第19話 アンデッド戦、決着!!
大剣を持っているアンデッド。その魔力量は他とは違い、尋常ではなく多い。
こっちまでビシビシと魔力が伝わってくるのだが、シエラやルディオを見た後だとさほどだなと言う印象だった。
「シエラ、あれは俺やルディオが倒す。暫くは魔力を回復させてくれ。ポーションはここに置いてくから」
「あ、ありがとうございます!」
まぁ、他にも冒険者いるけど。Aランクでも、あれは倒せそうじゃないかな。
俺ならアンリミテッド薬を使えば倒せるだろうけど。それは反動が大きいし、ルディオが戦えば済む話だ。
更に言ったらシエラの魔力が回復して、樹海降臨をもう1回、あのアンデッド単体に向けて集中砲火すれば倒せそうだ。いや、あの樹海降臨は乱発は無理か、1回でシエラの魔力が枯渇するくらいだからな。
まぁ、いずれにしろ、ここはルディオが倒してくれれば好感度も上がるだろうから、俺はサポートに回りますかね。
ルディオ、パスは俺が出すからシュートは任せるぞ!!
「粗悪な槍」
さて、取り敢えずは魔力回復のシエラを守るように槍を出した。アンデッドはシエラ狙いみたいだからね。
何でか知らんけど、アニメでもシエラをアンデッドが狙ってきてた気がするな。
魔族関連も大体そうじゃなかったっけ? なんかシエラが狙われてるイメージだ。
「こ、こっちにきてます! 急いでポーション飲みます!」
「いや、大丈夫。ルディオが気を引いてくれてる」
「あ、そうですか。ありがたいです」
ふ、ここでルディオがシエラの為に頑張ってるぞとアピールをしておく。
こんな良いパス出したんだから、シュートは決めてくれ。シエラの心というゴールにな……
ちょっと上手いこと言ったな。ふっ、やはりギャグセンスだけはあるな、俺は。
なんて、ふざけている場合じゃない。一応、ルディオのサポートをするからな。
「すげぇ!! 流石はSランク冒険者だ!! 大剣を殴打で砕きやがった!!!」
「なんて、パワーだよ……Aランクの俺でも一生かかってもできる気がしねぇ」
おっと、ルディオがアンデッドの大剣を砕きやがったぞ。いやはや、流石と言うか何と言うか。
大剣、全長5メートルはあるし、強度も見ただけで高いってわかるのに。あれは割れるの……?
周りの冒険者の反応と同じく俺も驚いている。これはシエラもルディオの評価が高くなってるんじゃ……
「これはすごい……」
「お?」
「ミクスさん、ポーションの魔力回復!! これ、前よりも上がってないですか!?」
まだポーション飲んでたの? シエラ……それよりもルディオ君を見てあげなさい。
しかし、回復量が上がったのにはよく気がついたね。シエラの農民スキルの素材が良いこともあるが俺自身も腕が上がっている証拠だ。
そりゃ、毎日研究だけは欠かしていませんから!!
「なんて、内心で盛り上がってる場合じゃないか」
ルディオの魔力も無尽蔵ではない。しかも相手は耐久値に優れたアンデッドだ。長期戦は望むところではない。
さっさと仕留めてくれよ。ルディオ、俺もサポートするぜ!!
取り敢えず、このスキルで作った槍を投げて敵の動きを軽く留めておくか。
「粗悪な投槍」
先ほどスキルで作った鉄の槍、槍というか、ただ単に槍の形に似ているだけの鉄なんだけど。
これを持って、アンデッドに向かってぶん投げる!!
「んん?」
投げた瞬間に思った……あれ、なんか、思ってたよりも威力が出てないか。
俺が思った通り、ギュンっと超高速で加速した槍がアンデッドの右腕に当たりそのまま体を貫通する。
その衝撃でアンデッドの右腕は宙を舞い、槍はそのまま地面に突き刺さった。
「なんだ!? あの槍使い!」
「Bランクのミクスじゃないか?」
「Aランクの俺よりも攻撃値が高いんじゃないか? あんな速度普通出せないぞ」
いや、俺もそう思ってるんだが……一体どうなってるんだ?
これはステータスが上がってるわけだけど。
「おお、ミクスさん。凄いです!!」
この子か!? そうか、昨日食べたステータスアップの木の実で攻撃力が上がってたのか。
朝は寝坊でステータスを確認してる暇が無かったけど、相当上がっていたのか。
すりつぶしてスープ状にして、それを食べたわけだけど。とんでもない量があったわけではないだろう。
だったが……ステータスの魔力が上がっている状態、そしてスキルの力も強まっていた状態で作られた木の実は効果も高かったとか?
「想定以上だ」
こんな急激にステータスが上がっていたとはね。まぁ、ダメージを与えたとは言っても倒したわけじゃない。今こうしている間もルディオは戦っている。
大剣と右腕を失ったアンデッドだからな。大分ダメージ入ってるから、あれならルディオ単体でも倒せる。しかし、ルディオは最初に100体のアンデッドを倒している。
だから、大分魔力が無くなっているみたいだし。
そう思って、俺はスキルで剣を1本作り出した。そのまま、アンデッドに向かって走り出す。
攻撃力ほど俊敏は上がってないが、確かに上がっている感触はある。
アンデッドに対して、飛び蹴りを入れ少しだけ後退させた。そして、その隙に彼に魔力回復ポーションを渡す。
「ルディオさん、ポーション渡しておきます。魔力回復がこれで出来ると思います」
「……お前、素のステータスが上がりすぎてねぇか? 面白いじゃねぇか」
ルディオはこの間、俺の動きを見ているからステータスが極端に上がっていることに気づいたのだろう。
まぁ、後で適当に誤魔化しておこう。
「あ? このポーションとんでもない量の魔力が回復するな。なんじゃこりゃ、お前が作ったのか?」
「……シエ、モモタロウの栽培した素材で作った感じです」
「へぇ。流石だな」
魔力回復ポーションの精度の高さはかなりの物だ。シエラの素材がチートなのが大前提なんだけど。
ルディオがアンデッドに再び殴りにかかる。流石に俺よりは速いな。
魔力が回復したルディオはアンデッドを圧倒している。要所で俺もアシストすることに徹する。
具体的には槍を投げ続けるだけだ。無限に投げる、投げる投げる。
特に足元に重点的に投げていく。動きを鈍らせてルディオに殴らせやすくするのと、シエラ狙ってきてるから、その場への足止めも兼ねてだ。
魔力が上がっていることが要因なのか錬金スキルの、発動速度が上がっている。
「ジリ貧だな!! このアンデッド相当強度あるぜ!」
「ポーションあります」
「くれ! ミクス!!」
こちらとしては、どんどんルディオにサポートをしていくか。
だがしかし、魔力回復ポーションも数がもうない。
アニメだとアンデッドに対して、強度が高く手こずっていた印象がある。シエラがどんどん木の実をその場で作って供給し、それを渡すことで倒していたけども。
それに加えて他の冒険者もアンデッドと激闘を繰り広げていた。
しかし、今はまずシエラの樹海降臨で一掃して、ルディオも他の冒険者のサポートもしなくてもいいから余裕あるだろう。
魔力回復ポーションは俺持ってるし、足りなければ作れるし。
アニメだと結構時間がかかっていた印象だったが、今回はあっさり終わりそうだな。
……どうせなら、スタイリッシュに倒してくれ。もう大分弱ってるだろうかあら。後は殴り続けるだけだぞ!
「シエラ、魔力は?」
「か、回復しました!」
「よし、魔力回復ポーションの木を作ってくれ。それを俺がこの場で……錬金する」
「は、はい」
シエラが魔力回復ポーションの木を一瞬で育て上げる。何度見ても凄まじいんですが……もう最近は慣れてきた。
「は、はい。できました!」
「よし、それを材料と合わせてすぐさま錬金する」
錬金に絶対の成功はない。天才ならば絶対に成功するだろうけど、俺には無理だ。
だから、数でカバーする。下手な鉄砲数打てば当たる理論だ。
空の瓶に材料の汁を入れて、材料を入れて錬金する。結果は……失敗、これは捨てる。
さて、次だ。シエラが作った木の実をまた材料と共に錬金をする。
これはどうやら成功してる。なのでそれをルディオに投げつける。
「ルディオさん、新しい魔力回復ポーションですよ。おりゃー」
「お!! サンキュー!! ……って、作るの速すぎだろ!? 面白れぇじゃねぇか!」
いや、俺ではなくシエラが大量に素材出してくれるから失敗覚悟で大量生産してるんだけど。錬金って大事なのは数打ちだからな。確率の壁はどうしてもあるから、成功品を出すには只管やるしか無いのが真理なのだ。
だから、俺は只管に作ってるし、これまでもそうしてきた。しかし、それは材料費がかかる。シエラがいるので出来ているだけなのだ。
流石は豊穣の神……主人公である。
あと、凄いというがルディオもやばいだろ。
凄まじい戦いをしているし、あれでは他の冒険者はあの戦いには入っていけないだろう。しかし、遠距離攻撃スキル持ってるのがちらほら居たはず。
ここでシエラが作った木の実でポーションを作ってるのは見ているはずだ。
これを他の冒険者にも配る。それでシエラに対する印象とかも多少変わってくれると嬉しい。どうだ? こんな凄いポーションの素材を作っているんだぞ? ってな。
それに既にルディオが飲んだのは見てるから、拒否反応もそこまで無いだろう。
樹海降臨で仕留めきれなかったアンデッドもちらほら居るだからな。
そういった小物は他の冒険者に任せれば良い。ポーションもあるわけだしできるだろう。
「よし、大量に作った。これを配ってくる」
「あ、はい」
「シエラも何本か飲んでおいてくれ、アンデッドはシエラを妙に狙ってるみたいだ」
「あ、ありがとうございます!」
ここで他の冒険者に配るのをシエラに任せるのは酷だろうさ。俺から渡してシエラの素材の良さを伝えれば、評価も変わるだろうし。アニメだと木の実をいらないと投げ返されるシーンもあったからね。
「はい、魔力回復ポーションのお届けです!」
「え、あ、どうも……ありがたい」
「いえいえ」
「……きみさ、Bランクなんだよね? 俺もBなんだけど、俺より全然ステータス高くないか?」
「いえ、全然、偶然でした」
ステータスアップ木の実とかはバレるとシエラが大変になりそうだからな。黙っておこう。
そうして俺はポーションを配り続けた。ここまでしたら、もう大丈夫だろ。
どぉぉん! とアンデッドが地面に倒れる音が聞こえてきた。そう、ルディオが止めをさしたのだ!!
──結果として、ルディオがアンデッドボスを倒し、他のアンデッドの残党も無事討伐することに成功した。
いやー、アニメだとシエラもホワイト共々、死ぬ寸前まで追い詰められてボロボロになりながら、木の実作ったり、ルディオもアンデッドボスと仲間のサポートで血をダラダラ流してたけど。
シエラは全然重症じゃないし、ルディオも汗をかいていい運動になったみたいな表情だし。連れてこなかったホワイトは多分……ブラックと部屋でFOXしてるだろうし……。
他の冒険者も死者が出たんじゃ無かったか? 全員、生存してません?
まぁ、良い結果だからいいんだけどね。シエラの能力が高いとたいていの問題はなんとかなるんだな。
「なぁ、お前の魔力回復ポーション凄い効き目だったな」
「あ、そうでしたか。実は彼女の作った素材で作りまして」
「……そうだったのか」
他の冒険者からはあのポーションの効き目がすごいと少々噂になっているようだ。俺の評価も上がっているようだが、シエラがチートなだけだぞ!
それとだが、ルディオの評価もかなり上がっている。元々高いけど更に高くなったようだ。
「ルディオ様!! かっこいいいーー!!」
「こっち向いてー!!」
どうやら他の女冒険者や町の女達からの熱い声援に当てられているようだ。ぜ、全然、嫉妬とかして無いですけど?
しかし、一方でシエラは恐れられているようだった。あの樹海降臨のインパクトが強すぎるのか、町中で色々と噂になっていた。
アニメでも結局、アンデッド戦が終わった後は色々と噂されていた。配った木の実の効果が高い分、副作用があるとか、災厄の魔女がそもそもアンデッドを呼び寄せたとか色々言われてたしさ。
シエラはそういうのをあんまり出さないけど、落ち込んでるかもしれん。
だから、依頼が終わり報告を終えたら、宿屋の部屋はすぐ帰った。すぐさま食事の準備を始める。
「シエラ、今日は祝勝会だ。シエラのおかげでアンデッドが全部撃退出来たと言っても過言じゃ無い」
「いえ、ミクスさんのポーションのおかげです!」
「謙虚だな。あれだけすごかったのに……まぁ、今日は祝勝会にしよう。沢山食べるんだ」
「あ、ありがとうございます! あ、でも、私食いしん坊とかではないです!」
食いしん坊ではないのか……ふむ、そうだったのか。あれだけ沢山食べてたのに……
今もステータスアップの木の実をむしゃむしゃ食べてるんだけど。あれ、これからご飯と言ったのにその前に果物食べてる?
「シエラ、色々大変だったから、今日は食べたらよく寝るんだぞ」
「……あ、はい。でも、ちょっと変な夢を見てしまって。今日は寝れるかどうか」
「変な夢か……」
「あ、なのでその、そ、添い……」
「そい?」
「そいや! いえ、何でもないですッ!」
「……そうか」
寝る前なのに、急にテンションあげて何事かと思ったぜ。
奇声をあげたい厨二的なお年頃というか、なんかそういうのなのかな。
もしそうなら、あまり触れないでおいてあげよう(生暖かい目)。
しかし変な夢、そんなシーンアニメでは無かった気がしたけど。だがしかし、変な夢を見たら嫌な気分になるのは間違いないな。
夢か……俺は暫く見ていないな。前は日本の夢を見ることもあった気がしたけど。学生の頃だったり、社会人の頃だったり、その時々で夢の中の自身の年齢が変わっていた。
前世に未練なんて無いから、また見たいとかもあんまり無いけどさ。
まぁ、そんな事ばっかり考えていてもしょうがないな。ご飯の準備を済ませてシエラに食べさせよう。
シエラと祝勝会をして、飯を食って落ち着いた後はすぐに寝ることにした。彼女も疲れてるだろうし、俺も少し、消耗していたからだ。
そして、俺は目を閉じ……
ゆっくりと眠りに落ちた。
………………。
…………。
……。
……ん?
ここは……どこだろう。
不思議なことに俺は前世の高校生の時の制服姿で、ポツンと立っていた。居る場所も寝ていたはずの宿屋ではない。
そして、立っている場所は異世界、つまりはこの世界のベルンの町。
つまりはシエラと俺が救済の光の時に拠点にしていた場所だ。
「あれ? なんで、ここに」
街並みや人の顔並みも一緒だった。また、ここに来てしまったのかと思い続けて、暫く歩いていると
「あれ」
今、通り過ぎた子……フードをかぶっていたけど。シエラに似ていたか?
後ろ姿が似ていた気がする……。話しかけようかどうしようか……
迷っているとどんどん彼女は遠くにいってしまう。あ、俺は今姿違うけど、一応話しかけてみるか。




