352 祝宴フィナーレと崩れ落ちる純情
玉座の間の外、夜風が吹き抜ける広大なテラス席。カシューがシャーロット女王の猛アタックに胃を痛めながらも、何とか五大国の国王達との軍議をまとめ上げている頃。
カリナ達もテラスでのやり取りを呆れ半分で眺めた後、元座っていた自分達のソファー席へと戻るために、賑わう会場内を歩いていた。夜の帳が完全に下りた祝宴のボルテージは、最高潮に達している。誰もが美酒と美食に酔いしれ、至る所で楽しそうな談笑の輪が広がっていた。
そんな中、カリナは会場の一画で異様な熱気を放っている集団を目にし、思わず足を止めた。そこでは、グラザと『ドラゴンベイン・オーダー』のエリック、『シルバーウイング』のロックとアベル、そして『ルミナスアークナイツ』のカーセルとカインという、トップ冒険者達が円卓を囲み、凄まじい勢いで飲み比べをしていた。
カリナが様子を見に近付くと、エリックとグラザの前には空になった特大のジョッキやグラスが要塞のように積み上げられており、二人はまだ余裕の表情で酒を呷りながら豪快に笑い合っている。
しかし、他の面々は惨憺たる有様だった。カーセル、カイン、ロックの三人はソファーやテーブルの上にぐったりと突っ伏しており、辛うじて重戦士で巨漢のアベルだけが、青い顔をしながら二人のペースについていっている状態だ。
「……エリックにグラザ、お前達、昼間からずっとこのペースで飲んでたのか?」
カリナが呆れたように声を掛ける。
「おお、カリナか! まあな! エデンの酒は本当に美味いな! 料理も最高に美味いから、どんどん酒が進むぜ!」
エリックが上機嫌でジョッキを掲げた。
「アーシェラでは結局勝負がつかなかったからな! 今夜こそ白黒はっきりさせてやるぞ、エリック!」
グラザも負けじと笑い、新たなジョッキを喉に流し込む。
「よくやるなあ……。見ているだけでこっちまで酔いそうだ。アベルも飲んでるのか?」
「ああ、嬢ちゃんか……。俺はマイペースに飲んでいるつもりだったんだがな。最初からあの化物二人のペースに意地でついていこうとした結果が、これだ……」
アベルが呆れ返ったように顎で示す先には、ソファーの上で「うーん……うーん……」と唸って完全に酔い潰れているカーセルとカイン、そしてテーブルの木目を虚ろな目で見つめているロックの姿があった。
「はあ……。昼間からこのペースで飲んでたら、普通はああなるよな」
カリナがやれやれと首を振る。
「バカねえ。飲み比べなんてしても、後で苦しむだけで何の意味もないのに」
カグラが扇子で口元を隠し、クスクスと笑った。
「ふふ、仕方ありませんね」
サティアが三人の前に進み出ると、優しく微笑んで神聖術の詠唱を紡いだ。
「『ホワイト・レギュレーション』」
それは、対象の身体を正常な状態へと強制的に再調整する、サティアの高位回復神聖術。清らかな光が三人を包み込むと、彼らの体内に回っていた凄まじい量のアルコールが一瞬にして浄化された。
「おおっ……! 悪酔いと吐き気が完全に消えたぞ!」
ロックが勢い良く顔を上げる。
「ありがとうございます、聖女様……!」
「助かりました……」
カーセルとカインも、フラフラと立ち上がりながらサティアに深く頭を下げた。
「いえいえ。ですが、無理に飲むことはお勧めしませんよ。自分のペースで、楽しく飲むことが一番大事ですからね」
サティアが聖母のような微笑みで諭すと、三人は「はい、気をつけます」と深く反省した様子で頷いた。
「ん、脳筋チキン達は中々やる。……でも、飲んで潰れるなんて全く生産性がない。さすが脳筋チキン」
エヴリーヌがエリックとグラザをジト目で睨みながら、遠慮のない毒を吐いた。
「なんだとエヴリーヌ! そこまで言うなら、お前もこの勝負に参加するか!?」
グラザがジョッキを片手に挑発する。
「ん、いい度胸。グラザもエリックも、私がまとめて撃沈させてやる」
エヴリーヌの負けず嫌いのスイッチが入り、一歩前へ出た。
「いいねえ! やるかエヴリーヌ!」
エリックも嬉しそうに迎え撃つ体勢に入る。
「ん、後悔させてやる……」
エヴリーヌが空のジョッキに手を伸ばそうとした瞬間、カグラが背後からガシッと彼女を羽交い絞めにした。
「や・め・な・さ・い! お酒臭くなった状態で、カリナちゃんにくっつく気なの!?」
「んっ……それはいけない。……仕方ない、またの機会に脳筋チキンとはどっちが上かはっきりさせる」
カリナに嫌われる可能性を提示され、エヴリーヌはあっさりと引き下がった。
「やめとけ、いいことないぞ。エリックはお客だし相当強いみたいだから別に止めはしないけど……エヴリーヌが酔っぱらったら、絶対に碌なことにならない気がするしな」
カリナが冷や汗を流しながら苦言を呈する。
「あはは! まあそれはそうね。こういう無茶は、バカな男同士で勝手にやらせておくのが一番よ」
カグラが羽交い絞めを解きながら笑った。
「なぜ男の人は、お酒に強いことをやたらと自慢したがる方が多いのでしょうね?」
ルナフレアが不思議そうに小首を傾げる。
「そうですね。きっとそれが、男として『カッコいい』と勘違いしている人が多いんでしょうね」
サティアも苦笑しながら同意した。
「まあ、そういう連中がいるのは確かだな。でも、私はそれがカッコいいとは思わない。男のカッコよさは酒の強さなんかじゃなく……大事なものや人を、命懸けで守れるかどうかだろ」
カリナが、イケメン過ぎる精神構造のままに自然体で言い放った。
「そうね、カリナちゃんの言う通りよ」
「ん……さすが私のカリナ。内面がイケメン過ぎる」
エヴリーヌがたまらずカリナの細い背中に抱き着いた。
「ふふ、カリナさんの言う通りですね」
「さすがはカリナ様ですね」
サティアとルナフレアも、うっとりとした表情でカリナを見つめる。
「ははは! まあ、俺達もこれが本気でカッコいいとは思ってねえさ。グラザとはアーシェラでも飲み比べしてたからな。こういう祝宴でしかできない、ただの『ノリ』だよ」
エリックが照れ隠しのように笑う。
「ああ、そういうことだ。普段からこんなに無茶して飲むわけじゃない。こういう場でしかできない、男のバカなノリだな」
グラザもエリックとジョッキをガチンと交わし、一気に飲み干した。
「酔いは完全に浄化されたけど……あの二人の勢いを見てると、また気分だけで酔いが回りそうだね」
カーセルが苦笑いを浮かべる。
「ああ、あの二人の肝臓はちょっと異常だ。さすがにもう無茶して飲むのはやめとくか」
「だなー。せっかくリセットされたし、今しか食えない祝宴の美味い料理でも食うかな」
カインとロックも、大人しく食事に専念することを決めたようだ。
「俺もそろそろ飲むのはやめておこう。カリナ嬢ちゃんの話を聞いていたら、ただ潰れるまで飲むのがバカらしくなってきたしな。酒は適度に飲むのが一番だ」
アベルもジョッキを置き、大きく息を吐いた。
「それがいいぞ。お前達も、セリス達のところで話してきたらどうだ? あっちのテーブルで、女性冒険者だけでマイペースに楽しそうに過ごしてたしな」
カリナが指差す先には、セリスやエリア、セレナ、ユナ、テレサ、テレジア、ディード、シャオリン達が優雅に食事を楽しむ姿があった。
「そうだね。セリスさんには、色々と話を聞きたいこともあるし行ってみるよ。じゃあエリックさん、グラザさん、また後で」
カーセル達は三人に別れを告げ、セリス達の下へと移動していった。
「グラザ、あれ? エリアスは来てなかったのか?」
カリナがふと気付いて尋ねる。
「ああ、あいつなら散々飲んでふらふらになってたな。『夜は代行達と一緒に飲む約束があるから』って言って、さっき戻って行ったぞ」
「そうか。まあ、お前達も程々にしとけよ」
カリナはグラザ達に釘を刺し、再び歩き出した。
少し離れた代行達の席では、昼間のカリナの忠告がしっかりと効いたのか、リーサが酔い潰れることなく、顔を赤くしながらも楽しそうに談笑している。その隣では、戻って来たエリアスとクリスが飲み比べを始めており、レミリアが「また始まりました……」と呆れ顔で溜め息を吐いていた。
「ふふ、クリスとエリアスは相変わらずだな」
カリナが微笑ましくその様子を眺めていると、テーブルの向こうから、エヴリーヌがまたしても両手いっぱいに大量の料理を盛り付けた皿を持って、小走りで戻ってきた。
カリナ達がようやく自分達のソファー席に戻ると、そこには休憩から戻って来たレイラと娘のレナ、そしてフィンの国王でレイラの夫であるドルガンが腰掛け、和やかに夕食を取っていた。
「あ、カリナおねえちゃん、かえってきたー!」
レナがカリナを見つけて、満面の笑みで両手を振る。
「レナ、お昼寝はしっかりしたか? 晩御飯も、残さずいっぱい食べるんだぞ」
カリナがソファーに座りながら、レナの頭を優しく撫でる。
「はーい!」
レナが元気いっぱいに答えた。
「ドルガン、国王同士で話してたんじゃなかったのか?」
カリナがレイラの隣に座るドルガンに尋ねる。
「俺達フィンは、この五大国連合に正式に参加しているわけじゃないからな。さすがに魔大陸侵攻などの込み入った話に、最後まで同席するわけにはいかないさ。適度に親睦を深めてから、邪魔にならないように離れたよ。ここにはあくまで、カシューの個人的な友人として招かれただけだからな」
ドルガンが肉料理を切り分けながら、穏やかに答えた。
「そうか、まあ五大国の国王達と対等にやり合うのは、色々と気を遣って疲れそうだしな」
「そうだな。いくら相手が元NPCだとしても、あの威圧感は緊張するよ。カシューはよくまあ、平気な顔をしてあの中央でずっと話してられるなと、心底感心する」
ドルガンが、テラスで未だにシャーロットにしがみつかれているカシューを見て笑う。
「カシューさんは、この連合のある意味で『中心』にいますからね。彼が席を抜けるわけにはいかないのでしょうね」
サティアがカシューの気苦労を察してフォローする。
「ふふ、さすがはVAOでも最強のギルドを誇った、エデンの国王様ですね」
レイラも微笑みながら頷いた。
「カリナ様、これ、とっても美味しいですよ!」
『VAO』や『NPC』などという概念がわからないルナフレアは、純粋な笑顔で、運んで来た『白身魚の香草オーブン焼き』を勧める。
「ありがとう、ルナフレア。後で頂くよ」
「ん、カリナ、あーん」
エヴリーヌが、自身が持ってきた『特製ローストビーフ・赤ワインソース仕立て』をフォークに刺し、強引にカリナの口元へと運ぶ。
「いや、自分で食べられるぞ……?」
「カリナちゃん、これも美味しいわよ! はい、あーん!」
逆側からは、カグラが『彩り野菜と海鮮のマリネ』を箸で摘まんで迫ってくる。
「ふふ、平和ですね」
サティアがそのドタバタ劇を、聖母のような微笑みで見守る。こうして、カリナ達は長閑で甘やかな、夜の部の祝宴を心ゆくまで楽しんでいた。
◆◆◆
玉座の間のテラス席。
カシューと五大国の王達は、軍議を終え、酒を交わしながらさらに友好を深め、大いに盛り上がっていた。マギナの女王シャーロットは相変わらずカシューの左腕にぴったりとしがみついているが、カシューはもはや抵抗を半分諦め、なされるがままの遠い目をしている。
そんな中、ヨルシカの王ソウガは、これから始まる『己の人生を懸けた最大の戦い』のために、静かに気合を入れていた。
「ふぅ……」
ソウガが深く、長く息を吐き出す。
「まだ機会はある。カリナ殿達も、今は席に戻って寛いでいるようだ。……チャンスは今だぞ、ソウガ殿」
ジラルドがソウガの肩を力強く叩き、背中を押した。
「ハッハッハ! 臆するなよ、ソウガ殿! 当たって砕けろだ!」
レオンが笑いながら、ソウガの背をバンバンと景気良く叩く。
「うむ! 恋も戦じゃ。決して退くでないぞ、若いの!」
サキラも豪快に笑い、ワイングラスを掲げる。
「わたくしも、全力で応援致しますわ」
シャーロットも優雅に微笑み、エールを送った。
「まあ……あのカリナの絶望的で致命的な鈍感に通じるとは、私には到底思えませんが……。頑張ってみて下さい、ソウガ殿」
カシューだけが、同情に満ちた苦笑いを浮かべていた。
「うむ……行ってくる。今宵こそは、勝負を決めてみせる!」
ソウガは王としての覚悟を決め、羽織を翻して席を立った。そして、一直線にカリナ達がリラックスして過ごしているソファー席へと向かっていく。そしてソファー席へと辿り着き、緊張で声を上擦らせながら呼びかけた。
「……カリナ殿」
声を聞いたカリナは、即座に手元のフォークを置き、姿勢を正した。そして、完璧な『臣下としてのロールプレイ』の表情に切り替わり、スッと立ち上がって非の打ち所のない優雅なカーテシーを決めた。
「これはソウガ王陛下。何か、私に御用でしょうか?」
「ああー……来ちゃったか、ソウガ君」
その様子を見たカグラが、扇子で顔を覆いながら小声で呟いた。
「少し、二人きりで話せないだろうか。今宵は星も綺麗だ……良ければ、テラスで星でも見ながら……」
ソウガが、絞り出すように真剣な声で誘う。
「承知致しました。わざわざテラスへ移動するとは……何か、他言無用の重要な案件なのですね」
カリナが真顔で頷き、ソウガの先導に従ってテラスへと歩き出した。
「ふふふっ、祝宴の最後に、最高に面白いものが見れるわよ。……行きましょうか」
カグラがニヤリと笑い、サティア、エヴリーヌ、ルナフレアに目配せをする。一行は音もなく席を立ち、気配を殺してテラスへ向かう二人の後をつけ、玉座の間のテラスへ出る出口の陰にピタリと身を潜めた。同時に、テラス席からは、カシュー達残りの五大国の国王達が、固唾を呑んでその様子を眺めている。
テラスの手摺りに持たれかかり、夜風に吹かれながら、ソウガは満点の夜空を見上げた。そして、隣に立つカリナへ、熱い視線を向ける。
「カリナ殿……。今夜も、その……とても美しい……」
ソウガが頬を赤らめ、精一杯の言葉を絞り出した。しかし、カリナは臣下のロールプレイを微塵も崩さない。
「ありがたいお言葉です。エクリアが選んでくれたお色直し用のドレスですので、デザインも綺麗で機能的ですよね」
くっ……やはり手強いな……! とソウガは内心で歯噛みしつつも、すぐに気を取り直した。
「……いや、そうではなく。つまりだな……。私は……カリナ殿と、共に未来を歩みたいのだ……」
共に未来を歩みたい。それは、王族としての遠回しなプロポーズだ。しかし、カリナは深く頷き、力強く答えた。
「はい。これから先の魔大陸侵攻に向けて、五大国の同盟強化は非常に重要ですね。エデンとしても、全力で協力させていただきます」
ぐふっ……!! と見事なまでの『国家間同盟』へのすり替えに、ソウガの眉がピクリと引き攣る。しかし、これしきではソウガは退かない。さらに一歩、カリナへと踏み込んだ。
「いや、違う……! もっと、個人的な意味なのだ!」
「個人的、ですか……?」
カリナが不思議そうに首を傾げる。
「そうだ。カリナ殿……そなたの幸せを、私が守りたいのだ!」
これならどうだ、と言わんばかりの熱烈な愛の言葉。カリナは腕を組み、少しの間真剣に考え込んだ。
「……それは……。一国の国王として、民の幸せを第一に願う、理想的で素晴らしいお考えだと思います。ヨルシカの民は幸せですね」
ピキッ、ピシピシッ……!!
ソウガの心に、為政者のスローガンとして処理された絶望のひび割れが走る。しかし、ソウガは決意した。この娘には、もっと、もっと直接的な言葉でないと絶対に届かないのだと。
「私は……! そなたと、共に生きたいのだ!!」
ソウガが両拳を握り締め、魂の底から叫ぶ。それを受けたカリナは、ソウガの瞳を真っ直ぐに見つめ返し、真剣な声で答えた。
「はい。私もこの世界の人々と共に、平和に生きたいと心から願っています」
カリナの鉄壁の鈍感脳内では、ソウガの愛の告白が『全人類への博愛の精神』へと変換され、壮大なスケールで吸収されてしまった。
「ぐぬぬ……ッ!!」
ついにソウガは、言葉を失い、その場で完全に静止してしまった。その絶妙なすれ違いの連続に、出口の陰で盗み聞きしていたカグラ達は、限界を迎えていた。
「カリナさん……やはり、お話の方向が全く違いますね」
サティアが困ったように眉を下げながらも、口元は笑っている。
「でも、カリナ様らしいです」
ルナフレアが微笑ましく見守る。
「ん……カリナのあの致命的な鈍感さ……可愛い。庇護欲をそそられる」
エヴリーヌが愛おしそうに頬を染める。
「や、やばい……っ! もう笑う……っ!!」
カグラは両手で口を強く塞ぎ、肩を震わせてぷるぷると痙攣し始めていた。
静止したまま数秒。ソウガはついに覚悟を決めた。前回の三カ国同盟の時よりも、さらに直球。もはや逃げ道のない、最後にして最大の一撃を放つことを。
「私は……! そなたを、私の『妻』に迎えたいのだ!!」
これ以上ない、最も直接的で、重たく、熱いプロポーズの言葉が、夜のテラスに響き渡る。数秒の、沈黙。ソウガが期待と不安で息を止める中、カリナは即座に、一切の迷いなく答えた。
「それは、ヨルシカでずっと陛下のお側にいて護衛をするという、個人的な任務依頼ということですか?」
『妻=ずっと側にいる=常駐の専属護衛』。
カリナの強固な鈍感フィルターは、最後の最後までソウガの愛を完璧に弾き返した。
ガハッ……!!
ついにソウガは、修復不可能な致命傷を受け、頭を抱えてよろめいた。
「あっははははははっ!!! あーもう無理!! ソウガ君!! 完全に政策と仕事の話にされたわよ!!」
限界を迎えたカグラが大爆笑しながら陰から飛び出し、腹を抱えてしゃがみ込んだ。
それを合図にしたかのように、テラス席で見ていた他の国王達も一斉に立ち上がり、ソウガの元へと近づいてきた。
「見事なまでの鈍感だな……。ソウガ殿、お疲れ様だ……」
ジラルドが苦笑いしながら、項垂れるソウガの肩をポンと叩く。
「ハッハッハ! 戦場より厳しい戦いだったな! だがよくやった!」
レオンが豪快に大笑いし、ソウガの背中をバシバシと景気良く叩く。
「いやはや、これは筋金入りじゃのう……。お主の想い人は、一筋縄ではいかんわい」
サキラも呆れたように苦笑する。
「カリナ……。ここまでとは、わたくしも思いませんでしたわ……」
シャーロットが、信じられないものを見るような目で扇を口に当てた。
「皆様、本当に申し訳ありません……。あのように、色恋沙汰に関しては余りにも鈍感な生き物なものでして……」
カシューが国王達に囲まれるカリナを見て、ひたすら申し訳なさそうに頭を下げた。
「カリナさん。ソウガ陛下は、カリナさん『個人』を大切に思って言葉をかけてくださっているのですよ?」
サティアが進み出て、優しく噛み砕くようにカリナに説明を試みる。しかし、カリナは真顔のまま、深く頷いた。
「はい! ありがたい限りです! 今後も、ヨルシカとエデン、良き連合の同盟関係を築いていきましょう、ソウガ王陛下!」
パキーンッ!
その完璧なトドメの一撃に、ついにソウガは真っ白な灰となり、膝から崩れ落ちてテラスの床に両手をついた。
「ん、カリナは私の」
すかさずエヴリーヌが背後からカリナの腕を掴み、その細い身体を独占するように抱き締める。
「ああ、カリナ様……。そんな鈍感なところも、本当に可愛いです」
ルナフレアが微笑みながら、カリナの赤い髪を撫でた。
「あははははっ! もうダメ……腹筋壊れる……! ソウガ君、よく頑張ったけど、やっぱり今回もダメだったわねー!!」
カグラが涙を拭いながら、灰になったソウガを見て大爆笑する。
「私は……! 一体どこで間違ったのだ―――っ!!?」
ドオオオオオォンッ!!!!!
ソウガの魂の絶叫がテラスに響き渡ったその瞬間、城下からこの祝宴のフィナーレを飾る、特大の魔法花火が打ち上げられた。絶叫は爆音にかき消され、色とりどりの極彩色の光が、夜空と広いテラスを明るく照らし出す。
広いテラスには、美しい花火を見るために次々と人が集まってきた。
「ん、やはり最後はこれがないと、祝宴って感じがしない」
エヴリーヌはカリナに抱き着いたまま、夜空を見上げて目を細めた。
「何なんだ、一体……? ソウガ王と、世界平和と個人的な護衛の依頼を頼まれたから、その真面目な話をしてたのに……」
カリナだけが、未だに一人だけ状況が飲み込めず、首を傾げ続けている。
「あーもう、本当に可愛いわね、カリナちゃんは!」
カグラがカリナに正面から抱き着き、その頬をすりすりする。
「ふふ、今回もカリナさんの絶望的な鈍感さには、誰も敵いませんでしたね」
サティアも優しくカリナを抱き締める。
「ああ、カリナ様……。最後まで、ご自分が何を言われたのかさっぱりおわかりになっていないのが、可愛過ぎます」
ルナフレアもうっとりと微笑んだ。
「おー! はなびー! きれいー!」
テラスに出て来たレイラが連れていたレナが、花火を見てはしゃぐ。
「ほら、レナ。ここからならよく見えるぞ」
カリナはレナをひょいっと持ち上げ、肩車をしてやった。カリナの肩の上で、レナが「キャッキャッ」と嬉しそうに笑う。カリナは仲間達に囲まれながら、次々に打ち上げられ、夜空に大輪の花を咲かせる魔法花火を静かに見上げた。
こうして、魔導列車の開通と五大国連合の結成を祝う華やかな祝宴は、ソウガを再び真っ白な灰にしながらも、人々の笑顔と希望に包まれたまま、大盛況のうちに深夜まで続き、幕を閉じるのであった。




