320 拳のぶつかり合いと近付く開通の日
魔導列車の開通工事が急ピッチで進む中、エデン国軍の各部隊による強化鍛錬は、今日も熱気を帯びて続けられていた。
その日の第一演習場で行われる騎士団の稽古には、国王であるカシューが参加することになっていた。そのため、カリナは代行のリーサと共に、そして常にカリナの症状の面倒を見るために側を離れないサティアを伴って、第三演習場で行われているグラザ率いる『格闘術士軍』の訓練に顔を出した。側付きのルナフレアも、主の世話をするために同行している。
カリナが直接訓練に参加するため、今日はサティアが神聖術士軍の半数を連れてこちらに待機している。一方、カシューが参加する第一演習場の騎士団の鍛錬には、代行のジュネと、ルミナスから出向しているウィンディ率いる残りの神聖術士軍が帯同してサポートに当たっていた。
カリナ達が第三演習場に姿を見せると、代行のクリスをはじめとした格闘術士軍の屈強なメンバー達や、演習場の半分を使って的当ての訓練をしている弓術士軍のエリアス達から、一斉に活気のある声が上がった。
「おはようございます、カリナ様! サティア様!」
「ああ、おはよう」
カリナは演習場に響く大声に笑顔で応える。
「では、私はいつものように見学席の隅の方で見ておりますね」
ルナフレアは邪魔にならないよう、丁寧にお辞儀をしてから見学席へと移動していった。
「おう、よく来てくれたな! 中々こっちに顔を出してくれなかったからな、すっかり格闘術士軍のことは忘れられたんじゃないかと思って、少し寂しかったぞ」
グラザは鍛え抜かれた腕を組んで豪快に笑いながら近づいてくる。
「悪いな。普段は騎士団の鍛錬につきっきりだし、あっちにカシューが参加する時じゃないと、中々こっちまで手が回らなくてさ。……今日は、リーサの格闘術の腕もしっかり鍛える予定だから、よろしく頼むよ」
カリナは隣に立つリーサの肩をポンと叩く。
「グラザ様、本日は一日よろしくお願いします!」
リーサは背筋を伸ばしてグラザに深く一礼する。
「へへっ、よく来たなリーサ! 剣じゃお前に敵わないが、純粋な格闘術じゃあ、まだまだあたしは負けねーぞ!」
クリスは闘争心を剥き出しにして白い歯を見せて笑う。
「はい、クリスさん! 今日はよろしくお願いします!」
互いの実力を認め合い、仲の良い二人の代行は、バシッと音を立てて固く熱い握手を交わした。
「ん、エリアス、私はカリナの立ち合いを見るから、今日一日の弓術士軍の鍛錬の指揮は全部任せる」
カリナの後ろからひょっこりと顔を出したエヴリーヌは、あっさりと自身の代行であるエリアスに全権を丸投げした。
「は、はいっ! 弓術士軍の鍛錬は、このエリアスに全てお任せ下さい!」
エリアスは慣れた様子で敬礼すると、すぐに踵を返し、「よしお前ら! 基礎鍛練の後は魔法弓の集中訓練に入るぞ!」と自軍に号令をかけた。
エヴリーヌは満足そうに頷くと、スタスタと見学席へ向かい、サティアの隣にちょこんと座った。
「ふふっ、エヴリーヌさん、代行のエリアスさんに全て丸投げして、本当にいいんですか?」
サティアは隣に座ったエヴリーヌを見て苦笑する。
「ん、もう弓の技術のデモンストレーションは、前に私が直接しっかりと見せた。……後は、各自がいかにその技術を自分の中で突き詰めるかの問題。それよりも、カリナの立ち合いの勇姿を特等席で見る方が、ずっと重要」
エヴリーヌは全く悪びれる様子もなく堂々と言い切る。
「まあ、確かにそうですね。結局のところ、一人一人に手取り足取り指導する訳にはいかないですし、ある程度は自主性に任せることも大切です。……私も、カリナさんがまた無茶をして症状を出さないか、いつでもすぐに怪我の回復や疲労回復の神聖術をかけられるように、しっかりと準備をしておかないといけませんからね」
サティアも、過保護な母のような慈愛の眼差しで、演習場に立つカリナの小さな背中を見つめた。
演習場では、両軍合同での基礎鍛練である走り込みが始まろうとしていた。
「行くぞ!」というグラザの号令と共に、数百人の兵士達が一斉に駆け出す。
カリナ、グラザ、サティア、エヴリーヌ、クリス、リーサ、そしてエリアスの七人が、集団の先頭を涼しい顔で軽々と走る。日々の過酷な実戦をくぐり抜けている特記戦力と代行達にとって、この程度の走り込みは文字通りただのウォーミングアップに過ぎない。
長い走り込みが終わり、全身から汗を吹き出す兵士達。
弓術士軍は、エリアスの的確な指示の下、各自が的を絞った魔法弓の集中鍛錬へと移行する。
一方、グラザ、カリナ、リーサ、クリスの四人は、荒い息を吐きながら整列した格闘術士軍の前に立った。
「よし! そこそこ基礎体力はマシになって来たな! だが、この程度の走り込みで息を激しく上げているようでは、まだまだ実戦では通用せんぞ! 我々格闘術士は、己のこの肉体こそが最大の武器であり、盾だ! 血反吐を吐くほど、極限まで己を鍛え上げろ!!」
グラザは腹の底から響くような大声で軍を鼓舞する。
「「「押忍ッ!!!」」」
格闘術士達から、地鳴りのような気合の入った返事が轟く。
「今日は、あのカリナ様に加えて、カリナ様の代行のリーサも特別に参加してくれている! 各自、絶対にみっともないところを見せるんじゃねーぞ! 死ぬ気で気合入れろ!」
クリスも、副官として負けじと鋭い檄を飛ばす。
「ははっ。格闘術士軍は男女問わず、掛け声からしてまさに絵に描いたようなゴリゴリの体育会系だな」
カリナはそのむさ苦しくも熱い雰囲気に思わず笑う。
「まあな。でも、カリナもこういう裏表のない熱苦しいノリは、嫌いじゃないだろ?」
グラザはニッと白い歯を見せて笑いかける。
「ああ、大好きだぞ。気合が入るからな」
カリナも力強く頷く。
「では、これから実践的な立ち合いを行う! ……まずは、クリス! お前がリーサと立ち合え!」
グラザは最初の対戦カードを指名する。
「はいッ!」
クリスが気合十分な返事をし、一歩前に出る。
「騎士団での剣技主体だったからな。今日は格闘術の感覚を取り戻すために、基礎からしっかり鍛え直せ」
カリナは横に立つリーサにアドバイスを送る。
「はい、承知致しました! ……クリスさん、胸をお借りします!」
リーサは力強く返事をすると、クリスの正面に立ち、互いに敬意を持って深く一礼した。
「お前達! クリスの実力は言うまでもないが、リーサもカリナに徹底的に鍛え抜かれた、エデンが誇る立派な代行だ! 剣を持たずとも、その体捌きから学べることは山ほどある! 一瞬たりとも目を放すなよ!」
グラザは周囲で見学する格闘術士達に注意を促す。
「では……始めッ!!」
グラザの右手が振り下ろされた瞬間、クリスとリーサの全身から、目に見えるほどの凄まじい闘気が燃え上がった。
「いくぞ、リーサ!!」「はい、来て下さい、クリスさん!!」
ダァンッ!!
二人は同時に地面を蹴り、演習場の中央で激しく激突した。
クリスの放つ、岩をも砕くような重い右ストレートが、リーサの頬の横を鋭い風切り音と共に掠める。リーサはそれを紙一重でスウェーして躱すと、その反動を利用して鋭い左ハイキックをクリスの側頭部へと放つ。クリスはそれを左腕のガードでガシィッ! と重い音を立てて受け止め、そのまま距離を詰めて膝蹴りを放つ。
パァァンッ! バシィィッ!!
互いの重い拳と鋭い蹴りが空を斬り、防御し、弾き合い、肉体と肉体がぶつかる鈍い打撃音が演習場に響き渡る。一瞬の油断が命取りになる、息を呑むような紙一重の高度な攻防が続いた。
「ほう……。少し鈍っているかと思っていたが、リーサの奴、私が見ていないところでも、格闘術の鍛錬は全く欠かしていなかったようだな」
カリナはリーサの無駄のない洗練された体捌きを見て感心して頷く。
「ふむ……。純粋な格闘術を極めた代行であるクリスと、ここまで完全に互角に打ち合えるとはな。……カリナ、お前の教え子であるリーサの、戦闘に対する天性のセンスは本当に素晴らしいな」
グラザもリーサの格闘能力の高さに驚きを隠せずに称賛する。
「ああ、あいつは私が教えたことを、まるでスポンジのように片っ端から吸収していく。まさに、努力できる天才だな」
カリナは自身の誇りであるリーサの成長を喜ぶ。
演習場では、互いの激しい打撃音が絶え間なく響いているが、両者とも攻撃だけでなく防御の技術も完璧にこなしており、決定打を許さない緊迫した互角の立ち合いが長く続いていた。
「リーサさんの戦闘の才能は、決して剣だけではないみたいですね。あのクリスさん相手に、格闘術でも相当にハイレベルですよ」
見学席のサティアは二人の攻防を目で追いながら感心して言う。
「ん、リーサはもう代行の枠を超えて、私達特記戦力に近いレベルの能力とセンスがある。……さすが、あのカリナが付きっきりで鍛えただけのことはある」
エヴリーヌも、カリナの指導力とリーサのポテンシャルを素直に認める。
「はぁっ……はぁっ……! へへっ、さすがだなリーサ! 純粋な格闘術で、あたしとここまで互角に打ち合える奴なんて、そうそういねーぞ!」
クリスは全身から汗を吹き出し、呼吸を荒げながらも楽しそうに笑う。
「ふぅー……ふぅーっ……! はいっ! これでもカリナ様に学んだ格闘術の基礎は、一日たりとも欠かしていませんからね!」
リーサも、乱れた呼吸を整えながら、一切の隙を見せずに答える。
「そろそろ、決着の時だな」
グラザは二人の闘気の質が変化したのを感じ取って呟く。
「ああ……。リーサはすでにクリスの攻撃のタイミングとクセを完全に読み始めている。……クリスの攻撃は重くて速いが、まだ『殺気』が前に出過ぎている。あいつの好戦的な性質なのだろうが……常に心を乱さず冷静に相手を観察しているリーサには、その殺気が逆にカウンターの格好の餌食になるぞ」
カリナは一段高い視点から勝負の行方を冷徹に分析する。
「ああ、お前の言う通りだ。だが、これもあいつがさらなる高みへ登るために、自ら乗り越えるべき大きな壁だ。……格闘術においての敗北も、必ずクリスの糧になるさ」
グラザは副官の敗北を予感しながらも、その成長を信じて腕を組む。
「はあああああッ!!!」
クリスは全身の闘気を限界まで高め、勝負を決めるための渾身の右ストレートを放った。空気を裂くような凄まじい一撃だ。しかし、その大振りの一撃のタイミングを、冷静な瞳でずっと待っていたリーサは、クリスの拳が届く直前に、スッと風のように身体を入れ替えた。
「――しまったッ!?」
完全に空を切り、体勢が前のめりに崩れたクリスがハッとして背後を振り返る。しかし、その時にはすでに、リーサの完璧なタイミングでのカウンターの左拳が、クリスの顔面スレスレの位置でピタリと寸止めされていた。
ドウッ!!!
拳は触れていないにも関わらず、リーサの拳から放たれた鋭い衝撃波だけがクリスの顔面を突き抜け、クリスはその衝撃でバランスを崩し、「うわっ!」と尻もちを着いてしまった。
「――そこまでッ!!」
グラザは演習場に響き渡る声で勝負の決着を宣言した。
「ちくしょーっ! 完全に、あたしの大振りのタイミングを狙ってやがったな!」
クリスは尻もちを着いたまま地面を叩いて悔しがる。
「はい。クリスさんの攻撃はとても威力があって速いのですが、少し真っ直ぐで正直過ぎるので……一撃に力が入り過ぎる、あの大振りの瞬間をずっと待っていました」
リーサは息を整えながら微笑み、座り込んでいるクリスにスッと手を差し伸べて立ち上がらせる。
「すげえ……! あの召喚術士代行のリーサ様が、純粋な格闘術でクリス様に勝っちまったぞ!」「ああ……。さすがは、特記戦力以外で唯一、カシュー陛下から直々に護国勲章を受けるほどの逸材だな……」
見学していた格闘術士軍の兵士達から、リーサの底知れない実力にどよめきと感嘆の声が上がる。
「うむ、両者とも中々ハイレベルでいい立ち合いだった。……だがクリス、最後はお前の悪いクセが完全に出たな」
グラザはクリスに厳しく指摘する。
「はい……。自分でもわかってはいるんですが、どうしても熱くなると、完全に殺気を殺し切るまでは至っていません。……一から、徹底的に鍛え直します」
クリスは己の未熟さを恥じて深く頭を下げる。
「リーサ、よくやったな。最後のは最初から完全にカウンターを狙ってたろ?」
カリナはリーサの肩を軽く叩いて労う。
「はい。クリスさんの攻撃は凄まじく激しくて速いのですが、どうしても決定打を放つ瞬間に、殺気というか、全身に力が入り過ぎているのが読めたので……その僅かな隙を狙って合わせました」
リーサは勝因を冷静に分析して答える。
「初めての本格的な立ち合いで、相手のそこまでのクセを見抜くとはな。なるほど、確かにカリナが自慢するだけあって、凄まじいまでの戦闘センスだな」
グラザはリーサの才能に深く感心して頷く。
「クリス、お前はまだまだその力任せのクセが抜けていない。自らの闘気を極限まで漲らせること自体は決して悪いことではないが、リーサのように冷静で洞察力のある相手だと、自分の殺気を読まれて、今回のようにカウンターの餌食になる。……自身の殺気を完全にコントロールすることを、お前の今後の最大の課題として精進しろ」
グラザは副官のさらなる成長を促すために具体的なアドバイスを送る。
「はいッ! あたしも、静かな座禅を組んで、自分の内面と深く向き合う精神修行を取り入れます!」
クリスは気合を入れ直して大きな声で答える。
「まあ、以前のただ突っ込むだけだったお前に比べれば、格段にマシにはなっていたぞ。お前にはまだまだ上にいける伸びしろがある。今日の敗北で腐らず、さらなる努力を重ねるといい」
カリナはクリスの頭をくしゃくしゃと撫でて優しく励ます。
「はいっ! カリナ様、ありがとうございます! 次は、絶対にリーサに負けません!」
クリスはカリナの優しい言葉にパッと顔を輝かせて一礼する。
「さて……。若いやつらの熱気で、演習場の雰囲気も十分に温まったところで、そろそろ私達もやるか」
カリナは首をコキキと鳴らしながらグラザに向き直る。
「ああ。純粋な格闘術なら、俺も絶対にお前には負けないからな」
グラザも、好戦的な笑みを浮かべてカリナの前に立つ。二人は演習場の中央で十分に距離を取ると、互いへの敬意を込めて深く一礼した。
「お二人共、演習場が壊れるような、大技は絶対に禁止ですよ!」
見学席から、サティアは慌てて大きな声で注意喚起をする。
「ん、剣を持たない二人の肉弾戦。……これはこれで、すごく見もの」
エヴリーヌは身を乗り出して興味深そうに見つめる。
「では、僭越ながら、このクリスが審判を務めさせて頂きます! ……始めッ!!」
クリスの裂帛の気合の入った合図と共に、カリナとグラザは、武器を一切持たない完全な『無手』の構えを取った。
ズガアアアァンッ!!
次の瞬間、互いの間合いが一瞬でゼロになり、放たれた両者の拳が真正面から激突し、まるで爆発したかのようなすさまじい轟音を立てた。互いに目にも止まらぬ超高速の拳や蹴りの連打を繰り出し、それを紙一重の体捌きで回避し、あるいは自身の打撃で相殺し合う。
それは、以前アーシェラの森の滝の前で感情のままに殴り合いをした泥臭い喧嘩とは全く違う、極限まで磨き上げられた純粋な格闘術の、最高度に洗練された技術の応酬であった。
バキィッ! ドゴオオンッ!
二人の拳から放たれる凄まじい拳圧だけで、互いの肌が浅く切れ、鮮血が滲む。グラザの強烈な踏み込みと蹴りの余波が、演習場の硬い地面をクレーターのように深く抉り取る。
「すげえ……! まるで次元が違う、ハイレベルな攻防だ……!」
クリスは審判の立場も忘れて二人の動きに完全に魅了されている。
「はい……! 瞬きするどころか、息を吐く暇すらありません……!」
リーサも二人の圧倒的な武の境地に冷や汗を流しながら見入っている。
周囲で見学している格闘術士軍も、少し離れた場所で的当ての鍛錬をしていた弓術士部隊の者達も、完全に手を止め、息を呑んで二人の神懸かった攻防から目が離せなくなっていた。
「二人共、攻撃の威力と速度だけでなく、防御や回避の技術も相当なレベルで拮抗していますからね。純粋な格闘術だけだと、決定的な決め手に欠けますね」
サティアは二人の実力が完全に伯仲しているのを見て冷静に分析する。
「ん、剣士のカリナが、純粋な格闘術だけで、あのグラザとあそこまで完全に対等にやり合えるなんて……さすがは私のカリナ。でも、このままずっと打ち合ってても、永遠に決着はつかないね」
エヴリーヌはカリナの底知れない身体能力に感心しながら言う。
「はぁっ……はぁっ……。そろそろ、この辺りでケリを着けるか!」
グラザは激しい打ち合いの中でニヤリと笑って提案する。
「ああ! このままじゃあ、本当にキリがないしな!」
カリナも汗に塗れた顔で楽しそうに笑い返す。その瞬間、互いの全身から立ち昇る闘気が、まるで炎のように赤く可視化して立ち昇り、周囲の空気を激しく振るわせた。
「うおおおおォッ!!」「はあああァッ!!」
ズゴオオオオオォンッ!!
二人のありったけの力と闘気を込めた渾身の拳同士がぶつかり合い、凄まじい衝撃波を撒き散らした。両者とも、その強烈過ぎる衝撃に耐えきれず、それぞれ後方へと派手に数十メートルも吹っ飛ばされ、地面をゴロゴロと転がった。
「――そ、そこまでッ!!」
クリスは慌てて勝負の終了を宣言する。
土埃の中から、二人がふらふらと立ち上がり、ゆっくりと中央へと歩み寄った。そして、互いの健闘を称え合うように、ガシッと硬く熱い握手を交わした。
「ははっ……痛いな。さすがはグラザだ。やはり純粋な格闘術じゃ、お前にはまだまだ一歩及ばないな」
カリナは爽やかに笑う。
「はははっ! 何を言ってやがる。俺も防御するのがかなりギリギリだったぜ。いつお前の強烈な一撃を被弾して意識が飛んでもおかしくなかったさ」
グラザも豪快に笑い返す。
「「「うおおおおぉぉぉっ!!!」」」
見物していた数百人の兵士達から、演習場を揺るがすような盛大な拍手と、割れんばかりの歓声が沸き起こった。
「すげえ……! グラザ様がバケモノなのは当然だが、あの召喚魔法剣士のカリナ様は、純粋な格闘術でもあれほど圧倒的な強さなのか……!」
兵士達は、カリナの底知れない強さに改めて戦慄し、尊敬の眼差しを向ける。
「『セイントリー・ミラクル・アマリア』!」
見学席からサティアがすぐに駆け寄って来て、触れた者の傷と苦痛を瞬時に消し去り、激しい疲労すらも完全に洗い流す、究極の奇跡の術を詠唱した。温かい光が二人を包み込み、激しい拳圧で切れた肌の傷や激しい筋肉の疲労が、一瞬にして綺麗に回復していく。
「はぁ……。さすがに、武器を持たない生身の肉体同士の激しいぶつかり合いは、迫力があり過ぎて、見ているこちらの精神が疲れますね」
サティアは二人の治療を終えてホッと胸を撫で下ろす。
「ははっ、すまない。ありがとう、サティア」
「俺もすまなかったなサティア。無駄に心配をかけた」
カリナとグラザが、揃って申し訳なそうに頭を掻く。
「ん、さすがカリナ。剣を持たず、純粋な格闘術だけでも、あのグラザに全く引けを取らない。……かっこいい」
エヴリーヌはカリナの強さを誇らしげに絶賛する。
「本当に凄かったです……! カリナ様も、グラザ様も。……私も、まだまだ死に物狂いで鍛錬しなければと、強く思い知らされました」
リーサは次元の違う立ち合いに深い刺激を受けて決意を新たにする。
「はぁ……。純粋な格闘術だけで、あのグラザ様と完全に互角に立ち合えるなんてな。カリナ様は、エデン最高の剣技に、魔法剣技、強力な召喚術、そして格闘術まで……本当に一切の隙がないぜ」
クリスはカリナのあまりの多才さと圧倒的な強さに呆れたように溜め息を吐く。
カリナ、グラザ、リーサ、クリスの四人は、再び格闘術士軍の前に横一列に並んで立った。
「皆、見ての通り、今の俺達の実力はこんなもんだ。お前達も、死ぬ気で極限まで鍛え抜けば、必ずこのレベルまで到達できるのだと信じて、日々の鍛錬に全力で打ち込むように!」
グラザは自軍の兵士達に向かって力強く発破を掛ける。
「「「押忍ッ!!!」」」
兵士達から、先程よりもさらに気合の入った凄まじい返事が返ってくる。
「私もこれからは騎士団だけでなく、ちょくちょくお前達の訓練にも参加させてもらう。どの軍もそうだが、全ては我らがエデンを守るためだ。日々の厳しい稽古に、命懸けで集中するようにな」
カリナは全体を見渡して厳しく、そして期待を込めて言う。
「「「押忍ッ!!!」」」
演習場全体に、エデン国軍の頼もしい声が轟いた。
その日は、カリナとリーサも一日中、格闘術士軍の泥臭くも熱い鍛錬に参加して汗を流した。サティア率いる神聖術士軍は、次々と出る負傷者の治療で相変わらず大忙しとなり、エヴリーヌは特等席でカリナの勇姿を一日中見られてご満悦であった。
こうして、エデンの各軍は、特記戦力達の直接指導のもと、さらなる高みを目指して厳しい鍛錬の日々を過ごしていく。
そして数か月後。いよいよ、アーシェラとマギナという二つの大国を繋ぐ、『魔導列車』の開通工事の完了が迫り、歴史的なテープカットを待つ日が近づいてくるのだった。




