第37話:追跡者
第37話です。
排除命令は、
すでに実行段階へ入っていた。
追う者。
逃げない者。
そして――
その境界線が交差する。
「対象エリア、封鎖完了」
無機質な機械音声。
通路の照明が赤く変わる。
「……完全に来たな」
小さく笑う。
空気が違う。
もう“警告”じゃない。
実行だ。
「急いでください!」
教育係が珍しく声を荒げる。
「このままだと包囲されます!」
「だろうな」
歩き出す。
焦りはない。
むしろ――
静かだった。
「……なぜそんなに落ち着いてるんですか!」
女性が追いかけてくる。
「落ち着いてるわけじゃねぇよ」
少し笑う。
「覚悟決まっただけ」
その言葉に、
女性は一瞬黙った。
「……」
通路を進む。
途中でシャッターが閉まる。
封鎖。
完全に追い込みに来てる。
「……徹底してんな」
端末を見る。
逃走経路が次々消えていく。
「こちらです!」
女性が別ルートを示す。
「……詳しいな」
「監視官ですから」
即答。
だが――
その声は少し震えていた。
「……怖いか」
歩きながら聞く。
「……はい」
小さな返事。
「でも」
続ける。
「今さら止まれません」
少し笑った。
「いいね」
その瞬間――
空気が変わる。
気配。
重い。
「……止まれ」
低い声。
通路の先。
黒いスーツ。
三人。
無駄がない。
「……来たか」
実働部隊。
見ただけで分かる。
空気が違う。
「対象確認」
真ん中の男が言う。
「排除命令を執行する」
完全に機械みたいな声。
「……穏便じゃねぇな」
軽く言う。
だが――
返事はない。
「抵抗する場合、強制処理を開始する」
女性が前に出る。
「待ってください!」
珍しく強い声。
「この件は、まだ――」
「監視官」
男が遮る。
冷たい声。
「あなたも命令違反です」
空気が凍る。
「……」
女性の顔色が変わる。
「対象から離れてください」
完全に切り離しに来た。
「……」
女性は動かない。
「離れてください」
二度目。
圧が強くなる。
それでも――
動かない。
「……はは」
思わず笑う。
「何がおかしい」
男がこちらを見る。
「いや」
小さく肩をすくめる。
「人間っぽいなって」
その瞬間。
空気がわずかに揺れた。
「……対象、発言記録」
真ん中の男。
感情を殺してる。
でも――
完全じゃない。
「お前ら」
一歩前に出る。
「本気で“正しい”と思ってやってんの?」
聞く。
静寂。
「秩序維持が任務だ」
即答。
迷いなし。
「……なるほど」
笑う。
「じゃあ壊れるな」
その一言。
空気が変わる。
「対象、危険思想を確認」
「拘束します」
左右の男が動く。
速い。
一瞬。
「……っ!」
教育係が息を呑む。
だが――
俺は動かない。
ギリギリまで。
「……遅ぇよ」
小さく呟く。
直前で避ける。
腕を流す。
体勢を崩す。
「……!」
男の目が揺れる。
「お前ら、動きが綺麗すぎる」
無駄がない。
だから――
読みやすい。
「対象、戦闘能力確認」
後ろへ下がる男。
即座に分析。
「マジメだな」
笑う。
その瞬間――
警報。
さらに強く鳴る。
「増援接近」
機械音声。
「……」
教育係の顔が青くなる。
「まずいです」
「だろうな」
うなずく。
でも――
「面白くなってきた」
本音だった。
「……異常です」
女性が呟く。
「知ってる」
その時。
真ん中の男がこちらを見る。
初めて――
感情が見えた。
「……なぜ逃げない」
静かな問い。
俺は少しだけ笑って、
答えた。
「逃げたら終わるから」
シンプルだった。
「……」
男は黙る。
数秒。
「理解不能だ」
「だろうな」
笑う。
「俺も分かってねぇ」
でも――
前には進む。
それだけだ。
「対象、再拘束を――」
男が言いかけた瞬間。
突然。
照明が落ちる。
真っ暗。
「……!」
全員が止まる。
そして――
別の声。
暗闇の奥。
「……おいおい」
聞き覚えがあった。
「もう追われてんのかよ」
空気が変わる。
完全に。
「……お前」
俺が呟く。
暗闇の中。
ゆっくり現れたのは――
あの男。
“失敗作”。
「派手にやってんな」
笑っていた。
でも――
目は笑っていなかった。
読んでいただきありがとうございます。
第37話では、
ついに実働部隊との接触が描かれました。
そして最後に現れたのは、
かつての“失敗作”。
物語はここから、
さらに大きく動き始めます。
次回、
主人公は“外の世界”を知ることになります。
引き続きよろしくお願いします。




