第35話:崩壊の兆候
第35話です。
小さなズレ。
小さな揺らぎ。
だがそれは、
確実に世界の奥へ広がっていた。
そしてついに、
“表側”に異常が現れ始める。
「……報告が増えています」
教育係が端末を差し出す。
一覧。
異常通知。
想像以上に多い。
「……広がったな」
小さく呟く。
「はい」
女性の声も少し重い。
「複数市場で、予測外の変動が発生しています」
画面を見る。
価格変動。
流通の乱れ。
人員移動。
全部が、少しずつズレている。
「……綺麗だな」
思わず口から漏れる。
「綺麗ではありません」
即座に返される。
「異常です」
「そうとも言う」
苦笑する。
でも――
これはただの混乱じゃない。
「……流れが、生き始めてる」
静かに言う。
管理されていたはずのものが、
勝手に動き出している。
それが――
面白かった。
「……」
女性は何も言わない。
だが、否定もしない。
「上は?」
聞く。
女性は少しだけ視線を落として――
答えた。
「混乱しています」
当然だ。
「原因を断定できていません」
「俺ってバレてねぇの?」
「疑われています」
その言葉に少し笑う。
「完全には?」
「証拠がありません」
いいね。
まだ踊れる。
「……でも」
女性が続ける。
「時間の問題です」
空気が少し重くなる。
「……だろうな」
否定はしない。
ここまで広がれば、
いずれ辿り着く。
「……止めますか」
また、その問い。
俺は画面を見る。
揺れている。
世界が。
「……」
少しだけ考える。
止めるなら、今だ。
ここならまだ戻せる。
被害も最小で済む。
だが――
「……いや」
答えは決まっていた。
「続ける」
静かな声。
「……そうですか」
女性は目を閉じる。
予想していた顔だ。
「理由、聞く?」
珍しく俺から聞く。
女性は少しだけ迷って――
うなずいた。
「……聞きます」
だから言う。
「初めてなんだよ」
小さく笑う。
「この世界が、“勝手に動いてる”の」
沈黙。
「今までは全部、管理されてた」
数字も。
人も。
価値も。
「でも今は違う」
画面を指差す。
「誰も完全に読めてない」
それが――
変化だった。
「……」
女性は静かに聞いている。
「完璧じゃなくなった」
少しだけ笑う。
「それって、生きてるってことじゃん」
その瞬間――
女性の表情が、わずかに止まる。
「……理解できません」
ぽつり。
でも今回は――
少しだけ違った。
完全な否定じゃない。
「だろうな」
笑う。
「俺も説明できねぇ」
本能だ。
ただ――
「このまま終わらせたくない」
それだけは、確かだった。
「……」
沈黙。
長い。
その時――
アラートが鳴る。
空気が変わる。
「……!」
女性が即座に画面を見る。
「何だ」
立ち上がる。
女性の顔色が変わっていた。
珍しい。
「……外部です」
「外部?」
「はい」
画面をこちらへ向ける。
そこには――
ニュース。
市場暴落。
複数エリア混乱。
「……は?」
空気が止まる。
「影響が、外に出ています」
その一言。
重かった。
「……」
数秒、何も言えない。
内部だけじゃない。
もう――
広がっている。
「……マジかよ」
小さく呟く。
想定より早い。
いや――
デカい。
「……どうしますか」
女性の声。
少しだけ揺れている。
当然だ。
これはもう――
遊びじゃない。
「……」
画面を見る。
混乱。
揺れる市場。
人の流れ。
全部、動いている。
そして――
その中心にいるのは。
「……俺か」
静かな言葉。
否定できない。
「……」
女性は答えない。
答えられない。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
「最高だな」
本音だった。
怖い。
ヤバい。
でも――
「生きてる」
確実に。
この世界は今、
初めて“生きて”いる。
「……あなたは」
女性が小さく呟く。
「本当に」
言葉を探して――
「止まりませんね」
俺は画面を見たまま答える。
「今さら無理だろ」
もう、
ここまで来た。
だったら――
最後まで見る。
この世界が、
どう壊れて、
どう変わるのか。
全部。
読んでいただきありがとうございます。
第35話では、
ついに異常が“外部”へ波及しました。
管理されていた世界は、
少しずつ制御を失い始めています。
そして主人公は、
その中心に立っていることを自覚しました。
次回、上層が本格的な対応に動き出します。
引き続きよろしくお願いします。




