プロローグ 新たな仲間
三月も終わりに差し掛かった頃。一通の手紙が私たちに届いた。
『フォニックスの皆様へ
いつも依頼を受けてくださりありがとうございます。お体に気をつけて活躍してください。この度は、光狐と闇狐が怪しい動きをしているとの報告があり、手紙を書かせていただきました。しかし、これは国軍レベルの案件ですので、ご無理はなさらないように。依頼はあなた方の判断で受けるも受けないも自由です。ご協力願います。
ギーヨ』
私は手を握った。なんで、また繰り返さなきゃならないの?ツーハちゃんには難しい話かと思ったら、決意を固めた顔をしていて、私がびっくりした。私が不安そうな顔をしていると、肩に手を置いてきたのがシン君でこれまたびっくりした。
「ケイルに一回聞いたことがある。闇逆戦争の話。そんなのをまたやろうだなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある。俺は覚えてないが、誰も得しねえ戦いは避けるべきだ。だから、これは利害の一致ってことで、これに関する依頼は本気で協力してやる。だからお前、浮かない顔してじっとしてたら置いてくぞ」
ぶっきらぼうだけど、多分これはシン君の優しさだ。
「じゃあ、今日から仲間だな!よろしくな、シン!」
「…仕方ない。この戦争が完全に終わるまでは仲間でいてやる。1人で戦っても焼け石に水だからな」
エントはよっしゃあと喜んでいた。ツーハちゃんが何をしているのか見てみれば、中庭で黙々と特訓をしていた。私がそれを眺めていると、イネイさんが寄ってきた。ライトさんと付き合い始めたと聞いた時は驚いたけれど、2人の間には温かな空気が流れており、意外といいカップルかもなんて時折思ってしまう。
「ツーハさん、毎日ああやって特訓してるんですよ。みんなの役に立つんだ!って。エヴェルの目潰しをした時は、コウさんにすっごく怒られたのになんだか嬉しそうでしたよ。ミレイさんの一件以降、このままじゃ通用しないと思ったみたいで」
私は心底感心した。シン君は才能の人だけど、ツーハちゃんは努力の人なのかもしれない。
「なんだか、ツーハさんからは『努力できる才能』を感じます。頑張ってる、って感じですよね!」
イネイさんって、前向きな人だなあ…。それが声に出ていたようで、イネイさんは真っ赤になった。
「いえいえ!私なんて、ネガティブだし、全然前向きじゃありません!」
私はなんだか憂鬱な気持ちがちょっと楽になったような気がした。私はなんとなく自分の部屋に行き、自分の妖石を見つめた。まるで氷のようなそれは、私の浮かない顔を映した。私は妖石から手を離し、鏡の前で口角を指でぐいっと上げた。そうだ、いくら考えたって、前に進んでいかなくちゃいけないんだ。過去を繰り返さないこと。それって多分結構難しいことだと思う。でも、頑張ってる人が近くにいる。それだけで、不可能にはならないような気がするのは、あの2人だからだろうか。私は自分の部屋からリビングへ向かうと、早速依頼の整理をし始めた。初めての頃は個人的な偏見だったり冷やかしだったりと嘘も多かったけれど、ブラックスの一件を解決したためなのか、依頼はどっと増え、嘘の割合も減ったような気がする。大変な気がするが、1人でも解決できるものが多く、そんなに苦労はしていない。とはいえ、実際にある嘘を感知するといい気はしない。私は午前中余程大変な依頼がない限りここにいてこんな作業をしている。時折イネイさんがお茶を持ってきてくれるので、職場環境としては最高だ。2年前は、こんな生活をするなんて思ってもいなかった。でも、間違えたらフォニックスの評判が落ちるという結構大事な役目なので、気は絶対に抜けない。ツーハちゃんは宿題が終わるとすぐにまた特訓を始めた。私も早く終わらせて特訓しよう。私は立ち上がると、お昼ご飯まで時間があるのを確認し、中庭に行くと、かなり驚いた。ツーハちゃんが技で木製の的を壊していた。そして、今まさに金属製の物に取り替えようとしていた。私と一緒に戦ったり、的当てをしたり、私たちもやるようなことをツーハちゃんはこなしていた。私は終始驚かされながら一緒に特訓し、ツーハちゃんのお腹が鳴るとやめた。ツーハちゃんは素早く食卓へ向かい、たくさん食べた。コウは大変そうにおかわりを作っていた。イネイさんはさして驚きもせず微笑みながらツーハちゃんを見ていた。ツーハちゃんはすぐに特訓しようとし、お腹が痛くなってストップした。食べてからすぐ運動するから。私は依頼に行く時間となったので、カバンを掴んで目的地へ向かった。場所はそんなに遠くないので、歩いて行くことにした。私は不安を拭いきれないままだってけれど、気合いを入れようとほっぺを叩くと、力強く歩いて行った。そして、まだライトさんのお父さんの気配がわずかに残る妖石を握り締め、微笑みかけると、そんなはずがないのにお母さんの微笑みが、一瞬見えたような気がした。でも、すぐに消えた。




