二話目
長いです。前回よりは短いです
―――――――ッ!!
「……………っは!」
目を覚ますと、見知らぬ天井を見上げていた。
「…………………………………ああ、そうだった。うげ、気持ち悪りい」
ここは、寮の一室だった。体を起こすと、汗でじっとりと濡れていた。酷く気持ちが悪い。
なにか嫌な夢を見た気がする。しかし内容は忘れてしまった。
俺は、ぼーっとする頭を揺さぶって起こす。時間は、………ぴったり六時。この生活リズムだけは崩れない。
起き上がって辺りを見渡す。まったく片付いた様子のない見慣れない家具の数々。多い尽くされた前任者の荷物に追いやられるようにして隅っこで固まっている俺の荷物達。
全然片付いていない。
というよりも、何でこんなに汚れてるんだったか。
「……………思い出した」
ああ、思い出したとも。
昨日会った、どいつもこいつも糞ガキな奴らの事を。
思い出して、ゲンナリした。
昨日の出来事を様々と思い出して、俺はさっそくため息を付きたくなった。
ため息は好きじゃない。だから、付かない為にも、タバコが吸おうとポケットに手を伸ばす。
空回りする指。
「――――ッ! んッ! ないだと! 馬鹿な!」
焦る俺。
『校内では禁煙だ愚か者ッ!』
………ああ、これも思い出した………。まあ、いいけど、俺が持ってきたトランクの中にまだまだストックあるし。って、俺のトランクが勝手に空いてる、――――タバコが根こそぎ持っていかれてるだと!?
「…………あのガキか。ふざけやがって………」
くそ。
―――俺、こんな学校でやっていけんのか………?
かつて日本と呼ばれた第二十八番州は世界有数で魔術的資源の豊富な地区だと言われている。主に、固有文化による魔術論理は歴史、構造共に単一民族特有の優秀さと言えるが、もっとも優秀とされるのは、その人材だ。
かつての国民思想に根付く、柔軟な魔術文化が、優秀な魔術師を数多く輩出してきた。
『月影女学院』もその一つの結果だ。
今や一大財閥の一つの《陰陽グループ》を元とする、二十八番州には魔術師教育機関が多数存在するが魔術師の才能は、環境よりも、遺伝子の方が影響がある。
よってその待遇は血筋によって左右される。
より、高い血統がより良い環境に置かれる。それが、魔術師、という職種の実態と言える。
『月影女学院』とは一定以上の才能を持つ生徒が集まる言わば州内有数の名門校であり、その権威は例え『分校』であろうとも衰えるような事はない。
「私が月影女学院分校の理事長の陰陽 御木代だ。何か文句があるか」
「………文句というよりも」
「黙れ庶民」
さっそく、理事長の部屋に通された俺は、間を入れずに黒い椅子の上で踏ん反りかえるガキに、威喝された。
「黙っておれ一般庶子。お前の言うことなど高が知れるわアホ、どいつもこいつも似たようなリアクション取りおって。こっちは初対面の度に同じ反応何度も受けてそろそろイライラしておる。貴様の質問に答えるつもりはない。いいな」
なんだこの糞ガキは。
執務室(と書いてあった部屋)に入るや否や、俺は身長が恐らく百四十もないチビガキに偉そうな口を叩かれていた。猫みたいな吊り上った目をしたガキで、どう見ても学院の制服を着ているが、どうも 理事長を名乗っているらしい。アホか。
俺が呆れて後ろを振り返ると、フランが、こっちを見返して、何故か頭を下げた。……どうやら本当らしかった。
なんの冗談だこれは。
「返事が聞こえん」
腰まで届きそうな純粋に深い黒色の長い髪を揺らしながら、少女が俺を睨んだ。本当にガキにしか見えないんだがな。
「…………うす」
「よろしい。では、もう一度名乗るが、私が月影女学院分校の『理事長』ッ! の陰陽 御木代だ。よろしいかな一般庶子」
しつけえな。
「ああ」
「よろしい。では、質問だが、君はどうも勘違いをしているようだが、初任は八時以内にくるよう、 私は通達した筈だが、予定時間を大幅に過ぎているのはどうしてかな? 私としてこれだけで君の評価を下げるに値すると思うが、一応弁明を聞こうか。ん?」
「………箒が回収されるとは思わなくてな。七時にここについてから歩いてきたんだ」
「ほう」
理事長(と名乗るガキ)は、目を細めた。
「悪いがここでは許可なく箒を飛ばす事は出来ない」
「どうして」
「生徒を逃がさない為にだ」
理事長は当たり前のように告げた。
「なんだって?」
理事長は酷く、面倒くさそうな顔で言った。
「防犯上の理由だ。生徒が箒をもって自由に行動するのは問題があるだろうが。後、貴様、私には敬語を使え」
「分かりましたよ理事長」
「ふん。まあいい。とにかく学院では許可なく箒を飛ばす事は出来ない。あの厳重な警備を見れば分かるだろうが、勝手な外出も一切許可してない」
「………」
俺は、あの校門での検査を思い出した。血液から指紋、魔力の波長まで測られた。あの厳重な警備を、まるで檻のようだ、と思ったがあながち間違いでもなかったらしい。
結局あの大きな門も防犯上の都合とかで実際には使用していないとかで隣の駐車場の奥にあった警備員常備の小門から学園に入った、という経緯もある。
「ここは資産家の子女も多い。警備が厳重なのは彼女らの親の希望たってのことだ。わかるか」
「ええ」
頷いて置く。そういえばあの森であった少女は学院の制服を着ていた。だが、学院に許可を取って出歩いているようには見えなかった。
ではどうやって?
悪い事をしているようには見えなかったが、わざわざあんな警備の中抜け出して、森で何をしていたのだろうか。
「どうした? キツネにつままれたような顔しおって。………森で学院生にでも会ったのか」
「別になにも。そこまで厳重にする意味が分からないだけです」
理事長は、特に疑いも持たなかったようで、ふん、と鼻を鳴らしただけだった。
「好きに解釈するがいい。……そうだ、貴様、嘘はいかんな」
まさか勘ぐられた? 俺が?
「嘘って何がです」
気取られたとは思えないが。
理事長は意地悪げに口元を歪めた。
まさか、意外と鋭いのか、コイツは。
「………湾岸からここまで七キロはある。そのスーツケースを持って歩いて一時間でやって来れる距離ではないだろう? まさか、箒を隠し持っているわけではあるまいな」
そうでもなかった。
「………いや、俺は普通に徒歩でしたが」
理事長は怪訝な顔をしたが、俺の拍子抜けした顔を見て、何かを思い出したらしく、一人頷いた。
「む、そうか、貴様、元軍人だったな」
「……まあな」
「敬語」
「そうでございます」
「ぐっ」
理事長はむっとした顔をした。
「貴様はどうも軍では教わらなかったようだ、上司に対する態度というものを。今からでも私が徹底的に………」
そう言って理事長は机から杖らしきものを取り出そうとした。
「みきよ様。申し訳ありませんが、お時間が」
後ろで控えていたフランジェリカが、静かに告げた。
「っち……」
残念そうに舌打ちをする理事長。
「まあいいだろう。本題に移る。あー、葉山 晋太郎。今日よりお前を月影女学院分校の魔道基礎科を担当してもらうが、問題はないな」
「ああ」
「私から、葉山教員に言える事は二つだ。よく聞け」
理事長は黒皮の椅子から降りて、俺の前に立った。身長の差から自然と俺が見下ろす形となる。黒い双眸から射抜くような視線で俺を見ていた。先ほどとは違う、一応真面目な表情。
「まず一つ。絶対に生徒に手を出すな」
「…………は?」
「そして二つ目だ」
理事長の言葉に呆気に取られた俺は、俺の胸ポケットに伸びる理事長の指を見た。殺意とかがないので、俺の体はつい、反応を忘れてしまった。
彼女が抜き取ったのは、俺のタバコ。長方形の四角い箱とその中身。
ぐしゃり。←タバコが握りつぶされた音。
「な、て、てめえ――」
「私はな、タバコがだいっっっ嫌いだっ」
彼女の手が真っ赤に燃え、明るい部屋をさらに一段煌々と照らす。ぶしゅう、と蒸気が抜ける間抜けな音と共に理事長が握った無様に潰れたタバコの箱はあっという間もなく炭化し、黒い塊と化し、そして理事長はそれを俺の目の前で、ゴミ箱に、投げ捨てた。
な、なんて事を。あの中にはまだ半分以上タバコが残っていたというのに!
「俺のタバコに何してんだ!」
「校内は禁煙だッ! 愚か者ッ!」
読了感謝。あー、だんだんスムーズになるのでまた読んで欲しいです。主要キャラがまだあんまり出ていません(汗




