第四十一話
燃え落ちる渡り廊下。立っていた玖波氏はバランスを崩して渡り廊下から放り出された。
真っ逆さまになった玖波氏は床に激突するところだ。
「仕事を優先!自己犠牲!」
1階ロビーのほとんど中央部に落ちてきた玖波氏を、日本人にされたボディガードが身を挺して受け止めた。
いつものボディガードではここまでの働きはしないだろう。褒めてもいいくらいだが、玖波氏は気絶していた。
「早くこちらへ!落ちてくる!」
隊員の叫びにボディガードが動こうとしたが、受け止めた衝撃で足の付け根の関節を捻ったらしく、激痛が邪魔をした。
車のラジコンがボディガードと玖波氏を引きずった。
入り口に待機している隊員が驚いていると背後からラジコンに突進されて気絶した。
「俺の出前機がぁ!」
カツ丼男は規制線を乗り越えて、キャッスル社に入らんとする騒ぎを起こした。
周りの救急隊員や消防隊がカツ丼男に視線を集中している間に、玖波氏はラジコンで引きずられてミニ四駆男の車に乗せられた。
斧の陣営は、計画通りとまでいかないものの、当初に誘拐する予定の人材を確保したのだった。
取り押さえられたカツ丼男が見たのは、今や木造になって崩れ落ち始めたキャッスル社の姿だった。
西洋風の城は今、日本の城に変身していた。
「……キノ婆は無事なのか。鈿音によれば戦闘中だと。つまり…ダメージを負うんじゃないか。」
取り押さえられながら、隊員たちに聞こえないように呟いた。
渡り廊下の落ちる轟音が響く。
中の様子は確認出来そうにない。
「俺が…分かるか?」
斧は鞠雄の能力を知っている。
今の鞠雄の状態。予想の範囲内だ。元々、鞠雄は自分のために、他人を偽りの幸福、高揚感で包み込む。
鞠雄と斧とは真逆だ。
他人と呼べる相手がいるなら、味方にしようとあえて親切にする。
斧はこの確信があったために鞠雄の目の前に出てきた。
「ダメージぃぃぃ……ぎのこぉぉ。」
鞠雄は斧の持つカツ丼のお握りを素早く奪い取った。
「ウガウ…ウガウ…」
鞠雄がカツ丼のお握りを飲み込む。
「ワンナァァアプゥウウ……」
鞠雄は一気に飛び降りようと使えそうなものを見渡す。ほとんどが炭と化していた。
「さて聞きたいことがある。だが、下に行く前に忠告しておく。消防隊に救急隊は片付けた方がいい。お前の目的の邪魔になるだろう。」
鞠雄はオフィスの備品のハサミがクナイに変化したのを、ロッククライマーの使うピッケルのように木の壁に打ち込んだ。
焼けて脆くなっている木の壁はすんなりとハサミを受け入れた。
斧は躊躇なく一階ロビーに飛び降りた。無傷でロビーに着地する。
キノ婆が鞠雄の降りる様を凝視する様を見ていた。
しかし、凝視という割には焦点が定まっていないようだ。
「消防隊と救急隊を片付けてくれ。ん?いや。俺がやろう。」
斧は出前機にまたがる。
「バイクは初めてだ。」
「最初で最後の白バイ隊員くぁ?」
キノ婆は目の前のバイクの種類も分からなくなったようだ。
病院に行ったのでほとんど居なくなった救急車。
残る消防隊も目の前の建物が一気に変化して木造になった事態に困惑し、放心したようだった。
そこをバイクにどんどんと跳ねられていく。
バイクは隊員を全員撥ね飛ばした後、そのまま斧は玖波氏の高級外車に突っ込んだ。
斧がバイクから飛び降りた。
出前機とぶつかって出来た火で燃え上がる高級外車を確認。
カツ丼男と合流した。
「奴はカツ丼を食べた。そうだな?」
「ああ。だが、能力を使えるのは鞠雄の意識が戻ってくるときに限られるはずだ。」
2人が規制線の外側に避難している背後で吹っ飛んだキノ婆が回転しながら着地した。
「キノ婆さん!奴の意識を戻せそうか?」
カツ丼がキノ婆の体を起こしながら尋ねた。
「おねえさま。自分の素性を明かせ。いいな。」
そう言って、斧は規制線の外に出た。
そのまま寿限無の車に乗り込む。キャッスル社を後にしようとした所で、警察車両が到着した。
玖波氏のボディガードの1人が通報を済ましていたらしい。
「そこの車両!停車して下さい!」
寿限無は無視して突破することを選ぶ。
「この状況よ。夢だったんだぜ。」
斧は溜め息が出た。
車はスーパーカーのようなモデルに変化した。
4人乗っているので歪な感じがするが。
寿限無(ミニ四駆男)は、キャッスル社の敷地につながる複雑な道を、もの凄いコーナリング技術で、スピードを維持しながら抜けた。
「着いてくるなよな。」
寿限無はゴーグルを装着して警察の作る包囲網に対して準備した。
斧は車の中のカバンからブロックのオモチャを取り出した。
車の窓からブロックを撒き散らす。カラカラと軽い音がエンジン音にも負けず聞こえてきた。
斧はぷるウォのアイコンを押してブロックをまきびしに変化させた。
すぐ後ろのパトカーたちはタイヤをパンクさせてしまい、追いかけることが不可能になった。
公道に出ると、目の前をハロウィンの仮装をした暴走族が走っていた。
明らかにこちらを煽ってきている。
暴走族の最後尾がスピードを出しながら片手でエナジードリンクの缶の中身をぶちまけて、缶もこちらに投げてきた。
急にスピードを落とした1台のバイクがバケツいっぱいのオレンジ色のインクを寿限無の歪なスポーツカーに浴びせかけた。
どうやら暴走族のリーダーのようだ。
寿限無の車は姿を変えて装甲車の形になった。
暴走族たちは笑いながら寿限無の車を見ている。
フロントガラスとエンジン部分だけが色が付かず、ジャック・オ・ランタンのような顔をのぞかせた。
後ろを見ながらの走行に暴走族たちは、急に現れた警察の包囲網に気が付かなかった。一台がパトカーに突っかかり、そのまま宙に舞って道路に激突した。
どんどんと暴走族のバイクが止まる。
生意気にもアメリカのハーレーダビッドソンでブランドを統一していた。
金持ちの道楽って奴なのだろう。
装甲車が止まる。斧が降車して、止まっている暴走族のバイクを次々と触っていった。
また装甲車に戻る。
警察の包囲網は倍になっていた。
唯一、斧が触れていない暴走族のリーダーを装甲車で撥ねて、そのまま警察の包囲網に突っ込んだ。
あえなく装甲車に潰された包囲網。
暴走族たちは怒り心頭で装甲車を追いかけようとしたが、自分たちの誇りのバイクは原付に変化していた。
斧のアイコンには"MADE IN JAPAN"の文字が。
能力は〈触れたものを日本製、国産、和風にする〉
というもの。
最初は外国産の牛肉を和牛に変化したりして遊んでいた。
建物などの大型のものを変化させるには時間がかかる。




