プロローグ 氷狐は冷却狐
その明かりの主は、ヒノガだった。しかし、強力な攻撃の反動か、妖気は弱まってしまっている。
「自分一人で俺の技から脱出するとは、大したものだ」
「俺の究極技、鳳凰斬を使えば、簡単な…話だ」
ヒノガはその場に倒れ込んでしまい、パキラが慌ててやって来た。でも、ヒノガのおかげでピンチは乗り越えられた。後でお礼を言っておこう。一方、ソウマ君は、まだ完全に馴染んでいないのか、あまり力を出せていなかった。私が攻撃をしていると、パキラがヒノガを連れてこちらへやって来た。確かに、ここはエヴェルの死角になっており、安全だ。
「ごめんね。ヒノガ任せてもいい?無理して妖力大量に使うから…」
「でも、そのおかげで今ここに立っとれる訳やし。これぐらいやって当然やろ」
「優しいなあ、スインは。ヒノガもツンデレなんだろうね、きっと。だって、なんだかんだで守ってくれるもん。私のことも、みんなのことも。昔からそうだし。スインは、無理ばっかりしてる人を見てるとどう思う?例えばソウマとかさ。私は心配で不安で仕方なくて、嬉しいけどやめてほしいって、ちょっと複雑になっちゃうんだ」
急に話し始めたパキラだけど、私はどうなんだろう?ソウマ君を見て、思うこと…。
「私は、単純にすごいなあって思うかもしれん。だって、私は安全なところで戦ってるから、最前線で戦うのって、結構勇気がいることやし」
「そっか…。ごめん、変なこと聞いたね。ヒノガのあの技、妖力も消費するけど、何より体への負担がすっごくかかるんだ。だから、全然起きないと思うけど、よろしくね!スイン!」
「任せとき。そんな危険な技を誰かのために使える人、そうそうおらんで。ええ人やな、ヒノガ」
「うん、そうでしょ!」
パキラは満面の笑顔でそう言った。私は、なんだかちょっと羨ましくなりながら、去っていくその背中を見つめていた。
ダメだ。全然、防ぎきれない…。私はサポーターとして、エヴェルの攻撃を和らげるようにしていたが、氷の壁はいとも簡単にわられてしまう。おかげで、妖石にある分を足しても残り妖力はどんどん少なくなっていき、砕けた氷の壁はみんなの邪魔にしかなっていなかった。これじゃあ、サポートどころか妨害だ…。私がしゅんとしている中、エヴェルはそんなことは関係なしに攻撃をしていく、焦って防ごうとしても、無駄だと思ってしまってうまく出せない。こんな感じでネガティブになってしまうのは、私の悪いくせだ。その時だった。私の頭の中で、何かが思い出された。浮かんでくるのは、ライトさんが初めての任務で言ってくれた言葉、『これから練習して行けばいいじゃん』。なんだか、すごく懐かしい。あの頃はまだ、ろくに技を使えていなかった。そうだ。練習をすればいい。私は、試行錯誤で技を作っていくしかないんだ。何を焦っていたんだろう。私は、戦いの中でも練習できる。失敗したとしても、仲間がいる。少し投げやりな考えかもしれないけれど、今はそう信じていたい。
「つららショット!」
単純に、つららを飛ばしてみた。でも、エヴェルの炎でただの水となった。相性が悪すぎる。だからと言って、諦めるわけにはいかない。
「フロストウインド!」
冷たい風を起こしてみたが、勢いが足りない。それはそうだ。だって、私は冷却が得意なのであって、風を起こすなんて少々強引なことだ。…ん?私、勘違いしてたかもしれない。別に、氷を作る必要なんてないじゃないか。私の力は冷却だ。だったら、そこらじゅうにあるじゃないか。凍らせられるものが。フウワさん!尻尾って、凍らせても問題ないの?」
「ああ。実は、ハンドの部分と根本以外はただの毛の塊なんだ。なんで血の通ってないハンドの部分の筋肉が動かせるのかは謎だけど。だから、凍らせても問題ないと思うが…どうした?」
「フウワさんの攻撃力、上げられるかもしれないと思ってさ」
「え?」
私はフウワさんの尻尾の先端を球状の氷がつくように凍らせ、フウワさんに見せてみた。フウワさんは驚いた顔をして、喜んで尻尾を使ってくれた。氷は脆いけど、硬さはあるんだよね。私は次に、氷の壁の破片を拾い始めた。私は他の人とは違って、自分の氷を引っ込めることはできない。地道に拾うか、溶けて蒸発するのを待つかのどちらかだ。氷は空気中の水分を凍らせて作っているので、姉さんと一緒ならばやりやすいけれど、今はちょっと試したいことがある。破片をそこそこの量集めると、私はそれらを再び凍らせ、くっつけた。そして、ボールのようにするために凸凹している部分は継ぎ足した。そして、私は、出来上がったボールを、思いっきり投げた。私に勢いよくボールを投げる程の腕力はない。ただ、エヴェルの近くまで投げられればそれでいいのだ。エヴェルは氷を溶かそうとした。よし、思惑通りだ。私は、溶けた氷が空中にあるうちに再び凍らせた。すかさず、近くにいたフウワさんが氷を氷で打ち、エヴェルにぶつけた。




