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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(上)
68/114

68・こういうのってすごい驚くよね……

※幼少の頃に辛い思い出がある方はご注意ください。

 土曜日はまた、生憎(あいにく)の雨だ。


 今朝のカナは普通にご飯を食べていたし、俺の予定を聞いたりして大体いつも通りだったかな?

 梶原さんは昨日の晩ご飯がまるまる残っていた事に驚いて心配していた。

 食欲がない時は教えてね、とカナに優しく言っていた。


 そんなカナを心配しつつも俺は、いつもの喫茶店へ向かう……半ば習慣だなぁ。

 月野さんは先週の公園の子の事も気になってるそうだから、待ち合わせとしても利用させてもらうんだけども――


 喫茶店に張り紙がある。

 何かお知らせかな?そう思って内容を見てみる。


『警告

 この店は家庭事情を顧みず児童の教育に干渉をしてくる不届き者を肯定する社会不適合者が営む店です。

 大切な子供たちの為、社会の為にもこの店には入らないでください。』


 え、ええーっ!? 顎が外れそうなくらい驚いた。

 見てみたら他にも何枚も貼られてる!? なにこれなにこれ……??

 俺は店に入ってマスターに声をかける。


「おはようございます……! あのっ、マスター! 表の張り紙……!」

 マスターはおはようと返してくれた後、困った様子を始める。

「またかぁ」

「何度も貼られてるんですか!?」

「うん」


 愕然(がくぜん)とした。


「君への手紙もあるけど……」

「見せてもらってもいいですか……?」

「うん。だけど、気にしないで大丈夫だからね」


 そう言いながらマスターは俺に手紙を渡してくれる。

 封を切って中を見てみる……ちょっと怖いけど……


『【訴状】

・貴方(以下甲と記す)が娘(以下乙と記す)に傘を渡した行為は家庭の事情を鑑みずに行った家庭教育への過干渉です。乙が自ら解決すべき問題であり、それに対し甲は傘を渡すという無責任な行為で乙の課題を不当に奪ったばかりではなく、品質の良い傘を渡すという事で乙の家庭環境に問題があると周囲へと暗に示しました。甲は乙の人権を無視し、教育の義務を不当に妨害し、更に名誉棄損まで行いました。

・甲は乙に食事を渡した行為について。傘と重複する部分も多くありますが、初対面の女子児童に食事を渡すという行為についてがそもそも下種な意図を持って行われたのは明白です。幸いながら乙はそれを口にせず事なきを得ましたが、中に何を仕込んでいたのか考えれば(おぞ)ましく感じます。警察に届け毒物が無いか検査中で、貴方が乙に対して行おうとしていたことが白日の下に晒されるのは時間の問題です。変質者として痴漢行為、並びに薬物混入や誘拐未遂として刑事裁判で訴訟する所存です。

・なお、和解の提案に付きましては弁護士を通して行ってください。』


 ……難しい言葉が多くてよくわからないけども、すごい怒ってるって事かな……?

 不安になってマスターを見る。


「気にしないで大丈夫」

「は、はい……」

 ……だけど、あんな張り紙されたりするのって、俺のせい……?


 カランコロンと誰かが入ってくる。

「あ、月野さん」

「おはよう……! あの……ここで合ってる?」

「うん……」


 張り紙を見たら、ビックリするよねぇ……



 ――



「専門家じゃないからちゃんと言えないけども、これは酷い言いがかりだと思うよ……」

 月野さんにも手紙?を見てもらった。


「張り紙も営業妨害に当たると思いますし……警察には相談しましたか?」

 カウンターの向こうにいるマスターに月野さんは聞く。


「うん」

「どうでしたか?」

「うーん。大変みたい」

「どんなふうに大変ですか……?」

「事実関係の確認?」

「そ、そうですか……」


 マスターはあまり喋らない方だから、要領を得た話をするのが難しいんだろうなぁ……


「大丈夫だよ。気にしないで」

「は、はい……」

「私が言うのもなんだけど、その……関わらないほうがいいよ……」

「そうだよね……」


 こういうのに全然詳しくないから、むやみに関わってはいけないっていうのはわかる……


「ごめんね、私から気になるって言ってたのに……」

「いやいや、月野さんは何も悪くないよ。その……俺がごめんって言うのも違うけども……ごめんね」


 沈んだ空気のまま時間は過ぎていく。

 マスターが暖かいものを用意してくれるけども、やっぱり憂鬱だ……


「あ……そろそろ行こうっか」

 俺は時計を見て、そう告げる。

「そうだね。時間、大事だもんね」


 マスターにご馳走さまと言って、店を出ようとする。


「君の傘、預かってたから」

 女の子に渡した傘を、マスターが渡してくれる。

「あ……ありがとうございます」


 傘は使ってくれたのかなぁ……

 受け取ると、中に何か入ってるような感触がする。

 なんだろう? と思わず傘を開けてみる。

 クシャクシャの紙が出てきた。紙を広げてみる。


『かさありがとう』


 (つたな)い文字でそう書かれていた。


「…………」

「少しだけ……見に行く?」

「……いいのかなぁ……?」

「……うん」



 ――



 公園へとやってくる。

 雨だからもちろん、誰もいない……あの女の子以外は。

 今日はビニール傘を差している。


「あの子かな……?」

「おう、そうだね……今日は傘持っててよかった……」


 何かできる事は無いかなぁって(ふけ)ってしまう……


「あの子のお知り合いですか?」


 声をかけられて振り向く。

 見れば綺麗な身だしなみの女性だった。


「あ……えと……」

「その、一週間前にも彼が見かけてて、それで……!」

「そうなんですね。よかったらその時どうだったか、聞かせてもらってもいいかしら」

「す、すみません……貴女は……?」

「豊岡って言うわ。児童福祉司っていう仕事をしているの」

「じどーふくしし……?」

「あ! あの子の保護に来てくれたんですか!?」

「そのためにもよかったらお話を伺ってもいいかしら」

「えっ!? も、もちろんです!!」


 ……


「一週間前、あの子は傘を持たずに公園にいたのね」

「はい、それで思わず傘と食べられるものを押しつけて……」


 俺はありのままを話す。

 とはいえ一週間前に初めて見かけただけだから詳しいことはわからないのだけど……


「でも、そうしたら恐らくなんですけどもあの子の親が、彼の行きつけの喫茶店に嫌がらせしてくるようになったんです!

 もう絶対に毒親ですよ! 一刻も早く保護してあげるべきですし、法的措置とか取ったほうがいいです!」


 月野さんはすごく熱心に豊岡さんに考えを話す。


「そうなのね……ご両親の事情も深そうね」

「両親の事情なんて関係無くないですか……!? あの子にあんな事してるんですよ!?」

「ごめんなさいね、お役所仕事だから」

 ――豊岡さんは穏やかに微笑んで月野さんに返す。


「そ、そんな悠長な事言うから毎年可哀想な子が……!」

「月野さん、ちょっと……落ち着こう……?」

「……」

 月野さんは煮え切らないといった様子だけども、口を一旦つぐむ。


「さて……お話ありがとうね」

「あの子にも話を聞きに行くんですか? ついて行ってもいいですか?」

「……そうね、内緒の話をするつもりはないから」

 豊岡さんは歩き始める。


「マイナスくんも行こう」

「いや、俺はごめん……行きたいのはやまやまだけど、迷惑かけちゃいそうだから……」

「……わかった」

「待ってるから、いいよ」

「うん」



 〜〜



「こんにちは、はじめまして」

「こんにちはー! お姉さんたちどうしたのー? ヒマなのー?」

「一人で何してるんだろうって思ったの。今日は雨だけど、でも公園好きなのかな」

「んー、わかんない! 友達来ないかなぁって待ってるの」


 ……なんで?

 見ても明らかだし、マイナスくんの話からもそうなのに、なんでこんなのんびりやってるの?


「そうなんだね。お友達が来たらどんな事してるの?」

「ゲームが一番多いかも! 横から見たり、偶に遊ばせてもらったり!」


 ……くだらない話ばっかり。

 本当に仕事する気があるの? 早く助けてあげてよ。


「そっちのお姉ちゃん大丈夫?」


「……あなたの方が――大丈夫じゃないんだよ」


 ――胸の奥で抑えられない何かが、弾け飛んだような気がする。


「あなたは虐待を受けてるんだよ。雨なのに家に居られないなんておかしいよ。休みだとお昼ご飯がないっておかしいよ。ゲームだって買ってもらえない、誰かに優しくされても親が許してくれない、そんなのそんなの――」


 ――愛されていない。


 そう続けようとした時に、私の頭を何かが撫でる。


「――寂しいって思ってしまうのよね」

 豊岡さんがそう言った。


「ごめんなさいね。この子はあなたのことがとっても心配で大変なの」

「そうなの……? わかったけど……虐待って言うのはやめて。お母さんが大変だから、一緒にがんばってるの」

「あなたはお母さんが大好きなんだね」

「うん! すっごい大好き!」


 …………私も、私もお母さんの事、大好きだったのにな……

 がんばってたのにな。そういう愛の形だって思ってたのにな。

 この子がどうなるか知ってるから、辛い……辛いよ……


「また、お話しに来てもいい?」

「うん! いいよ! 私、いつも夕方まで公園にいるから!」

「ありがとう。それじゃあまたね」


「行きましょっか」

「……はい」


 豊岡さんは私を連れて、女の子の前から去る。


「……小さな頃って、親が、特に母親が、世界の神さまのようなのよね」


「だから、どんな物でもそれが愛だと信じてるし、愛されるために一生懸命にがんばる」


「だって、愛してるんだものね」


「あなたも――」


「今までがんばってきたのね。とっても偉いわ」


「これは私の連絡先。いつでもかけてね」

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