■六月二六日 キャプテンキッドの秘宝 結 撮影
♥♥♥服飾に呪われた魔法少女テレビシリーズ
♥♥♥第五話 キャプテンキッドの秘宝 結
うち――金平糖菓――が、儚内薄荷ちゃんの様子を呆れながら見てたら、「そろそろ、いいかな」と、スイレンレンゲさんの声がしたん。
レンゲさんは、薄荷ちゃんを転移させて、戻ってきてからずっと、うちと一緒に、薄荷ちゃんの様子を、微笑みながら見ていたん。
なんか、妹を見守る優しいお姉さんみたいな感じなん。
うちら『服飾に呪われた魔法少女』って、五人とも同い年なのに……。
うち――『スクール水着魔女っ子』の金平糖菓――も、ちゃんと用意は済ませているん。
『平服』のスパッツ風スカート付き新スク水を、『体育服』の水抜き穴付き旧スク水にチェンジ済なん。
もちろん、『鉤の鉤爪』も、ちゃんと装備済なん。
「よし、司令室に乗り込むん!」と、うちが宣言したん。
貪狼島の最奥にある洞窟に、『河童水軍』の指令室が隠されているん。
喇叭拉太くんが、『河童水軍』に潜入し、その場所を探り当ててくれているん。
そこまで分かっていれば、先手を打てるん。
指令室を制圧して、この戦いの勝利を確定させるん。
レンゲさんの転移を使って、指令室を急襲するん。
でも、レンゲさんの転移には、いくつか制約があるん。
行ったことのある場所か、視認できる場所に、接触している少人数での転移しかできないん。
急襲メンバーは、レンゲさんと、うちと、拉太くんと、頬傷オヤジさん。
まず、拉太くんが、視認できる範囲内で、指令室に向かうルート上にある転移目標を、レンゲさんに伝えるん。
そこに、四人で転移して、転移先にいる敵を倒すん。
これを繰り返して、指令室をめざしたん。
不意打ちは、あっさり成功し、うちらは、指令室に辿り着いたん。
貪狼島内の『河童水軍』施設には、船舶で使う伝声管網が張り巡らされてるん。
その伝声管の集まる先が、この指令室なん。
伝声管前に、十人ぐらいのオネエサンたちがいるん。
オネエサンたちは、色っぽい声で伝声管に語りかけ、情報を集めて、ボスに伝えているん。
ボスが、どう対応すべきか判断して、その指示を、オネエサンたちが、また伝声管を使って、各施設へ伝えるん。
うちらは、オネエサンたちを瞬殺し、あっさり、指令室を制圧したん。
これで、貪狼島内の『河童水軍』は、司令塔を失った、烏合の衆となるん。
伝声管から聞こえる、新たな指示を請う声が、次々と悲鳴に代わり、やがて沈黙していくん。
勝敗は決したと判断し、レンゲさんは、転移で三回取って返して、宝生明星様と、菖蒲綾女ちゃんと、薄荷ちゃんを、この場に連れてきたん。
うちは、司令室の奥にある一段高い場所と、向かい合ったん。
そこに、玉座が三つ並んでいるん。
それは、『河童水軍』のボスである、河童三兄弟のための玉座なん。
長男がガラッパ、次男がメドチ、三男がミズシという名なん。
ところが、司令室の玉座には、長男のガラッパと、次男のメドチしか居なかったん。
本拠地が包囲襲撃されているから、このタイミングであれば、三兄弟揃って司令室に駆けつけていると思ったのに――。
ガラッパとメドチは、『服飾に呪われた魔法少女』五人が勢揃いしたのを見て、観念した様子なん。
それでも、うちは、『鉤の鉤爪』の甲で、ガラッパとメドチを、数発づつ殴って、逆らえないと思い知らせてやったん。
そのうえで、「ミズシはどこなん? あの水死体好きのヘンタイは、どこなん?」って、睨んだん。
ガラッパが、「テメエ、金平の娘だろ。あのときのこと、覚えてないのか?」と、怪訝な顔になるん。
メドチなんて、うちの顔を見て、バケモノにでも遭遇したかのように慄きながら、「ミズシは、あのとき、テメエがヤったんだろうが!」と悲鳴をあげたん。
『あのとき』って、二年前、破軍岬にあった『金平水軍』の海城を、『河童水軍』が襲撃してきたときのこと?
それしか、考えられないんよ。
うち、河童三兄弟の顔と、『あのとき』のことは、トラウマとして、脳裏に焼き付いてるん。
☆
あのとき、金平本家の六人全員が捕まって、縛りあげられ、河童三兄弟の前に、連れて来られたん。
先代のお爺ちゃんお婆ちゃん、今代の父さま母さま、そして次代となるはずだった兄さまと、そしてうち。
河童三兄弟は、うちらの誰かが、『鉤の鉤爪』の在処を吐くまで拷問すると宣言したん。
河童三兄弟の三男ミズシは、人を水死させるのが趣味のヘンタイで、嬉々として拷問を指揮していたん。
お爺ちゃんから、一人づつ順番に、水を満たした樽の上に、逆さ吊りにされたん。
身体を逆さ吊りにした縄を、下げて、上げてを繰り返すん。
縄が下がると、上半身が樽の水に浸かって、息ができなくなるん。
最初の二回は、息を止めて、我慢して、もう息がつづかなくなる直前で引き上げるん。
そして三回目は、水を呑んで、水死するまで、降ろしっぱなしなん。
うちの眼前で、家族五人が水死させたれたところまでは覚えてるん。
だけど、その後、自分が、逆さ吊りになってからの記憶がないん。
☆
首を傾げるうちを見て、メドチは、「兄貴、こ、こ、こいつ、やっぱ、バケモンだぜ」と、震えているん。
――バケモノって、なんなん。
うちは、非力な、女の子なんよ。
うちは、『鉤の鉤爪』の甲で一発殴って、メドチを黙らせたん。
うちは、ガラッパに視線を合わせて、顎をしゃくって、続きを喋るよう促したん。
ガラッパは、「やっぱり、覚えてねぇのか――」と、嘆息してから、喋り始めたん。
☆
あのときゃ、可愛いテメエを水死させることに、ミズシのやつが、異様に興奮してな。
率先して、逆さ吊りにしたテメエの縄を引っ張ってた。
いよいよ三回目になって、テメエを水死させようとした。
息が続かなくなった、テメエが、ゴボゴボと水を呑んだ。
全身を痙攣させて暴れて、動きを止めた。
よし、これで御陀仏だと、その身体を引き上げた。
そしたらな、テメエは、失神こそしているが、穏やかに息してやがる。
「なんだこれ」って、誰もが、驚いた。
そのタイミングで、ミズシの喉が、ゴボゴボと音を鳴らした。
ミズシは、全身を痙攣させて床を転げ回り、大量の水を吐きながら、死んだ。
メドチや、その場にいた部下たちは、状況が理解できず、凍り付いた。
オレは、部下の一人に、「このガキを、もう一回、沈めろ」と命じた。
部下は、そんなことしたら、たぶん、ミズシの二の前だって分かったんだろうな。
ぶるぶる震えて、やろうとしない。
オレは、カトラスを抜いて部下につきつけ、「ヤレ」と強要した。
案の定だった。
水死させたはずのテメエは無事。
オレの部下は、水を吐きながら、のたうち回って死んだ。
メドチや、その場にいた部下たちは、悲鳴をあげながら、逃げ出した。
オレは、逆さ吊りにされていたテメエを、ちゃんと床に降ろしてから、逃げ出した。
そのままほったらかしにして、自分が死んじまっちゃ、かなわねえからな。
☆
ガラッパの話し通りなら、うちは、ずっと失神してたん。
だから、うちが、何も覚えてなくとも当然なん。
「もうひとつ、教えて欲しいん。『鉤の鉤爪』は、ここにあるん。」
うちは、そう言って、右手に装備した手甲鉤を、ガラッパに見せたん。
「うちらは、破軍岬から、武曲島、廉貞島、文曲島、禄存島、巨門島を順に巡って、この貪狼島に辿り着いたん。だから、ほら、『鉤の鉤爪』の甲にある北斗七星は、こうして七つとも青く発光しているん。条件は達成したはずなん。キャプテンキッドの秘宝は、何処なん?」
「知らねえよ。キャプテンキッドの秘宝の在処が分かってるんなら、そもそも、オレたちゃ、『鉤の鉤爪』を追い求めたりしねえ」
――どういうこと?
うち、何か見落としてる?
「あーーーっ、思い出した」
素っ頓狂な声を上げたのは、綾女ちゃんなん。
「破軍岬の舟形石だよ。オレ、あれ、見たときから、なんで舟なのか、ずっと引っかかってたんだ」
司令室内にいる敵味方全員の視線が、綾女ちゃんに集まったん。
「みんな、ほら、鉤船長と、オレの父上、菖蒲決との対決を思い出せよ。あのとき、鉤船長は、『鉤の鉤爪』を使って、舟から舟へと跳び移りながら戦っただろ。七艘目の『河童水軍』の舟で、落ちていた空き瓶に足をとられ、父上の投げたグングニルが命中した。でも、鉤船長は、そこで死ななかった。八艘目の『金平水軍』の舟に跳び移ってから死んだんだ。七艘跳びじゃなくて、八艘跳びなんだ」
うちらは、唖然としていたん。
いや、『八艘跳び』のこともだけど、なにより、綾女ちゃんが、ちゃんと物事を考えられるってことに、唖然としていたん。
「ほら、北斗七星を思い出せよ。七番目の貪狼星の先に、八番目の星があるだろ」
「北極星だね」と、明星様。
「ということは、六番目である巨門島と、七番目である、この貪狼島を繋ぐ線を、そのまま五倍の長さに延長した場所に、北極星にあたる何かがあるはずなんだけど?」
――さすが、明星様なん。
頭の回転が速いん。
「そんな場所に、島なんてないぞ」と、頬傷オヤジさん。
「いや、あるじゃねえか」と、意外にもガラッパが教えてくれた。
「あそこは、浅瀬になっていて、海の底にドーナツ状の珊瑚礁があるんだ。廉貞島に古き神に仕える一族がいて、そいつらは、あれを『妙見珊瑚礁』って呼んでたはずだぜ」
☆
船で、『妙見珊瑚礁』の上に移動したん。
甲板には、『服飾に呪われた魔法少女』五人と、拉太くんと、頬傷オヤジさん。
念のため、ガラッパとメドチも、縛って、連れてきたん。
透明度の高い凪いだ海なん。
浅瀬の底に、ドーナツの輪っかみたいな形をした珊瑚礁が見えているん。
神秘的な、美しさを湛えた輪っかなん。
船は、輪っか中心部の真上に、浮かんでいるん。
「オレ、下を、見てくるよ」
拉太くんが、いきなり、服を脱ぎながら、そう言ったん。
拉太くんって、海賊暮らしにより、全身真っ黒に日焼けしているん。
高身長で、肩幅もあり、肉体労働により、ガッチリ引き締まった身体なん。
そして、脱いだズボンの下は……赤褌一丁だったん。
ちなみに、フェロモン諸島の海賊は、みんな赤褌なん。
拉太くんは、迷うことなく、船縁から海に飛び込んだん。
そのまま素潜りで、珊瑚礁の下に降りていったん。
そして、結構な時間潜ってから、やっと戻ってきったん。
よく、あんなに長く、息が続くものなん。
「下に、珊瑚でできた、小さな御社がある。開けてみようとしたけど、結界があって、弾かれた。あれ、資格がないと開かないと思う」
全員の視線が、うちに集まったん。
確かに、資格があるとしたら、うちなん。
でも、うちは、泳げないん。
水が、恐いん。
「姫様が、目を閉じて、息を止めてられるなら、オレが抱っこして、連れてくけど……?」
うち、思ったん。
――うち、うちにトラウマを植え付けた、
河童を退治して、一族の無念を晴らしたん。
うち、泳げないのは仕方ないんけど、
トラウマの原因を排除した今なら、
水の恐怖に耐えられるかもしれん。
うち、船縁から降りて、そろそろと、海に浸かってみたん。
――いける……かもしれん。
きっと、お爺ちゃんたちが、護ってくれるん。
うちは、目を瞑って、片手で鼻を摘まんで、息を止めたん。
拉太くんが、うちを抱きかかえて、ぐんぐん潜っていくん。
拉太くんが、鼻を摘まんでいない方の、うちの手をとって、伸ばしてくれるん。
指先が、何かに触れたん。
三十㎝四方ぐらいの、小さな観音開きの扉がそこにあるん。
開けようとしても、手が滑って巧く開かないん。
こうなったら両手でと、鼻を摘まんでいた手を、鼻から離したん。
思いっきり、鼻から水を呑んだん。
水を呑みながらも、扉を開けて、何かを掴んだん
塩辛い海水が、喉から肺へ流入してくるん。
く、苦しい……もう……だめ……な……。
気がついたら、甲板の上に、寝かされていたん。
『服飾に呪われた魔法少女』仲間の四人が、心配そうに、うちの顔を覗き込んでいるん。
全く苦しくないん。
あのとき吸い込んだ、大量の水が、身体のどこにも感じられないん。
「なして?」と声をだしたら、明星様が、教えてくれたん。
「糖菓ちゃんが潜っていって、暫くしたら、唐突に、『河童水軍』のガラッパとメドチが、縛られたまま、苦しんで、暴れ出したんだ。ゴボゴボと大量の水を吐いて、全身を痙攣させて、甲板上で溺死したよ」
「しばらくして、拉太くんが、糖菓ちゃんを抱きかかえて、上がってきた。失神してたけど、全く水は呑んでいないようだった。だから、そのまま甲板に寝かせて、こうして、目覚めるのを待ってたんだ」
二年前に、ミズシが、うちを拷問死させようとしたときと、同じことが起こったんだと、うちには分かった。
そこで、やっと気がついたん。
うち、小さな、玉手箱を握りしめているん。
この玉手箱の中に、あのキャプテンキッドの秘宝があるん。
どこまで、ホントか分からんけど、一説では、國家権力によって犯罪者にまで貶められた、海賊や義賊の地位を、虐げられた民衆の英雄という本来姿に戻す力が秘められていると云うん。
この秘密を護って、多くの一族郎党が死んでいったん。
うちは、ゴクリと生唾を呑んだ。
緊張に震える手で、玉手箱、開けてみたん。
テカテカのピンク色をした、小さなレース布地に紐がついてものが、二つ。
これって、もしかして……。
いや、そんなはず、ないん。
でも、どう見ても、あれ、なん。
ビキニ水着の、トップスと、ボトムスなん。
それも、タグを確認したら、胸のサイズが、Gカップなん。
タグに、銘があるん。
――『お色気水着』。
なんなん?
なんなん、これ?
しょうもなー。
キャプテンキッドって、ただのエロオヤジなん?
ベッドの下にエッチな本を隠す思春期男子なん?
『鉤船長』は、これを知って、世間様に出せないから、黙ってたん?
全四パートに渡った物語が、こんなオチでいいん?
~~~ 薄荷ちゃんの、ひとこと次回予告 ~~~
■六月二八日 恐怖の大王 結 撮影
遂に、恐怖の大王が、その荒ぶる姿を現わした。
伝説の、旧き邪神だよ。
これは、もう、敵だとか味方だとか関係なく、誰も助からないね。
「科學戦隊レオタン」のテレビシリーズは、第一話にして最終話なのか……。