第五十話
滑る機体の上で、斧たちは必死に中に入ろうとアクションを起こした。
鞠雄だけは鈿音に飛び掛かる。
「来ないでよ!」
鈿音は鞠雄に向かって銃を打ち込んだ。
カチューシャを再び被り、完璧なネコの動きをする鞠雄に鈿音は勝ち目などない。
「中に入る方法を!うん?」
機体の上部が開いた。その機体の中に、プライベートジェットが入り込んでいた。
プライベートジェットが着陸する適当なタイミングで、用意されていたこの機体の上部が、ガレージのように開き、ジェットを受け止める。
機体の上部を閉じて、他の飛行機と同じように滑走路を走り空港に潜む。
「うわあああ」
全員がプライベートジェットのある内部に落ちた。
ぷるウォを持っている者の特権である傷つかない体でなかったらケガしていただろう。
つまり、鈿音はケガをした。落ちたときに足を捻ってしまった。
鞠雄は当然のように無傷だ。
「なぜ機体が開いている!」
「分かりません!」
英語でボディガードたちは騒いでいる。
システムをハッキングしたのは照珊だった。
戻ってきたら、飛行機の上にいる斧たちを見つけたので手助けした。
キャッスル社の取引相手のボディガードが銃を構える。
極秘かつ、方法が方法なので、ボディガードの数は一巨大企業のCEOに対して少なめだ。
斧たちは簡単に制圧した。
鈿音はプライベートジェットに足を引きずりながら移動する。
鞠雄がゆっくりと鈿音を追い詰める。
「ううぅ」
鈿音は銃弾を撒いて鞠雄を転ばせようとしたが無駄だった。
拳銃の残弾数はゼロ。弾を詰めるのも鞠雄との距離を考えると不可能だ。
鈿音は桃姫の声を流して鞠雄に聞かしつけた。
特に効果はなかった。鞠雄は今、戦いを終わらせることしか考えていない。
「………」
「………」
やっと対決する2人だが、対峙したときそこには沈黙しかなかった。
鈿音がやるべきことは2つ。美琴に『終了』を押させることと、鞠雄を倒すこと。
この2つを今の鈿音が出来るはずがない。
鈿音は賭けに出る。
「キツネ〜!」
そのとき、見せかけの機体の搭乗ドアが開く。
「どうしてお前らがここに!そして何故公衆の面前で機体を開かせるんだ?」
玖波jrが入ってきたのだ。
CEOは出てこない。危険な状況に変わりないからだ。今、ここから出てくれば極秘の合併が世間に公開されてしまう。
「お前たち!どうやってここに!」
玖波jrは斧たちに気づく。
逃げようとしたが、既に手遅れだった。
「キツネ!どうしたの!美琴をどこかへ連れて行くんじゃないの?」
鞠雄が鈿音を掴むと、プライベートジェットに向けて投げ飛ばした。
鈿音はジェットの窓にぶつかる。中にはCEOが優雅にくつろいでいた。
プライベートジェットの翼の上に倒れ込んだ鈿音は、銃弾を分解して出てきた火薬をジェットの窓にふりかけた。
そして、持っていたライターで火薬に火をつけて、プライベートジェットの窓をこじ開けた。
「降りなさい……。この機体は私が独占してやる!」
鈿音は痛む足をさすりながら、中のCEOを脅した。
下では、玖波jrが斧に絡んでいた。
「僕の会社を、その建物も従業員もズタボロにして!訴える、そして必ず罪を償わせる!」
鞠雄はプライベートジェットの翼に軽く跳び乗る。鈿音の後ろに立った。
鈿音は鞠雄の気配を感じ、苦しそうな表情をしながら寝転んだ。
「オ〜〜ノ〜〜!」
鞠雄の視線の先にはPCゲーム界を引っ張る会社、
STAR FISHのCEOが立っている。
鞠雄は意識下であろうと、今の無意識であろうと、関係なくこうなったであろうと伝えておく。
鞠雄は喜びのあまりに気絶した。
「さ、戦いをしたい者がいなくなったのなら『終了』だろう!」
キツネが照珊、オッチョチョ、美琴の入った楽器ゲームを見せかけの機体に降り立った。
美琴のぷるウォが『終了』の選択を押した。
「なぜ『終了』を押さないんだ?」
キツネは興味深そうに美琴に尋ねた。
「答えなきゃだめなの?」
美琴は、キツネをなるべく狐として扱おうと努力しているようだった。
「ちょ!待って!美琴ちゃん!私ここから傷つきたくない!」
「いいえ。あなたは私と何らかの繋がりがある。私のためにもこの世界に留まりなさい。」
「あっそう。そっちがそのつもりなら、私にも考えてあるのよ。」
鈿音は桃姫の声のするスマートフォンを照珊に掲げた。
照珊は美琴の安全のために鈿音のやろうとしていることに協力した。アイコンをタップする。
鈿音の持っているスマートフォンは現実と繋がる。
本体設定時間を未来にセットした。
「ねぇ!あんたたちの誰か!これが未来の株価変動よ!儲けるのが目的なら充分な情報だわ!協力して!」
斧はピクリとも動かない。飛びついたのはミニ四駆男だった。
「こいつは俺のとっておきだ!」
ミニ四駆男はカブトムシのメカメカしい車のオモチャを発射させた。
「ゴキブリを見慣れてる私には、虫なんか怖くないわ!」
美琴が鈿音に諦めてもらおうと、ミニ四駆男が行動を起こさないように伝えた。
「ちげーよ!狙いは……」
車型のカブトムシのオモチャは飛び立って鈿音が撃ち破ったプライベートジェットの中へ侵入した。
ジェットの操縦席はパニックに陥った。
カブトムシはそのまま、ジェットのエンジンを起動させた。
翼の上にいる鈿音には関係なかったが、エンジンの前にいて、戦いの最中の美琴はただでは済まない。
「お前、このままじゃスムージーになるぜ!」
ミニ四駆男は操縦席のカブトムシを飛び回らして、興奮しながら、鈿音に投げ渡された未来の株価を見ていた。
「まぁ。いいわ。」
美琴はエンジンに引っ張られながら、鈿音の反応を楽しむように『終了』を押した。
戦いは、『終了』した。
開く機体にキノ婆が跳んできた。
「終わったな。」
「はい。」
「結婚。わしが現実にいないと時間の進み方がどうなるのか分からん。居ないなら止めようがないの。」
「そうですか。」
鞠雄は笑いながらキノ婆に握手した。
「まずは無意識の自分から気にかけてやることじゃ。じゃあな、ろくでなし。」
「俺を呼んだか。ああ、脱出するのか、ご苦労だった。」
斧が駆け寄り冷たく鞠雄を見た。
「バイバイ。」
鞠雄は笑顔で光と共に消えていった。
鞠雄はちゃっかりCEOのサインをもらっていた。




