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ペット  作者: 平野 滾
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賞に投稿する可能性があるため、いつ消してしまうかわかりません。よりよくしたいと考えているので、批判や忠告は甘んじて受けます。二話完結です。

 あくびが出そうな春の陽気の下、駅前のベンチに座った僕は、その身を突き抜けるような光を浴びて、ただじっとしている。ここ二、三日の日差しは強く、駅の屋根に残っていた雪をすっかり融かしてしまった。朝の通勤ラッシュの時間帯とはうってかわって、目の前の交差点には人通りがほとんどなく、車の走る音ばかりが聞こえる。

 僕は学校に行っていない。ただベンチの上で過ごす毎日だ。僕は学校には行っていないけれど、人並みのことはちゃんと知っている。たとえば、来週から『せんきょ』というものが始まるらしい。明日の天気は悪いらしい。近くの高校では、昨日から春休みに入ったそうだ。

 道行く人たちが僕に教えてくれる。僕は人の声に耳を澄ます。落ち込んでいる人。喜んでいる人。笑っている人もいれば泣いている人もいる。人はみんな様々だ。

 学校には行っていないけれど、僕は彼らとなんら変わらない。僕にだって心配事くらいはある。そうだ、彼らは僕と同じなんだ。

 捨てられたこの僕と。


 暖かかった日差しが傾いて、気温が急に落ちてくると、駅前には活気が帰ってくる。家に帰る人であふれている。誰もが僕を視界の端にとらえるけれど、ぼくを拾ってくれようとする人はいない。

 僕を拾ってくれないのなら、ぼくを捨てたあの人となんら変わらない。彼らは僕と同じだが、あの人と同じでもある。やはり人は様々だ。

 記憶力のいい方ではないから、あまりよく思い出せはしないけれど、たとえよかったとしても、未練も躊躇も残さずに去って行ったあの人を、ぼくは思い出さないだろう。思い出したい記憶ではない。

 あの人の記憶は本当に少ない。

 帰宅ラッシュの時間になると、決まって一人の学生が、ぼくの隣に腰掛ける。眼鏡をかけたその学生は、なにをすることもなく、ぼそぼそと、聞き取れるかどうか、ぎりぎりの音量で話す。この学生には多くのことを教えてもらうが、僕はまだ学生の名前を知らない。学生服を着ているからには最寄りの進学校の生徒なのだろうが、部活もせずに、しかし帰るわけでもなく、たった一人で毎日ここにやってくる。

「お金は目的ではなく、あくまでも手段。お金を稼ぐことは人生の目的ではなく、お金をためることは楽しみではない。手段としてのお金は、使われることが使命だ。僕たちはお金を使うけれど、しかし誤認していることが案外と多くて、たくさんのお金を持つことが人生のゴールである人が少なくないのは、お金本来の役割ではないけれど、しかし人生を豊かにする手段としては、きっと役目を果たしている。大金を持った、という優越感で生かされてる人もいる」

 学生は時折、難しい言葉を使って僕を混乱させるが、学生の話を聞くことは嫌いではない。

 人が行き交うスクランブル交差点を眺めながら、学生はひとり言のように、いやきっとひとり言だ、つぶやく。

「一杯では人が酒を呑み、三杯では酒が人を呑む、じゃあないけれど、お金とお酒にはこだわらないほうがいい、ということだ」

 お金の誘惑には負けない、ということを滔々と語った学生は、去り際に、お昼にバス待ちのおばちゃんが落とした十円玉を目ざとく拾って帰って行った。

 人はみんな様々だ。駅前にはいろんな人がいる。一人で歩く人がいれば、二人組で歩いている人もいる。人の後ろを付いていくだけの人もいる。白くて長い杖を持っている人もいるし、犬や猫を連れて歩いている人もいる。

 何の役にも立っていない癖に家の中ではかわいがられ、外では誇らしく歩く犬や猫が、妙に腹立たしく思えた。


ありがとうございました。

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