魔法はイメージです!
しかし、そんなセシリアとエゼルウルフの立場も、冒険者としての活動では逆転する。
『ナイトビジョン』
「からの」
『アイスニードル!』
セシリアの呪文と同時に闇の中に現れた氷の矢が、オークの群れを正確に貫いた。
ここは討伐依頼の出たオークの集落だ。
五十匹近くいた緑色の巨人は、セシリアの呪文だけで壊滅してしまう。
「ナイトビジョンは闇属性の魔法よ。夜の奇襲にとっても便利だから覚えておいて損はないわ。敵の位置を見定めたら氷魔法のアイスニードルでとどめを刺すの。簡単でしょう?」
いい笑顔で振り返るセシリアに、エゼルウルフは顔をしかめた。
「……簡単とは思えません」
「え、どうして? エルの得意な闇と氷の魔法だもの。ちょっと練習すればすぐにできるようになるわよ」
右手の親指と人差し指で「ちょっと」を表現するセシリアに、エゼルウルフの顔は、ますますしかめられていく。
「ナイトビジョンはともかく、アイスニードルは、普通どう頑張っても四、五本出すのが限度です」
それを何十本も出して、しかもそれぞれ一撃でオークを倒すとか――――セシリアの魔法は、規格外なのだ。
「自分の限界を自分で定めちゃダメよ」
「もっともらしいことを言って無茶ぶりするのは止めてください」
ぶすっと膨れるエゼルウルフの頬を、セシリアは指でぷにっと突いた。
「無茶ぶりなんかじゃないわ。魔法はイメージできるかどうかが大切なんだから。自分ができると思えれば、なんでもできるはずよ」
少なくとも、セシリアが前世日本で読んだファンタジー小説にはそう書いてあった。
「そんなわけないでしょう」
「あるから大丈夫。あなたの師匠を信じなさい! ……論より証拠、ほら空を見て!」
セシリアの言葉につられるように、エゼルウルフの顔が上を向く。
『スターダスト』
セシリアの呪文と同時に、夜空に流星が走った。
「なっ? あれは、神の涙――――」
神の涙とは、この世界で流星を表す言葉。
神の涙が落ちるとき、世界のどこかで神に愛された命が消えるのだと言われていて、要するに凶兆だったりする。
「違うわ。あれは流星よ。私は、あれがどうしてできるか知っているし、作り方も明確にイメージできるの。だから魔法で降らせることができるのよ」
たしか、宇宙を漂う塵だかなんだかが、地球の大気にぶつかって突入、発光したもののはずだ。
そう言ったセシリアは、もう一度『スターダスト』と呪文を唱え流星を作りだす。
「うわっ!」
「ね、本当でしょう?」
「そ、そんな――――」
「まだ信じられない? エルが納得できるまで、何度だって降らせてあげるわよ」
『スターダスト!』
セシリアの呪文で、またひとつ星が流れ落ちた。
「わ、わかりました! 信じます。信じますから、もう神の涙を落とさないでください!」
ついにエゼルウルフは、そう叫ぶ。
「ホント? よかった。信じてもらえて」
セシリアは嬉しそうに笑った。
「…………もう、とんでもない人ですね。あなたは」
「そんな、褒めてもなにも出ないわよ」
「褒めていません」
「えぇ~」
セシリアとエゼルウルフの冒険は、だいたいいつもこんな感じだった。




