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軍神の娘  作者: 雨宮玲音
第弐章 上洛
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第40話 北条家へ①

 元亀2年(1571年)7月半ば。


「お船殿、そちらのお化粧はこちらに!」


「は、はい!」


「おまつ殿は虎姫様の身支度を乳母殿《お苗》とともに行いなさい」


「かしこまりました」


 伯母上の特別な稽古を受けながら数週間が経った。わたしは北条家へと向かうことになった。


 北条氏康。相模の獅子と呼ばれ、上杉謙信や武田信玄を相手取っただけにかなりの猛将。しかし、その男は今年の10月に亡くなる。どれだけ多くの戦歴があろうと偉大なことをしようとも死は平等に訪れる。なんだか虚しいような。そんな気もした。


 そんな男にわたしは会う。会う場所はというと北条氏康、その男は今は病気であまり遠出させるのはあまりにも哀れであろう。そう判断したわたしは小田原城へ直接赴くことにした。ここから小田原までおよそ5日はかかる。かなりの長旅になる。しかも氏康に途中にある北条の支城ならば見て回ってもいいといわれたためその時間も含めたら一週間はかかる。


 果たしてそこまでに氏康は持つのだろうかという疑問がある。もちろんあと最低でも三か月は生きる。だからいきなり死ぬことはない。そう信じたいが、やはり病気も末期だ。昔見た情報によると自分の子供の判別すらできず、呂律が回らず、自分の意志すらままならない。一時期は回復したようではあるが、今はどうだろうか。他国の姫君であるわたしには計り知れなかった。


 北条氏康への面会は当然だがわたし一人で向かうものではない。今は同盟国といえどかつては敵であった。警戒はしなければならない。わたしの旅に同行し、警護してくれる人何人かいる。


 まずは千代丸・信綱・与六の3人。彼らはわたしの近習であるから当然である。与六は景勝の近習でもあるし、最初は断ろうか考えたが、景勝につれていけと言われたため連れてきている。なんでそこまで言うのか理解はできないが、北条家の動向を探りたいのだろうか。なんにせよそばに与六がいるのはとても心強い。もしかしたら何かしらの役に立つかもしれない。


 そして、わたしの侍女にお船、お苗含めた5名。わたしの護衛用の武将は本庄繁長である。北条家へ行くわたしに護衛を誰にするかという話題が評定で出た時、一番に手を挙げたのは彼である。


「……はぁ……」


「虎姫様、そのようにため息をつかれていかがなさいましたか?」


「いや……実は、父上のことを思い出して」


「あ~」


 わたしの父・上杉謙信。最初は彼がわたしの護衛になると言い出したのだ。彼がわたしを護衛するなどあり得ない。と、わたしは引き留めた。けれども父上が付いてくることは確定となってしまった。止めたのに止められなかったのだ。


「上杉はどうするのですか」


 なんて父上に上杉家にいさせようとしようとしたのだけれども、


「そんなものは景勝や姉上たちに任せればいい」


 と聞いてくれない。この北条家への旅は表向きは同盟の状況の確認とさらなる強固なものにするためのいわば会議のようなものである。つまり姫であるわたしがわざわざ首を突っ込んだり同盟交渉の道具でもないのにもかかわらず、七日もかけて連れ来られるものでもない。


 何度でもいうが、女は政治の道具だ。この間、景勝も言っていたのだが、わたしは父上にとって家族としても政治の道具としても大事で重要な人間だ。普通ならばむやみやたらと外に出たりしてはならない。「女は家に仕える」という日本古来の言い方がある。この発言を現代でやればジェンダー的にもいろんな意味で社会から追放されてしまう。しかし、今の時代は戦国時代でいつだれが敵になるかわからない上に親兄弟さえも平気で裏切る。このような時代に女という存在は都合がいい。一時的にでもこの状況を抑えられればいい。そう言った意味では女を家に籠らせるのは大正解だ。ましてや、わたしのような継承問題の要となっている人間が早々に殺されていいわけがない。


 けれど、今回の旅はただ北条氏康とわたしが面会するだけでもなく様々な思惑がある。それをひしひしと感じる。父上が実際越相同盟にどのような感情を持っているかを知るつもりはないが、とにかくわたしは北条家へ行くのだ。

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