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鑑定スキルで全てを最適化したら、最弱の村が国家になりました  作者: 慈架太子


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40話:未来破壊

夜の街は、巨大な生き物のように脈動していた。

あちこちの路地裏で火花が散り、鋼のぶつかり合う冷たい音が反響する。

石畳を叩く軍靴の音、闇を切り裂く叫び、そして崩落する壁の轟音。

これまでの「合戦」とは明らかに質の異なる、不規則で混沌とした暴力の嵐が街を包み込んでいた。


だが、その光景を俯瞰しても、そこには軍隊としての美しさは微塵も存在しない。

部隊は細かく散り、一貫した連携は見えず、それぞれの集団が勝手な方向に走り、勝手な場所で刃を振るっている。

すべてがバラバラで、無秩序な破滅に向かっているように見えた。


それでも。

戦線は、一つも崩れない。


「……読めないだと?」


ヴェイルが、初めてその言葉を口にした。

彼の超人的な思考速度を以てしても、この街に渦巻く事象の連鎖は処理不能な領域に達していた。

彼の鋭い視線が左右、前方、そして背後へと走る。

どこを見ても、軍事教本に基づいた「正解」が存在しない。

包囲網を敷こうとすれば、網の目となるべき場所から兵が消え、逆に何の意味もない袋小路に戦力が集結している。


「何をした、オルシェ」


ヴェイルの声に、初めて微かな困惑の色が混じる。

対峙するオルシェは、静かに、そして深く息を吐き出した。

その構えは以前のような硬さが取れ、まるで街の喧騒に溶け込むかのように自然体だった。


「何もしてない」


オルシェは答え、一歩踏み込む。

その踏み込みさえ、最適解を求めるヴェイルの予測をわずかに外れたタイミングだった。


「ただ――彼らに任せただけだ」


その瞬間、街の北端で何かが激しく爆ぜる音が響いた。

それは軍が設置した魔法兵器ではなく、地元の職人があり合わせの材料で仕掛けた粗末な罠だった。

だが、その唐突な爆発がヴェイルの構築した侵入経路を物理的に破壊し、計算上の優位を粉砕する。


さらに、別方向からの斬撃。

それは本陣からの指示によるものではない。

目の前の敵を見て、今この瞬間に援護が必要だと独自に判断した兵たちが、勝手に動き、勝手に挟撃の形を作り、そして役割を終えれば素早く離脱していく。

すべてが、中央の指示なしに繋がっていく。


路地裏では、戦いを知らないはずの農民たちが走り、兵士たちのために補給を絶やさない。

傷を負った兵が自然に下がり、その穴を埋めるように誰かが前へ出る。

そこに「命令」という名の遅延は存在しなかった。


「これは――」


ヴェイルの目が細くなる。計算外の変数が、彼の頭脳を侵食していく。


「お前の戦いじゃない」


オルシェが告げる。剣先を水平に保ち、迷いなくヴェイルの心臓を狙う。


「俺の戦いでもない。これは、この街の戦いだ」


沈黙が二人を包む。

ヴェイルの整った表情が、わずかに苦々しく歪んだ。

彼にとって、戦場とは究極の計算式であり、制御されるべき盤面だった。

その秩序を、理解不能な「信頼」という不確定要素が蹂躙していく。


「……非効率だ」


ヴェイルは低く、吐き捨てるように言った。


「無駄が多すぎる。個々の動きは粗く、論理的欠陥に満ちている。これでは勝機を自ら捨てているに等しい」


その言葉は、軍事的な側面で見れば間違っていない。

一つ一つの判断は遅く、一つ一つの太刀筋は粗末だ。


「だから強い」


オルシェがさらに踏み込む。

限界まで間合いを詰め、肉薄する。


「お前には一生理解できない。計算できない無駄の中にこそ、お前には読めない『意志』が宿るんだ」


剣が振り下ろされる。

ヴェイルがそれを最小限の動きで受ける。

だが、防いだその直後、全く別の方向から衝撃が走る。

崩れた建物の破片か、それとも名もなき兵の投石か。

さらに、足元を狙う不意の刃。

背後から迫る重圧。


波状攻撃。いや、それは波ですらない。

四方八方から押し寄せる、予測不能なカオスの連続。

ヴェイルの脳内から、ついに「最適解」の文字が消え失せた。


「……なるほど」


ヴェイルが、自嘲気味にわずかに笑った。

その瞳には、敗北への予兆ではなく、自身の絶対的な論理が崩壊していくことへの奇妙な感嘆が浮かんでいた。


「未来が、壊れている。私が予見したはずの勝機が、この無秩序な熱に飲み込まれて消えていく」


その言葉に、オルシェは答えない。

語るべきことは、すでに剣が伝えている。

ただ、前へ出る。

一歩。

また一歩。


もう、何者もこの流れを止めることはできない。

戦場は完全な混沌と化した。

だが、その混沌の底には、決して折れることのない強固な意思が流れている。

バラバラな命が、見えない糸で繋がり、一つの巨大な咆哮となってヴェイルを圧倒する。


「……これが、お前の答えか。オルシェ」


ヴェイルの呟きが、激しい金属音にかき消される。

オルシェは短く、魂を絞り出すように言った。


「そうだ」


二人の剣が、火花を散らして激しく交差する。

その閃光が、夜の闇を白く染め上げた。


未来は、もうヴェイルの計算機の中にはない。

たった一つの定められた結末は、今、無数の可能性という名の混沌によって完全に破壊されたのだ。






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