なりたかった自分になるのに遅すぎるということはない。
彼女は僕の涙が止まるのを、一緒のベンチに座りながら待っていた。
体が軽い。こんなこと高校生以来だ。どこへだって飛んでいけそうだ。
涙を拭った僕は彼女の方へ体を向け、姿勢を正してから彼女に言った。
「君の夢を僕にも叶えさせてくれ」
彼女は少し微笑みながら"お願いします"と頷いた。
その後、自己紹介をした僕達は二十三時を超えていたため、改めて三日後の土曜日に会う日を決めてその日は解散した。
その間、僕は身の回りの整理をしつつ、一人暮らしの家から実家に引っ越す準備を進めた。
そして迎えた土曜日。
僕は待ち合わせ場所の喫茶店に来ていた。
待ち合わせ時間の十時まで、春風を感じながら待っていると彼女が歩いてくる姿が見えた。
「お兄さーん、おはようございます!」
「すずちゃん、おはよう」
彼女が元気よく挨拶をしてきたため、僕も挨拶を返した。
「お兄さん、服装終わってません??」
「え、あぁ。仕事はスーツだったし、どこかに出かけることもなかったからこれぐらいしかちゃんとした服持ってなくて」
「しっかりしてくださいよ。現役JKの隣に立つんですから、身だしなみは大事ですよ」
「ごめん、次からは気を付けるよ」
「分かってくれればいいんです。じゃ、お店の中に入りましょ!」
彼女はそう言うと、僕の袖を引っ張って上機嫌に店内に入った。
店内はレトロな雰囲気で、高校生の時によく入り浸っていたこともあってどこか懐かしさがあった。
僕達は入り口から一番離れたテーブル席に座り、メニュー表を確認した。
「お兄さん、何頼みますか?」
「朝食も食べていないし、モーニングセットのAにしようかな」
「じゃあ、私も同じものにします!すみませーん!」
彼女はそう言うと、店員さんを呼んでモーニングセットのAを二つ頼み、僕にお礼を伝えた。
「お兄さん。改めて、私のお願いを聞いていただいてありがとうございます」
「いや、僕の方こそありがとう。すずちゃんがあのとき助けてくれなかったら、今ここに僕はいなかったから」
「それは確かにそうですね」
そう言うと、彼女は少し微笑み、今回集まった本題を話し始めた。
「では、これからの私たちの活動についてですが、どうやっていくのがいいと思いますか?」
「どうやっていくのがいいと思いますかって、ノープランだったんだ...」
「いえいえ、ノープランではないのですが、お兄さんの意見を先にお伺いしたくて」
「んー、そうだな。始めやすいのはSNSだよな。歌ってみただったり、オリジナルの曲を投稿したり、歌い手になるんだったらそこからじゃないかな」
「そうですよね。ただ、歌ってみたは良いのですが、オリジナルの曲っていうのは作成していただくのにお金が発生するので、高校生の私からすると少し難しいんですよね」
「それは問題ない。僕がやるから」
「いやいや、活動のお手伝いと言っても、流石にそこまでお金を出していただくのは申し訳ないです」
「いや、流石にそこでお金は出さないよ」
「え、じゃあ。どうするんですか。お金も出さずにタダでなんて誰も作成してもらえませんよ」
「いや、だから。僕が作るから問題ない」
「え?お兄さん、作曲出来るんですか?」
彼女は驚いたように、目を大きく開き、少し前傾姿勢で聞き返してきた。
「高校の時にやってたから、時間はかかるけど」
「すごい!始めてお兄さんを尊敬します」
「いや、それはそれでどうなの」
「あははははっ、冗談じゃないですか。最初っから尊敬していますよ」
「まあいいや。とりあえず、歌ってみたから始めていこうか」
「はい!」
「お待たせいたしました、モーニングセットAのお飲み物がコーヒーのお客様」
「僕です、ありがとうございます」
「それではこちらが、モーニングセットAのお飲み物がオレンジジュースでございますね。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」
「ありがとうございます」
注文したものが届くと僕達は会話を中断し、空腹を満たした。




