67・全員の手を取る事はやっぱり難しい
「マイナス、マジでお前ってやつはよー」
「言いつけ破ることになってゴメンって」
鷹田には完全にお見通しで、速水先輩の所に行くフリをして森夜先輩と話してるところをこっそり見守ってたらしい。
「なんなのマジでマジマイナス略してNM3な」
「どういう意味なのそれは……?」
「知らねえー。マイナスが考えろよ」
合わせ練習も3人だと微妙っていう事で一旦解散にあった。
その後に鷹田と一緒に駅まで来たのだけども、鷹田はずっとこんな調子だ。
原因も理由もすごーーくわかってる。
「話変わるけども、鷹田はお腹空いてる?」
「何? 奢りたいなら奢らせてやるけども?」
「カレー食べに行こ! カレー! この間食べたいって言ってたし!」
「仕方ねえなー。付き合ってやるからありがたく思えよー」
カナに晩ご飯を外で食べてくる事を伝えつつ、鷹田とカレー屋さんに入る……
――
「ちなみに、奢るとは言ってないからね」
席に着いてから俺はニヤニヤしながら鷹田に言う。
「マイナスの皿から勝手に取るから大丈夫だぜ」
「いや、それはそれでダメでしょ!? そうじゃなくてー!」
「負けたほうが奢るって奴、やろう!」
――鷹田にとって、機嫌取りといった理由で奢られるのはたぶん嫌いな奴なんだよね。
「へー、良いけどマイナスが俺に勝てると思ってんの?」
「音楽関連だったらちょっと自信はあるよ。それに今までの鷹田の横暴にリベンジしなくちゃ!」
「面白いじゃん。何で勝負するかは決めてあんの?」
「決めてない! 鷹田のほうが詳しいでしょ? そういうの!」
「持ちかけるなら考えとけよ!」
頬杖をついていた鷹田がズコーっとコケながらツッコミを入れる。
「えへへー」
「実力勝負だと可哀想だから運ゲーにしてやるかー」
「流石ー!」
「ルール説明するからよーく聞けよ」
「おう!」
……
「いやぁ、人の金でトッピング盛り盛りにすると美味いなー」
「鷹田って運も良いんだなぁー……」
以下は鷹田の提案したゲームの説明。
・4枚の紙に○と✕がふたつずつ書かれている
・同じマークを取れたら俺の勝ち、違うマークなら鷹田の勝ち
・3本勝負
「ちゃんとマイナスも納得して始めたしなー」
「○と○、○と✕、✕と○、✕と✕で公平だもんね……」
「そうだな。マイナスの中じゃ公平なんだろうな」
「え? 公平じゃないの?」
「ヒントやるから考えてみ」
鷹田は○と✕の1つずつに、それぞれ小さく点を付けた。
「これでもう一回数えてみ?」
「うん? えーっと……」
○と○' ○と✕ ○と✕'
○`と✕ ○`と✕` ✕と✕`
「あれ? あれれ?」
「そういう訳で勝負に乗った時点でマイナスの負けって事」
「えー!! そうだったんだ……」
「納得して始めたんだからズルいとか言うなよー?」
「いやぁむしろ、鷹田はやっぱりすごいって思ったよ」
「今更当たり前だろー」
鷹田のその様子に、なんだか俺は微笑ましくて思わず笑っちゃう。
「ああ? なんだよ?」
「俺、鷹田の言いつけを破ったの悪いなって思っててさ。
でも、ゴメンって言われても鷹田はイヤなんだろうなって思ったんだよね」
「鷹田は理由が無いと、貰ってくれるってしないからさ。
賭けなら鷹田が勝つって思ったんだ。
それで本当に勝ったからさすが鷹田だなぁって」
「言いつけ破ってごめんね」
鷹田は深く息を吐く。
「その括りでならあと2,3回くらいは奢られる権利あるな?」
「え? あ……そうかも……」
「最初はただの陰キャだと思ってたのによー。
バンドメンバー候補、バンドメンバーって成り上がりすぎ」
「鷹田が最初に助けてくれたおかげだよ……!」
「だから、その後も面倒見てやるかーって思ってたのによー。
なんだかんだよくやってるよなって」
「鷹田にそう言われると嬉しいな……ありがとう」
照れながら鷹田にお礼を伝えると、鷹田は俺をジッと見返す。
「俺とマイナスの得意分野はなんだかんだ違うみたいでよ、
マイナスのバカ過ぎる所はバカ過ぎてヤバい。良い悪い両方。
けど、まぁ――」
「それでいいか」
鷹田はカレーを口に運ぶ。
「……どういう事?」
「お前のダメな部分は俺に相談しろ。俺にはだいたい余裕。
逆にお前の良い部分は任せる。
言うのは癪だけど、音楽とかに関してお前が上」
――普段の鷹田からは思いも寄らない事を話してくれている。
「まぁ……相棒っつうの?
それでいいか、って事」
「……嬉しい!! 俺、鷹田の相棒なの!?」
「あーうるせー、カレー食ってる所なんだよ今」
「でも嬉しいんだもん!! 鷹田にそう思ってもらえて嬉しい!!」
「落ち着けよてか尻尾振り過ぎでヤベえからマジで落ち着け。周りにも迷惑」
「ごめん! ごめん!! ああ、でも嬉しい!!」
「ったくよー。これだからマイナスはよー」
嬉しくて嬉しくてたまらない!
そんな俺を見て鷹田が笑うのも嬉しくてたまらないよー!!
――
駅で鷹田と別れる。
鷹田の事はもちろん、森夜先輩との事もあるからすごく嬉しい……
「楽しそうだな、マイナ」
「んああっ!?」
声をかけられて振り向くとショウくんがいた。
「こんな人混みの中で、そこまで夢中になって……」
「そ、そんなに!? いや、でもすごい嬉しすぎて……」
自分がどんな風にしていたか全然わかんない!
けど、恥ずかしい!
「今のあいつは高校での友人か?」
「えっ? そうだよ! 高校で同じ軽音部で同じバンドでさ――」
――前にも会ったことがあるよね。
そう言いかけて、その時の事を思い出して、俺は口をつぐむ。
「バスに遅れるぞ。行こう」
「お、おう!」
――
「ミヤネは俺のこと好き……?」
「何を言っているんだ、そんな事ある訳無いだろう。アイツに何かされたのか?」
そうだよねー! そうだよねー!!
ショウくんと鷹田は以前にバスで話したことがある。
鷹田はお金持ちが嫌いで、ショウくんの事も最初は偏見で接してた。
俺がショウくんと知り合いなのを隠すため、その場で何とか隠れてたんだけども……
ショウくんなら絶対に言わないことを聞いちゃったんだ……
「あ、俺はミヤネの事好きだからね……好き……? 大好き……?」
「……本当に突然、何を言っているんだお前という奴は」
「でも、こうやって一緒に帰れるのすごい嬉しくて……」
「偶然だ。僕はお前の事なんてどうでもいいと思ってる。勘違いするな」
「そっかー……」
今のショウくんは孤高なピアニストっていう感じで、だからこそ、あの時にショウくんが言ってた事――俺のことが好きって言ってた事を、俺が知ってたら……絶対に良くないんだよね……
「……お前と僕は幼馴染かもしれないが、競う相手なんだ。
お前に好意なんて抱いていない。だから勝つ」
「……ミヤネは本当にストックですごいなぁ……」
「それを言うならストイックだな」
「え? あ、そうかも」
「まったく……本当にお前には心配しかない」
「えへへ……」
――
「ただいまー」
おおよそ3日ぶりの自宅。
カナに話したい事がたっぷりで楽しみで仕方ない――
「あれ、カナー?」
いつもだったら元気良くおかえりーと声をかけてくれるのに、今日は無い。
玄関を見ると靴はあるから出かけてる訳じゃない。
まぁそんな日もあるかーって思いながら、自分の部屋へ。
バイオリンとベースを降ろして着替えてちょっと弾いたりしてからダイニングに向かう。
……あれ?
思わずカナの部屋に向かう。
「カナー? ご飯食べなかったの?」
……返事がない。ノックもして呼びかける。
そうするとようやくゴソゴソと動く音がしてドアが開く。
「もー、なにー? どうしたの?」
「よかった……晩ご飯がそのままだったから心配になってさ」
「えー、食べたよ」
「ウソだ!? そのままだったよ!?」
「食欲無いからちょっとだけだったの」
「えっ!? 食欲ないの……!? 風邪でも引いた……? 大丈夫……?」
「別に大丈夫! 今、音楽聴いてるんだから邪魔しないでよ」
「わ、わかった……でも、お腹空いたら食べるんだよ……?」
「はいはい」
バタンとドアが閉められる。
心配だけど、そういう時もあるよねって思うしかないかなぁ……
ダイニングにもう一度向かってから、残っている食事を見る。
梶原さんは料理をそれぞれお皿に分けてくれていて、必要があればラップに包んでくれている。
俺の分もあるって事は、カナにメッセージを送った時にはもう用意できてたって事だろうなぁ……
……やっぱり寂しくさせてるのかなぁ……
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