■七月九日~二二日 温泉合宿大作戦 承 撮影
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♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第六話 温泉合宿大作戦 承
□七月九日~一三日 鹿鳴館學園からジャングル風呂地帯へ
『運動部衣装魔法少女』菖蒲綾女視点。
『服飾に呪われた魔法少女』五人の中で、何らかの部活に入っているのは、オレ=菖蒲綾女と、スイレンレンゲさんと、宝生明星様の三人だけだぜ。
鹿鳴館學園には多くの部活があり、兼部も推奨されている。
そのため、部活の夏合宿日程は、七月後半のAグループ、八月前半のBグループ、八月後半のCグループへの三分割となっている。
オレたち三人の所属する部活の夏合宿は、全てAグループ日程となっていた。
白金鍍金第二皇子と、その許嫁である芍薬牡丹様が、七月六日の密談で教えてくれた通りだ。
鍍金皇子と牡丹様の話しでは、それは、オレたち『服飾に呪われた魔法少女』の前期末舞踏会出席を妨害するためではないか、とのことだ。
七月九日、オレたち三人は、鹿鳴館學園から、夏合宿が開催される、ジャングル風呂地帯へと出発した。
皇立鹿鳴館學園から、南のジャングル風呂地帯に行くには、五日間かかるんだぜ。
まず、鹿鳴館學園駅から、大陸横断鉄道煩悩号に乗って、皇都トリスへ。
皇都トリスで、大陸縦断鉄道宿業号に乗り継いで、オテダマ市駅で降りるところまでで、三日間。
オテダマ市で、ホテルごとの送迎バスに乗って、更に丸二日間。
七月一三日に、ジャングル風呂地帯に到着したぜ。
ジャングル風呂地帯は、その名のとおり、ジャングルの只中にある、温泉地帯だ。
中央に魔周湖と呼ばれる湖があり、これを取り巻くように、此処彼処から天然温泉が沸き出している。
魔周湖自体は常温の湖だが、その周りには、熱湯が噴出している地獄や、低温の温泉湖が、散在している。
湯源を奪い合うように、昔ながらの温泉宿や、娯楽施設満載の大型温泉ホテルが、営業している。
そのうち、鹿鳴館學園と提携している五つのホテルのいずれかで、夏合宿が開かれる。
オレは、庭球部、陸上部、女子相撲部という三つ部活を、兼部している。
そして、鍍金皇子と、牡丹様も、庭球部だ。
この三部活は、いずれも、宿泊先がホテルアバンチュールだ。
レンゲさんが所属している服飾文化研究部は、フェスティバルホテル。
明星様は、名前のない秘密クラブなんだけど、ちゃんと夏合宿があって、その会場は、パッションホテルだ。
名前のない秘密クラブには、レンゲさんも関係している。
どうするんだろうと思ったら、フェスティバルホテルとパッションホテルは隣接していて、徒歩で移動できるそうだぜ。
オレたち三人の部活について、夏合宿がAグループ日程となるよう仕組んだヤツが本当にいるとして、このホテル配置まで仕組んだのなら、スゴイなって思う。
合宿最終日である七月二四日には、合宿の打ち上げに相当するAグループ合同イベントが、魔周湖畔で開催される。
鍍金皇子、牡丹様、そして、オレたち『服飾に呪われた魔法少女』が學園へ戻るのを妨害するなら、このタイミングの可能性が高いよな。
□七月一四日 庭球部のミーティングと訓練
『運動部衣装魔法少女』菖蒲綾女視点。
鍍金皇子が、庭球部のキャプテンだってことは、もう話したよな。
で、その許嫁の牡丹様が、庭球部の副キャプテンだったりするぜ。
鍍金皇子は、歴代キャプテンが連綿と引き継いできた『超ウルトラグレートデリシャスロンギヌス』という大技を取得しておられるぜ。
ウルトラに、グレートで、デリシャスなスマッシュが、コートに突き刺さる。
ボールがコートにめり込むのでバウンドしない。
直接打ち返そうとすると、ラケットが砕けてしまう。
牡丹様はというと、『マダムバタフライエフェクト』という大技をお持ちだぜ。
サーブを打ったボールが消えて、相手コートのどこかに、唐突に出現する大技だ。
オレは、超ウルトラグレートデリシャスロンギヌス』については、何度か鍍金皇子から指導していただいたことがある。
今では、何とか打てるようになっている。
『神槍グングニル』でも、この技を放てるのが、オレの自慢だぜ。
だから、この夏合宿では、『マダムバタフライエフェクト』をマスターするのがオレの目標だ。
庭球部のミーティングで、その思いを熱く語ったら、「オマエはどうしてこう、脳天気なんだ」と、鍍金キャプテンから、呆れられたぜ。
「それに、オマエ、あれだけ色んなことがあったのに、陸上部の合宿にまで参加する気でいるだろ。止めとけ。オレたちが舞踏会までに學園に帰れなくなるよう何か仕掛けてくるとしたら、陸上部の可能性が高い。とにかく、近寄るな」
□七月一五日 服飾文化研究部のミーティング
『文化部衣装魔法少女』スイレンレンゲ視点
鹿鳴館學園には、長い歴史を持つ、服飾関係の部活が二つあるデス。
『被服流行創出部』と『服飾文化研究部』デス。
この二つの部活と、その卒業生たちが、研鑽し合って、カストリ皇國におけるファションや、服飾の機能研究が進められてきたデス。
『被服流行創出部』は、騎士団との結び付きが深いデス。
舞踏会で着用されるドレスの多くを手がけ、皇國内の流行を創出してきたデス。
その卒業生たちの多くが、デザイナーとして独立起業しているデス。
一方、『服飾文化研究部』は、皇国軍との結び付きが深いデス。
新素材開発や、衣服に聖力や魔力を込める研究を行っているデス。
繊維、アパレル関連企業に務める卒業生が多く、皇國軍造兵廠に入る者もいるデス。
ワタシは、衣服に聖力を込めて聖具を造り出したり、魔力を込めて魔具を造り出すことに興味があって、『服飾文化研究部』へ入部したデス。
『被服流行創出部』も、『服飾文化研究部』も、夏合宿の日程はAグループで、会場はフェスティバルホテルなのデス。
両部とも、例年、この夏合宿において、二つのことを行っているデス。
ひとつは、Aグループ夏合宿の総括イベント、魔周湖ロングビーチで開催される『ドキッ、水着だらけの水上大運動会』の準備デス。
この運動会の競技種目に『お着替え障害物競走』なるものがあるデス。
この競技は、例年『被服流行創出部』と『服飾文化研究部』で競われるもので、両部が作る『お着替え衣装』の出来と、『障害物競走』の速さで、勝敗が決まるデス。
もうひとつは、一〇月に開催される文化祭へ向けての準備を開始するデス。
両部とも、文化際では、新作ウェディングドレスを中心とした展示発表を行うデス。
ワタシは、服飾文化研究部のミーティングに、事前連絡のうえ、二人の部外者を連れてきたデス。
鍍金皇子と、牡丹様デス。
お二人は、服飾文化研究部に、内密の依頼があるデス。
それは、前期末舞踏会に、鍍金第二皇子がエスコートする儚内薄荷ちゃんのために、特別なドレスを作って欲しいというものデス。
第一皇子のエスコート相手である萵苣智恵様については、被服流行創出部の英恵由美部長が手がける新作ドレスを着ることが分かっているデス。
なので、鍍金第二皇子としては、薄荷ちゃんのために、これまでにない特別なドレスを、服飾文化研究部の越野弘美部長に創り出して欲しいと考えているのデス。
越野弘美部長が、首を傾げたデス。
「薄荷ちゃんって『セーラー服魔法少女』の男の娘でしょ。三種の『呪われたセーラー服』以外を着たら、『服飾の呪い』が発動して、衰弱死するのでは……?」
そこで、ワタシが、借り受けてきた衣装を、取りだして見せたデス。
それは、一言でいうと、ピンクのセーラービキニなのデス。
ワタシは、これこそが、キャプテンキッドの秘宝であり、神具『お色気水着』なのだと説明したデス。
これならば、薄荷ちゃんが着用しても、呪いが発動することがないのデス。
次に、ワタシは、ピンクの極薄布地を取りだしてみせたデス。
これは、皇國軍造兵廠が、薄荷ちゃん専用兵装PAN2式のために開発した、布地デス。
『お色気水着』を隠すことなく、それを魅せるように、PAN2式用布地で、ドレスを造って欲しいのデス。
それは、男の娘であることを隠すのではなく、男の娘であることをひきたたせるドレスであって欲しいのデス。
□七月一六日 陸上部のミーティング
『運動部衣装魔法少女』菖蒲綾女視点。
オレが陸上部の合宿に参加することについては、鍍金皇子からだけではなく、『服飾に呪われた魔法少女』仲間のレンゲさんや、明星様からも止められているぜ。
あれだけのことがあったのに、どうして、警戒もなく、平然と交流できるんだって、みんなから呆れられている。
陸上部や、そのキャプテンである、召喚勇者の北斗拳斗に対する、オレの気持ちは、こうだ。
まず、陸上部は、亡き父、菖蒲家は、決仇ってわけでもないから、ゼッタイぶっ殺そうとまでは思わない。
色々あったから、ぶっ殺してもいいんだけど、召喚勇者に加えて、賢者や聖女までいるんだから手強いのも分かってる。
だけど、自分が後れを取るとも思ってない。
オレは、召喚勇者と顔を合わせても、笑っていられる自信がある。
それは、召喚勇者側も一緒だと思う。
だって、『夏合宿のご案内』文書を、オレにも平然と送りつけてきている。
オレが誘いに応じたら、きっと何食わぬ顔で、勇者パーティー入りを、また勧めてくるだろう。
オレは、陸上競技が大好きだ。
その練習だって大好きだ。
それに、陸上部の他の女子たち――つまり、勇者パーティーメンバーの子たち――とは、本当に仲良く練習できていた。
勇者パーティーメンバーに選ばれるだけあって、どの子も、身体能力や、戦闘力が高い。
だけど、話してみると、みんな、普通の子なんだよ。
召喚勇者の力で、召喚勇者に抗えなくさされているだけなんだと思う。
陸上部のミーティングがある日の朝、陸上部で色々面倒をみてくださっていた熾天清良先輩が、こっそり訊ねてきた。
走り高跳びの選手で、戦闘時には、頭上に浮かんでいる輪っかを、チャクラムみたいに投げてくる。
室内に招き入れ、他に誰もいないというのに、清良先輩は、小声で耳打ちしてくる。
「あんたのことだから、今日のミーティングに、参加する気でしょ。来ちゃダメって、言いにきたの」
清良先輩の話しは、こうだ。
陸上部の拳斗キャプテンは、槍投げの才があるオレに、未練タラタラだ。
だけど、他の部員は違う。
陸上部員は、元々二百名ほどいた。
そのほとんどが、勇者パーティーメンバーか、『賢者聖騎士』の學生部隊員か、『聖女親衛隊』の學生部隊員だ。
ところが、勇者パーティーメンバーについては、元々三十人ほどいたのに、既に半数が死亡している。
『聖女親衛隊』に至っては、一分隊三十人が、全滅している。
そして、オレたち『服飾に呪われた魔法少女』こそが、勇者パーティーメンバーを半減させ、『聖女親衛隊』一分隊を全滅させた、張本人だ。
当然、部員の多くが、オレに殺意を抱いているそうだ。
ちゃんと状況を理解している者も、いるにはいる。
この状況に至った原因は、召喚勇者側にあるのだと……。
それでも、拳斗が持つ、召喚勇者のロールが持つ支配力は強固だ。
特に、勇者パーティーメンバーについては、そのまま拳斗のハーレムメンバーであり、どんなに足掻いても、精神的な強制力が働いて抗えないのだという。
清良先輩は、先日の戦いで、智天瑠美さんを失った。
一緒に、勇者パーティーメンバーに入り、共に研鑽してきた親友だった。
だからこそ、なんとか、勇者パーティーを抜けるなり、召喚勇者の支配体制を崩すなり、抗おうとしたのに、どうしてもできなかった。
気がついたら、また勇者拳斗に抱かれている始末だった。
もし、オレが陸上部の合宿になんて顔を出したら、間違いなく、自分と同じ状態にされてしまう。
「だから、来ちゃだめ」と説得された。
オレは、陸上部の合宿参加を断念した。
□七月一七日 名前のない秘密サークルのミーティング
『舞踏衣装魔法少女』の宝生明星様視点。
鹿鳴館學園には、女生徒だけで組織された、名前のない秘密クラブがある。
その秘密クラブは、仲間うちでだけ、『801』と呼称される。
『801』の夏合宿は、必ず、七月後半のAグループ日程にしてもらっている。
毎年八月一日――つまり8/01――に開催される『薄い本頒布会』の準備を行うためだ。
『薄い本頒布会』とは、『男性向け』と『女性向け』両方の『薄い本』が集まる地下イベントだ。
このイベントは、『男性向け』と『女性向け』で、主宰が異なる。
『男性向け』部門を仕切りは『新聞部』で、『女性向け』部門を仕切っているのが『801』だ。
夏合宿では、『女性向け』部門の、詳細を決定し、準備を進める。
『801』の総帥は祓衣清女様だが、ご多忙なため合宿には来られていない。
『薄い本頒布会』に関することは、事務局長である僕――宝生明星――に、一任されている。
なので、僕は、情報部長であるスイレンレンゲさんと一緒に、ミーティングを進めていく。
まず、重要なのは、薄い本を頒布するサークルの選定と、会場のコマ割り作業だ。
例年であれば、単純に、薄い本のテーマ別に場所を区切り、サークルの人気に応じて配置するだけで済む。
しかしながら、今年は、状況が異なる。
というのは、今年に限って、『女性向け』部門だけ、カップリングテーマを設定したからだ。
今年のカップリングを、『鍍金×薄荷』もしくは『薄荷×鍍金』に限定したのだ。
これは、鍍金第二皇子と牡丹様の企てに、協力するためだ。
何しろ、『前期末舞踏会』が七月三〇日で、『薄い本頒布会』が八月一日だ。
『801』の志を同じくする者たちが、事前に動いて『薄い本』を作りはじめたら、鍍金皇子が前期末舞踏会でエスコートする相手が、儚内薄荷ちゃんでなければ収まらないという気運を造り出せる。
また、『前期末舞踏会』において薄荷ちゃんがデビュタントを飾った後に、『薄い本頒布会』が開かれれば、『薄い本』が売れまくるだろう。
薄荷ちゃんは、『セーラー服魔法少女』として、更には『科學戦隊レオタンお色気ピンク』として、大活躍中だから、参加サークル側に異存はない。
それでも、この目論見を成功させるには、『801』から『薄い本頒布会』参加サークルに働きかけ、情報や、『ネタ』を提供する必要がある。
『801』をあげての、注力が必要となる。
となると、困ったことに、本来ならこの夏合宿中にやるべき、もうひとつのことに時間を割くことができない。
『薄い本頒布会』では、薄い本の頒布と同時に、必ずステージイベントを開催している。
その企画と手配が難しいのだ。
どう進めるか困っていたら、合宿直前に、たいへんありがたい申し出があった。
『貴腐人会』の方々が、「そういう状況であれば、ステージイベントは、わたくしたちの方で仕切りましょう」と言ってくださったのだ。
『貴腐人会』というのは、『801』のOG会だ。
今や、各界に影響力を持つ、影の大組織となっている。
ただし、高貴な身分を持つ、うるさがたばかりだ。
『801』活動についても、それぞれの主義主張が激しく、普段ならばお相手するだけでもたいへんだ。
ところが、皆さん、薄荷ちゃんについてだけは、一様にご贔屓くださっている。
「なんとしても、薄荷ちゃんを、前期末舞踏会へ送り込みましょう」と息巻いておられる。
そこで、ステージイベントは『貴腐人会』にお任せし、今年の夏合宿は、薄い本の準備に専念させていただいている。
□七月一八日 転移能力検証
『文化部衣装魔法少女』スイレンレンゲ視点。
いざというとき、ワタシが、儚内薄荷ちゃんを、転移させられないか、鍍金皇子と牡丹様から、何度が訊ねられたデス。
訊かれる度に、距離が遠すぎてムリだと回答したデス。
ここ、ジャングル風呂地帯で、とにかく、実際に、一度試してみてくれと言われたデス。
この日、木炭車を一台用意してもらって、菖蒲綾女ちゃんの運転で、ジャングル風呂地帯を、あちこち回って、試してみたデス。
まず、ワタシが転移できるのは、視認できる近距離か、はっきりと記憶している場所だけデス。
ただ、記憶している場所ならどこでもというわけではなく、距離の制限があるのデス。
皇都トリスから、鹿鳴館學園までぐらいの距離で、精一杯なのデス。
このジャングル風呂地帯から、鹿鳴館學園までとなると、とんでもない距離なのでムリなのデス。
ここから最も近くて、記憶にある場所は、大陸縦断鉄道の駅があるオテダマ市だけど、そこまでだって、遠すぎて転移はムリデス。
仮に、視認できる近距離への転移を繰り返すとしたら、魔力が持たないデス。
それに、このジャングル風呂地帯は、広大な原生林のただ中デス。
原生林の中だと、遠くが見えないシ、数回転移しただけで方向を見失いそうデス。
鍍金皇子と牡丹様には、やっぱりムリデスと、報告したデス。
□七月二二日 女子相撲部 温泉タイム
『運動部衣装魔法少女』菖蒲綾女ちゃん視点。
オレは、この夏合宿において、庭球部の練習と、女子相撲部の稽古まみれの日々を送った。
充実していて、メチャクチャ、楽しかったぜ。
今日は、女子相撲部の稽古に参加している。
明日が、Aグループ夏合宿最終日だ。
打ち上げに相当する合同イベント『ドキッ、水着だらけの水上大運動会』が、魔周湖畔で開催されるんだぜ。
我が菖蒲子爵家は、武門の家柄だ。
単に槍が強ければいいというだけじゃない。
格闘技の習得も、必須なんだぜ。
子供の頃から、男の子たちに混じって、相撲をやっていたぜ。
その頃、不満だったのは、男子たちは、みんな、裸に相撲まわし一丁だったのに、女子のオレだけ体操服のうえに相撲まわしを付けるよう強要されたことだ。
当時は、これって、女子差別だと、憤慨していたぜ。
あくまで、『当時は』であって、今は、そんな恥ずかしいことを、やろうなんて思わない。
オレは、子供の頃から、テニスと、槍投げと、相撲に夢中だった。
そして、子供の頃から、鹿鳴館學園に、庭球部と、陸上部と、女子相撲部があるって知っていた。
だから、自分が『服飾に呪われた魔法少女』の一人になって、送られてきた、『平服』がテニスウェアで、『体育服』が陸上ウェアで、『道衣』が相撲まわしだったのは、当然だと思った。
ちなみに、女子相撲の場合、『相撲まわし』の下に着るものについて、厳格な決まりはない。
ただ、鹿鳴館學園女子相撲部では、色とりどりのレスリングレオタードを着用している。
オレの場合、『呪われた服飾』は『平服』『体育服』『道衣』の三種とも、若葉色だ。
☆
女子相撲部の、夏合宿は、第二回『伝説の鳳凰チャンピオンまわし』争奪戦だった。
女子相撲部に伝わる『伝説の化粧まわし』なのに、大会は二回目……。
実は、ノリで『伝説の』と謳っているだけだ。
この『伝説の相撲まわし』って、実際は、レンゲさんが、服飾文化研究部で、コスプレ用小道具として造ってくれた代物だ。
四月末に、一回目の『伝説の鳳凰チャンピオンまわし』争奪戦を開催した。
國営テレビがノリノリで、全試合を撮影した。
各力士のプロフィール、得意技紹介、更に練習風景を加え、新スポーツ番組として放送したら、大人気になった。
女子相撲って、それまで注目度が低かったから、部員はみんな、大喜びだった。
新入部員も一気に増えた。
國営テレビから、是非またやってくれと申し入れがあった。
オレたちも、願ったり叶ったりで、そこで、この夏場所で第二回争奪戦をという次第だぜ。
女子相撲では、部員を、名前ではなく、四股名で呼び合う。
東西の横綱が、部長の二ツ山と、副部長の玉之輿。
大関が三人いて、桃尻姫、姉ケ淵、弾丸娘。
この弾丸娘ってぇのが、オレ。
オレは、小柄だけど、素早くて、魔力を込めて突っ込むから、肉弾戦でも当たり負けしない。
そこで、部長から、この四股名を貰った。
一回目の『伝説の鳳凰チャンピオンまわし』争奪戦で、優勝のかかった千秋楽結びの一番は、部長とオレの勝負となった。
部長は、大柄で、胸がたいそう立派だぜ。
失礼な質問になりそうで訊ねたことはないけど、二ツ山の四股名は、そこからだと思う。
部員達は、尊敬を込めて、二ツ山親方と呼んでいる。
あのとき、オレは、親方の胸を借りるつもりで、全身全霊を込めて頭から突っこんだ。
双方頭がぶつかって、ゴツンと鈍い音が響いた。
背の低さを利用し、両差しで潜り込む。
部長の上半身が、跳ね上がる。
そのまま土俵際まで追い込み、一瞬、勝てたかと思ったぜ。
そのとき、部長が、オレの頭越しに、上手から『相撲まわし』を両手で取り、自分の後方に、うっちゃり投げた。
播磨投げで、オレの負け。
目を瞠る大技に、観客席が沸き、あれが、現在の女子相撲人気を確定づけたと思う。
そして、この夏場所、またしても、千秋楽結びの一番は、部長とオレの勝負となった。
オレは、負けず嫌いだ。
体格差を覆して、今度こそ、何としても部長に勝ちたい。
立合いと同時に、部長の目前に両手を突き出し、バチンと掌を合わせて叩いた。
『猫騙し』だ。
一発勝負の奇襲だ。
オレは、ここまで、一つ覚えみたいに、猪突猛進しつづけていた。
だから、これは、完全に意表を突く一手となった。
部長は、思わず目を瞑り、「腰砕け」となった。
かくして、オレは、『伝説の鳳凰チャンピオンまわし』を初めて巻いた。
錦糸で刺繍さけた鳳凰が素晴らしい美事な、『化粧まわし』だ。
片手の拳を、天に突き上げ、「ダーッ!」と叫んだ。
☆
運動部の部活のシメは、必ず温泉三昧だ。
なにしろ、合宿先である、このホテルアバンチュールの売りは、百種類のお風呂があることだ。
ここまで、毎日、違うお風呂を堪能してきた。
今日、オレたちは、『牛乳風呂』だ。
白濁したプレーンの『牛乳風呂』に加え、『コーヒー牛乳風呂』や『フルーツ牛乳風呂』まで並んでいる。
部員全員で、全員素っ裸になって、ワイワイガヤガヤと楽しくやっていたら、乱入者があった。
女子プロレス部の奴らだ。
女子相撲部と、女子プロレス部は、自他共に認めるライバル関係にある。
ともにエンターテイメント性の高い格闘技として、競い合ってきた。
ただ、近年は、女子プロレスが人気で、女子相撲は人気低迷気味だった。
女子プロレスは、カワイイ水着姿で戦うが、女子相撲はダサイ『相撲まわし』だ。
女子プロレスは、反則可のうえ、試合時間が長く、山あり谷ありの演出が可能だ。
これに対し、女子相撲は、一瞬で勝負がついてしまう。
これが人気の差となっていた。
ところが、いきなり今年、女子相撲が脚光を浴び、大人気となった。
実は、女子プロレス部を退部して、女子相撲部に転部してきた者が、数人いる。
これは、女子プロレス部側からすれば、面白くないだろう。
女子プロレス部は、互いをリングネームで呼び合う。
部長は、女戦士で、部員たちからは族長と呼ばれている。
その女戦士が、配下を連れて、浴場に割り込んできた。
オレたちが、『牛乳風呂』に集まっていたら、『コーヒー牛乳風呂』と『フルーツ牛乳風呂』側から乱入し、占拠してきた。
しかも、『コーヒー牛乳風呂』と『フルーツ牛乳風呂』のお湯を、ケロリン桶で掬って、『牛乳風呂』に混入してくる。
うちの二ツ山親方が、一喝する。
「『牛乳風呂』を汚すんじゃねぇ!」
「牛乳はカクテルがウマイんだろうが!」
女戦士族長が、言い返す。
「それに、んなこたぁ、どうでもいいんだよ。うちらは、宣戦布告に来たんだ。おい黒女豹に舞獅子、あれを出しな!」
女戦士族長から呼ばれた二人が、キンキラキンの帯みたいなものを広げた。
「こいつは、我が女子プロレス部に伝わる『伝承の麒麟チャンピオンベルト』だ。明日の合同打ち上げ合同イベント『ドキッ、水着だらけの水上大運動会』で、こいつと、おたくの『伝説の鳳凰チャンピオンまわし』を賭けて戦おうぜ。種目は、『尻相撲バトルロワイヤル』。最後まで残っている奴がいた方の部活が勝ちだ。負けた方が相手に、チャンピオンの証しを差し出すんだ」
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■七月二三日 温泉お色気仲居修行 承 撮影
ボク、科學戦隊レンオタンの一人として、立派な『お色気ピンク』にならなきゃ。
だから、ボク、決心したんだ。
部屋に、「『お色気』の修行に出ます。必ず、戻ります。捜さないでください」という、書き置きを残して、旅立った。