第五部 殺戮兵器の記憶
僕は、物心ついた頃ずっと無機質な部屋の中にいた。1日2回のパンと水、それだけしか与えられず、日々ぼんやりと過ごしていた。そして、5歳の誕生日、その頃は誕生日すら知らなかったけれど、僕は初めて、部屋の外に連れ出された。しかし、目隠しをされ、何が起こっているのか全くわからなかった。何かを体につけられる感覚があったけれど、ロクに歩いたことすらなかった僕には抵抗のしようがなかった。しかし、とにかく苦しかったのを覚えている。無理矢理戦闘能力を引き上げられ、教えられたたった一つのことは『命令に従うこと』。最初のうちは、上げられた戦闘能力で抵抗した。でも、それはまだ体が追いついていない力を使うので、体の痛みがひどくてやめた。そして、もう自分の年齢すら認知できなくなり、ただの兵器と化した僕は、力を使いこなせるようになり、手始めにと家を襲った。人の悲鳴や僕の攻撃で死んでいく様を見ても、なんとも思わなくなっていた。言葉は話せないはずだったけれど、まるでロボットに今風に言うとプログラミングするみたいに覚えさせられた。でも、もはや人ではなくなっていた僕は、無機質な声しか出なかった。命令された通りに物事を成し遂げ続けていたある日、ある都市を滅ぼせと命令され、その通りに動いた。僕は痛みを感じにくいし、極限まで上げられた攻撃力で戦いに苦労することはなかった。学校に足を踏み入れると、怯えた生徒を震えながら守ろうとしている先生がいた。僕には、敵が集まってくれていて楽だなあくらいの感情しかなく、わざわざ立ち向かってくる戦士や兵士に感心することは一切なかった。しかし、あの時は流石に驚いた。当時の国王、ストキに出くわし、受けた攻撃は段違いのものだった。その時、僕は初めて傷を負い、戦いに負け、命令を守れず帰った。いつも命令して来る人は何も怒らなかったけれど、僕はさらに強化された。力が高まっていくにつれて、元々あまりなかった感情は完全に消え失せ、本当の意味でただの兵器となっていった。これは後から知ったことだけれど、僕は単純に他人の妖力を注ぎ込まれ続けていたようだった。兵器になってからは、自分の体が自分のものじゃないみたいだった。体が勝手に命令に従う。いつしか、自分のことを客観的に見るようになった。僕が人を殺していくたび、自分は人の形をした殺人鬼だななんて、馬鹿げたことを考えた。そうやって、永遠に続くと思っていた日々の中のある日。いつものように、都市に1人で向かい、攻撃していると、1人取り逃がした少女がいた。妖力がほとんどなく、妖気もなかったため、見落としていたようだ。もちろん、情けをかけて逃すなんて考えは浮かんでくる訳もなく、僕はただ命令に従うためだけにその少女も躊躇なく殺そうとした。
「あなた何者なの!あなたのせいで全部失ったんだから!家族も!友達も!許さない、許さない、許さない、許さない…!」
いざ死ぬとなった人の言動としては珍しくもなかったので、そのまま炎を少女に近づけようとしたら、少女から莫大なエネルギーが発せられた。流石に『驚き』という感情が現れ、少女を見やると、数々の恨みの力が少女に集まり、少女は自我を失っていた。僕自身を見ているようで、初めて『嫌悪』という感情を持った。彼女は僕を攻撃して来た。複数人の力のためか、とても強力な気がした。なんだか時間がかかりそうだったので、あのまま放っておけば勝手に体を壊して自滅するだろうという判断で、僕は帰って行った。その少女のその後のことは知らない。どうせ死んだだろうと割り切っていたためだ。少女に出会って、2つの感情を持ったとしても、それが繰り返されるこの日々に対する疑問に繋がるわけもなく、寸分変わらず命令に従っていた。しかし、運命というものは残酷で、僕は出会ってしまった。ただの女のはずだった。なのに、不思議な力を持っていた。彼女に攻撃しようとしても、力が抜けるのだ。そのまま、僕は抵抗することもできず、捕まってしまった。妖石入りの鎖で繋がれて仕舞えば、今まで注ぎ込まれ続けて来た妖力も全く意味がない。僕には擁護してくれる人などいるはずもなく、殺されることが簡単に決まった。ああ、もう終わりか。そう思ったら、普通『絶望』を感じるだろうが、その時はなぜか『安堵』だった。無意識に、この日々に『嫌悪』を感じていたのかもしれない。人って死んだら、どうなるんだろう?散々殺して来たくせに、いざ殺されるとなるとこんなことを考えてしまうのだから人間って勝手なものだ。僕が殺された後、目を覚ますと僕のままだった。しかし、辺りの景色がおかしかった。太陽と月が一緒にあり、常に薄暗い。狭間の世界に来たのだった。科学者に無理矢理こっちに連れてこられて、少女を見かけて驚いたけど、ソウマの優しさが1番印象に残った。初めて、『喜び』を感じた。そんなソウマだからこそ、力になりたいと、心から思うことができた。




