■六月二八日 恐怖の大王 結 撮影
♠♠♠科學戦隊レオタン テレビシリーズ
♠♠♠第一話 恐怖の大王 結
ドドドドドーーーーンと、轟音が響き、島が揺れた。
入り江の先、海中から、海馬どころではない、もっと巨大なものが、飛び出してきた。
真っ黒なスミを吐いて跳躍し、ズドドドドンと、僕らの傍に降り立った。
それは、恐怖の大王……というか、恐怖の大王烏賊……様だった。
十本の触手を持つ、巨大イカだ。
全長三〇メートルはあるだろうか――。
恐怖の大王烏賊様は、十本ある触手のうち、六本で、僕らを絡め取る。
触手の先に、びっしりと吸盤があって、それに吸い付けられている。
まず、僕――東夷持國――を含む男子が四人だ。
僕は、なぜか、『筋ピク』と呼ばれている。
それから、この巨門島で知り合った『筋肉ダルマ』さん、『ガチムチ』さん、『筋ショタ』くんの三人だ。
それから、『大王の巫女』が二人だ。
女の子の、旧スク水っ子と、男の娘の、セーラーレオタっ子だ。
セーラーレオタっ子については、男の娘のくせに、巫女として認められているらしい。
恐怖の大王烏賊様は、触手十本の下にある口――烏賊――を開いて、キュイイイイイイーーーンと吠えた。
目と目の間に突き出た漏斗から、真っ黒なスミを大量に噴出させる。
同時に、僕らを掴んでない四本の触手で地面を蹴って、再度跳躍する。
そして、今度は、島の中央部に、降り立った。
そこは、ボクたちが、さっきまで居た、カルデラの中だ。
傍らに、火口や、五本の石柱が見える。
僕たちの脳内に声が、聞こえた。
ものすごい、重低音だ。
――小賢しい小物が多い中、お主らのような、
おバカは、いっそ清々しい。
気に入ったから、百年前、天津神が、
『あの世界』から『この世界』への、引っ越しの挨拶にと、
儂のもとに持ってきた品を、お主らにくれてやろう。
カルデラの火口部分を囲むように立っていた、五本の巨大な石柱が震える。
石材であったはずのそれが、金属質の光を帯びる。
水銀ででもあるかのように、溶けていく。
そして、明確な、形を取りはじめる。
気がつくと、異様な形態をした、五つのメカへと変様していた。
木炭車の三輪トラックより、ひとまわり小さい。
一見、車両のように見えるが、車輪がない。
車輪のあるべきところに、脚がある。
四本脚のクモみたいな形状だ。
各メカは、赤、青、黄、緑、そしてピンクの五色に塗り分けられている。
僕は、これが何だか、知っている。
科學戦隊用の戦闘車両だ。
皇立鹿鳴館學園の科學戦隊育成科に入學した際、科學戦隊基地まで研修に行かされ、現物を見たことがあるから、間違いない。
それが、こんな國のはずれの島にあるなんて……。
それも、百年前からって……。
そういう設定?
設定ってナニ?
明らかな矛盾があるが、そういう物語だから、納得しろってことらしい。
そして、僕らは、物語から選ばれた……いや、まさか……ね?
恐怖の大王烏賊様は、『筋肉ダルマ』さんを抱えた触手を、高く掲げる。
――お主は、今日から、『爆炎レッド』と名乗るが良い。
『爆炎レッド』となった『筋肉ダルマ』さんの衣服が、男子体操用レオタード+長パン姿へとチェンジされた。
その色は、キャプテンらしいスカーレットレッドだ。
恐怖の大王烏賊様は、『ガチムチ』さんを抱えた触手を、高く掲げる。
――お主は、『氷結ブルー』じゃ。
『氷結ブルー』となった『ガチムチ』さんの衣服が、男子体操用レオタード+長パン姿へとチェンジされた。
その色は、北の海を思わせるマリンブルーだ。
恐怖の大王烏賊様は、僕を抱えた触手を、高く掲げる。
――お主は、『雷撃イエロー』じゃ。
『雷撃イエロー』となった僕の衣服が、男子体操用レオタード+短パン姿へとチェンジされた。
な、なんで、短パン。
僕も、長パンにして欲しかった。
衣装の色は、向日葵みたいなクロムイエローだ。
恐怖の大王烏賊様は、『筋ショタ』くんを抱えた触手を、高く掲げる。
――お主は、『旋風グリーン』じゃ。
『旋風グリーン』となった『筋ショタ』くんの衣服が、男子体操用レオタード+短パン姿へとチェンジされた。
短パン仲間が増えたことに、ちょっとホッとする。
その色は、輝くようなエメラルドグリーンだ。
恐怖の大王烏賊様は、セーラーレオタっ子を抱えた触手を、高く掲げる。
――さて、薄荷よ。
失神しているふりは止めて、目を開け。
お主が、とっくに目覚めていることに、
この場にいる全員が、気づいておる。
さきほど、金貨を確り握り込んで、
ムフフと、頬を緩めておったではないか。
セーラーレオタっ子は、薄荷という名前らしい。
気まずそうに目を開き、テヘッと笑って誤魔化そうとしている。
――お主は、「この巫女さんを、僕のお嫁さんにください」という
『旋風グリーン』の願いに応じ、奉納された金貨を受け取った。
神への供物を、その巫女が受け取った以上、
その願いは叶えられねばならん。
お主は、巫女の座を降り、肉体的には男だが、
『旋風グリーン』の嫁として、生涯を共にせよ。
薄荷は、自分が、やらかしてしまったことに、ようやく気がついて、取り乱しまくっている。
「うわわわわわわっ、ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。ホント、ゴメンナサイ。キラキラの金貨を差し出されたものだから、何も考えなしに受け取っちゃいました。銀貨や銅貨だったら、ガマンできたと思うんです。けど、ほら、金貨だったから、何をお願いされてるのか、考えるより先に受け取っちゃいました。ごめんなさい。ボク、男の人は無理なんです。コワイんです。金貨はお返ししますから……」
そう言って、金貨を握り込んでいたはずの掌を開いたが、そこから金貨が消えている。
「あれっ!」と驚き、両手や自身の身体を確認している。
だけど、セーラーレオタードにポケットなんてないし、身体に密着していて隠せる場所もない。
――バカモノ。
『旋風グリーン』は、願いを申す際、
「恐怖の大王様」と呼びかけたのじゃ。
つまり、お主ではなく、儂に願掛けしたのじゃから、
この金貨は、儂への供物じゃ。
金貨は、いつの間にか、「恐怖の大王様」の、別の触手の吸盤に貼り付いていた。
――儂は、邪神としての力を失い、消え去ろうとしておる。
だが、だからこそ、なおさら、
自身の巫女が受けてしまった願いを、
反故にするつもりはないのじゃ。
――妙見珊瑚礁の御社に、一室を用意するから、
今夜そこで、初夜を迎えよ。
薄荷は、「うわ~~~~~ん。ごめんなさい。ごめんなさい。ボク、ムリなんです、ごめんなさい」と、手脚をバタバタさせて、泣き叫び始めた。
それは、どう見ても、十五歳になった成人男子の所業とは思えない。
「大王様、ボクなんか、いっそ、使えない巫女として、この場で、殺してください」
その醜態を見ていた『旋風グリーン』が、土下座して「恐れながら」と、申し出た。
「大王様、僕は、愛する者に、何かを無理強いするつもりはありません。ましてや、死んで欲しくなどありません。だから、どうか、仲の良いオトモダチから始めることを、お許しください。」
――ふむ、期限や条件を設けなくて良いのか?
それすら設けないのであれば、一生、
仲の良いオトモダチで終わってしまうこともあるかと思うが……。
「条件なしで、構いません」
――では、薄荷よ、お主については、
大王の巫女としての任を解き、
『お色気ピンク』となることを命じる。
お主の在りようであれば、『可憐ピンク』程度が
せいぜいであろうが、それは儂が許さん。
科學戦隊員に相応しい『お色気』を身につけるよう、精進せい。
薄荷は、しゃくりあげながらも、「ふぁい、ふぁかりまふぃた」と受け入れた。
――さあ、新たなる科學戦隊員たちよ、行くがよ――。
「お、お待ちくだふぁい。妙見珊瑚礁の護り神であらせられる大王様にお仕えしてきた廉貞島の民は、憎き半魚人どもに絶滅させられました。ボクがここを離れたら、大王様にお仕えするのは、糖菓ちゃん一人になっちゃいます。大王様と糖菓ちゃんは、これから、どうされるのですか?」
――信仰する民を失った以上、儂は、もはや長くない。
そもそも邪神とは、古き神であり、
消えていく運命にある存在じゃ。
儂は、糖菓とともに、妙見珊瑚礁へ戻って、
最後の時を迎える。
儂の消失とともに、糖菓もまた、
巫女の役目を終えて、魔法少女に戻るであろう。
『糖菓』と呼ばれた、旧スク水っ子が、大王様の触手に掴まれたまま、僕らを睨んでいる。
「薄荷ちゃんは、うちら魔法少女のものなん。科學戦隊なんかに、あげないん。仕方ないから、時々、ちょっとだけ、貸してあげるだけなん」
『糖菓』が、今度は、『お色気ピンク』となったセーラーレオタっ子を睨み付ける。
「薄荷ちゃんのバカ。いい、科學戦隊なんて、あくまで、『おともだち』どまり、だからね。手を繋ぐのも禁止。誘われても、部屋まで付いていったりしたら、ゼッタイにダメなんだからね。分かった?」
『お色気ピンク』が、首肯する。
「うん、分かった。ボク、ちゃんとできるから――」
――カルデラの周りを見よ。
大王様が、呆れたような口調で、空いている触手を振って、周りを指し示す。
いつの間にか、何千体もの半魚人たちが、カルデラを包囲していた。
海胆、兜蟹、高脚蟹、山椒魚、海馬の姿も、まだまだ多い。
――儂が障壁を造って、カルデラ内に入って来れぬようにしておるが、
もはや、儂の力は、尽きかけておる。
各自の戦闘車両に搭乗して、
急ぎ、この島を脱出せよ。
『爆炎レッド』さんが、首を傾げる。
「彼奴らを、倒さなくて良いのですか? 彼奴ら、大王様の民の仇なのでしょう?」
――儂はな、この地に巣くい、敵対する人や魔獣を、
ことごとく喰ろうてきた邪神なのじゃ。
あの半魚人どもも、長年に渡って、喰ろうてきた。
つまり、この状況は、邪神である儂に、相応しい末路なのじゃ。
――なに、儂にも、糖菓とともに、
妙見珊瑚礁へ逃げ落ちる余力ぐらいは残されている。
――科學戦隊の力は、正義のためにのみ、振るわねばならぬ。
それに、手に入れたばかりの、戦闘車両では、
まだ、ろくに戦えまい。
特に、薄荷は、まともに、操縦すらできまいよ。
――だから、この場は、この恐怖の大王に恐れをなし、
その邪悪な魔の手から、逃げだすがよい。
大王様は、そう言って、科學戦隊員五人を掴んだ触手を、それぞれの戦闘車両のコクピット上に降ろした。
コクピットは、戦闘車両の天井部分にある。
そこを開いて、腹這いになって、頭と手脚を戦闘車両内に潜り込ませる感じで搭乗する。
柔らかなクッションのようなものに腹部を預けて、奥を覗き込む。
そこが球体モニターになっていて、外の全景と同時に、手元のハンドルやらシフトレバーまで見えている。
白桃撓和先輩が開発した神力エンジンは、この世界における従来の科學技術とは、一線を画するものだ。
その圧倒的なパワーは、木炭エンジンの比ではない。
更に、神力エンジンに、搭乗者の聖力もしくは魔力を、同期させるシステムであるため。予備知識などなくとも、搭載された攻撃兵器や防御兵器の操作方法まで、理解できてしまう。
つまり、すぐにでも、戦える。
だけど、いまは、その時ではない。
「バルーニング飛行により、巨門島を離れる」
戦闘車両間の通話装置から『爆炎レッド』からの指示が聞こえてきた。
戦闘車両は、蜘蛛と同様の方法で、バルーニング飛行できる。
戦闘車両のお尻の位置から、何本もの長い糸を出し、風力とともに空中電場を利用して飛行するのだ。
巨門島の上空に舞い上がったところで、再び『爆炎レッド』からの指示があった。
「総員、敬礼」
そうだ、いま、まさに、古き神に敬意を払うべき瞬間だ。
僕を含む男四人が、揃って、ビシッと敬礼をする。
男の娘一人も、あたふたと、これに倣った。
巨門島が、みるみる遠くなっていく。
『お色気ピンク』の微かな声が聞こえた。
「大王様、ボク、がんばるね。だけど、お色気は、やっぱ、ムリだよ……」
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■七月二日 お色気水着 ブリーフィング
『キャプテンキッドの秘宝』が、『お色気水着』って、どうなの?
これが、伝説の防具だなんて、またまた――。
『お色気水着』だなんて、酷いネーミングセンスだし――。
えっ、ボクは確かに『お色気ピンク』だけど……だからナニ?
『お色気水着』の布地は、確かにピンクだけど……だからナニ?
■この物語を読み進めていただいておりますことに感謝いたします。
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