第四部 どうしてもって言うのなら
ソウマは歪んだ笑みを見せて、エヴェルは大して口角も上げずに微笑んだ。2人とも違う意味で怖い。ソウマは歪んだ笑みのまま、私を見据えて攻撃して来た。その一撃をかわしきれず、私は地面を転がった。
「大丈夫か?フウワ!」
「ああ。かすり傷だ」
でも、かすった場所がジンジンと痛い。見ると、血が流れており、地面を赤く染めていた。驚きのあまり叫びそうになったが、ぐっと堪え、そこをギュッと押さえた。なんで、かすっただけでこんなに血が…。ソウマは2発目を撃とうと技を構えた。一瞬で属性はわからなかったが、多分結構鋭い何かを飛ばしたんだと思う。
「この歪み始めた視界の中で、攻撃を避けるなんてできないさ。それに、この体は僕のものになったんだよ。人間は、欲しいものは無理矢理にでも奪うものなんだろう?」
「違う!お前も、本気でそう思ってるのかよ!」
「違わなくなんてないさ。例外を信じて行動してみたら、結局裏切られた。僕は、何度も傷ついた。それなのに、なんで平然と生活をできるのかい?僕みたいに死にかけてるやつらがいるのに。この体の持ち主も、例外じゃないよ。いつかきっと、君たちを裏切る日が来る」
「ソウマを、馬鹿にするな!」
「まだ退がらないのか。仕方ない。殺すしかないか」
ソウマは手を振り上げたかと思うと、急に動きを止めた。
『どうしてもって言うのなら、あげるよ、僕の体!でも、その前に、使い物にならないようにしてやる!』
いつものソウマの声だった。その瞬間、爆発が次々と起き、私は後ろに吹き飛ばされた。おそらく、ソウマの特殊能力だろう。ソウマは完全に我を失っているようで、不必要なくらい自爆を繰り返していた。歪んだ景色が戻り、ソウマの妖気が元に戻ったのに、ソウマはやめようとしなかった。私は駆けつけようとしたが、体に力が入らない。ソウマのせいで、廃坑は崩れて岩の破片があちらこちらに散らばった。近くの住宅にそれらが当たり、住民たちは驚きあわてていた。その時、ヒュウっと何かが飛んで来て、ソウマにぶつかり突き飛ばした。いつか見たその横顔は、怒りを帯びてソウマを睨んでいた。一方、ソウマの体は住宅の壁に当たり、地面に落ちて動かなくなった。
「俺の住処を荒らすな。お前ら…こいつの仲間じゃなかったのか?」
「違う、ソウマは体を乗っ取られただけで…」
「どういうことか、よくわからんがあいつが自爆して暴れてたのは確かだろ」
ソウマを見ると、ボロボロになっているのが遠目でもわかる。
「ソウマ…!」
私が駆けつけようとすると、少年、いや、確かシンが手で止めた。
「馬鹿。お前も重症じゃないか。そこでじっとしてろ。あの自爆したやつを連れて来てやるから」
不本意だが、立ちくらみがしたので、シンに任せることにした。シンは瞬間移動でソウマを私の側に連れて来た。ソウマは自爆のせいで全身傷だらけ、しかも意識はなかった。シンはくるりとエヴェルの方を向いた。
「お前、何者だ?最近ここいらを襲ったりして。一体、何がしたい」
「お前には関係ない。だが、お前のおかげでソウマのブレックジンが切れたことは確かだ。お前を敵とみなし、倒させてもらう」
あれ?悪夢をかけたんじゃないのか?その疑問は、ムルルの声で解消された。
「兄の悪夢とブレックジンの合わせ技。ちょっと骨を折ったよ」
エヴェルの笑みは、深まるばかりだ。シンが加勢してくれて、私とソウマが抜けてもなんとかなりそうだった。そう思った瞬間、気が抜けたのか、疲れがどっと来た。でも、隣のソウマが気がかりだったので、そのまま寝るわけにはいかない。私は、ずっと戦況を見ていた。みんなからは疲労が感じられた。その分、シンがかなりの戦力になっていて、エヴェルに押されることはなかった。エヴェルはエヴェルで、ダメージはありそうだが疲れを全く感じさせない。エヴェルはシンを狙っているのかシンの方向によく攻撃が飛んでいくような気がした。自分も何かしたいが、もう動けない。すると、ソウマがモゾモゾし始めて、小さいながらもグラスヒールを発動させた。私の傷は全回復したが、ソウマ自身の傷はあまり減っていないような気がする。私はソウマが大丈夫そうなのを確認するとエヴェルに向かって静かに近づいた。テールハンドはもう使い物にならない。だったら、足でやるしかない。技も即興になるから、上手くできるかはわからないけれど、やらないという選択肢はない。
「キックウインド!」
エヴェルの不意はつけた。でも、エヴェルはそんな攻撃で倒れるようなやつじゃない。何度でも立ち上がってくるエヴェルに、シンは思いっきり技をぶつけようとした。しかし、エヴェルはそれを冷静に見切り、シンに反撃を放った。よけるのは無理だと判断したのか、シンは防御の体勢になった。でも、あの攻撃を耐えられるとは思えない。エヴェルの技がシンに当たるかと思った瞬間、何かが間に入り込んで技か爆発し、シンはダメージを受けなかった。しかし、間に入ったのはソウマだった。




