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仮面のロックンローラー  作者: 黄色ミミズク
君がやりたい事を応援したい。それが俺のやりたいロック!(上)
66/114

66・ロックの為なら何でもするよ2

「「サーノ ドッコイショ!!」」


 昼休みに教室で、馬園と俺とでソーラン節の練習。


「やっぱソーラン節ってカッコイイぜ……」

「うーん、まぁ合格だね! おらー!」

「待って! 合格なのになんで蹴るの!? 待って!」

「褒めてんだよ! おらおらー!」


 火曜日から馬園は練習に熱が入り、どんどん踊れるようになった。

 山岸さんの指導もビシバシあったけども、すごいがんばったなぁ……

 ふたりのじゃれ合いも昼休みの名物になって、クラスメイトも俺達のソーラン節に盛り上がるようになってきた。


「来週の体育祭、楽しみだなぁ……」



 ――



「来週の体育祭、マジで鬱なんだけどお前ら??」


 終わりのHRでの灰野先生の開口一番。


「絶対に灰野先生に優勝捧げるんでー!!」

「雨降らねえかなぁマジで」


 馬園のアピールを完全スルー。


「隕石落ちるとかでもいいからよー」

「担任なのにそんな事言うのやめてくださいって……そういう訳で話す事は何かあります?」

「知らねー覚えてねー」

「はいはい……」


 灰野先生のやる気が無さ過ぎるのでクラス委員の俺が進める……

 とはいえ、来週がんばろうくらいしかないかなぁー?


「あ、あの……」

「波多野さん、何かある?」

「じ、実は、その、クラスの旗をね……」

「えっ!?」


 波多野さんがクラスの旗を!?


「作りたいって……その……」

「良いデザイン降ってきたんだよねー!」


 なるほど! クラスの別の女子から相談されたって事ね!


「ヤバい!? 団結力ヤバい!? もうこれA組の優勝確実だ! 灰野先生ー!!」

「勝手にすりゃいいけどよー。私に迷惑かけたら承知しねえかんなー」

「邪魔とかはしないでくださいッスよ……? 灰野先生?」

「しねえよ面倒くせえし……」


 ……


「そういえばなんスけども――」

 灰野先生の立ち去り際に声をかける。


「灰野先生に謝りたいことがあって……」

「あん? 何?」

「吹奏楽部での指揮する中での指導、灰野先生はむちゃくちゃを言うと思ってたんです。でも、実際は妥当な事を言ってたので……すみません……」

「へー」

「え、反応それだけなんスか……? めちゃくちゃ理不尽に謝罪なり要求されると思ってたんスけど……」

「お前には貸しとその利子がアホほどあるから今更別にな」


「あ、でも、音を考えるっていう意味について、ズレがある事を知ったんスよ。この時にこの音を出すって決めるっていうのが――」

「知ってる」

「えっ!? じゃあなんでそれ伝えないんスか!?」

「真面目にやってるなら調べるなり人に聞くなりして、主体的にその答えにたどり着け。そう考えてっから」


 灰野先生が……教師みたいな事言った……!?


「音を決めるにしても、音を探す必要があんだろ。お前はその音を探すのも手伝ってやるつもりか?」

「……時間が無いッスね……」

「"待ちの姿勢"の奴に答えを配って回るのは優しさじゃなくて、人をダメにするクズだからな」


「……先生?」

 ――灰野先生が一瞬、どこか遠い目をしたように見えた。


「マジで鬱いわ。学校爆発しろ」

「準備室に住んでるのにいいんスか……?」


 頭を叩かれる。すごい良い音で。



 ――



「モーくん。ターくんかマイナスくんにギター教わった?」


 放課後の軽音部で、速水先輩が森夜先輩に聞く。


「いやー、さーせん……いや、時間が合わなくって……」

「俺もマイナスも色々忙しくって、時間取れなくてサーセン」

「ターくんたちは本当に忙しそうにしてるもんね」


 速水先輩は冷ややかな視線を森夜先輩に投げる……


「あ、あの、今からでも時間を取るのは――」

「俺がマイナスくんとふたりきりで教わる時間だからダメ♥」

「そこを何とか……!」

「えー♥ じゃあ、マイナスくんお持ち帰りしていいならいいよ♥」

「俺、お弁当とかじゃないッスよー……」

「まぁまぁ、教えるのできるかわかんないっすけども、森夜先輩と俺、一緒に練習するから安心してくださいよー」


 鷹田のフォロー……ありがとう……! ありがとう……!

 あれ? でもこの後は結局、速水先輩と俺、ふたりきりだ……



 ――



「あ、でも、そうだ! 俺、先輩の事もっと知りたいッスね!」

「えー♥ マイナスくん大胆♥ 全部教えてあげるよ♥」


 速水先輩に密着されるのにも慣れてきたのかな……?

 お持ち帰りは先輩の家に招かれるって事だろうし、軽音部でのバンド活動を色々聞けたら嬉しいなーって思ったんだ。


「明日の土曜日はダメなんスけども、来週の土曜日……体育祭の翌日なら……?」

「予定空けちゃおうっと♥ ふたりで何しよっか♥」

「その代わりなんスけども、森夜先輩の所に行ってきてもいいッスか……?」

「えー♥ じゃあ今日はお預けって事ー?」

「来週は俺、何でも付き合いますからー……! おねがいします!」

「わかった♥ 約束だよ♥」

「ありがとうございます!」



 ――



 鷹田と森夜先輩が練習してる所にそっとやってくる。

 ……ふたりとも、特に口を利かずに淡々と練習している。


「鷹田ー。速水先輩がちょっと呼んでて。いい?」

「あん? 俺? いいけど」


 速水先輩に口裏を合わせてもらって鷹田を離させてもらう……

 ごめんね……!


「ん、マイナスは来ねえの?」

「あ、ちょっとその間、代わりにっていうのか……」


 鷹田は俺の事をジーっと見る。

 な、何も魂胆なんてナイヨー……


 鷹田は、ハァー……っと息を吐いてから去っていく。

 やっぱり魂胆バレてそう……ごめんね……


「あ、あの、森夜先輩……」

 俺は森夜先輩に顔を向ける。

「……いや、何?」

 森夜先輩は顔を逸している。


 俺は少し息を吸って――

「俺、森夜先輩と話したいんです」


「…………いや、別に話すこととかねえし」

 森夜先輩は壁に顔を背けたまま、そう言った。


 ……何か、声をかけたいけども、言葉が見つからない。

 森夜先輩の目は泳いでいる。

 沈黙が流れる……


「……別に」


「別に、どうでもいいっつってんのに……」

「別に、いや、全部どうでもいいっつうのに」

 漏れるように森夜先輩は言葉を口にする。


 それから俺を一瞥して――

「お前がクソムカつく」

 抑えていたタガが外れたように森夜先輩が叫ぶ。

「何見てんだよ!!」


 息を荒くして、ギターを投げ捨て、それから立ち上がり、俺に近づいてくる。


「黒間がいねえからって舐めてんだろ!?」


 そのまま俺は胸ぐらを掴まれる。


「何とか言えよ!!!」



「……大丈夫……ですか……?」

「――っ!!」


 ――思わず漏れた言葉はこれだった。


「大丈夫!? 舐めてんのか!?

 後輩が!! 先輩に大丈夫!?!?」


 森夜先輩は激昂する。


「見てわかるだろ!? 大丈夫じゃないにきまって――!!

 あ、いや大丈夫……あっ……じゃ、な……い……っ……」


 怒りのままに激しく揺さぶっていた両手が止まる。

 表情を失った森夜先輩の目から涙が溢れ出す。


「いや、ちげーよ。いや、舐められたら終わりだよ。

 別に全部どうでもいいのに。

 なんだよ。ムカつく……ムカつく……ウゼえ……」


 俺を掴んでいた手を解いて、森夜先輩は涙を隠すように覆う。

 開放された俺は息を整える……


「これ……よかったら……」


 ハンカチを森夜先輩に差し出す。

 先輩は躊躇(ためら)った後にハンカチを取り、それから背を向けた。



 ……静かに泣く森夜先輩。



「マジで……ムカつくよ……お前……ホント……」

「……すみません」

「悪いところなんてねえのに……謝るの……マジでムカつく……」

「……」

「なんだよ……マジで……1年の頃に俺達、すっげえがんばったのによ。

 やっと……やっと……我慢する番が終わったって思ったのに……」


「ロクデナシのクズでいてくれよ……

 何してもいいやって思わせてくれよ……

 なに勝手に愛されてんの……

 必要とされてんの……

 俺達はがんばったのに、耐えたのに、

 なんでこうなるんだよ……

 なんで、居場所が無いんだよ……」


「森夜先輩――」

「喋るんじゃねえよ……! 俺が惨めになるだろっ……!」

「それでも――」

「優しくするんじゃねえよ!! お前にやったこと思い出すんだよ!!」

「俺は――」

「うるせえ!! うるせえうるせえ!! 黙れ!!!」


「先輩とバンドやりたいです」


「……人数合わせだろ」

「違います」

「じゃあ哀れみか? 情けか?」

「それも違います」

「じゃあ……なんだってんだよ……!!」


「……辛い気持ちや苦しい気持ちを歌ったブルースが、ロックの源流だっていうのは知っていますか?」


「だから、森夜先輩たちとロックしてみたいんです……

 知りたいです。聴きたいです。奏でたいです。

 先輩たちとの、ロック」


「……どう、ですか……?」


 背中を向けたままの森や先輩から、小さく笑う声が聞こえてくる。


「いやお前サイコパスかよ……必死にそういう辛いのから逃げてきたってのに。

 邪魔で邪魔で、息ができなくなりそうなのに、それでも必死に無視してたのに。

 それを……聴きたいって。俺を殺す気かよ」


「聴きたいです……殺す気とかは無いですけども……」

「なら合成音声系とか聴いたらどうだよ。いや、最近は他に良いのもあるけど……」

「えっ!? どんな曲ですか!? 教えてください!」

「いや別に普通に探せば……いや、再生リスト送るから」

「森夜先輩のオススメって事ですか!?」

「あーいや別に……まぁ、そうだけど……」

「ありがとうございます!」


 ずっと背中を向けていた森夜先輩がそっと振り返る。


「……いや、お前ひっどい顔してんな。情けねえー」

「す、すみません……」

「いや、そんなお前よりひっどい顔なんだろうなって思っただけだし」


「……ハンカチは洗って返すのが礼儀だっけか」

「え、そんな、大丈夫ですけども……!」

「いや、別に一般的の話について聞いてるだけなんだけど?」

「そうッスね……一般的なら……?」

「……いやさ、そのさ――」


「いきなりどうこうは無理。普通にお前を見てると自分が無理になる。

 悪いけど……いや、もう悪い事してるから今更だけどさ……

 こういう事からやらせて。いや、やらせろ」

「は、はいっ!!」

「てか、今日の合わせ無理過ぎてどうしよ。バックレたら速水先輩ブチギレだよなぁきっと。でも、できる気がしねえー」

「そういう時は休んだほうが良いと思いますよ……! 何なら俺からも伝えておきましょうか?」

「……いや、いいのかなぁ……」

「大丈夫ですよ! 次に挽回(ばんかい)しましょう!」

「……初バックレだわ。いや、別にどうでもいいけど……」


「悪いけどよろしく。またな」

「はいっ!」

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