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番外編〜幸せな日常④

『ユキ兄、遊びに行っていい?』

部屋でのんびりスマホ弄ってたら、ふいに脳裏に声が響いた。

「あ?」

キョロキョロと首をめぐらせば、クスクスと笑う声。


『ぼく、未来だよ。テレパシー飛ばしてるんだから見えないよ。今から行くね〜』

そんな声が響いた瞬間、天井が陽炎みたいに揺らいだと思ったら小柄な人影が2つ落ちてきた。


「うげっ」

ベッドに仰向けに転がってたオレは哀れ下敷きになったわけだ。

「あ、ごめん、ユキ兄」

「わぁ!!ごめんね?大丈夫?!」

ちっとも悪そうに聞こえない声と素直に焦った声。

うん。未来は素直でかわいいなぁ。


「いいから、どいて。重い………」

いくら年令の割に小柄だとはいえ、2人も乗ってりゃやっぱ重いし。

そもそも1メートル以上上から落下してきてんだから衝撃もなかなか。

良かった。飯食ったばっかりじゃなくて。


「とつぜん、どうしたんだよ?勉強会の日だったっけ?」

保護者の元、過疎ってる小さな島の漁村へと移住した2人は定期的に和美さんの所に「勉強会」と称した世間一般常識を学びにきてるらしい。

そのついでに遊びにくるのは結構あるんだけど、直接俺の部屋に『跳んで』きたのは初めてだった。


「あのね。村で豊漁だったからおすそ分けに来たの。コレ!」

ようやく俺の上からどいた2人が嬉しそうにみせたのはでっかい発泡スチロールの箱だった。

お前ら、さっきそんなの持ってたか?


「なにそれ」

床に置かれたでっかいそれを何気なく開けたオレの口がパカんとあいた。

「なにこれ!デカっ!!」

巨大な魚が1匹、デンっと転がってた。

丸々としてて、1メートルくらいありそうなんだけど、ナニコレ?


「ブリだよ〜。今の時期は脂が乗ってて美味いの。寒ブリって聞いた事ない?」

ドヤ顔で勇気が教えてくれるけど、しらねぇ〜よ。

悪いが魚はスーパーの切り身が基本の人間なんだよ、俺は!


「スッゲェなぁ。でも、母さん、捌けるのか?てか、台所に入るかな?」

唖然としつつも抱えた箱はハルよりも重かった。




結論。

やっぱり、我が家の台所の許容超えてた。

そもそも調理台の部分に乗らなかったし、ここまで大きいと専用の出刃庖丁とかないと厳しいと母さんがホールドアップ。


「都会の人間はダメだなぁ」

とか勇気が生意気なこと言ってたけど、このサイズはどう考えても漁師か魚屋でもなきゃ無理だろ?!


結果、もう一回島に持って帰ってもらって、達也さんに3枚に卸してもらったんだけど、その前にハルを横に転がして記念撮影。

だって、ハルよりもデカかったんだよ。


リビングの床に転がる赤ちゃん<魚。

なかなかシュールな映像になって満足。


「どうせ家族だけじゃ食べきれないんだし、みんな読んで鍋パーティーにしちゃいましょう!」

との母さんの言葉(つるのひとこえ)で宴会の決定した我が家は戦場と化した。


けど、準備で忙しいのは基本大人組なので(買い出しとか会場作りとかな)子供組は遊んで来いと外に放り出された。

雪の積もる真冬の外に………。

サミィヨ、母さん!


とりあえず、近場の公園に来てみたんだけど、寒くても天気はいい昼間の公園は人が多いし、雪もだいぶ踏み固められてぐちゃぐちゃだった。


「ちぇっ、俺、カマクラ作ってみたかったのに〜」

「ここいらじゃ鎌倉なんて無理だって。もっと雪のある所じゃなきゃ」

残念そうに舌打ちする勇気に笑った俺が悪かったのか?


「ええ?島は全然積もんないし、コッチならいけると思ったのに。じゃあ、何処ならいいんだよ〜?!」

「あ?北海道とか?東北?」

唇を尖らす勇気と肩を落とす未来に、いつも通り合流してた大成が軽く答えたのが悪かったのか?


「じゃ、そこ行こうぜ!」

明るい声とともに手が繋がれ、一瞬の間には一面の銀世界の只中に立っていた俺と大成は声の限りに叫んだ。

「「何処だよ!ここ〜〜〜!!」


1番やばいのは行動力の塊なお子様達に厄介な移動手段(テレポーテーション)能力がある事に違いない。





少なくともウチ近辺では絶対にありえない雪原の中。

寒さに騒いではしゃぎ回った後、念願のかまくら作りに取り組んだ。

の、だが。


「てか、雪サラサラすぎて固まんねぇよ、これ!」

「そもそも、カマクラってどうやって作るんだ?」

漠然としたイメージでは雪山作ってトンネル掘ってって感じだけど、………違うよな、絶対?


「え〜?じゃあさ、ハル!雪でお山作って?デッカいの!」

未来が抱っこしていたハルにお願いしてる、けど?

「う?」

ハルが小首を傾げると膝の高さくらいの雪山が出現した。


「ん〜と、もっと大きいの。こんくらい。出来る?」

未来が首を横に振ると、ハルの額に自分の額をコツンとつけた。

キョトンと首を傾げたハルが、「あいっ」と元気よく片手を上げた瞬間。


「うおっ?!」

「ハル、すっげぇ!!」

10メートルほど先の雪がモコモコと盛り上がり、あっという間に巨大な雪山になる。


「ハル、上手!!で、勇気、あのまま掘ったら多分すぐ崩れちゃうから、雪、硬くして?」

ハルの頭を撫でながら、未来が次の指示を出すのを俺と大成はポカンと見ていた。

いや、だって、マジで出番ないし。


唖然としている間にも、未来指示のもとハルと勇気がどんどん能力を使っていって………。


そうしてわずか30分程で、中に10人は入れるんじゃないかって立派なカマクラが完成してた訳で………。

「………なに?この万能感」

「なぁ。なんか、虚しくなるんだが………」

思わず顔を見合わせる俺と大成をよそに、子供達は楽しそうにケラケラ笑いながら、カマクラの中を走り回っていた。


「おお、立派なの出来たなぁ〜」

突然、後ろから声をかけられて、飛び上がった。

だって、今まで俺たち以外人の気配皆無の場所から第三者の声がしたらビビるだろ?

そうして振り返った先には、和美さんと勇気達の保護者でもある達也さんが立っていた。


「せっかく立派なのが出来たし、いっそここで宴会するか?」

「まぁ、みんなの能力合わせたら不可能ではないとは思いますけど、ね」

ニンマリ笑う和美さん。肩をすくめて笑う達也さん。

呆気にとられているうちに空間が繋がれ通路を確保。

敷物やらコタツが運び込まれ、カマクラの中は随分と居心地のいい空間になった。

更に、松明が各所に焚かれ、カマクラの中にはカセットコンロと鍋セット。

いつの間にか参加人数が増えたからとカマクラがもう1つ増設されたあたりで考える事を放棄した。


うん。

ここは異世界。

ファンタジー。

常識を当てはめようとしても無駄だ。むしろ、楽しんだ方が勝ち。




最初に持ち込まれたブリは綺麗に解体されて、プリップリの刺身と鍋に変身してた。

脂が乗った寒ブリは刺身にしても、サッとだしにくぐらせて野菜と食べるしゃぶしゃぶにしても最高!

アラは甘辛く大根とともに煮られてて、魚の旨味を吸い取った大根が、もう絶品だった。


さらに、声をかけられて飛び入り参加した和美さんの知り合いが飛騨牛なんて高級品を持ち込んだから、さらにカオス。

だしが混ざるのは邪道と母さんが拒否したため、鉄板が持ち込まれ、サッと炙って食べた肉は比喩じゃなく口の中でトロけた。

肉の脂ってこんなに旨味があるものなの?って感じ。


ハルが真っ赤な顔でハフハフしながら食べてるのがまた可愛くって笑ってしまう。

大人組は大量に持ち込まれたビールや酒、子供組は白飯でいくらでも食べれそう。

締めの雑炊まで胃袋残しとかなきゃって思うのに、美味すぎて箸が止まらない。


「デザートもあるよ!」

「あ〜パステルプリン!食べたい〜」

足りなくなれば固定された通路を勝手に潜ってみんな好き勝手に補充に行ってるんだからまさにカオスだ。


食べて、飲んで、笑って。

めちゃくちゃなのに、ここにいるみんなが楽しそうに笑ってるからもう、それでいいのかなって思った。


どうせ、ここは人里離れたとこともしれない場所だし!

一発芸、とかはっちゃけた大人が電撃花火を飛ばしても見る人はいない訳だし。




「なんだろうな〜、超能力とかテレビや物語の中の世界だと思ってたのに、不思議だよな〜」

「たしかに」

未だに大騒ぎのカマクラから少し離れて空を見上げながら大成と少し笑いあった。

綺麗な星空に混じって、誰かが打ち上げた幻想の花火が綺麗だ。


「ほんと、むちゃくちゃだな」

料理の皿がフヨフヨと宙を浮かび2つのカマクラの間を行き来している光景に大成が笑う。

「ま、あのメンバーにとってはコレが日常なんじゃん」

肩をすくめて見せれば、笑顔の大成に額を小突かれた。


「な〜に人ごとのふりしてんだよ。お前こそ、立派に中心人物だろうに」

指さされた方から、全開の笑顔で走ってくるハル。

初めて会った時の唇の端だけ釣りあげていたニヤリ笑いの面影はもうそこには無かった。


「ゆ〜〜!!」

小さな両手をまっすぐにこっちに伸ばして雪の中を不器用に走る小さなハル。

屈託のないその笑顔が可愛くてしょうがない。

ただ待ってるなんて出来なくて、俺はハルにめがけて走り出した。


「ハル!大好きだ!!」


読んでくださり、ありがとうございました。


追加の番外編もコレでおしまいとなります。

この後も、ハル君を中心にほのぼのドタバタと日常は続いていくと思います。


かなりの時をあけて何気なく追加したこの物語が思っていたよりもたくさんの方に目を通していただけたようでびっくりしています。


ほんの少しでも、ほっこりとした気持ちを伝えられていたら嬉しいです。

ありがとうございました。

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