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今日はドラゴン討伐です

 その日もまた、ふたりは冒険の旅に出ていた。

 目的は、ドラゴン討伐。

 …………そう、ドラゴンだ。

 北の山脈に百年ほど前から巣くうドラゴンで、これまでその地の領主や国の騎士団が、何度も討伐に挑んでは破れてきた最強の生物。


「ま、私の方が最強だけどね」


 ニヤリと笑うセシリアは、目の前のドラゴンを緑の蔦で雁字搦めにしていた。


「グ……グォ…………グッ、グッ」


 足や翼はもちろん、大きな口の先までも蔦が覆ってしまっているため、ドラゴンは咆哮さえも上げられないでいる。

 なんとか蔦を外そうともがくドラゴンを、セシリアは嘲笑った。


「無駄よ。無駄無駄。私の蔦は土属性魔法の集大成とも言うべきモノだもの。植物の蔦に鉱物のオリハルコンの性質を持たせて創ったの。どんなに強い力や魔法でも絶対に切れないし、絡みついた相手から生命力や魔力を干からびるまで吸い取ってしまうのよ。この蔦に宿られたモノが解放されるのは、死ぬときだけだわ」


 セシリアが話している間も、シュルシュルと伸びた蔦がドラゴンの巨体を覆っていく。

 すでにドラゴンは身動ぎひとつできず蹲るばかりだ。




「……まるで魔王みたいな所業ですね」


 ぼそっと呟いたのはエゼルウルフだった。


「ちょっと、人聞き悪いわね。私は冒険者。相手は討伐対象のドラゴンよ」


「あまりに圧倒的なので」


「実力差は如何(いかん)ともしがたいでしょう? そんなことより、とどめはあなたが刺すのよ。ドラゴンの額の部分は蔦で覆っていないから、あそこを狙ってアイスニードルを突き刺しなさい」


 セシリアがビシッと指させば、エゼルウルフは少しためらった。


「このまま放っておいても死ぬのでは?」


「それだといたずらに苦しみを長引かせちゃうだけでしょう。ヘビとかのハ虫類は祟るっていうから、スッパリバッサリ殺しちゃうのがお勧めよ」


 ヘビとドラゴンを一緒にするのはいかがなものだろう?


「……僕が倒していいんですか?」


「ええ。そのために討伐依頼を受けたのだもの」


 大きく頷くセシリアに、エゼルウルフは目をみはった。


「あなたは…………いえ、わかりました。僕が倒します」


 きゅっと表情を引き締めたエゼルウルフは、ドラゴンを見る。


『――――アイスニードル!』


 セシリアが呪文を紡ぐより多少時間はかかったが、無事ドラゴンの上に氷の矢が現れ、狙い違わず額を貫いた。

 ガクガクガクと震えたドラゴンは、ゆっくり体を倒していく。

 やがてズシ~ン! と音を立てて地に沈んだ。

 息絶えていることは、確認するまでもない。


「うん。お見事。一撃必殺ね」


「ここまでお膳立てしてもらったら外せません」


 エゼルウルフはそう言うが、そもそもアイスニードルを出せる魔法使いは少ないし、その中でもドラゴンを貫けるほどの強度を保てる者は、ほんのひと握り。

 規格外のセシリアの傍にいるから実感できないのだろうが、彼もかなり強いのだ。


(まだ十三歳だもの、十分よね。最近は剣術も強くなってきているし)


 こちらも剣聖セシリアに師事しているため、エゼルウルフの自己評価は低いまま。


『収納』


 どうすればエゼルウルフは、素直に自分の強さを認めてくれるのだろうか?


 思案しながら、セシリアはドラゴンの死体をアイテムボックスに入れた。

 そんなに軽々とドラゴンを収納なんてするから、エゼルウルフの評価基準が上がっているだなどとは、思いもしないセシリアだ。


「……このドラゴン、財宝もかなり貯めこんでいたわね。なにか欲しいものはある? 好きなモノを選んでいいわよ」


 セシリアの言葉を聞いたエゼルウルフは、少し考えた。


「僕がもらっていいんですか?」


「私はいらないもの。一応全部持って帰るけど、冒険者ギルドにすべて売り払うつもりよ。…………ほら、この剣なんていいんじゃない?」


 そう言ってセシリアが選んだのは、どこにでもありそうな地味めな剣だった。

 正直もっとお高そうな剣がごろごろしている中で、なぜこれを選んだのか首を傾げるレベルだ。

 しかし、セシリアは自信満々だった。なぜなら剣の鑑定結果が見えるから。



種別  両手剣(鋼鉄製) 無銘

来歴  ヴォルスタッド王国 モナーナ工房作

    騎士リヴァイ・ゴーガン(故人)の愛用剣

    ゴーガンの死によりドラゴンの財宝となる

情報  リヴァイ・ゴーガンは、かつてエゼルウルフの護衛騎士だった

    忠誠心篤くエゼルウルフ暗殺の邪魔になるため、ドラゴン討伐を命じられる

    必ず帰ると幼き主人に誓ったが、仲間に裏切られ無念のうちに死亡した


    

 ――――実は、冒険者ギルドでドラゴン討伐の依頼を見たときに、エゼルウルフの様子がおかしかったのだ。

 気になったセシリアは、その場ですぐ彼に「鑑定」を強くかけた。

 そして、リヴァイ・ゴーガンのことを知ったのだ。

 ちなみにそのときの鑑定結果はこんな感じ。



名前  エゼルウルフ・エンド・ヴォルスタッド

年齢  14歳

HP  1500/1500

MP  20000/20000

属性  土(A) 氷(S) 闇(S)

スキル 剣豪 王の器 家政夫(後発)

情報  ヴォルスタッド王国第五王子 母(故人)は平民

    現王の浮気が原因で生まれた望まれない子

    認知はされたが王は子に興味なく、後宮で隠れるようにひっそりと生きてきた

    12歳の能力鑑定でスキル「王の器」が見つかった途端、命を狙われるようになる

    王宮から商人の馬車に隠れて逃げだしたところセシリア・ラネル(回帰者)と遭遇

    以後彼女の世話をやいている

    ※ドラゴン討伐依頼書を見て、かつて自分の騎士だったリヴァイ・ゴーガンを思いだした。

    自分のせいでドラゴン討伐を命じられ死んだリヴァイに、申し訳ないと思っている。

    できればドラゴンを討ち贖罪したい。

参考(回帰前) 略



(私の「鑑定」有能すぎじゃない? ……ていうか、家政夫ってなに?)


 ともかく、そうとわかったからにはドラゴン討伐は決定事項。

 その場で依頼を受けたセシリアは、エゼルウルフを連れてここに来たのだった。





 無事にドラゴンも討伐したし、あとはリヴァイの形見の品である剣を受け取らせれば万々歳。

 問題は、一見普通に見えるこの剣をエゼルウルフがいらないと言いださないかということだけなのだが……どうやら杞憂だったようだ。


「あなたは、本当に…………いただきます」


 エゼルウルフは、そう言って剣を手に取った。大切そうに押し頂く。


(これって、この剣がリヴァイのものだとわかっているのかな?)


 セシリアが見たところ、剣に特別な徴などはない。

 ただ、ずっと側近くで自分を守ってくれていた剣ならば、多少の見覚えはあるかもしれない。


(エゼルウルフに「鑑定」をかければ、わかるのかもしれないけれど)


 ただ、セシリアの「鑑定」は有能すぎる。個人の感情までわかるのは、いくらなんでも見えすぎだ。

 個人情報保護を今さら云々言うわけではないけれど、それでも必要に迫られない限りは、見ないで済むものは見ないでおこうとセシリアは思う。


(どっちにしろ受け取ってくれたんだから、今はこれでいいわよね)


 機嫌のよさそうなエゼルウルフの様子に、セシリアの気分も上昇する。


「よし、さっさと帰って祝杯をあげるわよ!」


「ダメです。今日は休肝日ですから」


 ジョッキを握る形で片手を突き上げるセシリアに、エゼルウルフから冷静なツッコミが入る。


「えぇ~!」


「週に一日休肝日をもうけた方がいいと教えてくれたのは、シアでしたよね?」


「それはそうだけど…………大丈夫! 今日は呑んでも大丈夫な日なの!」


「根拠は?」


「こ、根拠? それは……そ、そう! 他でもないこの私がそう言っているんだもの。私はなんでも知っているのよ」


 セシリアは、胸をドンと叩く。

 エゼルウルフは、呆れたような顔をした。


「なんでもですか?」


「ええ、なんでもよ。嘘だと思ったら聞いてみて」


 さあ来い! と構えるセシリアを、エゼルウルフはジッと見つめる。


「聞くまでもありません。あなたは()()ですから」


「えぇ~、なにそれ?」


「シアにはわからないってことですよ」


「そんなことないもん!」


「いいえ、わかりません」


 わかる、わからないと言い合いをする師匠と弟子の上に、陽光が降り注ぐ。

 エゼルウルフの持っていた剣が、その光を受け笑っているかのようにきらめいた。


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