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具現化能力を得たので変身ヒーローになってみる  作者: Last


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虚実と坦懐


 練武場に着くと、祖父はまだ来ていなかった。俺は具現化魔術で、等身大の人形を創りだす。


「う~ん、これじゃ上手く立たないな……人体の様に、骨みたいな芯を入れればいいのかな?」


 そうやって、試行錯誤していると祖父がやって来た。


「何をやっとるんじゃ、レオン?」

「あ、爺ちゃん。爺ちゃんに尋ねたいことがあるんだよ。マグちゃんの技を教えて欲しいんだけど、いいかな?」

「ばあさんの? 儂との修行に飽きたのか?」

「ううん、実は――」


 俺は昨夜、ディッテンベルガー商会の男を取り押さえようとして、マグダレーネの技を使おうとしたのだが途中でやり方が分からなくなったのだ、と説明する。


「その程度の男、ぶん殴って黙らせればよかろう? スヴェンのところへ通う子供たちにも、手加減は出来ていたではないか?」


 祖父も姉と同じようなことを言い出す。


「それだと、ディッテンベルガー商会に、協力してもらえなくなるかもしれないじゃん?」

「調査に協力する気が無いとして、商会自体に重い処分を与えても構わんが……そうじゃな、何故、ばあさんの技を教えんのか説明するか。ついて来い」


 そういって、祖父は練武場の外へ出ると裏へ廻り出す。ついて行くと、祖父は屈んで屋上の石畳の一部に手をつく。

 すると、タイルに四角い魔力の線が走り、ガコンガコンと屋上の一部が変形し、下へ続く階段が現れた。祖父はその階段を下っていくので、俺も後に続く。


「爺ちゃん、ここは……?」


 俺が尋ねると、祖父は壁際のスイッチを捻り、魔導灯に明かりを点ける。


「単なる、武器庫じゃ。五階や六階からでは辿り着けんようになっておる。魔抗金や魔導銀を使った武具は高価なのでな。今は儂とフローラしか、出入り口の開閉はできん。近く、エリーの魔力も登録する予定じゃが、レオンの魔力は登録せんのでな。儂と一緒でなければならん」

「通りで、執務室のある六階は狭いわけだ。爺ちゃんが持ってくる武器は、ここから持って来てたのか」


 時々、祖父が修行の折に、色々な武器を持って来ていた。俺はそれらに対応する為、具現化魔術で創った武器を扱う訓練をしている。

 祖父の執務室にでも仕舞い込んでいるのだと思っていたが、案外、すぐ近くにあったのか。


 触れただけで出入り口が現れるのは、王城の王族にしか開けられない扉と同じ仕組みなのだろう。領主関係の者でないと開閉できないのは、それだけ大事な物があるに違いない。


「レオン、コイツの片側を持て」

「うん」


 祖父が示した、長方形の大きな木箱の片方を持ち上げ、祖父と一緒に階段を登って行く。結構、重たくて、二人がかりでも、相応の身体強化を使わなければ運び出せなかった。


 屋上で一度、箱を降ろし、祖父が武器庫を閉じると、再び二人で持ち上げ、練武場まで運び込む。


「レオンの体格に合わせるとなると……」


 そうして木箱を開けると、祖父は茶色の紙に包まれた物を取り出していく。紙の中には金属のパーツが包まれていて、祖父はそれらを組み立てだした。

 暫くすると、金属の人体模型が出来上がる。


「魔石は……うむ、まだ魔力が残っておるな」


 祖父が人体模型の胸の真ん中に魔石を嵌めると、ブゥン……と起動音が鳴る。魔力が人体模型の全身に巡らされたようだ。


 すると、人体模型が独りでに動き出し、手をついて立ち上がった。祖父は立ち上がった人体模型の各部位を弄って、構えをとらせる。

 見た目は俺と同じくらいの大きさだ。


「こんなもんか。レオン、コイツを殴って転がしてみよ。通魔撃を使っても構わん。ただし、胸の魔石は壊すなよ?」

「え? う、うん」


 俺は人体模型が出している腕を払って、通魔撃をその腹に突き入れる。すると、金属製で重いからなのか少ししか吹き飛ばず、人体模型はバランスを取って着地すると、祖父が作った構えをとる。


「なにこれ? ちょっと面白いかも?」

「じゃろう? 今の使い方は間違っておるが、内部に刻まれた魔紋が連動して、中々転げぬようになっておる」

「間違ってる? じゃあ、本来の使い方は……?」

「人体の構造……特に関節について学ぶ物じゃ。この様に魔力を流しながら、各部位を弄ると、様々な姿勢を取らせることが出来る。が、肘や手首などの各関節は、人体と同じで、可動範囲は決まっておる」

「へぇ?」

「ちゃんと、転がすには……」


 祖父は人体模型に足払いをしつつ、その首筋へ手刀を落とした。人体模型は背中から床に転がると、手をついて起き上がり、構えをとり直す。


「わっ、すごい!」

「これで、こちらに攻撃してくる機能があれば、役に立ったのじゃがな……意志を持たぬ人形ではこれが限界らしい。昔、ばあさんが何かの報酬代わりに、魔導局の者に造らせたそうじゃ。フローラのためにな」

「母さんの?」

「うむ、フローラは儂と違って柔の技法を好む。故に儂との修行以外にも、ばあさんから柔の技法を学んでおったのじゃが……ばあさんは、引退してから様々な場所へ旅に出るので、修行が途切れがちになる。そこで、この人形を造らせたそうじゃ」

「ふぅん……それで、マグちゃんの技を俺に教えないのはどうして?」

「儂が面倒臭い……待て待て、そんな顔をするな。先ず一つ、前提として柔の技法は受け専門じゃ。相手が攻撃してくるのに、合わせる技法ともいえる。そうじゃな、ほれ、儂に軽く拳を突きを出してみよ」

「うん」


 俺は祖父に軽く拳を、突きを出す。


「あの時、ばあさんがやったのはこうじゃろう」


 祖父は俺の手首を掴み、そこで止まった。


「ここから、レオンは逃げようとしたところを利用されて、ばあさんに転がされたわけじゃな?」

「あ、うん、そうだったかも?」

「儂の教えを受けた、今ならどうする?」

「えと……」


 俺は取られた腕を自身の方へ曲げながら、祖父へ向かって肘を突き出しつつ、逆側の腕を立てる。こちらの腕は追撃、及び防御用だ。


「うむ、解っておるではないか。ま、儂から言わせれば、腕を掴まれる様なトロくさい突きは失敗じゃがな。掴まれる前に、素早く引き戻さねばならん」

「成る程……じゃあ、剛の技法の方が優れてる?」

「いいや、武術を教える前に教えたじゃろう? 剛も柔も技法であって、優劣を決めるものではない。剛と柔で対処法が異なるだけじゃ。レオンの肘を柔で受け流すのなら、こうかの?」


 祖父はゆっくりした動作で横へズレながら、俺の肘と肩に手を掛ける。


「ホレ、どうする?」

「ええっと……」


 そうやって、暫く祖父と攻防について、ゆっくりとやり取りする。


「よし、ここまででよかろう。どうじゃ? 何か気付いたことはあるか?」

「的外れかもしれないけど、爺ちゃんは上から、俺は下からになっちゃうね」

「うむ、こういう練習法はあるにはある。が、体格の違う者同士だと、一方向からのやり取りしか学べん」

「あ、それで、あの模型を使うんだね?」

「そうじゃ。相手がこう突きや蹴りを出してくるのなら――と、わざわざ、その姿勢を取らせねばならんがな。ただ、これは人体の構造を学びつつ、教えられるだけでは気付けなかった、技の発展へ繋げるのには重宝するがの」


 そういって、祖父は人体模型の手を取り、片手だけで投げ飛ばしてしまった。


「あ、それ! 爺ちゃん、それ教えて欲しい!」

「全く、しょうがないのう……まだ早いが、柔の技法も多少はやっておくか」

「え? いずれ、教えてくれるつもりだったの?」

「当たり前ではないか、剛柔合わせ持って武術じゃからな」

「それじゃあ、どうして?」

「レオンはまだ、第一段階に到達しておらん。グローサー流では最初の段階で、圧倒的な攻撃力を手に入れる。それから、防御を学ぶのじゃ」

「まだ、ダメなんだ?」

「うむ、惜しいところまでは来ておるがの」

「そっか……まだ、鍛練が足りないのかな?」

「いや、鍛練は今のままでも十分じゃ。それ以上やれば、お主の成長を阻害する恐れがあるからな。焦らず時間を掛ければよい」

「う、うん……」


 また、成長の話が出てきたな……祖父から見ても、俺の成長具合は遅いのだろうか?


 それから、いくつか祖父から柔の技法について学ぶ。祖父は人体模型を動かしつつ、俺に手の置き方、足の位置なんかを時間を掛けて教えてくれた。

 祖父の言う通り、確かに教える側は面倒かもしれない。


「こう持って、こうやって、こう! お、出来た!」

「うむ、人形相手にしては上出来じゃ。よいか、レオン、まだ、実戦では使うなよ?」

「うん、まだ、ものにしてないのは分かるけど、俺ってそんなに下手かな?」

「いや、まだ、基本的な動作を教えただけじゃ。柔の技法とは、相手の力を利用せねばならん。動かぬ人形では、それができんからな」

「成る程……」

「それと、倒れた相手への追撃は打撃のみじゃ。ばあさんの様に関節を抑えにいってはいかんぞ」

「え? どうして?」

「魔術があるからじゃ。ばあさんの場合、相手の魔力を感じ取るのに長けておる。故に機先を制することが出来るが、レオンには、まだ、その辺りの訓練を施しておらんからな。これから出会うかもしれんが、世の中には魔術の発動を感じ取らせぬ者がおる。それに、投げの動作中に魔術を使われると厄介じゃろう? これが柔の技法を教えたがらない理由の二点目」

「そっか、魔術か……」

「更に三点目は……」

「え? まだあるの!?」

「勿論じゃ、儂から言わせれば、まだまだ足りんわい。三つ目は虚実と坦懐を会得すれば、おのずと柔の技法のコツを掴みやすいからじゃ」

「虚実と坦懐? 虚実ってのは右を打つと見せかけて、左を打つみたいなことだよね? 坦懐ってのは?」

「坦懐とは、技の変化、応用といったところじゃ。虚実もそれでは、半分しか理解できておらん」

「え? どういうこと?」

「ふむ、では、儂に虚実を使って打ってこい」


 言われて、俺は祖父に拳を突き出した。突きを受け止めようと反応した祖父を見て、そのまま屈んで足払いを放つ。

 祖父はひょいっと片足を上げて足払いを避け、そのまま踏み込んでくる。俺は転がって立ち上がろうとしたが、そこを祖父に足払いされ、転がされてしまった。


「いってぇ……」

「今のやり取りの意味が分かるか?」

「え、ええっと……」


 俺が腕を組んで考え込んでいると、祖父は眉尻を下げ、腰に手をやりながら話し出す。


「しょうの無い奴じゃ、ヒントをやろう。レオンの速度、特に反応速度は儂よりも上じゃ。しかし、現にお主はこうやって転がっておる。これはどういうことじゃ?」


 そうだろうか? 祖父の方が断然、速いと思うのだが……


「う~ん?……あ、爺ちゃんも虚実を使ってた?」

「ほう、では、何処で使った?」

「そりゃ、踏み込みの時じゃない? 実際には踏み込まずに、体勢を整えようとした俺は転がされちゃったんだからさ」

「じゃから、それでは半分しか理解できておらん、という訳じゃ。よし、ここは今後のためにも宿題としよう」

「ええっ!?」

「種明かしをすれば、ああ、そんなことか、と納得するじゃろう。じゃが、他人から教えられたことは忘れてしまうものじゃ。自ら気付きを得て、初めてものにできるのじゃからな」

「……分かった。じゃあ坦懐ってのは?」

「それも、正解を得てからじゃな。虚実と坦懐は表裏一体の様な物じゃ。虚実が分からんのであれば、坦懐もその本質を理解できんじゃろう」

「う~ん?」

「今までの教えに答えはある。それをどう噛み砕き、消化するのかはレオン次第じゃ。そこに個性が生まれる訳じゃな。儂は儂で、ばあさんはばあさんで、誰しもが長い時間を掛けて、己の戦闘法を確立していったのじゃ。レオンにもレオンなりの戦い方がある。じゃが、まだまだ基本がなっておらん。ホレ、レオンの言いだしたことじゃ、柔の技法の鍛錬を続けるぞい」

「う、うん」


 何か腑に落ちない物を抱えながら、鍛錬を始める。……いや、自分で言いだしたんだ。今はこっちに集中しよう。


 そうして訓練を続けていると、父が練武場に現れた。


「レオン、もう時間だよ」

「あ、ごめん、父さん。すぐ向かうよ。爺ちゃん片付けよう」

「もう、時間か……そうじゃ、ディート、レオンの修行に、少しだけ手を貸してくれんか?」

「え? 僕が? 僕は戦闘訓練の成績は最低でしたよ? そんな僕が、レオンに協力できるとは思えませんが……?」

「なに、ちょいとレオンに向かって殴り掛かるだけじゃ。レオンは殴り返したりせんよ」

「はぁ……それなら、まぁいいかな……」


 父は靴を脱いで、練武場へ入ってくる。そうして、俺の前に立つのだが、身体強化ができているのかどうか、微妙な感じだ。


「い、いくよ、レオン」

「うん、いつでもいいよ」


 父はグイッと右腕を振り上げて、分かりやすいくらいのパンチを放ってくる。

 俺は父の手首をとり、一度下へ引っ張った後、大きく踏み出しつつ取った腕をグルリと上へ回し、身体を沈み込ませた。

 ズダン、と転がった父の顔面へ向けて突きを繰り出す。


「ウッ」


 が、寸止めでやめて、父の鼻を軽く摘まんだ。


「ムグッ」

「父さん、大丈夫? 痛くなかった?」

「あ、ああ、ビックリしたよ……何をやられたのか、さっぱり分からないけど、戦闘術の一つかい?」

「そんなところ。爺ちゃんに教えてもらったんだ」

「そうか……それくらい、僕との座学にも、熱心に取り組んでくれると嬉しいんだけどね?」

「う、うん。これから、練武場の清掃をするから、父さんは先に待ってて」

「全く、君は……」

「ガハハハッ! レオン、儂が後をやっておくから、お主はディートとの座学に励め」

「ええっ? でも、使ったら清掃するのがここの決まりじゃ」

「いいから、ホレ、早ういけ」


 父と共に練武場を追い出され、俺は仕方なく庁舎内へ戻っていくのであった。




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