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Imagine World  作者: サツマイモ
『恋想世界』
31/81

003 帰り道って意外と話すことなくて気まずい

「……あの、どうして先輩がいるんですか」

「未桜でいいよ」

「未桜先輩は、どうしてここにいるんですか?」


校門前に立っていた先輩は、服のあちこちがぴょこんとはねており、心なしか笑みがこぼれていた。


「まあいいじゃないか。何もしないよ。何もさせないだけで」

「……」


神妙な面持ちの子村さだったが、「まあいいでしょう」と諦めていた。ため息が大きかった。


「では、行きましょう」

すると、彼女は「ん」と一息つき、それから彼女の家とは全く逆の方向を向いた。そして、大きな歩幅を一歩踏み出した。

心臓が少し止まったかと思うくらいに驚いた。


「え?」


道行く車に掻き消されるような、それくらいの小さな呟きに反応した子村さんは、「ん?」と振り向いた。揺れる髪がとても大人びていて、それにまた僕の心臓は反応する。隣の先輩がどんな表情をしていたのか、その時の僕には知る由もない。「ん」先輩は、僕の足を踏みつけた。痛くはない。「何ですか?」先輩はむすっとしながらそっぽを向き応えようとしない。今日もまた、キャラクターが違うようだ。


「んで、どうしたの?」


どちらが悪いと言えば、どちらかが悪いわけでもないのだろう。彼女も言葉足らずで、僕も訊かずにのこのこついてきたので、ここの勘違いというのは起こるべくして起こったと言える。


端的に言えば、僕はてっきり彼女の家に行くものだと思っていた。もちろん、入ったことは無いけれど、仕事上、地図は把握しているので彼女の家は知っている。


しかし、彼女は別方向を歩みだしていた。そして、その先にあるのは駅だった。


「どこ行くんですか?」

すると、彼女は「あれ?」と呟きつつ、「おじいちゃん家」とだけ答えてくれた。


いやいや、言ってないっけ? みたいな表情を見せてくれているけれど、言ってねえよ。


「どこにあるんですか?」


彼女はここから6つ目の駅の名前を言った。なるほど、それくらいなら言わなくてもいっか、ってそんなわけあるか。

財布を持っていなかった僕は、ゆっくりと後ろを振り向く。先輩は「だろうね」と言いつつ財布を見せびらかした。面白がる表情が、苛立ちを覚えさせるが、やっぱり可愛いので許してしまう。くそ、これで何度まるめ込まれたことか。


「貸してください」

「今度、私の家に来て。そしたら、かしたげる」

「行きます、行きますとも」


金にホイホイついていく男子高校生がここにいた。


「行くよ」心なしか強めに言われたその言葉には、苛立ちが載せられているように思えた。

というか、歩幅が大きくなっていたり、靴を大きく鳴らしているところからして、本当に怒っているらしかった。


「は、はい」

こうして、僕らの行く場所、そして目的がそろったのだった。


「にしても、さっきの子」


子村さんは、唐突に切り出した。

駅までの長い道のりをどう過ごそうかと思っていた僕にとって願ってもいないチャンスだった。先輩が不思議そうにこちらを見つめるので、ある程度の説明をする。まあ、名前を出した段階で「ああ、あの子か」と返されてしまったのだけれど。


「知っているんですか?」


子村さんの問いに、彼女は自信満々に返した。


「まあね。彼女に、挑戦状とか渡されなかった?」

「確かにもらいました」


未だにポケットに入っていたことをいまさらながら思い出す。


「私も、あのフリースペースでもらったの」


ほえ。どうやら、教室での居場所はもう形成できなくなっているらしい。ただ、学校での居場所はまだ残っているので一安心ではある。学校なんて要らないという理論の持ち主の彼女なので、居場所を無くしたりしてしまえば、学校にはもちろん入ってこない。絶対に。勉強面での絶大な信頼を寄せる僕にとってそれは重大な問題だった。あと、先輩が学校にいないとなると、どこで何をしでかすか分からないので、そういう意味でも先輩が学校にいてくれた方が助かる。


「まあ、あっさり帰っていったんだけど」


多分、それはあなたがあっさりと答えたからじゃないだろうか。


「ちょっと不思議に思ったんだよね。なんか、怪しいというか、妖しいというか」


先輩の勘はミス・センスこと外村うてなの精度には劣るが、それでもミス・パーフェクトと呼ばれるだけあって、間違えることはほとんどない。うてなが幽霊と言っていたことを、思い出す。


「そういえば、うてなが幽霊だとか言ってました」


僕の返しに、子村さんも頷く。


「ねえ、どういうこと?」


幽霊は専門外なので何とも言えない。そりゃもちろん、答えてあげたい、解決したいという気持ちが強いのだが、知らないことは答えられない。


「まあ、それも含めて行きたいんだけどね」


先輩は、意味深長な台詞を、僕にしか聞こえないくらいの小鳥のさえずりのような声で囁いた。

目の前にはそれはそれは田舎らしい、大きな駅が鎮座していた。


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