■七月二日 お色気水着 ブリーフィング
ボクの名前は、儚内薄荷。
『セーラー服魔法少女』なんだけど……ええっと、『科學戦隊お色気ピンク』にもなっちゃった。
フェロモン諸島での撮影は、本当に大変だった。
『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ 第五話 キャプテンキッドの秘宝』全四パートと、『科學戦隊レオタン テレビシリーズ 第一話 恐怖の大王』全四パートの撮影が並行して行われた。
とくに、ボクと、金平糖菓ちゃんは、両シリーズにでずっぱりだったから、またしても、眠る暇もない忙しさだった。
『科學戦隊レオタン テレビシリーズ』なんて、『魔法少女テレビシリーズ』とは違って、素の自分とは別の役柄になっちゃってる。
まるで、絵空事みたいなのに、事件は、実際起こっていて、沢山の魔獣や人間が死んでいく。
ボクだって、沢山殺した。
そうしなきゃ、自分が死んじゃうから――。
ボク、巡業統括の毀誉褒貶氏に、喰ってかかったことがある。
「ボクの両手は、もう血だらけです。これって、どこまでがホントのことなんですか?」
そしたら、逆に、諫められた。
「どこまでも、全部が、ホントの出来事です。ウソなんて一欠片もありませんよ。物語と、この世界の在りようを改変してしまった当人が、いまさら、なにを言ってるんですか」
☆
六月二八日にクランクアップして、そのまま撤収作業が始まった。
七月一日、アヤトリ市駅の軍用車両置場にて、天罰号への荷物の積み込みが完了した。
天罰号って、ほら、各車両に、科學戦隊と魔法少女、計九人の絵が描かれた、あのラッピング列車だよ。
荷物の積み込みで、一番大変だったのは、やっぱり科學戦隊の戦闘車両五台だった。
テレビ番組では、『恐怖の大王』のラストは、戦闘車両五台が空を飛んで、巨門島を離れるところで終わっている。
だけど、実際は、巨門島に再着陸して、戦闘車両を一台づつコンテナに収納し、ポンポン船経由で、天罰号へと積み込んだ。
『服飾に呪われた魔法少女』と『科學戦隊レオタン』は、戦闘車両等の機材とともに、七月一日のうちにアヤトリ市駅を出立した。
予定では、七月五日に科學戦隊基地駅に着く。
科學戦隊員とボクは、天罰号ごと、そこに居残って、次の撮影。
ボク以外の魔法少女四人は、ここで大陸横断鉄道に乗り換えて、一旦鹿鳴館學園へ戻る予定だそうだ。
☆
今日――七月二日――は、ブリーフィングだ。
走行中の天罰号に牽かれている客車のひとつに、主要メンバーが集められた。
○『服飾に呪われた魔法少女』たち。
『スクール水着魔女っ子』の金平糖菓ちゃん。
『運動部衣装魔法少女』の菖蒲綾女ちゃん。
『文化部衣装魔法少女』のスイレンレンゲさん。
『舞踏衣装魔法少女』の宝生明星様。
そして、『セーラー服魔法少女』の、ボク、儚内薄荷だ。
○『科學戦隊レオタン』の隊員たち。
リーダー『爆炎レッド』の南蛮増長さん。
サブリーダー『氷結ブルー』の北狄多聞さん。
『雷撃イエロー』の東夷持國さん。
『旋風グリーン』の西戎広目さんだ。
そして、再び、不本意ながら『お色気ピンク』を押しつけられてしまった、ボク、儚内薄荷だ。
○作戦を遂行しているカストリ皇國軍関係者。
軍属で巡業統括の毀誉褒貶氏。
造兵廠研究官の蛇行濁流少佐。
このメンバーで集まると、褒貶氏が、進行役となる。
それに、話される内容は、闇烏暗部皇國軍参謀の意向に基づく、決定事項の上意下達だ。
ボクたちの意見が、訊きいれてもらえるようなことなんて、ほとんどない。
褒貶氏が、今後の『物語』展開について説明している。
「『物語』の、次の舞台は、南の『ジャングル風呂地帯』となりますです。『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ』の第六話が『温泉合宿大作戦』、『科學戦隊レオタン テレビシリーズ』の第二話が『温泉お色気仲居修行』となりますです。ご存じのように、『テレビシリーズ』においては、途中のどこかで、『温泉+水着回』を入れることが、『お約束』になっており、外すことができないのですです」
――マタ、トンデモナイコト、イイダシマシタヨ、コノヒト……。
そんな展開となれば、ボクなんて、生贄確定だ。
ボクは、抵抗を試みた。
「あのう……『温泉+水着回』って、ムリがありますよね。『服飾に呪われた魔法少女』は、呪われた服飾しか着れないし、呪われた服飾が水着なのは、糖菓ちゃんだけですし……』
「なに言っているですか。『服飾に呪われた魔法少女』は、呪われた服飾しか着れないだけで、それを脱ぐことについては問題ないと、第四話で、明らかになっているです。それに――」と、褒貶氏が、糖菓ちゃんに、手を差し出す。
「お願いしたものは、お持ちいただけましたですか?」
糖菓ちゃんが「はい」と答えて、手にしていた「玉手箱」を差し出した。
糖菓ちゃんが『妙見珊瑚礁』に潜って、あれを手に入れたとき、ボクも同じ船の甲板にいた。
だから、知ってる。
あの中身は、『お色気水着』だ。
褒貶氏が受け取ろうとしたら、濁流少佐が横から手を伸ばして、それを、かっ攫った。
素早く蓋を開けて、あちこちに紐の付いた、ピンク色のレース布地二枚を取りだした。
ビキニのトップスと、ボトムスだ。
布地を、鼻に近づけて、クンカクンカ臭いを嗅いで確認している。
濁流少佐は、PAN2式をボクに渡すときも、臭いを確認していた。
もしかしたら、嗅覚で、聖力や魔力の有無を確認できるのかもしれない。
「間違いないであります。これこそが、伝説の防具『お色気水着』であります。伝説の勇者パーティーの防具『あ○ない水着』の、上位互換品であります。ああ、かくも神々しい防具に、直に触れて、研究できる機会が来ようとは――!」と、感激している。
「さて、儚内薄荷さん」と、褒貶氏が、ボクのことを意味ありげに、フルネームで呼んだ。
「この、『お色気水着』ですが、銘に『お色気』と冠されているのですです」
「はい、そうですね」と、ボクは、一歩後退る。
「それから、この、『お色気水着』ですが、テカテカのピンク色なのですです」
「はい、そうですね」と、ボクは、二歩後退る。
褒貶氏が言いたいことは、いくら察しの悪いボクでも分かる。
「で、でも、ほら、これ、明らかにサイズが合ってないですよ。トップスは、Gカップだから、AAカップのボクにはスカスカ、ブカブカです。ポトムスは、こんなに布地が小さかったら、ボクのがいくら小さいからって、ぜったいに収納できませんって」
「分からないのですか?」と、濁流少佐。
「『妙見珊瑚礁』の御社に、邪神であらせられた恐怖の大王烏賊様がお護りしていた防具であります。力を持った神具に、違いないのであります。推測するに、『お色気水着』は、着用者の肉体に適合するよう、変形してくれるはずなのであります」
ボクは、断固拒否した。
「もはや、恥ずかしい云々じゃないんです。ボク、セーラー服なんか強要させられているけど、これでも、男の子なんです。なのに、こんなの着させられたら、もう、男子としての最後の矜持というか、プライドの最後の砦というか、アイデンティティというか、そんな大切なものが、粉々に砕けてしまう気がするんです。だから、お願いします。これだけは、勘弁してください」
「いやはや、この場に闇烏暗部皇國軍参謀が、いらっしゃらなくて、良かったですです。参謀がいらしたら、薄荷さんは、『甘えるな!』とか怒鳴られて、鉄拳制裁でボコボコにされてましたです」と、褒貶氏が天を仰いだ。
三人の女性兵士が呼ばれて、ボクは、隣の車両で、裸に剥かれて、強制お着替えさせられた。
羽交い締めにされての、屈辱的なお着替えだった。
そして、ビキニを着用させられて、再度、全員が待っている、元の車両に、放り出された。
☆
みんなが待っている元の車両に、放り出された瞬間、ボクは、せめて、ちゃんと立っていようとした。
なのに、それができなかった。
身体のバランスが、オカシイ。
下半身の前側が軽く、上半身の前側が重たい。
ボクは、うつ伏せで、這い這いでもするような姿勢となり、起き上がれなかった。
自身の身体の状態を確認すべく、視線を巡らす。
ちゃんと『お色気水着』、つまり、ビキニは着用できている。
ただ、胸部に、ばかでかい脂肪の塊が二つあって、その下が見えない。
女の子座りに、なりながら、脂肪の塊を掻き分けるようにして、その下を覗き込む。
すると、ボトムスの、股間のあたりが、あり得ないほどスッキリしている。
つまりだ、『お色気水着』が、ボクの肉体に適合するよう変形したのではなく、Gカップビキニに適合するよう、ボクの身体の方を変形させたのだ。
これは、性転換とかではないと、自覚している。
『お色気水着』を脱いだら、ボクの肉体、つまり、発育不全の男子の肉体に戻ると、自覚している。
それにしても、サイズ感がオカシイ。
だって、『お色気水着』にボクの肉体を適合させたのであれば、胸と股間だけでなく、身体全体が大人の女性になっているはずだ。
なのに、身長とか、身体全体のサイズは、ちんちくりんな、元のボクのまんまなのだ。
これだと……いわゆる……『ロ○巨○』だ。
うわーーっ、こんな自分を認めたくない。
『お色気水着』側も、変化している。
トップスに、ビキニ水着でありながら、セーラー襟が出現している。
つまり、これって、『セーラービキニ』姿ってことだ。
ボトムスのお尻を確認したけど、そこに白鼠様はいない。
今後、『お色気水着』姿を強要されるのなら、せめてパレオが欲しい。
濁流少佐が、興味津々で、『武具』としての性能確認を求めてくる。
なので、拳を握ってみる。
魔法少女としての力は、行使できそうにない。
戦うのは無理だけど、衰弱する感じもない。
『お色気水着』って、『神器』なのは確かだ。
だけど、『武具』ではなくて、『衣装』だと思う。
ボクが普段着用させられている下着は、AAカップのスポーツブラと、白パンツだ。
もし、その下着姿で人前に出たら――そんなことやったことないし、やるつもりもないけど――たぶん、同じ状態になると思う。
つまり、『お色気水着』は、『服飾の呪い』から、下着判定されているみたい。
訊かれるままに、そんなことを答えていたら、濁流少佐から真顔で宣告された。
「触診テストを実施します」
ボクは、自分の胸を押さえて、「イヤ」っと、後退った。
「兵装の開発責任者として、必要なテストです」
濁流少佐は、両手の指を、わきわきさせている。
糖菓ちゃんが、ボクと濁流少佐の間に割って入った。
「だめ、薄荷ちゃんの胸を揉んでいいのは、うちら『服飾に呪われた魔法少女』だけなん」
濁流少佐は、ボクへの触診テストを強行できる立場にある。
今のボクは、皇國軍に徴兵された三等兵でしかないからだ。
でも、濁流少佐は、強行しなかった。
「仕方ないであります。『お色気水着』の所有権は、『金平水軍』にあるのでありますからな。では、糖菓さん、自分に代わって、触診テストを実施して欲しいのであります」
糖菓ちゃんは、濁流少佐の指示に従って、ボクの全身をくまなく触りまくった。
『お色気水着』の上から触る限り、ボクの全身は、間違いなく女性のものになっていることが確認された。
――しかも、かなり感度が、良さそう。
ボクは、自分でそう思ったけど、決して口にはしなかった。
興味深かったのは、『お色気水着』の下に手を滑りこませようと試みたときだ。
ちょっとでも、『お色気水着』が、ボクの皮膚から持ち上がった瞬間、ボクの肉体は、元の貧弱な男子のものに戻ってしまう。
そして、その状態で、手を離すと、今度は、豊満な女性へと戻る。
我がことながら、驚きだった。
☆
褒貶氏による、非情な宣告で、この日のブリーフィングが終了した。
「『服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ』の次話『温泉合宿大作戦』と、『科學戦隊レオタン テレビシリーズ』の次話『温泉お色気仲居修行』の撮影時、薄荷さんには、『お色気水着』を着用していただきますです。覚悟を決めておくです」
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■七月六日 温泉合宿大作戦 起 撮影
綾女ちゃん、レンゲさん、そして明星様の三人は、鍍金第二皇子と、その許嫁である牡丹様のお二人と対面していた。
このタイミングで牡丹様が登場してきたこと自体、驚きだけど、牡丹様は、更にトンデモナイ、驚きの提案をしてきた。
かくして、ボクの知らないところで、温泉合宿大作戦が、動きはじめた。




