第四部 決着の矢
その時だった。いきなり、人影がアローの下に現れ、上に突き上げた。一体、誰が…。
「行け!ツーハ!」
その声でわかった。あれは、コウの分身だ。ツーハは丁度アローの近くにいて、今度は下に突き落とした。
「イネイさ…あれ?イネイさんじゃない?」
イネイがいた所には…多分ライトとエントの親父がいた。イネイが憑依したのだろう。
『ライト。エント。進んで行けよ』
ライトの親父は意味のわからないことを言ったかと思うと、スインに向かってアローを弾き、スインはアローを実体化させてこれまた水を実体化させて作った弓矢にはめ、エヴェルに向かって飛ばした。エヴェルが攻撃で防ごうとすると、そのエヴェルをシンが影撃ちで止めた。アローは何かに邪魔されることもなく、一直線に飛んでいった。そして、エヴェルに当たって爆発した。今まで経験したことがないくらいに爆風を感じ、私は慌てて家につかまったが、時すでに遅し。あっけなく飛ばされてしまった。やばいと思ったのも束の間、私は体がふわっと浮いた感じがしたかと思うと、さっきいた所に戻っていた。一体どういうことだろうと顔を上げると、ギルド様がいた。なるほど、瞬間移動で助けてくれたようだ。エヴェルは諦め切ったような、淡い笑みを浮かべて倒れていた。ムルルは真顔でポンっと一輪の花を咲かせてエヴェルに置いた。
「スノードロップだね」
「うん。これが僕の花なの」
「花言葉は、『希望、慰め、逆境の中の希望』とかだね。丁度ぴったりだ」
「…うん。ありがとう」
ギルド様はわかりやすくため息をついた。
「本当に、無茶にも程がありますよ。まず、ソウマさん。自爆で辺りを破壊するなんて、正気の沙汰とは思えません。ニュースでやってましたよ」
「…はい」
「次に、ライトさん。最後の技の作り方、無茶苦茶すぎです。あんなことをしなくても、みんなで一斉に妖気を込めて作ればいいだけでしょうに。おかげで、ツーハさんが調子に乗ってます」
「すいません」
「最後に、ヒノガ!私言いましたよ?キセキと一緒に訪ねた時、そんな博打みたいな技は使うなと!全く持って、あなたは守りたいものができた途端そんなことを平然とするようになって…」
「…」
ギルド様に怒られた3人はテンションダダ下がりだ。せっかく買ったのに。ギルド様はそのまま瞬間移動でどこかへ行ってしまった。
「お前ら。腹減ってるだろ?俺が大量に作ったから、全員で食べようぜ。勝利祝いってやつか?」
そういえば、戦っている時は緊張していたからか空腹を感じなかったが、今は腹ペコだ。でも、ムルルだけは浮かない顔をしていた。
「…僕は、ここにいるよ。兄、いや、兄ちゃんのそばにいてあげたいんだ」
多分、次会えばムルルとエヴェルはまた兄弟として仲良くできるだろう。私たちは、心配だったが本人が望んでいるようだったのでムルルを置いて本拠地に帰った。そこからは、もうお祭り騒ぎ。近所迷惑にならないか心配だったが、うるさいと怒鳴りに来たお隣さんもすっかりパーティに参加し、スインが少々酒を飲みすぎたようで水の弾丸を乱射し、大騒ぎになった。大人は酒を飲んで騒ぎ、セレンやツーハ、シン、アイン、そして大人だけど飲まなかったり少ししか飲んでいなかったり強い者は、とにかく騒いでいる大人たちを冷たい目で見ていた。シンも初めこそ料理に手をつけようとしなかったが、やはり腹が減っていたのか勢いよく食べ始め、今もチキンを頬張っている。私は酒に弱すぎてソウマによるととにかくヤバくなるらしいので控えている。気付くと人がどんどん増えていって、祭りみたいにそこら中の奴らがやって来ては食べたり飲んだり。そして、日が高く昇る頃には寝ている奴が床にごった返していた。私はフォニックスのメンバーは自室に寝かせ、勝手に入って来た奴らは外に放り出し、仲間は和室に敷布団を敷いて寝かせた。シンはいつもよりもさらに不機嫌だった。ツーハが食べ残しを狙っていたので阻止した。どこのどいつが口をつけたかわからない食べ物なんて食べられたもんじゃない。寝てないやつは寝た仲間を引き連れて出ていき、帰らなかったのはシン1人だった。
「かえらないの?」
「帰る場所は誰かさんがぶち壊してない」
「はは。耳が痛いよ」
「じゃあここに一時的に住んだらどうだ?」
「……一時的に、な。勘違いするなよ。俺はお前らの仲間ってわけじゃない。ただ丁度倒す相手が一致しただけの、共闘関係だ」
ああめんどくさい。素直になれば可愛げがあるのに。前言撤回だ。やっぱりフウガの方が可愛い。でも、ツーハは新たな同居人に興味津々のようで、好きな食べ物やら、お菓子やら、挙げ句の果てにはお茶やら聞いていた。全部食べ物や飲み物じゃないか。あいつの頭の中は食べ物のことだけなのか?ムルルは、どうやらハクムの所に住むことにしたようだ。ムルルなら、上手く2人を繋げられるだろう。ウーベイも穀物屋敷に帰っていったが、イネイは帰らなかった。私は、あいつらが起きるまでツーハの守りをしていた。




