彼は愛を失い、俺は相棒を得た。めでたしめでたし
事の顛末を聞き終えたレンヤの反応は俺の予想とは異なるモノだった。
レンヤは口許を押さえて柔和な笑みを浮かべていた。こいつの本性を知らなければうっとりするような慈愛に満ちた優しささえ滲む声で囁く。
「ねえ、コーヤ。今、どんな言葉が欲しい?」
お前から欲しい言葉なんてない。今までの俺ならそうだった。でも今は…
前のめりになった俺を機械の腕が制する。
「待て、言うな。わかるから」
その腕がにゅっと俺の方に伸びたかと思うとヒヤリとした金属が頬を掴んで引き寄せた。
赤いネオンの毒々しい光が近づく。
「最低だな、コーヤ。俺と同じサイコ野郎だ」
ニッコリと笑う。それはもう嬉しくてたまらないのを隠すこともなく。
「お友達騙しちゃいけないんでちゅよ?頭いいのにこんなこともわからないんでちゅか~?ああ、でもいいのか。所詮は機械だもんな!」
違う。そう言いたかった。
でも脳内によぎったワイリーとアリスの海辺の記憶がその言葉を押し止めた。俺が奪ったままのワイリーの記憶。
レンヤは嬉々として続ける。
「ひでぇネトリだな。結婚を約束した男がどこの馬の骨とも知らない男のモノにされてるとかその恋人が知ったら自殺モノのトラウマだろ」
ああ、痛い。言葉の一つ一つが的確に刺さる。痛すぎて、生を感じる。
「でもね、コーヤ。お前が最低最悪の嘘つきなのは事実だけど、仕方ないことだったよな。欲しいものはどんな手を使っても手に入れなきゃだよな。どうせ忘れてるのになんでワイリーの気持ちなんて考える必要がある?」
俺は赤いネオンライトから視線をそらせない。
甘く優しい悪魔の囁き。
ああ、最悪だ。やっぱりこいつはわかっている。今俺の心が求める全てを。
罰してほしい。許してほしい。
それ以上に、認めてほしい。俺にはこれしか選べなかったと。
細めた瞳の光が瞬く。俺を慈しむように慰めるように。
その光がさらに近づき、コツン、と額を付き合わせる。
機械の掌と違って生身の温度が額越しに伝わってくる。
「やっと認めてくれるだろ、俺たち似た者同士だって」
俺は答えない。
否定もできない。
レンヤはその沈黙の意味を例によって理解してる。
いつもみたいにバカ笑いして指摘してこないのも、きっと計算なんだろう。
「なぁ、ブツの報酬として最後にひとつ聞かせてくれ」
レンヤの冷たい指が頬をなぞって下へと降りていき、シャツ越しに俺の心臓を鷲掴みにする。
「ここにいるマナトはもう死んだ?」
俺は小さく息を呑んだ。
「…かもな」
レンヤの冷たい指先が俺の心臓の上をくるくると動く。その軌跡でハートマークを描き、中央にジグザグの亀裂を入れた。
「それって蜃気楼の生みの親を殺せたから?それとも…代替機が見つかったから?」
「ワイリーはマナトの代わりじゃない」
レンヤの手が離れる。
「お前がそういうならそういうことにしといてやるよ」
俺はシャツを整えて立ち上がった。レンヤも釣られて立ち上がる。
「もう行くのか?一杯くらい飲んでいけよ」
「遠慮する。これから新人の歓迎会を兼ねて打ち上げをするんだ」
「なんだよ、それ」
レンヤは不服そうにソファに沈む。
その不機嫌は長くは続かず、次の瞬間にはいつもの揶揄う調子が戻っていた。
「次来るのはハロウィンの頃か。カソックでも着て待っててやるよ。ミナトはシスター服でいいよな。ミニスカとハイレグどっちが好き?」
「くたばれ」
「スリット入った奴だな。任せろ」
俺は大股でドアへと向かった。
バーカウンターで談笑してるアンデッドロイド三人組が驚いたように俺を見た。
「話は終わったのか?」
グラスを置いてワイリーが駆け寄ってくる。
「ああ」
バーカウンター越しにバーテンダーの格好をしたミナトと目が合う。
返ってきたのは気まずげで他人行儀な会釈。
同じものを返すと、微かな胸の軋みを感じた。
ああ、でも痛みは鈍い。
その事実に戸惑いよりも安堵を覚える。
「帰ろう、ワイリー」
「オッケー」
迷いを断ち切るようにミナトに背を向けてワイリーと共に外のネオンライトへと足を踏み出した。




