第21話 Aランクへの道
俺はAランク冒険者になりたくない。
「ミクスさん、Aランク冒険者への推薦が来てます」
「ええ……お、俺が?」
「アンデッドの時の功績が評価されまして! Aランクになると、貴族から婿入りとかの話とかも来ますし。良いことばかりですよ」
朝ギルドにやってくると、ギルド職員に言われたAランクへの昇級について、言及された。
いやー、俺がAランクに上がりたくないんだよ。
この国、フェリア王国には冒険者制度があるけど、そもそもそんな冒険者という荒くれ者を放置はしておけないんだよね。だから、ランク制度を作っていて、一定以上になると貴族として国側として雇い入れてるんだけどね。
貴族に婿入りをするとかもよくあると聞く。しかし、断る冒険者も居るのも事実なのだが延々と誘われ続ける。
なんて面倒な……貴族も有益な血統は取り入れるのは賛成派が多いからな。Bランクでも婿入り誘いはあると聞くけど、Aランクからは段違いで多くなるらしい。
だから、なりたくなかったし。だからこそ、ステータスアップ木の実をそこまで食べないつもりだった。
アンデッドに槍を投げた時に思っていたほどに力が出てしまったのが……注目された要因だったかもしれない。
後、流石にポーションを配りすぎたかな。
「Aランクになるほどの実力があるとは……私は、まだまだですし」
「いえ、大分活躍してたと聞いてます。ポーションの錬金速度が早かった、全体的にステータスが高い、本気出したら俺の武器も壊す面白れぇ男、などなど色々な意見が上がってます」
基本的にランク制度は、昇級を断れない。まぁ、断れたらそんなランク制度を置いておく意味がないからね。
「取り敢えず、昇級手続きしておきますね。それとなのですが、貴族からパーティーの誘いきてますね」
「いや、速い……流石に速くないですか?」
「しょうがないですよ。ギルドって、国運営ですし。もう情報が行ってます。だから、貴族には筒抜けで取り敢えず上がったら招待状を出しておけっていう層が多いんです」
えぇ……飲食店を出すと言う夢が遠のいてる気がするんだけども。まぁ、あまりにしがらみが多くなれば国外に行けばいいんだけどね。
「パーティーは考えておきます……」
「まぁ、断っても良いとは思いますが貴族になったら良い暮らしできると思いますよ」
「いや、そう言うのは望んでなくて……」
ステータスアップの木の実の凄さ、それを見誤っていた。だが、そんな事で落ち込んでるわけにも行かないだろう。
俺にはちゃんとした目標があるんだから。それを見落とさないようにしないと。
さっさとシエラを育て上げて、離脱すると言う当初の目標があり、それには着実に進んでいる。その証拠にシエラは大分強くなってたしな。それはアンデッド戦でよくわかった。
「それとシエラさんもBランク昇格です。おめでとうございます」
「……」
「あの、シエラさん?」
「あ、はい……ど、どうも」
なんか、シエラは上の空だった気がするけど大丈夫だろうか。もしかして、いきなりBランクになったことに驚いているのだろうか。
でもあれほどの規模の樹海降臨を見せておいてBランクとはね。どう考えてもSランク相当な気がするけど。まぁ、トドメはルディオが倒して、彼が目立ってるわけだし。
シエラは元がEランクだから、3つも飛び級で上がったと思えば凄まじいか。
あれ、アニメでもBランクじゃなかったっけ?
「一応、シエラさんは色々情報を聞いてるのですが……流石にいきなり大木を生み出したと言うのは信用できない者も多くて。この間までEランクの人が急にそんなことあるのかと審議があったそうです」
「あ、そうでしたか」
シエラはあんまりランクにこだわりがないのか、職員の話を淡々と聞いている。
「あと、冒険者もランクの飛び級ってあんまりなくて……ルディオさんでも、EからBくらいまででして……その、平民の方でその、シエラさんがルディオさんの記録を超えてしまうと納得しない人が出てきてしまって」
「あ、そうでしたか」
へぇ、ルディオもEらからBの飛び級だったのか。まぁ、黒髪青目のシエラがその記録を超えると公爵家の嫡男の面子とかが気になるから抑えたのか。他にも流石に樹海降臨が信じられず、直に見た人もなんらかのトリックと思ってたりとかもあるようだ。
だが、あれは紛れもない彼女の実力だ。こう言うふうに過小評価されてしまうのは悲しい事でもあるが、彼女の実力は本物だ。
いずれ知らしめられるだろう。それに彼女は余計なしがらみが増えるのは嫌だろうし、Bランクで止まったことが幸運だろう。
しかし、問題なのはアニメと同じBランクであると言う事。視聴時、アンデッドの時のサポートが認められてBランクに一気に上がってたのは印象的だったな。
そりゃ、ギリギリの戦いで高純度の魔力回復木の実配るって、凄まじい功績ですからね?
ふっ、ようやく主人公の実力を周りが認め始めたな? とワクワクしてたのは覚えていたが同じBランク……えぇ、やっぱりアニメの流れって強制なの?
同じような展開になってて怖いんだけど、朝俺ミクスが死ぬ夢見てるんですけど、大丈夫かな?
……あの、魔王の手下が俺に無理やり変な黒い塊、食べさせようとかしてこないよね?
「それでは、後ほど冒険者ライセンスをお返しするので一時的に預かります。ランク更新後、お返ししますね。今日はお時間かかりそうですので、また明日お越しください」
そう言われたので俺とシエラは冒険者ライセンスを渡した。ランク更新はそんなに時間がかからないのだが……アンデッド関連でバタバタしているようだった。
俺達以外にも冒険者がいるみたいだし、人混みはシエラがあまり好きではないだろうと思って今日は宿屋に戻ることにした。
……そう思ったのだが、ふと視線を感じたので振り返った。すると黒いローブの誰かがこちらを見ていた。
正確には俺だけでなく、シエラも見ていたようだが。
しかし、すぐさま路地裏に入って消えていった。あれは……まさか、魔王の手下か。
えぇ……やっぱり俺、黒い塊無理やり食べさせられるのかな。俺悪魔になんてなりたくないんだけど……。
殺されたくもないんだけども。
「シエラ、取り敢えず部屋に戻ろう」
「あ、はい……み、ミクスさんはAランクになったら貴族と結婚するつもり……なんですか?」
「いや、飲食店が夢だしね。断るつもりだな。でも、ランクがAから恩恵が大きい分、面倒ごと増えるんだよね。だから、最悪他国で再度冒険者登録しようと思ってるんだ。正直、他国でもやっていける地力はあるつもりだから」
「私も実は他国で冒険者しようと思ってて、他国で飲食店出すつもりでした」
「あ、そうだったのか」
知らなかった。シエラがそんな野望を抱いていたなんて……。もしかして、この国では厄災の魔女の言い伝えが強いから別の国に行きたいと思っているのかもしれない。
厄災の魔女、魔王、勇者。それら全部がこのフェリア王国で存在していたとされているからね。
他の国に行ったら多少は、対応が変わるかもしれないと思っているのかもしれない。いや、しかし、厄災の魔女の言い伝えは結構強いから苦労するかもしれん。
だが、それは他国の王子がなんとかするだろう。
「あ、ミクスさん、私ステータス平均がついに20000を超えたんです」
「……あ、すごいわ。それ」
もう俺より高いじゃん。追放されたのがついこの間のように感じるよ。いや、ついこの間なんだけどね?
それなのにこんな一気に上がってる彼女がバグなんだけどね?
もう、ルディオも超えてしまっていますけど……どうしようかな。これこんなステータス上げたの誰だよ。原作ブレイクとか言うレベルじゃねぇだろ!!
……あ、俺か。俺がステータスアップの木の実の臭みをどんどん抽出したからか。
はは、20000ってウケるんだけど。もう最強じゃん。農民少女、ただし最強。ってタイトルにしたほうがいいだろ。
「へへ」
なんか嬉しそうなシエラだ。うん、ここまでステータスがポンポン上がると逆に面白いのかもしれないな。
俺もゲームをしていた時にステータス上げるの楽しいって思ってた。
だが、あの魔王の手下どうしたもんかな。シエラが居る時には手を出してこないんだよね。
アニメだと、わざわざミクスを使って襲ってたわけだからな。とは言っても、その後は自身で襲ってくるけどね。シエラに倒されるけど。
あれ、このままだと俺が1人になった時に襲ってくるのは確定か? 確か魔族とか魔王の手下とか絶対になぜかシエラを狙っていた。
シエラの近くにいる男を利用して、シエラを襲わせようとか考えてるんじゃ……。
あ、いや、それは考えすぎでは?
いや、考えすぎではないかもしれない。むしろ正解では? こ、これはもう俺が1人で居る時に戦って勝つしかないのでは……?
シエラと一緒にいたら襲ってこない感じするし……。
今日はどうせ依頼をこなすことも出来ないか……。
「シエラ。今日は少し用事があったのを思い出した」
「あ、え。きょ、今日は2人でお茶の……はい、分かりました」
「お茶ならまた今度しよう。美味しいのを作るから」
シエラを宿屋まで送って、その後、《《少しだけ準備をして》》すぐさま町から出た。
おい、誰かがついてきてるぞ……。本当に狙ってくるのかよ!?
まぁ、準備はしてたけど……
◾️◾️
私は部屋に1人でぽつんと座っていました。ミクスさんと今日はお茶しようと思っていたのですが……
『あら、1人なのね』
ホワイトが私に話しかけてきた。毎晩、喘ぎ声がうるさいので最近まぁまぁ、嫌いになってきてます。
「あら、最近うるさい狐じゃないですか」
『あ、ごめん……』
「昨日は、奥がどうとか、こんな大きいの? とか言ってましたね。もうちょっと静かになりませんか?」
『いや、声は抑えてる……』
「頭に響くので」
『無茶苦茶じゃない……? 抑えてはいるんだけど……』
確かに声を抑えているのは分かります。しかし、問題は内面の声がずっと響いてるのです。
「ブラックさんも煩いですけどね」
『ほんますまん。とは言ってもワイからしても無理なのは無理なんよ』
「……」
『そうは言うてもなぁ。シエラもさっさとくっつけばええやん』
「出来たらそうしてます。でも、出来ないからイライラしてるんです」
『ワイ達、八つ当たりされてるん?』
くっ、八つ当たりなのは否定できません。
『八つ当たりなのね。酷い話よ』
「でも、子供は3人とか欲しいとか言ってるの聞くとこっちとしてはむず痒いんです」
『いや、まだできてないし……でも、出来たらミクス様に名前つけてもらいたいわ』
『せやな、ワイの主人だし。世話になってるわけやし』
「絶対ダメ! ミクスさんの赤ん坊の名前をつける権利を1番最初に使うのは私です」
くっ、友達になれそうだと思っていたホワイトに先越されて、ミクスさんに名前をつけてもらうのも先越されるのは流石に許容できません。
『あ、そう。それなら自分たちでつけるけど……』
「そうしてください。それと内心の声も抑えてください。出来れば無心でFOXしてて欲しいです」
『無茶苦茶すぎでしょ!? 無心でどうやってやるのよ!? これはしょうがないの。変な夢とか見たから、燃えあがっちゃって』
「夢ですか、ホワイトちゃんも見てたとは」
『アタシはシエラと一緒に土砂降りの中歩いてたら、ブラックの死骸を見つける夢を見たの。それを見たらどうしても悲しくなって……うぅ』
『ワイがいるやろ。もう大丈夫や』
『ぶ、ブラック』
『ホワイト……』
……
「このベッド、2匹が座るとハートに見えますよ〜! あっ、私も座ると三つ葉になりますねっ!」
『ちょっと、雰囲気壊さないでよ!!』
「あ、すいません。つい……あ、お気になさらず!」
おっと、いけません。カップルのイチャイチャに踏み込むなんて、邪推にも程があります。
「でも、ラブラブな2匹って、見てるだけでお腹いっぱいになりますねっ……でも木の実は別腹ですから」
お腹すいたのでむしゃむしゃ食べてますか。2匹がめっちゃこっち見てますけど、気にしないでおきましょう。




