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鑑定スキルで全てを最適化したら、最弱の村が国家になりました  作者: 慈架太子


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18話:村が“街”へ

朝の光が防壁の頂をなぞり、その内側に広がる光景を照らし出す。

見張り台から見下ろす景色は、もはや“村”という言葉では到底形容できないものに変貌していた。


整然と並ぶ集合住宅、煙突から立ち上るいくつもの炊煙、そして早朝から活発に行き交う人々の波。

かつての静かな集落は、今や巨大な熱量を持って脈動する一つの生命体となっていた。


「……増えたな。どこまで広がるんだ、ここは」


リーヴが、防壁の端に手を置いて呟いた。その声には、自身の想像を遥かに超える速度で膨張し続けるこの場所への、畏怖にも似た感情が混じっている。


「まだ増えるさ。噂は風に乗って、俺たちの知らない場所まで届いてる」


オルシェは淡々と、しかし確信を持って言った。

彼の網膜には、常に最新のステータスが投影されている。


《広域鑑定:稼働中》

・居住人口:急速な右肩上がりを継続

・流入待機数:街道沿いに数百名を確認

・町の安定度:極めて良好


「止まらねぇな、この流れは」


「止める気もない。人が増えるってことは、それだけできることが増えるってことだ」


オルシェは不敵に笑った。

そこに、分厚い羊皮紙の束を抱えたセレスが足音も立てずに現れる。


「オルシェ。次のフェーズに移行するわよ。呼ぶ前に来たわ」


「流石だな、セレス。何から手をつける?」


「食料の軸を増やすわ。今の魔力野菜だけでは、数千単位の胃袋を支え続けるにはリスクが大きすぎる」


セレスは迷いなく、再設計された土地利用計画図を広げた。


「麦、小麦、そして芋。これらを主力に据える」


「……理由は? 珍しい野菜の方が高く売れるだろ」


リーヴが首を傾げる。セレスは即座に、冷徹なまでの合理性で答えた。


「保存性と量産性よ。贅沢品は腹を満たさない。人口が爆発的に増えるなら、まず優先すべきは『飢えの恐怖』を完全に払拭すること。小麦があればパンが作れ、芋があれば冬を越せる。効率を極限まで高めた大規模農地を外壁沿いに拡張するわ」


セレスの指示は、すぐさま実行に移された。

ロイ率いる農業班が、魔力操作で土壌を瞬時に耕し、セレスの計算に基づいた最適な配置で作付けを行っていく。


「……早いな。昨日までただの荒野だった場所が、もう青々とした畑になってる」


現場を指揮するロイ自身が、その異常な速度に驚きを隠せずにいた。


「考えて動いているからよ。無駄な試行錯誤を削れば、結果が出るのは必然だわ」


セレスは事務的に言い放ったが、その瞳には自らの策が形になる悦びが微かに灯っていた。


職人の奔流:パンと醸造の夜明け

そして数日後。

門前には再び、新たな「才能」の集団が姿を現した。


《鑑定:新規流入個体》

・職業:パン職人10名/醸造職人10名/見習い希望者約300名

・目的:安住の地、および高品質な素材を求めての移住。


「……当たりばっかり来るな、この街は」


オルシェが苦笑する。

門の前に並んだ一人の男が、煤けたエプロンを正して前に出た。


「……パン職人だ。名はギル。最高の小麦があるって噂を聞いて、西の街から逃げてきた」


「醸造をやってる。名はルド。水が良い場所だって聞いてな、自慢の樽を持って来たぜ」


「いいな。歓迎するぞ」


オルシェは頷き、二人を見据えた。


「条件はこれまでと同じだ。働け。自分の技術をこの街のために使い、さらに高める気があるなら、場所も素材もいくらでも提供してやる」


「当然だ。そのために来たんだからな」


ギルが不敵に笑う。

セレスが即座に割り振りを開始した。

パン、酒。それは生活の質を決定づける文化の核だ。


まずはパン。

新しく収穫された小麦を、ダンたちが作った水車小屋の石臼で挽き、きめ細かな粉にする。

ギルたちがそれを練り、オルシェが調整した一定の熱を放つ「魔導窯」へ。


しばらくすると、街中に芳醇な、香ばしい匂いが漂い始めた。


「……焼けたぞ」


一切れのパンが配られる。

村人、難民、戦士。誰もがその一切れを口に運んだ。


「……うまい」


静かに、そして深く、あちこちから声が漏れた。

これまでの「腹を膨らませるための塊」ではない。

柔らかく、温かく、噛みしめるほどに甘みが広がる。

それは、生存という泥の中から、生活という花が咲いた瞬間だった。


「……違うな」


誰かが呟いた。


「これは『食える』じゃない。……『生きてて良かった』って味だ」


広場に笑いが広がる。


次は酒だ。

ルドが厳選した穀物と、オルシェが地下から引いた清浄な水を使い、発酵の術式を組み込む。


「時間はかかる。だが、じっくり寝かせれば極上のができるぞ」


そして数日後。

最初の樽が開かれた。


「飲め。これが俺たちの街の『祝杯』だ!」


琥珀色の液体が杯に満たされる。

一口含めば、爽やかな苦味と深いコクが全身を駆け抜ける。


「……っ!」

「……うめぇ……! 水より喉を通るぜ!」


歓声が爆発した。

人々は肩を叩き合い、今日一日の労働を称え合い、笑い声を夜空に響かせる。


「……いいな、オルシェ」


リーヴが、珍しく柔らかい表情で呟いた。


「戦うだけじゃない、奪い合うだけじゃない。生きるってのは、こういう温かいものだったんだな」


「ああ。これこそが、俺が作りたかった景色だ」


指導教育:職人ギルドの形成

その光景を見ながら、セレスが横から鋭く釘を刺した。


「……でも、まだ足りないわ。職人の数が決定的に足りない」


彼女の視線の先には、憧れの眼差しでギルたちの作業を見つめる見習い志望の数百名がいた。


「育てるぞ。一気にだ」


オルシェは頷き、前へ出た。


《スキル:教育指導・職人特化展開》

《対象:パン職人、醸造職人、および見習い総勢300名》


「なに、を……」


ギルやルドの脳内に、オルシェの解析した「発酵の分子構造」や「熱伝導の最適解」が、直感的なイメージとして流れ込む。


「……なんだこれ」

「工程のすべてが……手に取るように分かる……!」


見習いたちの手が、魔法にかかったように迷いなく動き始めた。

昨日まで粉に触れたこともなかった少年が、ギルも驚くほど見事な生地を捏ね上げる。


「……早い。一日で別人だ。俺たちの十年を追い越しちまうぞ」


ギルが戦慄しながら呟く。


「当然だ。才能を眠らせてる暇はねぇからな。やり方を知れば、人間はどこまでも伸びる」


「……違うな、オルシェ」


ルドが感服したように笑う。


「これは『やり方』を教えてるんじゃない。……あんたは、俺たちの内側にある『なりたい自分』を無理やり引きずり出してるんだよ」


オルシェは少しだけ照れくさそうに笑い、沈みゆく太陽を眺めた。


「どっちでもいいさ。美味ぇパンと酒が、腹いっぱい食えるようになるならな」


夕方。

街は、黄金色の光に包まれて脈動していた。

パンが焼かれ、酒が仕込まれ、新しい技術が伝播し、人々が未来を語り合う。


防壁の外側には、さらなる居住区の拡張を急ぐダンの作業音。

演習場からは、リーヴ率いる自警団の威勢の良い掛け声。

そして学校からは、セレスの厳しい、しかし愛のある講義の声。


「……街だな、ここはもう」


誰かが誇らしげに言った。

オルシェは、澄み渡る空を見上げ、深く息を吐いた。


「まだ途中だ。……ここから、もっとデカくなるぞ」


確かな一歩。

だが、その一歩はすでに世界を動かすほどの重みを持っていた。

異世界の片隅に誕生した「魔導産業都市」は、その翼をさらに大きく広げようとしていた。

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