364 崩れゆく日常と慈愛の鎖
エデン王城、カシューの執務室。
各国の国王達やシルバーウイングのジェラール、そしてマギナの宰相ジェームズとの緊迫した通信を終え、カシューは静かに通信機のスイッチを切った。張り詰めた空気が支配する室内で、カシューはメイド隊の隊長リアへと冷静な声で指示を飛ばした。
「リア、荒らされたカリナの自室の掃除と修理をしておけ。ルナフレアを救出した後に、すぐに使える状態にするんだ」
「はっ、畏まりました!」
リアは深く一礼し、「失礼致します」と執務室を足早に出ていく。重厚なドアが閉まった瞬間、カシューの表情から「王としての仮面」が剥がれ落ちた。
「おのれ……無関係な者達まで巻き込みやがって……!」
ギリッ、と奥歯を噛み締める音が響く。その声には、隠しきれない怒りと憎悪が濃く滲んでいた。執務室のソファーで通信の一部始終を聞いていたエクリアとグラザの全身からも、肌を刺すような殺気と魔力が立ち昇っている。
「カシュー、今すぐ乗り込まないのか?」
エクリアが普段の奔放な態度を完全に消し去り、地を這うような低い声で問う。
「俺はさすがにはらわたが煮えくり返ったぜ。そいつは俺が確実に消し炭にしてやる……」
「ああ、エクリアの言う通りだ」
グラザも立ち上がり、拳を白くなるほど強く握りしめた。
「カリナ達が帰還したら今すぐ乗り込もう。南西のあの『黄金城』だろ。戦車隊の装甲車なら一日の距離だ。あの城ごと、粉々に粉砕してやる」
「ああ……本当は、僕も今すぐそうしたい。だが――」
カシューは拳を固く握り、執務デスクにドンッ! と叩きつけた。
「明日、各国の王達がエデンに集まる。僕達がいない間の、エデンの守護も重要だ。彼らには、エデンでの指揮をアステリオンと共に執ってもらうつもりだ……!」
カシューはできるだけ『国王としての平静』を装ってはいるが、その内面はマグマのようなドロドロとした怒りが湧き出し、今にも噴火しそうだった。
その時、執務室のドアがコンコンとノックされた。
「カリナだ。みんなと一緒に戻ったぞ」
無邪気な、そして何も知らないカリナの声。カシューは一度深く深呼吸をし、乱れた息と感情を無理やり押し殺した。
「開いてるよ」
カシューがデスクの椅子に腰掛けて応じると、重厚なドアが開き、カリナを先頭に、カグラ、サティア、背後に密着するエヴリーヌ、そしてチェトレが和やかな雰囲気のまま入室してきた。だが、部屋に足を踏み入れた瞬間、カリナの足がピタリと止まる。
「カシュー……何かあったのか? 城内もなんだかざわざわしていたし……」
カリナは、カシュー、エクリア、グラザから発せられる隠しきれない怒りの闘気を敏感に感じ取っていた。カシューは深く、重い溜め息を吐いて心を落ち着かせ、重い口を開いた。
「カリナ、カグラ、サティア、エヴリーヌ、それにチェトレも……落ち着いて聞いてくれ」
「何よ、なんだか穏やかじゃなさそうね」
カグラが扇子を閉じ、眉をひそめる。
「三人共闘気が身体から溢れ出していますよ。一体、何があったんですか?」
サティアもただならぬ空気に声を硬くした。
「ん、不穏な予感……」
「カシュー、大丈夫なの?」
エヴリーヌとチェトレが固唾を呑んで見守る中、カシューはゆっくりと事実を告げた。
「ああ……。先程、各国の王達などから通信が入った……。ルミナスのセラフィナ姫、アーシェラのシリュウ王子、フィンの王女レナ、エデン領内のチェスターのシルバーウイングの、以前カリナが救った剣士ジェラールの息子ヤコフ……。さらに、マギナのシャル……シャーロット女王が、最後の災禍六公に攫われた……!」
怒りを極限まで押し殺したカシューの言葉に、室内の空気が完全に凍りついた。
「なっ……!?」
カリナが驚愕に目を見開く。
「セラにシリュウ、レナにヤコフ、しかもシャーロット女王まで攫われたのか……!?」
「なんですって……。ふざけた真似をしてくれたわね……!」
カグラがギリッと扇子を握り締める。
「何の抵抗もできない婦女子を攫うなんて……。なんて卑劣な真似を……!」
サティアが怒りに震え、奥歯を噛み締めた。
「ん、さっさと助けに行こう。エデンにケンカを売ったその罪、命で償わせる」
エヴリーヌは腰のダガーの柄を強く叩き、殺気を放つ。
「私ももちろん協力するわ。相手は何て奴なの?」
チェトレの問いに、カシューは冷たく答えた。
「相手は、災禍六公の首魁『アスモディル・ヴェイン』。人質を返して欲しくば、エデンの特記戦力と国王のカシュー……僕も含めた全員で、エデンの南西にある黄金城に来いとのことだ……」
「だったら早く行こう! 装甲車のスピードならすぐだろう! くそ……姿を見せないと思っていたら、裏でこんなことを企んでいたのか!」
カリナが焦燥を滲ませて叫ぶ。しかし、カシューは首を横に振った。
「いや、明日には各国の王達が緊急事態だからと魔導列車でエデンに来てくれる。僕達が出撃している間の防衛は、彼らとアステリオンに指揮を執ってもらうつもりだ……」
「そんな悠長な……! 相手は悪魔なのよ、カシュー!」
チェトレが抗議するが、カシューは苦しげに顔を歪めた。
「わかっている! だからこそ、僕達が出ている間のエデンを任せないといけないんだ! 僕だって……僕だって、今すぐ出撃してそいつを八つ裂きにしてやりたい! でも国王として……こういうときこそ、冷静にならなければならない……!」
握りしめたカシューの拳から、血が滲み出そうになっていた。カシューは大きく息を吸い込み、最も告げたくない真実を口にする。
「カリナ……落ち着いて聞いてくれ……」
「……なんだよ、改まって?」
カリナの嫌な予感が膨れ上がる。
「攫われた者達は、それだけじゃない。同時に六人が攫われた。相手はアスモディル・ヴェインを含めて、六匹配下のような者がいる可能性がある……」
「そうだな……じゃあ、あと一人は誰なんだ?」
カシューは、重く、沈痛な沈黙のあと――ついにその名を口にした。
「……ルナフレアが、攫われた……」
「…………え?」
カリナの時間が止まった。
「メイド隊のリアからの報告だ。物資を届けに行った時に応答がなかったから、スペアキーで中に入ったら……内部は争った形跡があり、テラスに出るためのガラスドアが壊されていたらしい……。今、メイド隊達が部屋の掃除と修繕を行っているところだよ……」
「なっ……!?」
カリナは自分の頭の中が、一瞬にして真っ白になっていくのを感じた。思考が停止し、目の前の景色がぐらりと歪む。
「くっ……!」
短い呻き声と共に、カリナは弾かれたように振り向き、猛然と駆け出した。執務室を飛び出し、自室へと向かう。
「カリナちゃん! 私達も行くわよ、一人にさせちゃいけない!」
カグラが即座に後を追う。
「ん、今のカリナはまともな状態じゃない。私も行く!」
「私も行きます!」
「私も心配だから行くわ!」
エヴリーヌ、サティア、チェトレが弾かれたようにカリナを追いかけて部屋を飛び出していく。
「ああ、任せるよ……」
カシューはそう呟き、「はあー」と絶望的な溜息を吐いて深く椅子に沈み込んだ。
「カリナの精神状態が心配だな」
エクリアが腕を組み、眉間を揉み解す。
「俺の側付きのイリーナが言ってたが、ルナフレアはカリナにとってのある意味、精神安定の要の『母』のような存在だ。迂闊な行動に出る可能性もある。あいつらがついているならまあ大丈夫だろうけどな」
「まずいな、少女のアバターの精神浸食が一気に進む可能性もあるぞ」
グラザが忌々しげに舌打ちをする。
「俺達にはどうしようもできないが……カグラ達が傍にいるなら大丈夫だとは思うが、何もしてやれないのが悔やまれるぜ」
「ああ……、カリナ……、頼むから先走ったりはしないでくれ……」
カシューはデスクに肘をつき、祈るように両手を組んで静かに目を閉じた。
◆◆◆
「はあ、はあっ……、ルナフレア……ルナフレアッ……!」
城内を全速力で駆け抜けるカリナの息は荒く、その足取りには焦りが満ちていた。その後ろをカグラ、エヴリーヌ、サティア、チェトレが必死に追いかける。
「カリナちゃん、落ち着いて!」
カグラの叫びも、今のカリナの耳には届かない。カリナの脳裏に浮かぶのは、いつも慈愛に満ちた笑顔で自分を傍で支えてくれた、美しい銀髪のルナフレアの姿だけだった。朝の優しいおはようございますの声。美味しい食事。柔らかで温かな抱擁。
特記戦力の居住区に飛び込み、カリナは自室の前に到着した。ドアは開け放たれており、内部ではメイド隊が慌ただしく片付けをしている。
「ルナフレア……ルナフレアッ!」
「カリナ様! 今片付けている途中です、どうか落ち着いて下さい!」
メイド隊のリアが制止しようとするが、カリナはそれを振り切り、室内へと駆け込んだ。カグラ達もすぐさま後に続く。
リビングとキッチンは無惨に荒らされ、家具が倒れ、食器が砕け散っている。そして――カリナの視線が、破壊されたテラスへのガラス張りのドアに釘付けになった。
「カリナ様、今は片付けているところです! 陛下の決定をお待ち下さい!」
メイド達の悲痛な叫びを背に、カリナは割れたガラスを踏み越え、テラスへと出た。もちろん、そこにルナフレアの姿はない。あるのは、冷たい風と、引き裂かれたカーテンだけだった。
「…………」
カリナは、糸が切れた人形のようにその場に力なく膝を突き、両手をテラスの冷たい床に着けた。カグラ達がすぐさま駆け付け、カグラが後ろからカリナを強く抱き締める。
「ルナフレア……ルナフレア……」
うわ言のように呟きながら、カリナはゆっくりと身体を起こした。どんなときも側にいて、自分のことを一番に考えてくれた、無償の愛を注いでくれた、側付きの域を超えた何よりも大切な存在。
「うああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」
カリナの喉から、獣のような、魂を切り裂くような慟哭が迸った。返事はない。カリナの心を、黒い怒りの感情が、底知れぬ憎悪となって塗りつぶしていく。
「カリナちゃん、落ち着いて!」
「そうです、カシューさんが必ず救出へ向かう計画を立てているはずです!」
「カリナ、私達がついてる! 一人じゃない!」
カグラ、サティア、エヴリーヌが背後や左右からカリナを強く抱き締め、必死に言葉をかける。だが、カリナの身体からは、すでに制御不可能なほどの凄まじい闘気と、ドス黒い魔力の奔流が嵐のように吹き荒れていた。
「なんていう……とんでもない力なの……!」
一行の後ろからそれを見ていたチェトレが、その絶望的なオーラに慄き、後ずさる。
「来い、ペガサスッ!!!」
カリナが絶叫し、召喚体を召喚しようとする。それを察知したカグラが、咄嗟にカリナの前に回り込み、その小さな身体を抑え付けるように強く抱き締めた。
「ダメよカリナちゃん!! 一人で先走ったら!!」
「カリナ、落ち着いて!」
「そうです、一人で先走ってはダメです!」
エヴリーヌとサティアも左右からカリナの腕を掴み、全体重をかけて抑え付ける。
「うあああああ!!! ルナフレア―――!!!」
カリナの碧眼から大粒の涙がとめどなく溢れ出し、絶叫が響き渡る。抱き締めるカグラはぎゅっと力を込めて抑え付け、エヴリーヌとサティアも同様に、暴走するカリナの闘気と魔力を、己の魔力で必死に相殺し続けた。
やがて――カリナの身体から溢れ出していたオーラが、ふっと消え去った。
ドクンッ!
心臓が不自然に脈打ち、カリナの身体がガタガタと激しく震えだした。瞳の焦点が定まらなくなり、過呼吸のように浅く、小刻みな呼吸を繰り返し始める。精神浸食の発作が、ルナフレア喪失のショックを引き金にして一気に爆発したのだ。
「マズいわ、症状が出た可能性がある……! このままここにいたらいけない! 私の側付きのリタなら事情は知ってるから、一番近くの私の部屋に運ぶわよ!」
カグラはそう叫ぶと、素早くカリナを背負って立ち上がった。
「ん、一緒に行く!」「はい、ご一緒します!」「私も行くわ!」
カグラを先頭に、メイド隊達が唖然として道を開ける中、一行はカリナの自室を駆け出た。
カグラは自室の前に着くとカードキーでドアを開けた。
「お帰りなさいませ、カグラ様。それにみなさんまで。あなたは噂のチェトレさんですね」
出迎えた側付きのリタが優雅に挨拶をするが、カグラはそれを制した。
「リタ、挨拶は後! カリナちゃんの症状が出たわ、ベッドに運ぶわよ!」
「はい! みなさんもお入り下さい!」
「すいませんリタさん、失礼するわね」
室内に入ると、カグラはすぐにベッドにカリナを寝かせた。サティアとエヴリーヌが素早い手つきでカリナのブーツや、腰に佩いている剣のベルト、コートを脱がせていく。カグラは震えるカリナを左隣に横になって抱き締め、髪の毛や背中、頭を優しく撫でさするが、カリナの震えや涙は全く止まらない。
「カグラ、鎮めてあげて」
エヴリーヌの静かな促しに、カグラは覚悟を決めて頷いた。カグラは涙で濡れた狩衣を脱ぎ、ブラを外すと、自分の胸元に横になって震えているカリナを抱き寄せ、カリナの口元に、自身の左の巨乳の先端――ぷっくりと膨らんだピンクの蕾をくわえさせた。
「……っ」
ルナフレアという母のような存在を一時的に失った絶望の衝動。カリナは激しくカグラの胸に吸い付き、そこから溢れ出す母乳を、母性に飢えた幼子のように無心で飲んでいく。
「んんっ……あぁっ……」
カグラの口から、甘い嬌声が漏れた。カグラはカリナの空いた左手を自分の右胸へと導いた。カリナはそれを、指が食い込むほど強く揉みしだき、すがりついた。
「ああんっ……! いいわよ、カリナちゃん……全部……全部吐き出して……」
絶え間ない吸啜の刺激と、強く胸を揉まれる快感に、カグラの口からは甘い嬌声が響き続ける。履物を脱いだエヴリーヌとサティアもベッドに上がり、カリナの両側に寄り添う。
「ん、カリナ、大丈夫……私達がいる」
「カリナさん、ゆっくり息をして……」
二人はカリナを落ち着かせるように優しく声を掛けながら、その震える身体を丁寧にさすり続けた。少し離れた場所で、チェトレはその壮絶な光景に息を呑んでいた。
「これが……少女のアバターによる精神浸食なの……? なんて痛ましい……」
「カリナ様はずっと苦しんでおられます。カグラ様達は、いつもカリナ様の側でこうして寄り添っているのです」
リタが、祈るように両手を組みながら静かに答えた。
「はあ、はあ……あっ……」
カグラは荒い息を吐きながらもカリナの頭を愛おしげに撫でる。強く刺激された右の胸からも母乳が溢れ出し、カグラの素肌の胸やカリナの小さな手を伝い、シーツを濡らしていく。サティア達は懸命にカリナの身体をさするが、カリナの底知れぬ喪失感による症状はなかなかおさまらない。
やがて、カグラの左の母乳が枯れてしまうが、それでもカリナはすがりつくように吸い続けた。カグラはそっとカリナの口を離すと、今度は母乳が零れだしている右の先端をカリナにくわえさせた。
「んっ……ちゅっ……」
カリナはカグラの身体にのしかかるようにして右の胸を懸命に吸い、空いた右手でカグラの左の柔らかな胸を揉みしだく。
「ああんっ……! はあ、はあっ……大丈夫よ、私達が傍にいるから……」
カグラは荒い息と快感の混じった嬌声を上げ続けながら、自分にのしかかっている小柄なカリナの頭や背中を優しく撫で続ける。エヴリーヌとサティアも、決してカリナが一人ではないと伝えるように、その小さな身体を撫で続けた。
――そして、長い時間の後。
彼女達の深い慈愛が通じたのか、徐々にカリナの震えがおさまっていき、溢れ出していた涙もゆっくりと止まっていった。カリナが疲れ切ったように、カグラの右胸からぽろりと口を離した瞬間――。
「今よ……!」
カグラはキッと集中し、片手で印を結んだ。
「『相生帰魂――天静輪』」
精神安定系の奥義。陰(不安・恐怖・暴走)と陽(衝動・怒気・過剰覚醒)を衝突させず、完全調律させて円環に戻す『救うための奥義』である。ベッドのシーツの上に白銀の陰陽円陣が浮かび上がり、カグラの背後に静かな満月の幻影が重なる。チリン、と鈴の音のような霊響が室内に響いた。
「荒ぶるは陰、
昂ぶるは陽。
乱れは相克にあらず、
均衡の忘却なり。
我が掌にて調えよ。
我が息にて還せ。
相生帰魂――天静輪!」
カグラの詠唱の祝詞と共に、カリナの周囲に淡い光の輪が生まれ、荒かった呼吸が自然と整っていく。淀んでいた精神の波が、静かな湖水のように安定していく。
「今よ、サティア!」
「はいっ!」
サティアはカリナをカグラから受け取ると、自分の豊かな胸元にしっかりと抱き締め、目を閉じて祈りを捧げた。
「『上位聖女神聖術――セイントレス・エンブレイス』!」
サティアの聖女の力を最大限に発動する、仲間を守るための専用神聖術。神聖な光がカリナの魂を包み込み、深層心理の奥底で激しくせめぎ合っていた『本来の自我』と『アバターの精神浸食』の衝突を完全に浄化し、中和して停止させる。
「さらに……『ブレッシング・オブ・ザ・セイントレス』!」
続けて放たれたサティアのみが使える特殊神聖術。神聖力によってカリナの肉体的・精神的な消耗を大きく回復させ、生命力と魔力を満たしていく。暴走と発作で極限まで消耗していたカリナは、神聖な光の温もりに包まれ、サティアの胸に抱かれたまま、ようやく安らかな寝息を立て始めた。
「はあ……はあ……っ!」
カグラは上半身を丸出しのまま、極限の集中力で高度な術を行使した反動で、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。
「はあ、はあ……っ!」
サティアもまた、連続で上位神聖術を行使した影響で荒い息を吐きベッドに倒れ込む。
「ん、もう大丈夫」
試着の際にライトメイルを脱いでいたエヴリーヌが、サティアからそっとカリナを受け取り、自分の胸元に優しく抱いた。
「今回はかなり激しかったみたい。二人共、お疲れ様」
「はあ、はあ……、良かったわ……。あの状態で一人にさせていたら、マズかったわね……」
カグラが汗ばんだ額を拭いながら微笑む。
「はい……、かなり危なかったです……」
サティアも安堵の息を吐きながら、カグラの横で目を閉じた。
「ふぅ……、カリナ様もみなさまも、無事で良かったです……」
一部始終を見守っていたリタが、涙ぐみながら寝息を立てるカリナの寝顔を見つめた。
「ルナフレアさんが攫われたことは、既に知っています。カリナ様には、相当のショックだったのでしょうね……」
痛ましそうに呟くリタの言葉に、チェトレは深く息を吐き出した。
「これが精神浸食の症状なのね……。あなた達が、カリナちゃんから離れない理由が良くわかったわ……」
言葉の重み、そして事態の深刻さ。それを痛感したチェトレに、エヴリーヌは静かに頷いた。
「ん、そう。カリナには私達が必要。それなのに……ルナフレアを奪った悪魔は、万死に値する」
エヴリーヌはそう呟きながら、カリナをベッドの中央にそっと寝かせた。そして自身もカリナの右隣に横になると、上半身の衣装と下着を脱ぎ捨て、素肌のままカリナを温めるように強く抱き締めた。
「チェトレ、私達はしばらく動けそうにないから、カシューにカリナちゃんの状態を伝えてあげて……」
カグラが疲労の濃い声で指示を出す。
「リタ、あなたも一緒について行きなさい。チェトレはまだ城内の造りに慣れていないから迷うわ」
「ええ、わかったわ」
「はい、お任せ下さい。では行きましょう、チェトレさん」
「お願いしますね……」
チェトレはサティアの言葉に力強く頷き、リタの案内でカシューの待つ執務室へと向かった。
災禍六公アスモディル・ヴェインのルナフレア誘拐により、カリナの精神には致命的とも言える相当の負荷がかかっている。各国の王達が到着するのを待ち、救出へ向かうまであと僅か。果たしてカリナは、精神的に落ち着いた状態で、あの悪魔との決戦に臨むことができるのだろうか。




