第三部 ギーヨの憂鬱
ライトさんがプリンを食べている頃。僕は1人でため息をついた。もう皆は寝静まっているだろうから、僕はある人に電話をかけた。
「もしもし。今、大丈夫でしょうか?」
『はい。久しぶりな気がしますね、ギーヨ様』
「お変わりないようで、ストキ様」
『今日は光狐についてでしょうか?』
さすがはストキ様だ。察しがいい。僕が何も言わなかったのを肯定と見たのか、ストキ様は続けた。
『そうですね、今はまだ攻め込んでくる気配はありませんが、早めに手を打っておかないと、被害は出てしまうでしょう。あなたなら、少数精鋭の彼らの恐ろしさ、よく理解しているでしょう。我が国軍だけでは対応しきれないので、あなた方のお力も必要です。お願い致します。では、今回はこれで」
ストキ様が挨拶代わりのからかいをしてこなかったということは、本当に骨が折れる事件ということだろう。まだ民衆はこのことを知らない。知っているのは王族と国軍、そしてフォニックスぐらいだろう。確か、光狐と闇狐が手を組んだという話だから、民の混乱は広範囲に及ぶだろう。僕も協力しなければならない。それにしても、あいつは今どうしているのだろう。あの時出会ったあいつは…。もしかすると、彼が主導者かもしれない。もしそうであれば、かなり厄介だ。僕としては、なんとか未然に防いで、この曖昧な関係を終わらせたい所だが、彼らはそれをもっと悪い方向へ向かわせようとしている。そうだ、フォニックスが心配だ。まさかとは思うが、ブラックスの戦いに勝ったことで調子に乗って戦い出したらどうしよう。怪我どころでは済まされない。僕が直接行…ける訳ないし、手紙も随分とタイムラグがある。さらに、僕はフォニックスの電話番号を知らない。…ええい、行ってやる!僕はそっと部屋のドアを開け、誰も見ていないのを確認してから廊下を歩いて外へ出た。そして、フォニックスの本拠地まで走って行った。そして、ジャンプで塀を飛び越え庭の片隅に入り、持ってきた毛布にくるまって寝た。
翌日。僕が目を覚ました頃には、フウワさんが起きていて、特訓をしていた。そこで、僕は中庭に行ってフウワさんに話しかけた。
「ギ、ギー…」
「静かにしてください。キョウに見つかるといけないので。おそらく、ギルド様から光狐と闇狐のことについて教えられているとは思いますが、付け足しで言っておきたいことがあるのです。気合いを入れてくださったのに申し訳ありませんが、その件に関してはなるべく関わらないようにしていただきたいのです。確かに、この2年程であなたたちは相当強くなりました。しかし、今回の相手はエヴェルとは比べ物にならないほどの強者。ここからはそれこそ国軍の仕事となります。急にこんなことを言われて、納得できないかもしれません。しかし、これはあなたたちのためです。どうか、この約束を守っていただきたい」
僕はさすがに仕事に遅れるのはまずいと思ったので、手短に伝えた。フウワさんには悪いけれど、1人で説得してもらうしかない。僕はそのまま猫の国の宮殿に行った。今日はいつもの事務仕事だから、少し身だしなみが整っていなくても向こうで直すことができる。僕が自分の仕事部屋に入ろうとドアを引くと、何故か開かなかった。ドアを外して入っていくと、不機嫌そうなキョウがいた。どうやら向こう側からドアを引っ張っていたようだ。
「ギーヨ様!寝室から抜け出すなんて、一体何をお考えなのですか!もしかして、フォニックスの本拠地に行ったのではないでしょうね?」
「よく分かりましたね。でも、勘違いはなさらないでください。僕は彼らに忠告をしてきたのです。あのままだと、彼ら本気で戦いに行きそうだったので。さて、今日も頑張りましょう」
僕はまだガミガミ言っているキョウを無視し、書類に目を通した。果たして、僕の忠告だけでフォニックスが止まってくれるだろうか。いや無理だ。あそこにはそれらの戦争の関係者がいる訳だから。僕は書類を見ながらフォニックスをどうやって止めようか考えていた。はあ。この書類たち、予算案などちゃんとしたものも当然あるが、クレームが意外とある。なんでこういうのを僕に見せるのか謎だけれど、立場上そうだから仕方がない。餅は餅屋。僕に水路のクレームを見せられてもどうすればいいのかよくわからない。クレームを出してから僕の元へ届き、さらに実際の部署に届くまでは結局3日はかかる。僕の分で1日削減されそうなものを。この国の1番の問題は物流だな。国土はこんなに広いのに、運送業に携わる人が少なすぎる。政府として運送業に入りたいと思わせるような政策が必要かもしれない。僕がずっと書類の山を一枚一枚読んでいると、もう昼になり、昼食の準備をしている人がいる。いくら国王と言えど、あくまで国民の1人。いつも豪華な食事であるわけではない。でも、皆から見ると豪華に見えるようだ。全く、面倒な制度があるからこういった差を生むのだ。




