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鑑定スキルで全てを最適化したら、最弱の村が国家になりました  作者: 慈架太子


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7話:教育開始

――朝日が、山嶺の向こうから力強く村を照らしていた。


鼻を突く焦げ臭い煙は風に流され、今はもうない。

 静まり返っていた広場には、絶望の悲鳴に代わって、土を掘り返す音や、壊れた材木を運ぶ掛け声が響いている。

 一晩が明け、村には静かな、だが確かな活気が満ちていた。


「……生き返ったな」


オルシェは、村の中心にある大きな石に腰を下ろし、その光景を見渡した。

 人が、意思を持って動いている。死んだ魚のような目をして蹲っていた者たちが、今は互いに声を掛け合い、泥にまみれながらも前を向いている。昨日までの、死の沈黙が支配していたあの空気は、もうどこにもなかった。


だが、オルシェの表情は晴れない。


「……これじゃ、まだ足りねぇんだよ」


独り言のように呟く。

 食料は昨日の狩りで当面分は確保した。動けなかった負傷者も、暫定的な治療で最悪の事態は免れた。

 だが、それはあくまで「延命」に過ぎない。

 この村はあまりに脆弱だ。また盗賊が来れば、あるいはもっと強い魔物が現れれば、昨日と同じ――いや、それ以上の地獄が繰り返される。


「守れる力が、この村自体にねぇ」


オルシェは自分の掌を見つめた。

 自分一人が強くても限界がある。自分が眠っている間、あるいは別の場所へ行っている間に襲われれば、それでおしまいだ。

 ならば、答えは一つしかない。


「……増やすしかねぇ。戦える奴を、俺以外に」


その決断は速かった。

 オルシェは立ち上がり、大きく息を吸い込むと、村中に響き渡る声で叫んだ。


「動ける奴は全員、広場に集まれ!」


オルシェの一言で、作業をしていた村人たちが次々と集まってきた。

 彼らの顔には、この恩人に対する深い敬意と、それ以上に「次は何をさせられるのか」という不安と期待が混ざり合っている。

 その集団の最前列には、昨日の女戦士――リーヴが、まだ少しぎこちない動作ながらも、腰に剣を帯びて毅然と立っていた。


「……藪から棒に、何をする気だ? 貴公」


「強くなるんだよ。俺が、じゃない。お前ら全員がだ」


「簡単に言うな。剣の修行は一日にしてならん」


「誰が剣を教えるなんて言ったよ。そんな悠長なことやってる暇はねぇ」


オルシェは、不敵な笑みを浮かべた。

 その目は、ただの現代人ではない、理と効率を極めた「開拓者」の光を宿している。


「いいか。今から教えるのは、この世界のルールを書き換える方法だ」


《固有スキル発動》

《教育指導:概念展開》


その瞬間、場の空気が一変した。

 オルシェの発する言葉が、単なる振動としての音ではなく、直接彼らの脳に、魂に「意味」として刻み込まれていく。

 昨日まで魔法の「ま」の字も知らなかった農夫たちや子供たちの表情が、瞬時に引き締まった。


「よく聞け。魔力ってのはな、選ばれた奴だけの特別な才能じゃねぇ」


オルシェは足元の地面を指差した。


「そこらの空気にも、踏んでる地面にも、そして今生きているお前らの中にも、当たり前に流れているエネルギーだ」


村人たちが一斉に息を呑む。彼らの常識では、魔力とは王都の魔導師や一部の貴族だけが持つ「天賦の才」だったからだ。


「まずはそれを、感じろ。目で見ようとするな。血の流れや、風の感触と同じように捉えろ」


最初は、誰も反応できなかった。眉間に皺を寄せ、必死に唸るばかりだ。


「……何も分からねぇ。俺の体には、魔力なんて詰まってないみたいだ」


「当たり前だ、意識したことがねぇんだからな」


オルシェは苦笑し、歩き出した。

 そして、弱気な言葉を吐いた男の前に立ち、その無骨な手に、自らの手をそっと添えた。

 鑑定の補助を使い、オルシェ自身の魔力を「導線」として相手に流し込む。


「……これが、お前の中にある『波』だ。感じろ」


「……っ!? う、うわああ!?」


男の身体が大きく震えた。その目は見開かれ、全身の毛穴が逆立つような感覚に襲われている。


「今の熱、今の震えを覚えろ。それが扉の鍵だ」


オルシェは繰り返した。何度も、何度も。

 広場に集まった全員に、一人ずつ魔力の感触を刻みつけていく。


「……見えた。何か、キラキラしたものが流れてる!」


最初に声を上げたのは、一人の小さな子供だった。

 その瞳には、今まで見えていなかった世界の輝きが映り込んでいる。


「いいぞ。それがスタートラインだ」


オルシェは頷き、一段高い場所へ戻った。


「次の段階だ。足りなくなったら補充しろ。『吸え』」


「吸う……? どうやって?」


「空気からでも、地面からでもいい。イメージしろ。世界はお前らを育む母体だ。エネルギーを少し借りるだけだ……。どうしてもダメなら、俺から吸ってみろ。ほんの少しだけだぞ」


冗談めかした言葉に、村から笑い声が漏れた。

 死に瀕していた村に、教育という名の「希望」が注入されていく。


《指導項目:魔力吸収・構築完了》


「……あ、本当だ。体に力が戻ってくる」


一人、また一人と、魔力という存在を「外部から取り込む」感覚を掴み始めた。

 だが、オルシェの指導は止まらない。


「次だ。取り込んだもんを溜め込むな。動かせ。操作しろ」


《指導項目:魔力操作・連動開始》


「流す場所を決めろ。腕、足、どこでもいい。意識を集中させた場所に、力が集まるようにしろ」


「……難しいな、これ。逃げていっちまう」


「当たり前だ。暴れ馬を乗りこなすのと同じだ。だが、できれば世界が変わるぞ」


しばらくすると、村人たちの様子に変化が現れた。

 重い材木を運んでいる男が、魔力を腕に集中させることで、信じられないほどの軽さでそれを持ち上げる。

 足に魔力を込めた若者が、まるで風のように広場を駆け抜ける。


「……温かい。体が、軽い……!」


実感が、理解を加速させる。自分たちの身体が、昨日までの「無力な農民」から変貌していく喜びに、彼らの目はギラギラと輝き始めた。


「最後だ。これが一番重要だ。流しっぱなしにするな。戻せ。循環させろ」


《指導項目:魔力循環・最終構成》


「川をイメージしろ。海に流れて終わりじゃない。蒸発して雲になり、また雨になって山に降る。お前らの中で、魔力を円にして回し続けろ」


最初は、流れが途切れる。あるいは一部に溜まりすぎて痛みを訴える者も出た。

 暴走しかけた魔力を、オルシェが即座に鑑定で修正し、鎮めていく。


「無理すんな。壊れたら元も子もねぇ。ゆっくり、自分のペースで回せ」


静寂が広場を包む。

 数十人の人間が、目を閉じ、己の内側と対話している。


「……回った」


沈黙を破ったのは、リーヴだった。

 彼女の全身から、青白い魔力が霧のように立ち上り、それが吸い込まれるように再び彼女の胸へと戻っていく。完璧な循環。


「……これ、信じられん。魔力が尽きない。疲れが、消えていく」


「だろ? お前、剣士ならそれがどれだけヤバいことか、身に染みて分かるはずだぜ」


オルシェは不敵に笑った。

 循環を確立した者は、事実上の永久機関となる。戦闘中のスタミナ切れ、魔力切れという概念が消失するのだ。


そこからの教育は、もはや雪崩のようだった。


「回復も教えるぞ。自分を守り、隣の奴を救う力だ」


《指導:簡易治癒/止血術》


擦り傷を作った子供たちが、互いに手をかざし、笑いながら傷を治し合う。


「次だ。これがなきゃ、冬は越せねぇぞ」


《指導:空間収納・アイテムボックス(超簡易版)》


「空間を、ほんの少しだけ歪めろ。そこに自分の持ち物を突っ込め」


「そんなこと、人間ができるわけ……ああっ! 入った! 俺のクワが消えた!」


「バカ、消えたんじゃねぇ。そこにある『隙間』に置いただけだ。出してみろ」


歓喜の声が爆発する。

 重い荷物を背負う必要がなくなる。略奪から財産を守ることができる。このスキルは、農村にとって最強のインフラだった。


「最後に、攻撃だ。身を守るための『牙』を持て」


《指導:水・氷・蒸気系の属性干渉》


広場の端で、小さな水の弾丸が放たれた。

 水が氷の礫となり、蒸気が目くらましとなって舞い上がる。


「……俺たち、本当に戦えるのか。あの恐ろしい盗賊相手に」


「戦える。いや、もうお前らを一方的に蹂躙できる奴なんて、そうそういねぇよ」


オルシェは断言した。


日が傾き、村が茜色に染まる頃。

 広場に集まった人々は、朝とは別人のようになっていた。

 背筋が伸び、眼光には力が宿り、何よりその全身には絶え間ない魔力の脈動が流れている。


「……別の村みたいだな。たった一日で、世界が作り替えられたようだ」


リーヴが、信じられないものを見る目で周囲を見渡した。


「ああ。だが、これで終わりじゃねぇぞ。これはあくまで『最低限』だ」


オルシェは額の汗を拭い、ステータスを確認した。


《スキル熟練度上昇》

・魔力操作・循環:極大上昇

・並列思考・構築速度:上昇

・教育指導:ランクアップ


「……ふっ、教えてる側が一番成長してるっていうな」


自分一人の強さではない。

 村という一つの「生命体」が、強大な意思を持って動き始めたのだ。


「いいか、忘れるな。お前らの力は、奪うためのもんじゃない。自分たちの場所を守るためのもんだ。……だが、守るために必要なら、容赦はするな」


その言葉に、村人たちが力強く頷いた。

 

 村はもう、ただ震えて救いを待つだけの被害者ではない。

 自らの運命を、自らの魔力で切り拓く「開拓集団」へと変貌を遂げたのだ。


オルシェは、暮れゆく空を見上げ、小さく笑った。

 

「一番強ぇのは、孤高の天才じゃねぇ。全員が戦える『場所』だ」


その言葉を肯定するように、村のあちこちで、小さな魔力の光が星のように瞬き始めた。

 オルシェの異世界内政、その真髄が今、ここに幕を開けた。

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