表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォニックス 運命の始まり  作者: ことこん
第二十九章 不思議な力
141/150

プロローグ ムルルと不思議な出会い

 僕は夜眠れず、ため息をついた。ウルベフの本拠地にあった僕の部屋は、家具はもう片付けられてないだろうと覚悟していたけど、そのまま残っていた。まるで、僕が帰ってくると確信していたかのようだ。ウルベフって、仲間には意外と甘い。でも、エヴェル兄ちゃんはどうだろう。裏を返せば、敵には相当厳しいってことだから。でも、それはずいぶん先の話になりそうだ。いつまでかかるのかな…。部屋の奥にある窓をなんとなく開けると、夜空が見えたが雲で月や星は見えなかった。僕は思わずため息をついた。その時だった。急に視界が真っ白になり、いきなり明るくなった視界に目をつむった。目を少しずつ開けていくと、テーブルと二脚の椅子、そして辺りには花畑が広がっていて、夜のはずなのに昼間みたいだった。

「ようこそ、時の館へ。お2人さん、ここは全てを知れる場所。でも、ここはボクの意思で形を変える。ボクはここの主人。主人様とでも呼んで」

どこからか、そんな声が聞こえてきて辺りを見回すと、花に紛れて誰かがいるのがわかった。でも、そこだけがモザイクみたいにはっきり見えなかった。それに、ここにきたのは僕1人のはずだ。訳がわからないことだらけだ。僕は警戒しつつ主人様の様子を見ていると、歩いて自分より遠い方の椅子に座った。

「君も座りなよ、ムルル君」

どういうこと?僕は自己紹介なんてしていない。なのに、主人様は僕の名前を知っている。もしかしたら、ここが全てを知ることができる場所だというのは嘘ではないのかもしれない。僕はとりあえず椅子の座った。主人様が指を鳴らすと、テーブルの上に色々置かれた。どういう技かはわからないけど、テーブルに乗っているのはホットミルク、ガトーショコラ…僕の好物だ。一体、どこまで知っているのだろう。

「食べなよ!大丈夫、帰った時はさっき同じ時間で、食べた分は無しにしといてあげるから!」

僕は仕方なく食べることにした。両方美味しく、ついつい手が伸びる。

「気に入ってくれたみたいだね。そんじゃあさ、君の話をするよ。食べながらでいいから、よく聞いててね。調べてみたんだけど、君、人格を封印されてるよ。本来の自分でいられてない。そこでさ、よかったらボクが戻してあげようか?」

話がよくわからない。僕は僕のはずだ。人格が封じられているとはどういうことだろうか?僕はあくまで慎重に答える。

「別に、僕は困ってない。無理に解放して、僕に得はあるの?」

「ああもちろん。偽りの自分でいても、いいこと起きないよ。常に嘘つきなわけだから、徳も積めないし。解放したら、結構いいよ?妖力は別としても、特殊能力はその方が強く使える。ってことで、解放!」

いきなり解放されて、僕は目を再びつむった。なんだか、違う意思が流れ込んでくる。気付くと、俺は…。

「調子はどうだい?」

「万全だと言いたい所だが、久しぶりすぎて感覚がまだ戻っていない。やれやれ、けったいな所に連れてこられたものだ。俺は、今からでも寝たいのだが」

「ちょっと待ってよ。ムルル君。変化に気づかれないように、オブラートが必要だと思わない?」

「それもそうだな。しばらく今までの俺のフリをして潜んでいた方が都合がいい。早く出してみろ」

「いいよ。ほら、あと残り2つだけど、僕の力。これでオブラートになるし、強い力を使えるよ!」

主人様が出したのは何かの破片のようだったが、強い力を感じる。

「ふむ。じゃあ力の詳細について聞かせてもらおう」

「こっちは『武器創造』で、もう一つは『束縛』だよ。でも、ムルル君はこっちしか無理か」

主人様は俺に武器創造の力を渡した。俺はなんのためらいもなく受け取った。

「でさー、いつから動くの?別にいつでもいいんだけれど、フォニックスを襲ってくれればそれでいい」

「簡単な話だな。だが、色々と準備が必要だ。時間はかかるだろうな。だが、お前と同じで人の悲鳴は好きなんでな」

想像するだけでゾクゾクする。あの恐怖の目、血の匂い、聞こえる悲鳴、武器を握る手の感覚、そして武器を咥えた時に感じる味。五感全てを刺激するあの瞬間。人は俺を悪魔と言った。確かに、そう見えるかもしれない。だが、俺は本能を抑えきれない。主人様は面白そうに俺を見ていた。

「ふふ。ムルル君、悪魔的思考が衰えてなくて良かったよ。楽しみだなあ、今の君なら、余裕で街を壊滅できそう。ああ、最後に、その力は、実際に見たことのある武器ならなんでも作れるから。もし銃が見たかったら、狼の国は怖い子いっぱいいるから、見られると思うよ。いやー、伝説を目の前で見られるなんて、感激感激。そんじゃ、また会おうね」

「ああ」

また俺は部屋に帰ってきた。とりあえず、今まで通り振る舞って、こっそり武器を見て行けばいい。でも、まだこんな年齢だ。さすがに眠くなってきた。後のことを考え始めるのは、明日でもいい。まだ時間はある。ゆっくり、悪は進んでいけばいいのだ。急がなければならない善とは違って。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ