第19話 石鹸
わたしは今日もいつものように過ごしていた。
そういえばだが、石鹸が最近出来上がった。前に作ったものよりも丈夫で安全になった。
話は去年に戻る。与六や千代丸らとともに石鹸もどきを完成させ、その数日後アポが取れた上杉商会の経営担当の中井三郎に見せに行った。
「ふむ、なるほどこれが姫様の考案した石鹸なるものですか……」
興味深そうにじっと、少し形が歪な石鹸もどきを眺める。見たことないだろうね。そりゃ。
「はい。とりあえず見るよりも試してみてもらえませんか?」
「かしこまりました。やってみましょうか」
「与六」
「は」
短く返事をした与六は水の入った桶を用意する。
「先程も申しましたが、わたしやここにいる与六たちの数名で使用して見たところ大丈夫でした。ですが、対照実験をしたことがないのです。だから安全性が取れておらず、最悪怪我をする可能性があります。つけた時、少しでも危険があればすぐにこの水で洗い流してください」
「心得ました」
中井殿はまず、腕に墨を塗り、それを石鹸で洗い流す。泡立ちは悪くとも、墨は見る間に落ちていった。
「おお〜……。これは本当に素晴らしい品ですね! 今すぐに商品に致しましょうぞ!」
「褒めていただき大変光栄です。しかし、先程言った通り改善点や懸念点があります」
商品として売るにしてはその点が目立って酷い。そこで、さらに改善させようと計画を立てる。とはいえ、わたしは科学が専門では無いし、この石鹸を作るにも手探り状態。
何度も何度も繰り返し実験を行った。老若男女問わず何人か臨床実験に協力してもらい、精度や安全性を高め、遂に先月完成した。
「おお〜! これは……!」
最初に使ってみた時よりも泡立ちも洗浄力もいい。洗濯物の汚れだって簡単に落とせるし、肌も綺麗になる。記憶の隅にあって忘れていたのだが、ほぼ似たような製法であのクレオパトラも石鹸を作っていたような気がした。彼女が使っていたとなれば話が違くなる。とはいえこの日本でのクレオパトラは有名では無いので噂の真偽はさほど詳しくは無いけれども。
中井殿が言うので作り終えた石鹸を先ずは父上や伯母上たちに使ってもらうことにした。大名自ら使うということは商品の付加価値が高まるからだそうだ。
「すごいな……これは」
「ええ。景勝から話は聞いていましたけれど、こんなにも素晴らしいものを作るためだとは……」
父上や伯母上からは大絶賛だった。やったね!もちろん彼ら二人だけでなく本来わたしがこれを作った原因である義兄上や姉上家族に注意点を述べた上でいくつか上げると、気に入ってくれた。その中でも特に気に入った義兄上がなんとその父の北条氏康とその正室の瑞渓院に送ったそうだ。まだ、彼らからの返事は来ていないけれど、彼らの反応が楽しみだ。




