第22話 上杉景勝
「虎、よく食べているか?」
「はい」
父上の膝の上でいつものようにご飯を食べながらちらりと景勝の方を見た。
景勝はあの日以来気まず過ぎて話しかけていない。もちろん、上杉商会のこともあるので、話し合わなければならないことがあるが、大体は与六かその他小姓たちを介してしか話していない。お互い忙しいと言い訳しているが、それでは説明が付かないくらい会わなくなった。
「…………」
ちらりと景勝を見る。ふと、わたしの視線に気がついた景勝はこちらを見て、すぐに目を逸らしてしまう。不仲という訳では無いが、これではいつまで経っても進まない。それに、わたしと景勝はお互いにどんな感情であれどちらにしろ結婚しなければならない。戦国時代というのは恋愛結婚は許されない。もし、結婚するというのならばせめて最低限の愛が欲しいというのは夢見がちな幼い少女の淡い願いだろうか?
このまま仲悪いままだと誰か家臣たちが勘違いしてしまうかもしれない。ひいては御館の乱に繋がってしまう可能性だってありうる。このままではいけない。それはわたしでも分かっていた。それでも、気まずいことに代わりがなかった。
「うう……気まずい……」
早めにこの件に関しては解決したいのは山々だが、気まずいことには気まずい。なんて話しかければいいのか分からない。挨拶が無難なのかもしれないけど、今更アイサツ……?どうしてわたしはあんなことしたんだろうなぁ……!
「なんですか? あれ」
「さあ?」
「千代丸も信綱もその可哀想なものを見る目で見るのはやめなさい!」
「はて?」
「なんのことでしょうか?」
「も〜!」
すっとぼけた顔で首を傾げた2人を殴りたくなったわたしは悪くないと思う。いや、殴らないけど。わたしは信長じゃないから人を足蹴にしたりはしない。うん。でも、1発は殴りたいかも。
「じゃあ、2人はどうしたらいいと思うの?」
「素直に話してみてはいかが?」
「それが出来たら苦労しない!」
景勝も素直にわたしも巻き込めばいいのに。何を考えているだか。無表情だから周りからごまかせると思ったら大間違いだぞ!こっちは何年景勝の表情を伺っていると思うんだ!なにか色々と考えているみたいだけど、わたしは騙せないぞ!
「そもそも若様の表情から何を考えているか理解するのは至難なのでは?」
「そうだよ! 父上も伯母上も姉上たちも景勝に関しては頭抱えてたけど、わたしはわかるんだよ」
「そこまで行くなら素直に話してくればいいのでは?」
「はい。話が振り出しに戻った」
そうじゃないし。それが出来たら苦労しないし。うーん……。これは相談相手を間違えたか?そうか。千代丸とか信綱とか女心の分からない男どもに相談するのは間違いだったかもしれない。いやでも、信綱は一応既婚者だし、わかってくれると思ったんだけどなぁ……。
「そういえばですが、虎姫様はなぜ、景勝様の表情がわかるのですか?」
「なんでって、……なんでだろ?」
わたしは生まれて初めて景勝と出会った時のことを思い出した。




