4.2巻の制作
真夏の書籍化作業は大変だったけど、楽しみにしてくれる読者さんがいてくれたから、なんとかやりとげました。
読者さんをガッチリつかむには、テンポよく次巻を出す必要があるらしい。原稿はあるから、1巻が発売される頃には2巻の制作がスタートしていた。
私は表紙の意図を編集部に説明した。
『2巻の表紙は〝破〟をイメージしてください。窓をぶち破る勢いで塔に飛びこみ、舞い散る書類は砕け散ったガラスの破片のようなイメージで。この瞬間ネリアはユーリとレオポルド、両方の殻を破るんです』
『塔に飛びこむ2人。読者の視点はレオポルドと重なります。ネリアの表情は怒り。ユーリの表情はとまどいつつも、同じく挑むような視線を彼に向けています』
『宙に舞う小物や書類は飛び散る破片のイメージで。頑ななレオポルドの殻を破るだいじな場面です。あ、ライガは飛びこむと同時に収納されるので描かなくても大丈夫です』
そのあとさらに数々の打ち合わせ……窓枠の形状とかデザインなども細部まで決めて頂く。
最初、よろづ先生はネリアたちの背景に、青空を描いて下さっていた。ADさんから提案。
「バックの空は青空ではなく白で抜きましょう!」
2巻完成に向け全員が走りだした。白で抜かれたイラストは、モニターの透過光を生かした美しい仕上がりで、画面から緊迫感や躍動感が伝わってきた。
10冊本を出した今でも、「この表紙がいちばん好きです」と言って下さる読者さんがいる。もちろんどの表紙にも、「この本の表紙が好き!」と言って下さる方がいて、とてもありがたい。
続いて挿絵も、どの場面を切りとるかを決定。
『挿絵①は静と動の対比でお願いします。動きのあるネリアに対し、レオポルドは微動だにしません』
『ネリアはこの場合〝無邪気な破壊者〟そしてレオポルドは〝防御〟……場合によってはネリアを迎え討つ立場です。ネリアの表情は〝喜〟そのもの。レオポルドは内心の動揺は一切表にださず、無表情のままです』
2パターンでラフが届く。
ひとつはネリアの生き生きとした笑顔が印象的な、彼女がメインになったイラスト。
もうひとつは向かい合うレオポルドとネリアを、横からとらえたイラスト。
後者を選んだ。
挿絵②は2巻のメインヒーロー、ユーリ。
「やっぱ呪いが解けたあとの姿が見たいですね!」
そういいつつ、私はよろづ先生に相談した。
「ユーリのローブですが、このままだとツンツルテンですよね。それより靴のサイズどうすんだ問題もありまして……」
よろづ先生の回答は明快だった。
拳を握りしめるユーリのドアップがドン!
服も靴も描かれなかった。よろづ先生の決断力!そして大ユーリのかっこいいこと!
「かっこいい……もぅ、ユーリでいいんじゃないかなぁ」とクラッとくる。
だってこの顔であんなセリフとかこんなセリフを言うとか……ネリアよく耐えられると思う。そして発売された2巻……さすがよろづ先生、大ユーリにハートを撃ち抜かれた読者さんが大勢いた。
読者さんみんな、それぞれ推しキャラがいてもよろづ先生が描くと、「イイ……!」となってしまうので罪作りなお人である。
コミカライズが順調なら漫画家さんもいずれ、ユーリの服どうするよ問題に直面することになる。ちょっと心配。
もうユーリの服ぐらい、脱がしちゃってもいいかなぁ。服がボロボロで肌に引っかかっているだけとか。
「ちょっと!やめて下さいよ。どうせ僕ってそういう扱いですよね!」
あ、プリプリ怒っているユーリの顔が目に浮かぶ。
4月に1巻が発売され、2巻は9月。8月は西日が照りつける部屋で、パソコンのモニターに向かうと頭痛がしてきた。
リビングの片隅にあるカウンターに向かい、木製の折り畳みイスで長時間の作業は無理があったらしい。夏は泣きながら原稿を直した。
発売されたときは本当にヘロヘロで、連載をする気力がなくて振り返りSSを掲載した。
読者さんからは「SSばかりで飽きた」とおしかりを受けたのだけど……あのときは本当に申し訳ない。
現在は直射日光が入らないよう、窓に厚めのカーテンをかけ、腰痛防止にのクッションを購入して対策している。
力尽きて寝込む私によろづ先生のイラストが届く。元気いっぱいなネリアの笑顔に、涙がこぼれた。









