表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鑑定スキルで全てを最適化したら、最弱の村が国家になりました  作者: 慈架太子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/60

21話:盗賊残党

夜。

街の外縁を包む闇は、不気味なほどに静まり返っていた。

新しく増設された第五防壁の街灯が、規則正しく地面を照らしている。だが、その光の届かない境界線の向こう側には、濃密な殺意が霧のように立ち込めていた。


「……おかしいな。虫の音ひとつ聞こえん。風の向きも、妙に重たい」


見張り台の上、リーヴが手すりに手をかけ、暗闇を凝視しながら呟いた。

彼女の戦士としての直感が、かつてない規模の「異変」を察知していた。


オルシェは無言で隣に立ち、意識を研ぎ澄ませた。


《鑑定スキル:広域索敵モード起動》

・解析範囲:半径5キロメートル

・スキャン中……完了。


視界が青白く反転し、闇の中に隠された熱源が、おぞましい数の「点」となって浮かび上がった。

それは、地平線を埋め尽くすほどの密度だった。


「……多いな。今までの小競り合いとは次元が違う」


《反応数:1082》

《分類:人間/武装集団》

《装備:鉄器、火炎瓶、簡易梯子》

《意図:殺戮、および組織的略奪》


沈黙が二人の間に流れる。


「……来たか。セレスが言っていた、外からのハイエナ共だ」


「数が違うぞ、オルシェ。千を超えている。これはもう『野盗の群れ』じゃない」


リーヴの声に、微かな緊張が走る。

かつて五体の狼に怯えていた村は、今や数千の民を抱える街になった。守るべきものの重さが、彼女の肩にのしかかっている。


「盗賊の連合軍、といったところか。周辺の村を焼き尽くし、食い詰めた残党どもが、噂を聞きつけてひとつの『軍』になりやがった」


オルシェは断言した。


《軍勢分析》

・統率:複数の小規模集団を統合する、単一の指揮系統を確認。

・布陣:包囲殲滅陣形。

・傾向:残虐性は高いが、個々の練度は低い。


「残党じゃねぇ。……これは、奪うことでしか生きられねぇ獣たちの、最後の大博打だ」


その時。

遠く、森の入り口付近で一本の矢が火を噴き、夜空へ放たれた。


「……合図か」


刹那、静寂は切り裂かれた。

地平線を埋め尽くす闇の中から、松明の火が次々と灯り、どす黒い怒号が街の防壁を揺らした。


人。人。人。

数百ではない。千を超える人間の濁流が、狂気を孕んで押し寄せてくる。


「……見つけたぞォ!! あの壁の向こうが、噂の“金の街”だ!!」


「女も、酒も、金も、全部そこにあるんだろォ!?」


「奪え!! 逆らう奴は全員殺せッ!!」


狂った笑い声が夜風に乗って届く。彼らの瞳にあるのは、自分たちで築くことを諦めた者たちが抱く、繁栄への剥き出しの憎悪だった。


その濁流の中心。

ひときわ大きな馬に跨り、血に汚れた大斧を担いだ巨漢が、下卑た笑いを浮かべていた。


《鑑定:敵首領を解析》

・個体名:ガルド

・異名:鉄喰い

・役割:盗賊連合総帥

・戦闘能力:高。身体強化(粗悪品)の形跡あり。


「……あれが頭か。図体だけは立派なもんだ」


リーヴが目を細める。ガルドは大剣を掲げ、防壁の上に立つオルシェを見据えて叫んだ。


「聞いたぜぇ……! ガキが魔術ごっこでままごとをしてる街だってなぁ!」


周囲の盗賊たちから下品な嘲笑が上がる。


「いい壁だ、だがそれだけだ! 俺たちが千人で取り囲めば、アリの這い出る隙間もねぇ! 楽に奪えそうで助かるぜ、坊主!」


「……舐められてるな、俺たち」


オルシェが低く呟いた。その声に怒りはなく、ただ冷徹なまでの「事務処理」の響きがあった。


「どうする、オルシェ。正面から受けて立つか、それとも――」


リーヴが問う。オルシェは静かに、深く、肺の空気をすべて吐き出し、街の心臓へと声を届けた。


「やることは、最初から変わらねぇ」


一歩、防壁の淵へと踏み出す。


「守る。……それだけだ」


その瞬間、街の至るところに設置された魔導拡声器を通じて、オルシェの覇気が全住民へと伝播した。


「全員、配置につけ!! 臆するな、訓練の成果を見せる時が来たぞ!」


動く。一斉に。

半年間の「教育」と「実戦」が、市民たちの身体に刻み込まれていた。


「弓部隊、上層へ! 狙いは指揮個体と火炎瓶持ちだ!」

冒険者たちと、新たに訓練された弓兵たちが弦を引く。


「前衛、門の内側に展開! 盾を重ねろ、一歩も引くな!」

ダンを筆頭とした屈強な建築班と重装歩兵が、地面に根を張るように踏ん張る。


「中衛、バレット術式、チャージ開始。……合図で全弾解放しろ」

セレスが、冷静な手つきで魔導計算機を弾き、最適な火力を算出する。


「後衛、治癒魔法ヒールのサークルを展開。魔力循環を最大にしろ」

サラ率いる医療班が、温かな光をその手に灯す。


「……いいわね。迷いがないわ」


いつの間にか執務室から出てきたセレスが、眼鏡を押し上げながら呟いた。


「訓練通りだ。……それ以上の動きすら見せているわね」


門が閉まり、防壁の各所に設置された魔導砲座が不気味な光を帯びる。

外では、死を恐れぬ千の悪鬼が、津波となって壁に激突しようとしていた。


「壊せぇえええ!! 門をブチ破れッ!!」


ガルドの咆哮とともに、盗賊たちが一斉に突進を開始する。

大地を震わせる足音。降り注ぐ火炎瓶。


だが――オルシェは、揺るがなかった。


「……ちょうどいい」


「何がだ?」


リーヴが剣を抜き放ち、オルシェに問いかける。

オルシェは、攻め寄せる千の暴徒を冷ややかに見下ろし、不敵な笑みを浮かべた。


「試しだ。……俺がこの数ヶ月、寝る間も惜しんで作り上げたこの街が、ゴミ拾いの集団相手にどこまで圧倒できるかのな」


オルシェは右手を高く掲げた。

その指先には、周囲の魔力をすべて吸い尽くすかのような、黒く歪んだ極小の重力球が形成されていた。


「教育してやるよ。……『奪う』側が、実は一番『奪われる』側に近いってことをな」


次の瞬間、オルシェの手が振り下ろされた。


「――全軍、迎撃。一匹も逃がすな」


闇を切り裂く魔弾の光。

街の防衛戦、その幕が、圧倒的な暴力の応酬とともに切って落とされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ