3.よろづ先生の応援
1巻が発売された2021年当時は、まだラノベで1発当てる……みたいな成功幻想が生きていたと思う。
「うまくやりやがった」みたいなやっかみや妬み、もっと回りくどく感想欄で持ち上げてから落とす、という絡み方をしてくるにわか読者さんもいた。
デビューしたばかりの新米作家を狙い撃ちする人が、なろうだけでも何人もいて、心構えがなかった私は驚いた。
しばらくして「野球のヤジと同じだ」と気づく。
「ひっこめ下手くそ!」
「おうおう、ちゃんと練習してんのかぁ⁉」
そんな風に選手をののしっても、その人たちは野球を見るのが好きだし、チームを応援している。口汚いヤジも、彼らにとってはストレス発散なのだろう。
罵倒や☆1のレビューより、何の反応も貰えない方がつらい。
ベストセラーを獲ったといっても、それはAmazonだけのこと。市場全体から見れば、まだまだ無名の新人と言えるショボさだったけれど、沈黙していく作家さんたちを前に、ひどいレビューが辛いとは口に出せなかった。それに言葉にすれば、つかみどころのない悪意というものに、負ける気がした。
悔しくて悲しくて寂しい。華々しいデビューの影でそんな心境だったとは、誰も思わないだろう。幸い本で知ってなろうの連載を読みに来た人たちの反応はよく、私自身も書くことで救われた。
よろづ先生からは1巻発売記念イラストを頂いた。
予想もしていなかったことで、驚くと同時に涙が出るほどうれしかった。
お礼を伝えて「なろうの読者さんにも見せたいので」と転載許可を頂く。このイラストは視認性がよく、今も渋谷〇〇書店でアピールするのに役立っている。
それだけでなく、4人の男性キャラクターたちのイラストを、よろづ先生は登場順に次々と描いて下さった。
「竜騎士のライアスは、高潔さを意味する白百合をバックに描きました。他のキャラクターたちを描く際、何かリクエストはありますか?」
「オドゥは眼鏡に指をかけててほしいです!」
オドゥが次にカラーで描かれるのはなんと9巻の表紙。自分でもよく粘ったと思う。
「それから……レオポルドは紫のグラジオラスをバックにして、白猫を抱いていると嬉しいです!」
レオポルドと白猫のエピソードは、1巻だけでなく短編集でも、レオポルド視点でもう一度書き直したお気に入りのシーンだ。本の挿絵で見ることはできなかったけれど、カラーイラストでは困ったように彼を見上げる、白猫の表情がなんとも言えず和む。
「銀髪がいい」
「白猫を抱いているから」
「あ、これが一番俺に似てるから」
渋谷〇〇書店で、『魔術師の杖』を知らないお客さんに見せても、なぜかレオポルドが一番人気だ。無口で凄く書きづらいキャラなのに、主役の華はばっちりあるのだった。
「ユーリはえっと……赤い髪に白いローブだと、梅干しみたいになっちゃいますかね。偉そうに腕を組んでいるポーズがいいです」
よろづ先生はバックの花も近所の公園に撮影に行ったりして、きちんと描いて下さった。これらのイラストは「ミュシャの絵みたい」と、渋谷〇〇書店でも好評で、『魔術師の杖』を全然知らないお客様も持って行かれる。
(プロって手を抜かないんだな……)
そんな風に感じた。その時はよろづ先生の応援が、何よりも力になった。
次々と公開されていくキャラクターのカラーイラスト。連載中のなろうでもイラストに合わせたシーンを書いていき、読者さんにも楽しんで頂けたと思う。
「自分の名前を出せる仕事で楽しかったです」
よろづ先生は会社員という肩書きなだけで、ゲーム会社でIPイラストレーターとして働いていて、漫画家のアシスタント歴もあるし、イラストレーターとしてはベテランのキャリアをお持ちだった。
けれど版権ものでは、よろづ先生の名前が表に出ることはない。それに対してライトノベルでは絵の役割が重要で、表紙には著者とイラストレーター両方の名前がクレジットされる。
(こんなに凄い人が世に知られてないなんて……)
私は正直、自分だけの楽しみで気ままに書いた本が発売されるのは恥ずかしかった。こんなふうに目立つのも、あまり好きじゃなかった。
けれどこの方の絵はもっと多くの人に見てもらいたい。
(百万人の方に見てもらえるように頑張ろう。もっといいものを作ろう)
自分のためなら頑張れないけど、よろづ先生の絵を世に広めるためなら頑張れる。そう考えたら作品に対する批判など、どうでもよくなった。
 









