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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(下)
74/114

74・寂しいのはすごくツラいよね

 土曜日の昼下がり。

 今、俺は速水先輩の家で先輩とふたり、天井を見上げている。


 ――天井のシミを数えるって知ってる?

 そんな言葉から始まった”遊び”。


 速水先輩の家は割と古いアパートだった。そして部屋の中は思ったよりモノが無かった。

 両親とは一緒に住んでいない、つまり一人暮らしなのだけども部屋の生活感はなんとなく希薄に感じた。


 シトシトと降る雨を伴奏に、速水先輩の好きというメロウな曲を聴きながら――


「どう……? マイナスくん♥」

「うぅ……待ってください……」

「大丈夫だよ♥ 時間はいっぱいあるから♥」

「……あっ」

 ――ジッと天井を眺めていた俺は、不意に訪れる快感に思わず声をあげる。


 俺は天井をまっすぐ指す。


「あれがキツネ模様のシミじゃないですか!?」

「正解♥」

「やったー!」


 ……


「こんなふうに探すと色々いるんですねー!」

「ここのは探しきっちゃったけどね♥」

 あれは熊、あれは猫と速水先輩が教えてくれる。


「色んなところで探してるんですかー?」

「うん♥ 小さい頃は色んな所でお泊りしたから♥」

「そうなんスか! 忙しかったんですか?」

「そうだね♥ 子役してたんだよ♥」

「えー!? そうなんスか!? すごいッス!!」


 雰囲気とかもそうだし、歌が上手いとかもそういう事なんだなぁって思った!


「もっとすごい子がいるから、俺はちょっとだけだけどもね♥ でも、色んな人に可愛がってもらったよ♥」

「それでもすごいッスよ! 速水先輩が出てたのって見れますか!?」

「えー♥ 待ってねー♥」


 小さい頃に出演したものを教えてもらう。

 当時にはアイドルのような事もしていたらしい。


「色んなところに出かけたなぁ♥ そこで天井を見るとか、雲を見る癖がついたかも♥」

「へー、そうなんですね! でも、本当に大変そうッスね……」

「ううん♥ そんな事無いよ♥ 楽しかったし♥」

「そうなんですかー。ご両親と色んなところに出かけられるの羨ましいッスね!」


 俺のパパとママは海外の色んなところを巡ってる。

 だから、速水先輩のように家族で色んなところに出かけられるなら羨ましいなって――


「ううん♥ 業界のおじさんとだよ♥」

「あ……そうだったんスね。お仕事の関係でしたか」

「うん♥ でもすごい優しくしてくれててね♥ こうやって一人暮らしできるのはその人のおかげなんだ♥」

「へぇー……速水先輩のご両親はどうしてるんですか?」

「離婚してる」

「あ……なんか、すみません……」

「別にいいよ♥ どうでもいいから♥」

「そ、そうですか……」


 人には人の事情があるから、それを踏まえずにどうとは言えない。

 でも、速水先輩はすごい寂しい環境に身をおいてる気がして、心配になっちゃう。


 そんな風に考えていると、速水先輩の手が伸びてきて抱き寄せられる。

「うーん♥ マイナスくん食べちゃいたいなぁ♥」

「食べても美味しくないですよー!」


 頭を撫でられたりするのを抵抗もせず、速水先輩のさせたいようにさせる。


 速水先輩に会った最初の最初は訳がわからなくてどうしようもできなかったし、その後は恥ずかしくて堪らないからやめて欲しいって抵抗した。

 ちょっとずつお互いに譲歩して、今現在は仕方なしに……と、いうよりもちょっとだけ撫でられて嬉しいって思う自分がいるのにも気がついてる。


 俺は小さい頃にパパとママと離れて暮らし始める事になったから、抱きしめられたり撫でられるのってあんまり経験が無いんだよね。

 だから、なんだかんだ嬉しく感じてるのかも……


「本当に食べちゃいたい」

「もうー、なんでですかー?」

「一生一緒に居たいから」


 ――あれ?

 先輩に違和感を感じる。

 顔を見たいから向き直ろうとするんだけども、先輩が抱きしめる力がいつも以上に強い。


「せ、先輩……?」

「このまま閉じ込めたい。一生面倒見るからどこにも行かないでほしい。一緒にいたい。一緒になりたい。だから、食べたい」

「そ、その、待ってください……」


 抱きしめられている手を解こうとするけども、難しい。

 どちらかというと、しがみつかれているような感覚で――そう思うと、振りほどいたら先輩はどこか奈落に落ちていってしまわないようにしているような気もした。


「ダメ?」

 ――単純に答えるなら、できないとしか言えない。


 だけど、先輩の見ている世界はどんなものなんだろう?

 しがみつきたくなるような……何かを抱えていて……


「……先輩はどう思いますか?」

「食べたい」

「あ……その、食べてもいいかどうか、でだと……どうですか?」

「……ダメだよね」


 しがみつくような感覚から、ギュウッと抱きしめるような感覚に変わる。


「そうですね……俺もいいよって言えませんから……」

「ああ、それでもマイナスくん食べちゃいたいなぁ♥」

「うー、気持ちはわかりましたけどもダメですよー!」


 何とか速水先輩に向き直る。


「いつも撫でてもらってばっかりですし、俺も速水先輩をヨシヨシしてみます……?」

 自分で言ってて何を言ってるんだろうって思った。うーん……


「えっ、それはやだ」

「あっ、はい……わかりました」


 やっぱり、ちゃんと誰かに相談したほうがいいかも……



 ――



「速水先輩って一人暮らしだったんだ……?」

 いつもの夜の勉強の時間、波多野さんとふたりきりの時に話してみる。


「晩御飯前には俺、帰ったんだけどもさ、よかったのかなぁ……って思っちゃってさ」

 もっと何かしてあげられるかもしれない……って思うと罪悪感がある。

 でも、俺がただ一緒に居る事で解決する問題じゃないのもなんとなくわかる……


「帰らなかったらカナちゃんにご両親も心配しちゃうもんね……」

「パパとママは家にいないけども、カナにすっごい心配かけちゃうだろうなぁ」

「あれ……? そういえばマイナスくんのご両親って……?」

「海外で仕事してるんだ。色々な所巡ってるみたいだよ」

「そうなんだ……いつから離れて暮らしてるの?」

「パパとは4歳くらいで、ママとは6歳くらいかなぁ……?」


 本当に小さい頃の思い出、パパのオケにくっついて見てた事や、カナのために離れてママと暮らし始めた事を色々思い出す。

 もうかなり朧気(おぼろげ)な思い出だけど、離れる時の寂しかった気持ちはすごく残っている。

 その頃から上井先生や梶原さんにはずっとお世話になっているけども、バイオリンに寂しい気持ちを聞いてもらう――もとい弾いてたなぁ。


「そうなると……寂しいって気持ち……わかるから心配なのかな……」

「そうかも……」


 自分が感じていた辛い事を、同じく抱えている人を見ると思い出してしまって辛くなるのかなぁ……


「波多野さんは寂しいって思う事はある……?」

「無くはない……かな? どっちかっていうと……わからない方かも……」

「ゲームが好きだからなのかなぁ?」

「ううん。一因としてそれもあるけども、私の親って優しいっていうのか……話を聞いてくれるっていうのかな」


「私、小学校高学年の頃から学校の皆と上手くいかなくなっちゃって……

 それからあんまり学校に行ってなかったんだ。

 それでもいいよって、中学も基本的には家で勉強してて……

 高校も、試しに少しだけ通ってみて合わなかったら通信制に転学するって話でね……」


「そうだったんだ……!?」

「うん……思い返してみても良い親で……だから、寂しいなってそこまで思った事はなくて……わからない方だと思う……」

「どっちかだったら寂しくない方がいいから、良いと思うなぁ」

「ご、ごめんね……」

「いやいや、聞いたの俺だし謝る事ないよ! でも、色んな家族があるんだなぁって思ったよ」

「うん……少なくとも、私は恵まれてるって思ってるし、それに感謝してる……」

「俺も同じだなぁ……寂しいって思う事はあるけども、なんだかんだやりたい事やらせてくれてるし」


「速水先輩との仲、上手くいくといいね……」

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