5話 隠しキャラ令嬢、想い人に対面する
お茶会はそれはそれは豪華だった。
ケーキにマカロンにクッキーにゼリーに……その他名前の知らないお菓子が沢山。軽食なんかもある。
前世ではそこまで甘い物は好きでは無かったけど、どうやら今世の私の舌は甘党らしく、大量のお菓子が魅力的に見えた。
早く食いてぇ……
だがしかし、その前にご挨拶をしなければならない。
今回は汚い大人の思惑絡みの社交界とは違い、多少愛想を振り撒くだけでOKだ。あくまでもメインはお茶とお菓子。
まぁ、ここぞとばかりに媚を売ってくる輩も居るっちゃ居るんだけど。
「蓮乃。こちら、主催者の黒小路家の皆様だ。ご挨拶しなさい」
「はい」
おーっと!遂に葵君とご対面できるのですねっ!やっべ、柄にも無く緊張してきた。でも大丈夫。この出会いのイベントはファンディスクでプレイしてるもんね。え、何でクリア直後に死んだのにプレイしてるかって?弟が「先に蓮乃ちゃん知った方がこのゲーム奥が深くなるから!」とか訳分からん事言ったからだよ。私何気ブラコンだから断れなかった。
「初めまして。長女の早乙女蓮乃です。本日はこの様な素敵なお茶会にご招待頂き、ありがとうございます」
私はファンディスクで蓮乃が言っていた挨拶を思い出して、なるべく可憐に上品に、それでいて少し初々しい雰囲気を醸し出して言った。
この年でこういった場に慣れていると婚約者探しに命を懸けるがめつい令嬢だと思われる。かといって初めてだと思われると舐められる。これ位が丁度良いのだ。
そんなどうでも良い解説を心でしながら黒小路一家を真正面に見据える。
…………うわぁ、リアル葵君だぁ!
ふんわりしたダークチョコレート色の髪もラズベリー色の甘い瞳も中性的な顔立ちもゲームそのもの。いや、年齢が違うからちょっと幼く見えるけど、天使みたいに可愛さだ。
「蓮乃ちゃん。ちょっと良いかな?」
「……あ、はい。何でしょうか?」
何故か黒小路の奥様に話し掛けられた私。え、葵君ガン見してたのバレた!?
「うちの娘、極度の人見知りなの。蓮乃ちゃん、仲良くしてやってくれる?」
見てみれば、困った様に笑う奥様の後ろに隠れている美少女。
そういえば葵君って一つ下の妹が居たんだっけ。あ、これファンディスク情報。
「ほら、ちゃんと挨拶して」
「……黒小路妃奈です」
くっそ可愛いなおい。
焦げ茶色のリボンを結んだゆるふわロングのピンクアッシュの髪に、くりっとした大きなハニーピンクの瞳。令嬢にしてはおどおどし過ぎな気もするけど、可愛いは正義。全然許容範囲だわ。
「妃奈…ちゃん?よろしくね?」
「は、はい。此方こそ宜しくお願いします…」
控え目に微笑む美少女。
その瞳は少し暗い光を宿していた。
……気のせいかな!