苛烈の女
神隠しには、2つ種類がある。
完成品と、未完成品、この2つだ。
完成品は、神隠し内に存在する特殊な物質を感知する事で発生前から出現場所などを特定が出来る。
そして未完成品とは―――前兆が無く、ある日突然現れる。
出現の30分前には感知に必要な物質も発生するが、ハッキリとした場所を特定出来るほどの量は出ない。
そして未完成品の何よりも厄介な所。
時間が歪んでいるのだ。
自分より先に神隠しの扉に入った者が、自分より後に出て来たり、使徒との戦いを短時間で終わらせようと、外では月日が流れていたり。
浦島太郎の様になっている。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「お前は右に、お前は左へと曲がるべきだ!」
歩鹿乃は自衛で手一杯の隊兵へと迫る手を余裕のある隊兵へと向け、場の均衡を保つ。
周りに余裕のある隊兵が居ない場合は、自分で処理することも。
「あの量を捌き切るとは、学生乍ら恐ろしい才能だな」
「ええ、全くです」
隊兵に支給される剣で手を捌きながら大久保が言うと、近くにいた隊兵もそれに同意する。
「これな何とか――――――」
「お前は後方へと戻るべき――――――」
2人の声が同時に発された瞬間だった。
同時に、声は遮られた。
――――――咆哮。
千手の咆哮が、平原一帯へと響き渡ったのだ。
その声は大地を震わせ、草を靡かせ、そして―――経験不足故この様な使徒の急な行動に慣れては居ない歩鹿乃の意識だけを、引き寄せた。
「淳くん、危ない!」
「……………………ッ!」
1秒にも満たない隙。
千手が歩鹿乃の胴体を叩き、飛ばすには充分な時間だった。
辛うじて防御が間に合った歩鹿乃だが、自分の体ほどある掌に叩かれたのだ。
衝撃により内臓が圧迫され、軽い呼吸困難へと陥る。
地に伏せ呼吸に焦る。
「無事か!」
「え…………ええ」
口を大きく開き、涎が垂れるのも気にせず呼吸に専念しながらも何とか返答。
声を投げかけた隊兵はそれに少し安心する。
「立てるか?」
「10秒もあれば………戦え………ます」
そう言って咳き込みながらも立ち上がる。
すると―――隊兵の背後から、2人に向かい、無常にも再度手が迫る。
「取り敢えず、少し下がって休んでた方が良いと思うよ――――――」
「貴方は……………ッ! 今すぐ屈むべきだ!」
声を絞り出しての見方を回避させる選択。
次の行動を、自分の事を頭の一切から除外しての選択だった。
「………………お前は止まるべきッ!」
「触れないで」
再度声を振り絞る決死の選択、それは、先程の様に遮られた。
今度は千手の咆哮によってでは無く、突如目の前の手に突き刺さった巨大な剣と、姉の声によって。
「もう、私の大事な家族に触らないで!」
降り注ぐ、剣。
それは的確に千手の手だけを貫く。
「………………姉さん」
「終わらせる」
宙にいくつも浮かぶ剣の鋒を全て千手の胴体へと向けて、手を振り下ろし一斉掃射。
「前はあんな事…………」
「もう私は、淳に守られる程弱く無いよ」
歩鹿乃綾香、上級七等兵長。
彼女は、苛烈であった。
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