戦士から、村を担う一人の「仲間」へ。

リーヴという強大な翼を得て、オルシェの内政はさらなる加速を始める。

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