第三部 暗い夜に差す日
いててて。まだエヴェルに攻撃されたところが痛いが、動けそうだ。まだ夜なので、視界が悪い。近くにいるシンはまだ動けそうにないので、膝枕をした。
「子供扱い…するな」
シンは恨めしげにこちらを見たものの、すぐにうとうとし始め、やがて寝息を立てて眠っていた。ずっと動いてたもんな。私はみんなはどこにいるのか探そうと辺りを見回したが、やっぱり見えない。今何時なんだろう。こんなことなら、腕時計でも持ってくるんだった。シンの寝顔をチラリと見ると、穏やかな笑みを浮かべていて、ちょっと可愛かった。って、ダメだダメだ。私には、可愛い弟、フウガがいるんだ。頭の中でシンを可愛いと思う私と、フウガの方がよっぽど可愛いからそんな奴に変な情をかけないでよと思っている私が喧嘩していると、辺りが明るくなって来た。なんだろうと東に目を向けると、朝日が昇り始めていて、空は明るかった。それではっきりと見えた。エヴェルは体勢を崩していた。ヒノガの刀が落ちているのを見ると、誰かがエヴェルの足を切ったのだろうと分かる。朝日のおかげか、ソウマが起きて、まるで植物が光合成をするように日光を浴びていた。すると、ソウマは広範囲にグラスヒールを発動させた。エヴェルがああなのを見て、戦いは終盤だと判断したのだろうか。それによって、バッタバッタと倒されていた仲間たちは回復し、起きて来た。寝ていたシンは目を覚まし、周りの目を気にしたのかすぐに私の膝元から起きあがろうとしたが、私が腹に手を置いていたせいで少し遅れ、起きたみんなにニヤニヤした顔で見られた。シンは気恥ずかしそうに目を逸らし、エヴェルの方へ行ってしまった。シンもやっぱり、子供なのだ。エヴェルが動けなくなっているのに気づいたみんなは、チャンスとばかりに攻撃をしようとしたが、ムルルがそれを制した。一体、どうしたんだろう。
「別に兄が攻撃されてるのを見たくないとか、そんな話じゃないんだ。ただ、1つ、言っておきたい。この戦い、ウルベフにバレた。そのうちハクム兄ちゃんはウルベフのメンバーを連れてやってくる。その前に、勝負をつけよう。多分、ウルベフの本拠地からここまでの距離を考えると残り時間は30分くらい。できそう?」
「ああ。ハクムさんが今のエヴェルとやり合ったら、エヴェルは確実に殺されるだろうしな。任せろ。みんな!一撃で勝負決めるぞ!」
一体、どういうつもりなんだろう。エヴェルは痛みに顔を歪ませながらも、やられてたまるかとでも言うように立ち上がった。ライトはエレキアローを作った。最初の頃に比べれば、ずいぶんと早く作れるようになったものだ。
「作るぞ!俺たちだけのスーパーアローを!」
私たちみんなは驚いた。
「ライト君。確かに強そうだけど…、どうやるの?アローにアローを重ねていくなんて相当難しいよ?多分、この中ではスインさんくらいしかできないと思うよ」
「ちげーよ。例えば、俺がエントにこれを飛ばす、で、エントはそれを炎を纏ってお前に弾く、みたいな感じで、ちょっとずつ力を足していくんだよ。そんでもって、最後にスインに弾いてスインがエヴェルに当てる!どうだ、できなくはないだろう?」
「確かにできるかもだけど、本当に出来るのかな?こんなに人数がいるんだから、時間的に一発勝負だよ?それならいっそ失敗してもいいように少人数でやって威力が足りることに賭けるか、さっき言ったように全員で一発勝負でやって、確実に倒すかだね。どうするの?ライト君」
「ソウマ。俺は絶対にエヴェルに勝つ!だから、全員で一発勝負だ!」
中々男らしいじゃないか、ライト。その男らしさを私生活にも活かしてくれたら言うことないのに。それはさておき、絶対に失敗できないバレー、でもこの世界にないから伝わらないけれど、が始まるわけだ。緊張すると失敗しやすくなると分かっていても、やっぱり緊張してしまう。
「よし!準備はいいか?ルールは簡単、やって来たアローを1番近い奴に弾く!2回やらないように気をつけるんだぞ!勢いが無くなるからな!妖力、しっかり込めてくれよ?んじゃ!行くぜ!」
思ったより早いアローに、私は戸惑いを隠せなかった。ライトからエント、エントからソウマというように名前を呼び合いながらアローを繋げていき、とうとう私の近くまで来た。
「フウワ!」
空高く上がったアローを、私は跳んで弾いた。
「アイン!」
アインも上手く弾いてくれた。そして、終盤に差し掛かった頃。最後に、シンがスインに渡す時だった。シンが渡したアローは、上手くスインの所へ行きそうだったが、エヴェルの黒い手が掠り、地面に向かって落ち始めた。私たちは地面に落ちてはならないとアローに向かって走ったが、エヴェルの技に妨害されて行けない。アローはどんどん地面に近づく。このまま、ムルルの望みは叶えられないの…?いくら願っても、変わらないだろうけど、何もできない私はただ奇跡を祈るしかなかった。




