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聖衣の召喚魔法剣士  作者: KAZUDONA


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345  五大国連合祝宴開始

 王城の中心に位置する「玉座の間」へと続く大扉は開放されていた。カリナ達が足を踏み入れたその瞬間、溢れ出してきたのは、圧倒的な熱気と、数多の芳醇な香りだった。


 広大な会場の中央には、見渡す限りの大テーブルが整然と並べられ、その上にはエデンの全智全能を注ぎ込んだかのような、ビュッフェスタイルの豪華絢爛な各国料理が所狭しと鎮座している。


 まず目を引くのは、魔導列車で新たに繋がった武大国アーシェラから招かれた料理人達が腕を振るう中華料理の数々だ。『アーシェラ産龍眼の乾焼蝦仁(カンシャオシャーレン)』は、大粒の海老がチリソースを纏い、まるでルビーのように艶やかに輝いている。その隣には、飴色に焼き上げられた『アーシェラ式極上アーシェラダック』が並び、包丁が入るたびにパリリと快音を立て、内側から溢れる肉汁が芳醇な香りを周囲に撒き散らしていた。


 対照的に、マギナ魔法国の文化の優雅さを象徴するイタリアンとフレンチのコーナーからは、バターとハーブの気品ある香りが漂う。『マギナ式牛フィレ肉のロッシーニ風』は、厚切りのフォアグラが贅沢に乗せられ、濃厚なペリグーソースが深紅の肉を美しくドレスアップしている。さらに『マギナ海風ブイヤベース』からは、数種類の魚介から抽出された黄金色のスープが湯気を立ち昇らせ、サフランの香りが食欲を激しく刺激する。


 ヨルシカの和食コーナーでは、職人がその場で握る『ヨルシカ産戻り鰹のたたき』や、薄衣で揚げられた『ヨルシカ式春の山菜天ぷら』が、目にも鮮やかな色彩で並んでいた。ルミナス聖光国の海の幸、エデンの豊かな山河の幸……。まさに世界中の美食が、この一点に集結したと言っても過言ではない程の多くの御馳走とデザートにドリンクが並ぶ。


 会場の正面、一段高い場所にある玉座には、エデンの王カシューが泰然と座している。その周囲を、盟友であるルミナスの国王ジラルド、若き賢王であるヨルシカのソウガ、歴戦の重みを背負ったアレキサンドの老王レオンが囲む。さらに、幼いシリュウ王子を愛おしげに抱いたアーシェラの女王サキラ、優雅な仕草で扇を操るマギナの女王シャーロット、そしてフィンの国王ドルガンが親しげに雑談を交わし、正午の鐘の音を今か今かと待ち構えていた。


 玉座の右手には、昼間に買った最高級のドレスに身を包んだエクリアと、一張羅の黒の燕尾服姿のグラザが控え、その後ろには正装した各代行達が華を添えるように立ち並ぶ。


 一方、左手には執政官アステリオンを中心に、エデンの軍部を支える王国福騎士団長ライアンと近衛騎士団長クラウス、そして各国から集った騎士や戦士達が顔を揃えていた。アレキサンドの騎士団長ガレス、ルミナスの聖騎士団長セオドア、アーシェラの格闘術士軍団長コウマと騎士団長ショウキ。マギナの魔法騎士団長ブレイズと魔法使い軍団長エルザ、フィンの騎士団長リギル、ルミナスの神聖術士軍団長ウィンディ、ヨルシカの相克術士軍団長ハルカと陰陽術士軍団長マサムネ……。彼ら軍団長達の背後には、それぞれの国の精鋭達が鋼の規律を持って控えており、祝宴の華やかさの中に、対悪魔連合という強固な軍事的緊張感を潜ませていた。


 会場の一画では、シルバーウイングのセリス達、ルミナスアークナイツのカーセル達、そしてドラゴンベイン・オーダーのエリック達が再会を祝して談笑している。その輪の中では、ユナに抱きかかえられたままのケット・シー隊員が、半ば諦めたような表情で周囲を見渡していた。


 窓際では、ルナフレアと同じ妖精族の側付き達が集まり、楽しそうにさざめき合っている。玉座の近くにはフィンの王妃レイラと手を繋いだ、昼間買ったドレスに身を包んだレナも立っている。


「おお、凄い熱気だな。……世界中の重要人物がここに詰まっているみたいだ」


 カリナは目の前に広がる壮大な情景に圧倒されながら呟いた。


「そうね。私達はエクリア達や代行のみんながいる場所に行った方がいいかもね。いつまでもここで立ち止まっているわけにもいかないし」


 カグラが鮮やかなグリーンのドレスの裾を軽く持ち上げ、先導するように歩き出す。


「そうですね。そろそろ国王達のお話も始まるでしょうし、私達の定位置に向かいましょうか」


 サティアも落ち着いた足取りでそれに続き、エヴリーヌは「ん、それがいい」と短く頷いた。


「ん、脳筋チキンの近くに行こう。何かあった時にカリナを守る壁にするには丁度いい」


 エヴリーヌの相変わらずの毒舌に、カリナは苦笑して首を振る。カリナは隣を歩くルナフレアに目を向けた。


「ルナフレア、お前は側付き同士で集まっているあの一画に合流するといい。また後でな」


「はい! ではそのように致します。何かございましたら、すぐにお呼び下さいね。……では、また後ほど。カリナ様、みなさま」


 ルナフレアは恭しく一礼し、妖精族の集まる窓際へと軽やかに移動していった。カリナ達は人波をかき分け、エクリアやグラザの待つ玉座の右手へと移動した。


「グラザ、待たせたかな?」


 カリナが声をかけると、グラザは燕尾服の襟を正しながら振り返った。


「いや、国王達は早目に集まって密談してたみたいだが、俺達もさっき来たところだ。……それにしてもお前達、結構ギリギリだったな」


「ドレスだと着替えるのに時間が掛かるんだよ。それに午前中に買い物に行ってたしな」


 カリナが答えると、横で扇子を弄んでいたエクリアが、周囲に聞こえないほどの小声で話しかけてきた。


「にしし。カリナ、それがあのお転婆王女に貰ったドレスか? 似合ってんじゃん。やっぱり赤は情熱的でいいな」


 PC同士の気安い口調に、カリナは少し照れながら肩をすくめる。


「まあ、セラのお古だろうけどな。さすが王族の品だけあって、着心地だけは抜群にいいよ」


「そうね。まあ今日に限って言えば、あのお転婆がいなくて助かったわ。今の精神状態のカリナちゃんを無理やり引っ張り回されるわけにはいかないからね」


 カグラが安堵の溜息を吐くと、サティアが心配そうにカリナの顔を覗き込んだ。


「カリナさん、少しでも祝宴で疲れを感じたらすぐに言って下さいね。精神侵食の症状を抑える術は準備してありますし、すぐに回復させますから」


「ああ、ありがとう、サティア。そのときは頼むよ」


 カリナの素直な返事に、エヴリーヌがエメラルドグリーンの瞳に謎の闘志を宿した。


「ん……やはり、その王女とはいつか決着をつけなければいけない。カリナを好きにする権利は、この私にのみ存在する」


「やめとけよ……。国際問題になるだろ」


 カリナが呆れ顔でツッコんだその時、玉座のカシューとカリナの目が合った。カシューは深く一度頷くと、王者の風格を纏って立ち上がった。会場の喧騒が引き潮のように静まり返り、何百もの視線が玉座へと集中する。


『皆、良く集まった。……これから、集結した五大国の国王達に、演説をして頂く。この声は魔法マイクを通じて城下にも届けてある。その後、祝宴の開始だ! 各自、グラスを持って待機しておいてくれ!』


 カシューの号令に応じ、待機していたメイド隊が一斉に動き出した。トレイに乗せられたクリスタルグラスが各人に手渡され、琥珀色のワインや透明な果実酒が注がれていく。カリナのグラスには、透き通ったルビー色のベリージュースが注がれた。


 カシューは魔法マイクを手に取ると、まずは隣に立つルミナスの王へと譲った。


『うむ。……聞こえるか、エデンの民達よ!』


 ジラルド王の声が王都全土に朗々と響き渡る。


『私はルミナス聖光国国王、ジラルドだ! 我等はこれから五大国、そしてここエデンを中心とした連合を組み、共に悪魔の脅威と戦うことを誓おう! この世界に真の平和をもたらすまで、我等の戦いは終わらないが……共に戦おうではないか!』


 その力強い宣言に、城下から地鳴りのような歓声が王城まで届いた。次にソウガが静かにマイクを受け取った。


『私は陰陽国ヨルシカの国王、ソウガだ。以前もヴォイド・リチュアル・サンクトゥムとの戦いで、エデンとルミナスと連合を組み、共に戦った。だが今回は、悪魔の総本山が相手だ。……過酷な戦いになるだろう。だが、我等はこのアルカディア歴上初めて、エデンを中心に完全なる連合を組んだのだ! 必ずや悪魔を駆逐しようではないか!』


 ヨルシカ王の冷静ながらも熱い意志に、再び城下から大きな拍手と歓喜の声が上がる。続いて、レオン王がマイクを豪快に握りしめた。


『私は騎士国アレキサンドの国王、レオンである! ここにいる若き王達に比べれば、我はもう既に老骨だが……誇り高き騎士の国として、最後に必ずこの世界に平和をもたらそうではないか!!』


 老王の覇気溢れる叫びに、エデンの民達は拳を突き上げて応えた。次にサキラ女王がシリュウを抱いたまま凛とした声を響かせる。


『妾は武大国アーシェラの女王、サキラじゃ! エデンのカシュー陛下の下、今や五大国は一つとなった。魔導列車により各国の距離は縮まり、連携も取り易い! エデンの国軍と共に各国の軍もさらに強化する。そして必ずや、この世界の悪魔共を討つ! 皆の者、共に戦おうではないか!』


 最後にシャーロット女王が、うっとりとした瞳でカシューを見つめながらマイクを握った。


『わたくしは、マギナ魔法国のシャーロット女王ですわ。……以前、この国の特記戦力の皆様に、我が国は滅亡の縁から救われました。次は、わたくしたちが全力で協力し、共に巨悪の根源を断ちましょう!』


 演説が締めくくられるたびに、エデンの民達は歓喜し、その興奮はもはや頂点に達しようとしていた。最後にカシューがマイクを受け取り、玉座の前に一歩踏み出した。


『愛すべきエデンの民達よ! ……五大国の王達が話した通りだ。我等は今や世界の中心となり、対悪魔連合の戦陣を切る! 特記戦力も揃い、我が国軍もかつてないほど充実している。……残るは災禍六公一柱、そして魔大陸の悪魔の指揮を執っている深淵公のみだ!』


 カシューの瞳に不退転の決意が宿る。


『近い内に魔大陸に乗り込み、必ずや悪魔共を根絶やしにする! 今宵はそのための前祝いだ! 皆、大いに飲み食い、語り明かし、盛り上がろうではないか!!』


 カシューは右手のグラスを高く掲げた。


『グラスを持て!!』


 会場にいる数百人が一斉にグラスを天に突き上げる。


『では皆の者――乾杯!!』


「「「乾杯――――っ!!!!!」」」


 その瞬間、城内のみならず、城下からも「エデン万歳!!!」「五大国連合万歳!!!」「カシュー陛下万歳!!!」という凄まじい大歓声が爆発し、石造りの王城を激しく揺らした。


 乾杯の声と共に、オーケストラの軽快な演奏が始まり、祝宴が正式に幕を開けた。誰もがテーブルに並んだ御馳走に群がり、銀の皿に山盛りの料理を盛り付けていく。


「ん、カリナに美味しい料理を取って来てあげる」


 エヴリーヌが気合を入れ、人混みの中に突撃していった。カリナ達は会場の端にある、ふかふかのソファが備えられたテーブルへと移動した。


「ふう、……ようやく始まったな」


 カリナが腰を下ろすと、ほどなくしてエヴリーヌが大皿を両手に抱えて戻ってきた。その皿の上には、肉、海老、パスタ、そして色とりどりの点心が文字通り「山」のようにごっそりと盛り付けられている。


「ん、お待たせ。……アーシェラ産龍眼の乾焼蝦仁(カンシャオシャーレン)に、マギナ式のロッシーニ風フィレ肉。カリナの好きそうなものを全部持ってきた。……これだけあれば、肉共に負けない滋養がつく」


「……いや、盛り過ぎだろ。誰が食うんだよ、こんなに」


 カリナが目を点にしていると、カグラとサティアもそれぞれ好みの料理を持って席に着いた。


「いいじゃない、お祝いなんだから。……はい、カリナちゃん。これはヨルシカの新鮮な海鮮丼よ。少しずつ食べなさいな」


「ふふ、エヴリーヌさんも相変わらずですね。……さあ、皆でこの勝利への前祝いを楽しみましょう」


 掌で男性達を転がして遊び始めたエクリアを除き、特記戦力の面々はカリナの周りに集結し、料理を囲んで談笑を始めた。エデンの空には祝砲が打ち上がり、色とりどりの光が王都を照らす。


 五大国の王達の友情、軍団長達の決意、そして乙女達の賑やかな笑い声。世界を揺るがす戦いの前の、最高に華やかで贅沢な一夜が、今ここに始まった。

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