第四部 裏切り者?
ライト君とエント君とムルル君が寝て、エヴェルは動けないのに私たちを圧倒していた。でも、遠距離攻撃は確実に当たるのでありがたい。でも、考えてみれば、エヴェルの体力は不可解な程の多さだ。何かあるような気がする。もし、誰か協力者がいると仮定するならば、多分火属性で、エヴェルはその誰かに尻尾を動かしたら火を出せと命令したのかもしれない。炎、命令…。なんだか心当たりがある組み合わせだ。
『メイレイサレタカラ。ボクハメイレイサレタコトハカナラズジッコウスル。ギャクニ、メイレイサレタコトイジョウノコトハシナイ』
思い出すのは、そんなことを言う火犬だった。そういえば、彼はどんな攻撃をしても効かなかった。それを確かめるためには…。私は息を吸い、叫んだ。
「早よ出てきな、ソウマ!」
ソウマ君が驚いたようにこちらを見たけど、エヴェルから出てきた気配に気づいて前を向いた。思った通りだ。エヴェルからぼんやりとはしているけれど火犬のソウマが出てきた。エヴェルは驚いたようだった。まさか、見破られるとは思っていなかったのだろう。ソウマはいつも通り平然としているように見せかけて、かなりダメージを受けているようだった。死んでもなお苦しみ続けるなんて、考えただけでも悲しい。ソウマ君も勘付いたらしく、ソウマに歩み寄り、グラスヒールを発動させた。
『ヨウリョク、モッタイナイ。アト、オマエヲタオセッテ、メイレイサレテル』
ソウマ君は、ソウマの頭を撫でた。ソウマは不思議そうにソウマ君を見上げた。
「もう、命令に囚われる必要なんてないよ。自分のしたいことをしたらいい。変な話だけど、君の気持ちがわかる気がするんだ。せめて今だけでも、自由にしたら?君が正しいと思うことをするべきだよ」
『ボクハ、メイレイヲキカナイト、ミステラレチャウカラッテ、ズットズット、シタガッテキタ。ダケド、ソウマガイウナラ、ヤッテミヨウカナ?ソウマ、ボクガドンナセンタクヲシテモ、ミステナイッテヤクソクシテクレル?』
「もちろんだよ。じゃあ、僕は君に1つお願いしてもいいかな?」
『メイレイジャナクテ、オネガイ…。ソウマノオネガイナラ、ナンデモキク。ダッテ、タスケテクレタカラ』
「ソウマ、さっきエヴェルにやったみたいに、僕の中に入ることって出来る?」
『ウン。デキルヨ。ダケド、カラダガモツ?イタクナルカモシレナイヨ?ソレデモイイッテイウナラ、ボクハヤルヨ』
「優しいね、ソウマは。僕なら大丈夫だよ。ちょっとだけ君の力を貸して。今までもあったんだ。違う誰かが僕に乗り移ることが。でも、それは僕の思い通りに動けない。だから、一度どうやったら思い通りに動かせるのか試してみたいんだ」
『ワカッタ。ジャア、イクヨ』
ソウマはソウマ君に入って行った。本当に大丈夫なんだろうか。エヴェルはソウマを失ってもまだ追い込まれた様子はなかった。つまり、エヴェル自身も相当強いと言う訳だ。ソウマ君は、目の色が左右で違い、妖気も2人のものが混ざり合ったような感じになった。
「ソウマ。僕が勝手に動いてもいいの?」
「ウン。イイヨ。キモチガツヨイホウガ、カラダヲウゴカセルカラ」
ソウマ君は一歩踏み出し、不思議そうな顔をした。でも、すぐにエヴェルの方へ駆け出し。炎技をくらわせた。見ると、影撃ちが弱まって来ていた。流石のシン君でも、維持し続けるのは難しいだろう。その間にソウマを引き離せたので、十分すぎるけれど。影撃ちが消えると、エヴェルは辺りを真っ暗にした。月を見失ったセレンちゃんは、輝きをなくして眠り始めた。私たちが前に進もうにも、何も見えないので何かにぶつかりそうだ。エヴェルも不利になりそうだが、シンと目を合わせることで動けなくし、暗闇で何かをしようと言うわけか。なんとか3人が起きる前にどうにかしたい。ソウマ君が辺りを照らそうと火を出したものの、それで居場所がバレてしまい、攻撃をくらったのか火が消えた。照らそうとすると妨害を受けると言うわけか。そんな感じで立っていると、どこからともなく黒い手が伸びて来て、私を捕らえた。驚きの声を出そうとしても、口を塞がれているせいで何も言えない。これでは、誰にも気づいてもらえないだろう。妖気をめいいっぱいあげようとしたら、後ろから人が来て私に首輪をかけた。すると、全く妖気を出せなくなった。妖石入りなのか。このままでは、何をされるかわからない。それこそ、夢のように…。私が慌てて手を解こうとするも、手の力は異常に強く、びくともしない。私の抵抗も虚しく、ずんずんとエヴェルの方へと引き込まれていく。やがて、ある地点で止まると、エヴェルは私を持った。そして、ケージのようなものに入れられた。もちろん、みんなは全く気づいていない。もうどうしようもないのかな?と思った時、どこかが光って、私のケージを一刀両断にし、暗闇すらも消え去った。誰がこんなことをできたのだろう。ほとんど見えなかった。




