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具現化能力を得たので変身ヒーローになってみる  作者: Last


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紅蓮の牛魔人


 何処を探せばいいのか分からないまま飛行バイクで空を駆けていると、白猫が俺の肩から顔を覗かせ、前脚を振る。


「……こっちじゃないって?」


 にゃあ、と肯定の鳴き声が返ってくる。そこで飛行バイクの速度を落としゆっくり旋回するように飛んでいく。するとある時点で、白猫が前足を伸ばしにゃあ、と声を上げる。


「こっちか?」


 白猫から肯定の鳴き声。沈む西日に目を細めながら、バイクを直進させる。暫く進んで行くと、座席の前に設置したスマホから報告が入る。


「ハンネの魔力反応を確認。地図に表示しますか?」

「頼む」

「了解」


 スマホに表示された地図を確認すると、白猫が指した方角とは少しズレていた。進路を修正しつつ、そこへ向けてアクセルを捻る。


 辿り着いたのは人気のない何だかみすぼらしい地区だった。王都にもこんな場所があるのか。崩れかけの建物や汚れた街並みが見えたのだ。

 ハンネの反応がある地点から少し距離を取り、飛行バイクの高度を下げる。スマホを外してそこから飛び降りた。具現化を解除すると飛行バイクは宙に溶けるように消えていく。


 上空から見た通り、その辺りは建物の壁が崩れたり廃材やなんだかよく分からない物が多く散乱していた。そして……


「ウヘヘヘ、坊や、騎士団も寄りつかねぇ、こんな場末になんの用だぁ?」


 明らかにチンピラと分かる三人に前を塞がれた。更に俺の背後にも四、いや五人。何時も着ている黒い外套だが、コイツ等には上等に見えるのだろう。


「失せろ。殺すぞ」

「ヒッ……!」


 ギン、と祖父をマネて魔力を乗せた威圧を放つ。三人は腰を抜かしてへたり込んでしまった。俺の下手な威圧で腰を抜かす連中だ。大した腕ではないだろう。

 生かしておく価値などないが、本当に殺してしまいそうだからな……俺自身の間抜けさへの怒りで。


 邪魔な男達を跨いで進んで行く。背後の連中は見えないが、足は止まったようだ。


「あ、アイツ、奴らの元へ向かったぜ……」

「ギ、ギフテッドの奴なのか?」


 そんな声が背後から聞こえてくる。ギフテッド? 何処かで聞いた言葉だ。でも、今はそんな事を気にしてる場合じゃない。

 進んで行くと、廃倉庫の前で焚き火をしている連中の姿があった。


「へへへ、貴族はあの女にいくら出すかね?」

「バカだねぇ、お前は。貴族がたかだか使用人に金なんか払う訳ねーだろ」

「それもそうか。じゃあ、お前の主人は助けに来ない、とか言って心を折ってやろうぜ?」

「それで貴族共の情報を引き出すのか。お前にしては……うん?」

「なんだ、オメェ……いや、コイツは!」


 ここまで接近して漸く気付く連中か……こんな奴等にハンネは……!


「よくここが分かったな?」

「へへ、一人かい、お坊ちゃん?」

「猫なんか連れちゃって、まぁ……へへ、貴族だからってオレたちゃ、お前の言うことなんか聞く気は無いぜ」

「クケケケ……コイツを人質に取れば、身代金たっぷりだぜ」


 身勝手な事を言う奴等に対して、俺は白猫に一声かける。


「ムーナ……」


 白猫は察したのか、俺の肩にぶら下がっていたのを止め地面に降りた。俺はそのまま奴等に向かって歩いていく。


「生意気なガキだな、テメェの立場、分かってんのか? あん?」


 連中の内の一人がポケットに両手を突っ込んだまま、俺の前に向かってくる。


「グオッ!?」


 だから、単打・尺撃に通魔撃を乗せて打ち込んでやった。吹き飛んで倉庫の隅の廃材に突っ込む男。

 唖然とする男達。鈍い反応だ……


「こ、コイツ手に何か隠し持ってるぞ!?」

「ま、魔導具か!?」

「ヤロウ……!」


 やっと、現状に気付いたらしい。それぞれ、その手に剣や短剣を取り出した。俺は具現化で長い金属の棒を創り出す。俺の身長より少し長いくらいだ。


「な、なんだ?」

「構わねぇ! やっちまえ!」


 まず、背後にいる奴に対して振り返らず棒を突き出す。


「グフッ」


 確かな手応えを感じたので、手の中で棒を滑らせて前の一人に突き出す。先端が腹に突き刺さり一人を吹き飛ばす。

 更に二人三人と打ち据えていく。


「こ、コイツ、手強いぞ! グアッ!」

「か、構わねぇッ! 使うぞ!」


 四、五人ほど打ち据えると、奴等は例の試験管を取り出し、ドス黒い霧に覆われていく。


「へ、へへ、こうなったら、もうテメェは降参しても許してやらんぞ」


 俺は金属の棒を放り出し、スマホを具現化。変身のアイコンをタップし、装着されたベルトに嵌める。


「……変身」


 赤い魔力のラインが俺の身体を駆け巡る。


「な、なんだぁ?」

「構うな、やっちまえ!」

「オウッ!」


 跳び出してくる魔獣化した連中。俺は地面を蹴って大きく跳び上がる。空中で変身が完了しフォトンブラスターを取り出す。


Burst(バースト) Mode(モード)

Extra(エクストラ) Charge(チャージ)


 フォトンブラスターから撃ち出された紅い巨大な魔力弾。魔獣化した奴等を巻き込んで大爆発する。

 抉れた地面に降り立つと、奴等は全て灰化していた。


「行こうか」


 傍に駆けてきた白猫に声を掛け、俺は廃倉庫へ向かう。


「む?」


 そこにいたのだ。この前、カサンドラとダーツをやった時に出会った、赤い髪を逆立てた大男が。大男は廃倉庫の奥の角材に脚を組んで座っていた。


「やるねぇ。こうもあっさりオレの部下を倒すとはな。安心しな、女には手を出しちゃいねぇ。薬で眠って貰ってはいるがな」


 大男が指をさす。その先に天井から吊るされたハンネの姿があった。


「ただし、連れて帰れるかはお前次第だ」


 そう言って、厳つい大男は立ち上がる。


「……ムーナ、頼みがある」


 白猫から返答はない。


「姉さんを呼んできてくれ」


 今度は不満げに喉を鳴らした。屈んでその頭を撫でながら更に話しかける。


「頼むよ。もちろん、負けるつもりはないさ。ただ、その後、ハンネを連れて帰らなくちゃならないだろ? お前だけが頼りなんだ」


 俺の真剣さが伝わったのか、白猫は大男と俺を見比べる。少し逡巡する様子を見せた白猫は、ダッと駆け出し、廃倉庫を抜け夜の中へと消えていく。


「ヘッ、猫を逃すとはな。優しいじゃねーか。オレも猫は好きだぜ?」


 ズンズン歩きながら大男が向かってくる。


「オメェ、あの酒場にいた貴族のガキだろう? オレァ、ダーツなんぞどうでも良かったんだが、手下どもが逆恨みしたようでな。こんなマネはしたくなかったんだが、オメェのその能力、オレたちの魔獣化とは違う。ククク、噂に聞く魔導って奴か? こんな機会に恵まれるのも悪かねぇ」


 大男が両手の指をボキボキと、首をゴキゴキ鳴らしながら中央へ進み出てくる。やはり具現化魔術で変身しているのは分からないらしい。


「その手下は俺が一掃したけどな」


 俺も中央へ進んで行く。


「惜しくはあるが、なぁに、魔獣化したい奴はゴマンといる。いずれ、増えるだろうよ」

「ゴキブリかよ」

「オメェら貴族にとっちゃ、そう見えるかもな?」


 穴の開いた天井から差し込む月明かりの元。その巨躯からは異様な雰囲気を感じた。これまでの魔人とは一味も二味も違う、そんな空気を纏っていた。


 そんな簡単に魔人が増えるとは思いたくはないが……コイツの言っている事が本当か嘘か、俺には分からない。ただ、ハンネを救い出すには倒すしかない。

 それでも、勝てるかどうか……だから、白猫に姉を呼んでくるよう頼んだのだ。


 ゴウッと魔力の高まりを感じる。大男が身体強化へ魔力を廻したようだ。オーラは立ち上ってないから、“真”ではない。

 しかし、それだけで、奴の身体から空気が揺らめくような、湯気が立ち上がるような、そんな『熱』を感じた。


「へへへ、まずはお手並み拝見と行こうか?」


 大男が助走をつけ、右の拳を振り被って殴りかかってくる。その拳の外側へ廻る様に動き、大男の膝の裏へ低いサイドキック。ガクンと崩れる、大男。


「なにッ? ハッ? ガハッ!」


 下がってきた大男の顔面に拳を突き入れる。吹き飛んで倉庫の隅の廃材に突っ込む大男。


「ヌゥン!」


 大男は両腕を上げ、ガラガラと自身に覆い被さった廃材を撒き散らし立ち上がる。


「チッ……」


 剛の技法を途中で止めて、ぶん殴ってしまったのが良くなかったらしい。そのせいでアイツは自身で飛んで威力を弱めた。

 どうやら、ハンネを助けたいが為に焦っているようだ。


「スゥ……ハァ……フゥ……」


 大きく息を吸って、大きく吐きだす。ハンネの事は心配だが、冷静さを欠いては勝てるものも勝てなくなってしまう。まずはコイツに集中しなければ……!


「いいねぇ。これくらい歯応えが無きゃ、戦闘っつうのは楽しめんぜ」

「御託はいいから、掛かってこい」

「言われるまでもねぇ……よっ!」


 ボン、と廃材を吹き飛ばし、跳び上がってくる大男。やはり、右の拳を大きく振り被っている。

 今度は逆に大男の左側へ廻る。外した大男の右の手首を取り、更に振り返そうとした左の二の腕を抑える。分かり易い奴だ。そのまま大男の腹に膝を突き入れる。


「グフッ」


 一瞬、動きの止まった大男の隙だらけの身体に、俺は頭、肩、肘の三点で体当たりを決めた。踏み込んだ足元からズゥンと重い音が響く。しかし――


「へへ、やるな、坊主。今のは効いたぜ」


 技の使い方を間違えてはいた。大男は地面に両足を引きながら立ち止まり、腹を抑えながらそんな台詞を吐いたのだ。

 剛の技法『雲身躯衝(うんしんくしょう)』は本来、相手の攻撃を躱し体当たりを決めるカウンター技だ。相手を止めて使うのでは威力も半減するだろう。

 ただ、コイツの頑強さは並大抵ではない。


 それでも――


「飲みなよ、オッサン、例の薬を。アンタも魔獣に変わるんだろ?」


 俺は敢えてそう告げた。


「ヘッ、手下どもの様子を見ていたのか、既にそっちにバレてるのか。まぁいいか。あまりオレをナメるなよ? あんな薬に頼らずとも、オレはなれるんだぜ? オオォォオッ!」


 大男から魔力が溢れゴオオッと紅蓮の炎を纏う。なんだ? これがコイツの魔獣化なのか? 今まで見てきた連中の魔獣化とは全く違う。他の奴等は黒い魔力を噴出していたのに……

 炎の中での奴の体躯はそれほど変わらない。ただ、頭部の左右から角が大きく伸びていく。服が燃え尽き、炎が解けて、中から牛の魔人になった大男が姿を現す。


「ふぅ……服が燃えちまうから、薬は飲んだ方がいいんだがな……」


 肩に残った衣装の燃えカスを振り払い、奴はそんな事を言った。という事は、コイツあの薬品を飲まなくても人に戻れるのか? 


「テメェの強さに敬意を表してオレもガチでやるぜ! ヌン!」


 ボシュッと地面を砕き、牛魔人が跳び出してくる。さっきと違い低い弾道だ。しかし戦法は変わらない様で、大きく右腕を振り被っている。

 振り出してきた拳を避ける……つもりがチュインと胸の装甲部分を掠めた。


「フッ!」


 ボディーブローを打ち込んだが、牛魔人は構わず左の拳を振り返してくる。右腕でガードするが……


「なにっ!?」


 ガードが弾かれ、そこからよろめいてしまう。


「オラァッ!」


 ゴッという風を切る音と共に大仰なミドルキックが飛んでくる。俺は両腕でその蹴りを防いだ。両腕の手甲部分からミシミシと嫌な音がする。


「ぬ?」


 僅かに下がるが、俺はそこから牛魔人に低い蹴りを放つ。軸足を蹴られ片足を上げていた牛魔人はバランスを崩した。


「おわっ!?」


 下がってきた牛魔人の顎に打ち上げるように掌打。クッ、さっきの蹴りで腕が痺れて、威力がイマイチだ。

 それでも俺はそこから踏み込む。さらけ出された牛魔人の腹に肘打ちを決めた。


「グフッ」


 牛魔人はたたらを踏みながら数歩下がった。


「……やるねぇ、貴族に伝わる戦闘術か? 面白れぇ」

「クッ……」


 なんて強靭で剛腕な奴だ。剛の技法、截路昇牙(せつろしょうが)穿肘(せんちゅう)まで使ったのに、ダメージを与えている気がしない。


 この頑強さは師である祖父を思い出すが、祖父はちゃんと防御するからな。コイツが異常にタフネスなのだろう。いや、祖父の場合、あんな見え見えの蹴りは出さないし、最初の截路も躱す。ただの暴力に、今まで培ってきた武術が効かないなんて……だが、ここで挫ける訳にはいかない!


「行くぜ?」


 牛魔人がニタリと口元を歪める。俺の表情は仮面で見えないだろうが、今までのやり取りで大分余裕がありそうだ。それでも――


「来い!」


 そうして始まる接近戦。大振りな牛魔人の攻撃を躱しつつ反撃を決める。しかし、効いている様子はなく、奴は構わず攻撃してくる。

 どうしても躱せない攻撃には、銀の装甲部分、手甲や脛当て、時には肩で受けたりする。致命傷は避けているが、それでもギシギシ、メキメキと各装甲部から嫌な音が響く。


「しまった!? ガハッ……」


 ついに防御が間に合わず、脇腹に丸太のような蹴りを受け吹き飛ばされる。倉庫の隅にある廃材に突っ込んでしまった。


「しぶてぇな。だが、そろそろ終わりかぁ?」


 ガラガラと瓦礫を押し退けて立ち上がった俺を見て、牛魔人が告げる。


「ハァハァ……」


 今のであばらが何本かイッたな……本来は相手にダメージを与え、動きが鈍ったところで使うべきだ。でも、コイツなら或いは……

 ベルトのスマホに触れる。


Extra(エクストラ) Charge(チャージ)


 スマホから音声が流れ、ベルトから俺の足を伝って右の足の裏に魔力が溜まる。


「なんだぁ?」


 そう呟く牛魔人に対して、軽く助走をつけ俺は大きく跳び上がるのだった。




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